127 / 171
シーズン
第8−16話 不良を極めし者
しおりを挟む
薄暗い景色が、徐々に明るくなり朝焼けが顔を覗かせる。
小鳥のさえずりと眩い光が、一日の始まりを象徴するのだがこの場所だけは違う。
暗闇が辺りを包んでいる頃から、閃光を放ち続ける秘密基地ではエヴァ達による懸命な救出作戦が行われていた。
待ち構えていた正体不明の守備隊を前に、苦戦するエヴァ達は劣勢の中で活路を模索している。
絶えず飛び交う銃弾に身を隠しながら、左右非対称の美しい瞳を動かしていた。
「ねえジェイ・・・うちらが盾になれば、あの子達は撃たれないかな?」
「たったの三十でこの数の半獣族の盾にはなれねえだろ」
巨体を遮蔽物に隠すジェイクは、戦死すら覚悟し始めたエヴァの言葉を否定した。
自らを犠牲にしても、半獣族は助からない。
仮にこの場を逃れられても、生きる希望を持っていない半獣族は逃げ遅れて捕まってしまうのは明白。
つまりエヴァ達が同行しなくてはならないというわけだ。
しかし八方塞がりとなったこの状況で、具体的な脱出案が浮かばないエヴァとジェイクはただ反撃だけを続けていた。
そんな時、ホーマーが銃撃を交わしながら滑り込んでくるといつもの様に楽観的な口調で話し始めた。
「おいおい聞け聞け!! あれよお・・・燃料庫じゃねえか? ぶっ壊せば、半獣族が驚いて走り始めるんじぇねえか!?」
ホーマーが指差す先には、巨大な燃料庫らしきものがあった。
その燃料庫を破壊すれば、大きな爆発音が一体に響き渡り半獣族が防衛本能から走り出すと考えたわけだ。
敵の守備隊は強く、全滅させるのは容易ではないと考えたエヴァはホーマーの大胆な作戦に同意した。
そうと決まれば、ホーマーは相棒のジェイクを連れて燃料庫の破壊に向かった。
「ごめんね虎白・・・やっぱうちらに静かに作戦をこなす事はできないみたい・・・」
そう小さくつぶやいて笑ったエヴァは、仲間達に作戦を伝えた。
一方で命運を託されたジェイクとホーマーは、仲間の援護を受けながら建物の中へ入ると燃料庫までの道を探し始めた。
道中で出くわした守備隊を一発で無力化すると、さらに足を急がせた。
「なあ覚えてるか?」
「言われなくても思い出しているよ。 昔警察署の中を気が付かれない様に探検した時だろ?」
「ああ、あれは面白かったなあ!! 最後は逮捕されちまったけどな!!」
不良なんて言葉が誰よりも似合うこの馬鹿者は、天上界に来るまでに何度警察の世話になった事か。
しかし今ではそんな常軌を逸した日常のおかげか、今の様な修羅場でもどこか楽しくなってしまうのだ。
かつての奇行を思い出した親友達は、笑いながらも出くわす敵を一発で無力化していく。
釈放後に入隊した軍隊での経験が、さらに彼らをたくましく育てたというわけだ。
「なあ、あの扉が怪しいと思わねえ?」
「頑丈な鍵だし、間違いねえよ!! おいホーマー昔盗みに入った時を思い出せ!!」
「いやあ、連続窃盗のおかげで鍵開けるの上手くなったよ」
この馬鹿者達は、思い浮かぶ犯罪は一通りしたわけだ。
鍵穴を覗き込んだホーマーは、器用に針金を差し込むと解錠を試みた。
その間も迫る敵に警戒しているジェイクは、昔の不良時代を思い浮かべて笑っている。
「お、開いた!!」
「お前すげえな!! 銀行強盗も行けたかもな!!」
「違いねえ!! やっておけばよかったなあ!!」
室内へ入った強盗志望者共は、手当たり次第に爆薬を設置すると足早に部屋を後にした。
間もなく大爆発が起きると考えると、この二人は逃走しているというのに笑えて仕方がなかった。
今まで散々他人に迷惑をかけてきたジェイクとホーマーが、大勢の命を救うのだと考えると嬉しくてたまらなかったのだ。
建物から飛び出した二人は、エヴァの元へ滑り込むと爆発を待った。
「やってやったぜエブ!!」
「後は半獣族が驚いて逃げてくれるのを信じるしかないね」
「さあ頼むぜー!! 全力で走ってくれ!!」
「じゃあみんなは、半獣族が走り始めたら一斉に援護射撃ね」
もはやこれしか方法はない。
エヴァはそう言い聞かせて、騒ぎを起こして怒る虎白の顔を思い浮かべては謝っている。
そしてその時が来た。
内蔵にまで響き渡るほどの大爆発が巻き起こると、建物から半獣族達が一斉に飛び出してきたのだ。
作戦の成功に歓喜するよりも前に一斉銃撃を始めたエヴァ達と、すれ違う様に秘密基地出口へ疾走している。
