【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒

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2話 始まり

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──十五年前──


  私は今朝、普通に会社へ向かっていたはずだ。混雑する駅のホームで、いつものように人酔いしそうになりながら歩いていたは…ず……って、……あぁ…。死んだのだ……私はあの駅で…。
 誰かに、意図的にではないだろうが、押されて線路に落ちた。そして運悪く電車が来ていた…と。
 何となくだが、生前の記憶を思い出せた。


(でもどうしてこんなことに…?)


 見るからに幼い自分の両手。鏡で確かめると見たこともない自分の顔。
 三歳となった数日後、高熱の中で私は前世の記憶を思い出した。
 ただのOLが不慮の事故で死亡し、公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア(三歳)へと転生したのだ。


 ──そうしてこの世界のことを学んでいき、魔法が存在することを知った。
 火・水・風・土の基本属性の他に、光・闇の希少属性があるらしい。魔力を感じることが出来れば、あとはイメージ次第で魔法が使えると魔導書には書かれていた。
 ただし生まれつきの魔法適正というものがあり、適正のある属性でなければ扱えないという。
 私の属性は……《闇》だ。この世界で最も忌み嫌われ、魔物のみが使う魔法とされていた。他の属性に適性があれば隠し通せるかもしれないと思ったが、光は勿論のこと、基本の四属性ですらからっきしだった。
 通常は八歳になる日に教会へ行き、魔法適正を確かめるそうだが、私は四歳の時には自分の属性を知っていた。だからこそ誰かと婚約するのはごめんだと考えていたのだが……



「ラリエット、良かったなぁ!王太子ジルファー・アンドレイズ殿下との婚約が決まったぞ!」

「あ……そ、そうですか…ウレシイデス。」



 五歳の頃、お父様から婚約を告げられた。何が悲しくて王太子と婚約しなければならないのか…。せめて八歳になり、魔法適正を確かめてからの方が良かっただろう。私は闇属性の持ち主だ。絶対に毛嫌いされる。

 この頃、私には二歳下の妹ができていた。名はエリル。透き通るような金髪に、白に青みがかった瞳を持っている。神秘的な容姿だ。私とエリルは、髪色と瞳の色が逆だった。
 エリルが生まれて、一目見て分かった。この子は《光》持ちだ…と。私の魔法適正が闇だからだろうか。エリルから溢れ出す光の魔力がはっきりと見えた。天使のような容姿に光魔法使いとは、反則だ。

 エリルが生まれた一方、私には兄もいた。ディールトお兄様、三歳上だ。
 魔法適正は両親と同じ水だった。私よりも青みが強い髪に、髪色と似たような透き通った瞳。とても優しく、誰よりも家族想いだった。

 魔導書を読み漁っていた私は、闇魔法使いが光魔法使いには恐ろしく見えるという記述を見つけた。道理で幼いエリルが私を見ると怯えていた訳だと思った。
 この記述を見つけて以降、私はエリルとの距離を取った。あの子を怯えさせない為、そして八歳までは私が闇魔法使いだと気付かれない為に。

 しかし結局──



「ラリエット様の魔法適正は──や、闇です…!」



 八歳となった日。教会にて神父様に魔法適正を見てもらう時が来た。…否、来てしまったのだ。
 最後まで隠蔽できる術が見つからず、仕方なくありのままでいることにした。私が闇適正と知られ後、どうなるかは両親次第だと覚悟を決めて…。



「闇だって!?見間違いじゃないのか?」

「いえ…、……闇にございます。」

「ッ……この役立ずが!!陛下に何と報告すれば良いか…!ゼンキースア家の恥さらしめ!!!」



 お父様に顔面を殴られた。脳震盪を起こしているのだろうか…、上手く立てない。
 あぁ……やはりこうなってしまったか…。
 今世の両親は、型に嵌った貴族中の貴族というような性格をしている。頭が固く、闇魔法は邪悪なものと決めつけているのだ。

 この国に三つのみ存在する公爵家の一つが、私の生まれたゼンキースア公爵家。貴族の鏡と呼ばれているほど、貴族としての習わしや歴史を重んじる。それ故に、闇魔法使いは邪悪だという一方的な決めつけが書かれた書物を、本気で信じているのだろう。その書物が『貴族』によって書かれているならば、疑いもせず両親は信じてしまうのだ。

 国王陛下も両親のように頭が固いのだろうか…。



「陛下、申し訳ございません。この不肖の娘の魔法適正は、《闇》にございました…。」



 私の魔法適正が分かったその日の内に、国王陛下の書斎にて極秘裏に行われた報告。室内には私とお父様、そして陛下と側近兼護衛の者が1名の、計四名のみ。
 お父様が頭を下げ、心からの謝罪をしている。未来の王妃という立場の者が、希少とはいえ最も忌み嫌われる闇属性持ちだったのだ。こうなるのも仕方がないというもの。
 このまま婚約解消を言い渡され、その後は公爵家で軟禁生活……或いは追放されると覚悟しておいた方が良さそうだ。
 そう思っていたのだが、私の心配は杞憂に終わった。



「ゼンキースア公爵、顔を上げよ。魔法適正が闇と言えど、光と同じ希少属性に過ぎん。寧ろラリエットが王妃となれば、闇魔法が悪いものではないという印象を広められるだろう。魔法は使い手によってその者の色に染まるのだ。闇魔法使いだからといって、必ずしも『悪』という訳ではない。」

「し、しかし…!」

「その逆も然りだ。基本属性の持ち主だろうと、光属性の持ち主だろうと、誰もが『善』という訳ではなかろう?ラリエットの魔法適正が《闇》だからと言って、悪人扱いするのは良い事とは思えんな。」

「……仰る通りです…。」

「その程度のことで婚約解消はしない。──ラリエットよ。」

「は、はい!」

「これからも精進するが良い。期待しているぞ。」

「ありがとうございます…。ご期待に応えられますよう、全力を尽くさせていただきます…!」



 良い国王だと感じた。理性的で、知識も豊富そうだ。
 闇魔法を嫌う両親であっても、私が王太子の婚約者である以上、下手なことはされないだろう。そう思っていたのだが……



「…何?これは。」
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