【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒

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8話 正体

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(王城……久しぶりね…。)



 私は今、王城へと入る門の前に居た。Sランク冒険者となってから1ヶ月が経ち、今日は国王陛下からの招待状に記されていた日付だ。

 門の前で待っていた陛下の使いの者に案内され、私は玉座の間へと入った。
 玉座の間最奥、中央に座っていたのは国王陛下だ。入口から見て陛下の右隣には王妃陛下、左隣には第一王子ジルファー、さらにその隣には第一王女ゼーファ殿下が座っていた。
 中央を歩いて行く私を、左右に控える貴族達が見ている。



「「あれが……。」」

「「「《上級悪魔》を倒した新たなSランク冒険者…。」」」

「「『闇黒麗裂』リエラ殿か…。」」



 私は周囲に纏う魔力を抑えつつも、舐められない程度に圧だけを放っておく。すると貴族達は『強者感がある』などと言い、私に畏怖の目を向けていた。

 私の二つ名である『闇黒麗裂』は、『美しくも敵を破裂させるように倒す姿』を見ていた者が、『麗裂』という言葉を付けたそうだ。私の戦い方が美しいとは思えないが、きっと命を助けた人の一人が話を美化させたのだろう。そして闇魔法使いと黒髪という容姿から『闇黒』が付き、二つを合わせて『闇黒麗裂』と呼ばれているとエデスラードが言っていた。
 正直、二つ名は恥ずかしいので呼ばないで欲しいが…。



「お初にお目にかかります、国王陛下。Sランク冒険者、リエラと申します。」

「よくぞ来てくれた、冒険者リエラ殿。」



 婚約破棄されてからたった1ヶ月程度しか経っていないが、陛下とお会いするのが久しく感じた。陛下が隣国に赴かれる前に、仕事関係の話をしたきりだった。両陛下がお元気そうでなによりだ。



「知っての通り、今日そなたを招いた理由は、《上級悪魔》を討伐した褒賞を与えるためだ。しかし褒賞だけではなく、もう一つ招いた理由がある。」

「…?」

「余が直接、そなたに礼を言いたかったからだ。《上級悪魔》という天災に対し、死者が数名で済んだのは奇跡だ。国が滅んでもおかしくはなかったのだからな。村を、そして人々を脅威から救ってくれた事、この国の王として感謝する。」

「私からも感謝します。これほど少ない犠牲で済んだのは、リエラさんのおかげです。本当にありがとう。」



 両陛下が礼を述べられた後に、私に向かって頭を下げた。それも深々と…。
 Sランクとはいえ冒険者は平民だ。平民に対し一国の王が頭を下げるなど、貴族からすれば考えられないだろう。しかし陛下は、平民だろうと関係ないとお考えの様子。
 やはり良き国王だ。そしてそれは王妃陛下も同じ。この国が現在良い方向に向かっているのは、両陛下のご尽力の賜物だろう。



「どうか頭をお上げください。人々を守り、世界の未知を狭めるのが冒険者です。私は冒険者として、当然のことをしたまでですので。」

「それでも、だ。余はそなたに感謝してもしきれぬ。褒賞として、金貨百枚を用意させてもらった。」

「ひゃ、百……ですか…!?」

「そなたの功績を考えれば、この程度は当然だ。」



 この世界には、銅貨、銀貨、金貨がある。銅貨一枚で、前世ならば10円といったところだ。そして銅貨が十枚で銀貨となる。つまり銀貨は百円ほど。 だが金貨は銀貨百枚分だ。故に金貨は日本円で一万円となる。私は百万円をいきなり手にすることになるのだ。
 さらにこの国の物価は安く、城下町で売られている食べ物は銅貨数枚程度。料理では金貨一枚でかなり高い方だ。当分は食うに困らないだろう。
 貴族は位が上がるほど金銭に余裕があると言うが、やはり王家は別格だ。ディールト兄様もかなり金貨を持たせてくれたが、王家は百枚渡したとしても、まだまだ余裕があると分かる。
 ふと思ったが、兄様はこれまで貯めていた私財を、私に与えたのかもしれない…。



「それと、もう一つ渡したい物がある。」



 陛下が手を叩くと、側近の方が何かを持って来た。見覚えのあるものだ。



「これが何か、そなたならば分かるだろう。」

「はい。私が倒した悪魔の核…、《魔石》ですね。」

「その通りだ。ギルドが悪魔の素材を売りに出した時、余が買い取らせてもらった。そしてこれは、そなたが持っているべき物だ。」

「ですが……。」



 倒した悪魔の素材は全てギルドに渡し、素材をどうするかはギルドマスターのエデスラードに任せた。そしてエデスラードから、手数料等を引いた素材の買取金の一部を受け取っている。つまり魔石分の買取金も受け取っているので、陛下から魔石を頂いたならば、二重に利益が得られることになる。陛下に申し訳ないと思ってしまう。



「余からの感謝の証として受け取ってはくれぬか?」

「……分かりました。有り難く受け取らせて頂きます。」



 魔石を受け取る瞬間、陛下の側近はこっそりと一枚の紙が私にのみ見えるようにしてきた。内容は『後で陛下の執務室へ来て欲しい』というものだった。
 少し驚いて陛下を見ると、優しげな笑みを浮かべられたので、これは『話がしたい』との陛下からの誘いだと理解した。



「リエラ殿。無礼を承知で頼みがある。」

「…何で御座いましょう?」

「仮面の下、そなたの素顔を見せてはくれぬだろうか?」



 陛下は申し訳なさそうに尋ねてきた。おそらく、私が私である事の確認ができるように、素顔を見ておきたいのだろう。だがこの場でそれは無理だ。私の正体がバレかねない。適当に皆が納得しそうな理由を述べるとしよう。



「……それだけはお断り致します…。幼少期、私は顔に酷い火傷を負い、現在もお見せできるような状態ではありません。私が私である事の証明は、この闇の魔力で十分かと。」



 私は周囲の貴族達が倒れない程度に、濃密な闇の魔力を放つ。これを見せておけば、私の証明になるはずだ。



「そうか…。それは失礼なことを訊いた、謝罪する。そなたの言う通り、魔力で十分だ。」



 その後、私は褒賞として受け取った百枚の金貨の内、半分の五十枚を被害の遭った村の復興資金にして欲しいと頼んだ。陛下は驚きつつも、私の願いならばと快く受け入れてくださった。
 金はいくらあっても困らないが、あの村の惨状は酷いものだった。陛下の負担を減らすためにも、この程度のことはするべきだと判断したのだ。

 そうして一通りの話が済み、玉座の間を出た私は、陛下の側近に連れられとある部屋に入った。
 数分後、その部屋の主が入ってきた。



「待たせたな。来てくれて感謝する。」

「こちらこそ、お招きくださり感謝しております。」



 私が居たのは、陛下の執務室だ。別室で待たせない辺り、直ぐにでも話がしたかったのだと理解できる。そして貴族達に気付かれたくはないという意図も読み取れた。



「改めて、《上級悪魔》を討伐してくれたこと、感謝する。」

「私は冒険者として、当然の行いをしたまでです。」

「そなたは謙虚だな…。」



 そう仰ると、陛下は側近すら下がらせた。この部屋には私と陛下の二人のみとなったのだ。危険過ぎる行いだが、陛下が自身の覚悟を見せるには、最も効果的だろう。



「護衛が居なければ危険では…?私は冒険者という名の平民です。陛下に危害を加える可能性もあるのですよ?」

「……そうだな。だがリエラ殿は、余に危害を加えることは無いと信じている。」



 陛下は私の目を真っ直ぐに見つめる。その嘘偽りのない意志のこもった言葉に、思わずふっと笑みがこぼれてしまった。
 決して陛下の覚悟を笑った訳ではない。少し嬉しくなったからだ。これほど良き国王はいないと、改めて感じることができたのだから。

 だからこそ、何故ご子息であるジルファーが、あのような馬鹿王子になってしまったのかが解せない。何か理由があるのかもしれないが…、……ろくな理由ではないだろう。
 一先ずこの話は忘れよう。今は陛下への対応が先決だ。



「冒険者を信用し過ぎるのは、良くありませんよ。」

「余はそなただからこそ信じているのだ。そして本当に失礼なことだと理解しているが、もう一度訊きたい。仮面の下を、見せてはもらえぬだろうか…?」

「……。」

「無理にとは言わない。あくまでも『お願い』だ。」



 私は迷った。
 魔法では顔を変えることが出来ない。つまりここで仮面を取れば、確実に正体がバレてしまう。……だとしても、陛下の覚悟には応えたい。それに今までの礼も言えていない。
 私も覚悟を決め、ゆっくりと仮面を取った。



「…!まさか……ラリエット…なのか…?」
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