やがてエヴァ達は逃げていく半獣族に背中を向けながら、銃撃を続けて出口へと向かった。
最後の仲間が出口へ差し掛かると、煙幕を投げて守備隊の視界を遮断した。
「やってやったぜ!!!!」
「まだ終わってないよ!! 半獣族を誘導しないと!! きっと虎白達の攻撃が始まっているから、敵の防御は手薄!!」
とはいえ混乱する半獣族をどの様に誘導するのか。
するとエヴァは、腰元に装備していたある物を取り出すと仲間達も同じ行動をとった。
筒状の物を取り出した一同は、一斉にそれをへし折った。
そして道中で強奪したバスに乗り込むと、窓を全開に開けて爆走したのだ。
「さあこっちだよ!! 美味しい匂いがするでしょ!!」
この筒状の物体は、天才開発者であるサラが半獣族のために作った秘密兵器だ。
へし折られた筒からは、半獣族の嗅覚を刺激する匂いが放たれている。
匂いを嗅いだ半獣族はたちまち、筒を目指して追いかけてくるというわけだ。
実験のために宮衛党のメルキータやツンドラの民達で試したが、効果は抜群だった。
こうして爆走する半獣族を引き連れて、バスの強奪者達は見事に難題である虎白の悩みの種を除去してみせたのだった。
小鳥のさえずりと眩い光が、一日の始まりを象徴するのだがこの場所だけは違う。
暗闇が辺りを包んでいる頃から、閃光を放ち続ける秘密基地ではエヴァ達による懸命な救出作戦が行われていた。
待ち構えていた正体不明の守備隊を前に、苦戦するエヴァ達は劣勢の中で活路を模索している。
絶えず飛び交う銃弾に身を隠しながら、左右非対称の美しい瞳を動かしていた。
「ねえジェイ・・・うちらが盾になれば、あの子達は撃たれないかな?」
「たったの三十でこの数の半獣族の盾にはなれねえだろ」
巨体を遮蔽物に隠すジェイクは、戦死すら覚悟し始めたエヴァの言葉を否定した。
自らを犠牲にしても、半獣族は助からない。
仮にこの場を逃れられても、生きる希望を持っていない半獣族は逃げ遅れて捕まってしまうのは明白。
つまりエヴァ達が同行しなくてはならないというわけだ。
しかし八方塞がりとなったこの状況で、具体的な脱出案が浮かばないエヴァとジェイクはただ反撃だけを続けていた。
そんな時、ホーマーが銃撃を交わしながら滑り込んでくるといつもの様に楽観的な口調で話し始めた。
「おいおい聞け聞け!! あれよお・・・燃料庫じゃねえか? ぶっ壊せば、半獣族が驚いて走り始めるんじぇねえか!?」
ホーマーが指差す先には、巨大な燃料庫らしきものがあった。
その燃料庫を破壊すれば、大きな爆発音が一体に響き渡り半獣族が防衛本能から走り出すと考えたわけだ。
敵の守備隊は強く、全滅させるのは容易ではないと考えたエヴァはホーマーの大胆な作戦に同意した。
そうと決まれば、ホーマーは相棒のジェイクを連れて燃料庫の破壊に向かった。
「ごめんね虎白・・・やっぱうちらに静かに作戦をこなす事はできないみたい・・・」
そう小さくつぶやいて笑ったエヴァは、仲間達に作戦を伝えた。
一方で命運を託されたジェイクとホーマーは、仲間の援護を受けながら建物の中へ入ると燃料庫までの道を探し始めた。
道中で出くわした守備隊を一発で無力化すると、さらに足を急がせた。
「なあ覚えてるか?」
「言われなくても思い出しているよ。 昔警察署の中を気が付かれない様に探検した時だろ?」
「ああ、あれは面白かったなあ!! 最後は逮捕されちまったけどな!!」
不良なんて言葉が誰よりも似合うこの馬鹿者は、天上界に来るまでに何度警察の世話になった事か。
しかし今ではそんな常軌を逸した日常のおかげか、今の様な修羅場でもどこか楽しくなってしまうのだ。
かつての奇行を思い出した親友達は、笑いながらも出くわす敵を一発で無力化していく。
釈放後に入隊した軍隊での経験が、さらに彼らをたくましく育てたというわけだ。
「なあ、あの扉が怪しいと思わねえ?」
「頑丈な鍵だし、間違いねえよ!! おいホーマー昔盗みに入った時を思い出せ!!」
「いやあ、連続窃盗のおかげで鍵開けるの上手くなったよ」
この馬鹿者達は、思い浮かぶ犯罪は一通りしたわけだ。
鍵穴を覗き込んだホーマーは、器用に針金を差し込むと解錠を試みた。
その間も迫る敵に警戒しているジェイクは、昔の不良時代を思い浮かべて笑っている。
「お、開いた!!」
「お前すげえな!! 銀行強盗も行けたかもな!!」
「違いねえ!! やっておけばよかったなあ!!」
室内へ入った強盗志望者共は、手当たり次第に爆薬を設置すると足早に部屋を後にした。
間もなく大爆発が起きると考えると、この二人は逃走しているというのに笑えて仕方がなかった。
今まで散々他人に迷惑をかけてきたジェイクとホーマーが、大勢の命を救うのだと考えると嬉しくてたまらなかったのだ。
建物から飛び出した二人は、エヴァの元へ滑り込むと爆発を待った。
「やってやったぜエブ!!」
「後は半獣族が驚いて逃げてくれるのを信じるしかないね」
「さあ頼むぜー!! 全力で走ってくれ!!」
「じゃあみんなは、半獣族が走り始めたら一斉に援護射撃ね」
もはやこれしか方法はない。
エヴァはそう言い聞かせて、騒ぎを起こして怒る虎白の顔を思い浮かべては謝っている。
そしてその時が来た。
内蔵にまで響き渡るほどの大爆発が巻き起こると、建物から半獣族達が一斉に飛び出してきたのだ。
作戦の成功に歓喜するよりも前に一斉銃撃を始めたエヴァ達と、すれ違う様に秘密基地出口へ疾走している。
やがてエヴァ達は逃げていく半獣族に背中を向けながら、銃撃を続けて出口へと向かった。
最後の仲間が出口へ差し掛かると、煙幕を投げて守備隊の視界を遮断した。
「やってやったぜ!!!!」
「まだ終わってないよ!! 半獣族を誘導しないと!! きっと虎白達の攻撃が始まっているから、敵の防御は手薄!!」
とはいえ混乱する半獣族をどの様に誘導するのか。
するとエヴァは、腰元に装備していたある物を取り出すと仲間達も同じ行動をとった。
筒状の物を取り出した一同は、一斉にそれをへし折った。
そして道中で強奪したバスに乗り込むと、窓を全開に開けて爆走したのだ。
「さあこっちだよ!! 美味しい匂いがするでしょ!!」
この筒状の物体は、天才開発者であるサラが半獣族のために作った秘密兵器だ。
へし折られた筒からは、半獣族の嗅覚を刺激する匂いが放たれている。
匂いを嗅いだ半獣族はたちまち、筒を目指して追いかけてくるというわけだ。
実験のために宮衛党のメルキータやツンドラの民達で試したが、効果は抜群だった。
こうして爆走する半獣族を引き連れて、バスの強奪者達は見事に難題である虎白の悩みの種を除去してみせたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
いいえ、望んでいません
わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」
結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。
だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。
なぜなら彼女は―――
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー
みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。
魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。
人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。
そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。
物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。
嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。
侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。
そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。
どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。
そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。
楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる