【完結】家を追放され、森に放置された私が出会ったのは精霊でした。

凛 伊緒

文字の大きさ
3 / 10

3.

しおりを挟む
「おかえりなさいませ、ゼティスーア様。里周辺の様子は、変わりありませんでしたか?」

「以前より魔物の数が増えていた。ほとんど討伐してきたが、またすぐに増えるだろう。毎日定期的に見回るようにしろ。」


共に入ってきた二人の内、一人がゼティスーアに状況を聞いた。
それに淡々と答えるゼティスーア。
慣れているという印象を受ける。
結界の周囲の見回りを、定期的に長自ら行っていたのだろう。


「承知致しました。対応しておきましょう。それで、こちらの魔族は?」

「魔族ではない。」

「しかし、瞳の色は紫です。」

「種族は人族だ。『心眼』で心を読んでみろ。」

「--ゼティスーア様、読むことが出来ません。」

「何?」

「何も考えていないかのような、真っ白という感じが伝わってくるだけなのですが…。」

「私は問題なく読めているのだが。ユイレは魔法でも使えるのか?」

「魔法を使ったことはありません。教えてくださる方など、おりませんでしたから。」

「だろうな…。ふむ--これは…?」


急に何かを見つけたように、驚いた顔になるゼティスーア。
私自身は本当に魔法を使ったことなどない。
しかし何か魔眼のようなものでもあるのだろうか。


「驚いた。ユイレ、お前は無自覚に結界を張っているようだな。」

「結界…?」

「そうだ。精神系の魔法を無効化するという効果があるようだ。我々の心眼も、言い換えれば精神系魔法だからな。無効化されたのだろう。」

「では何故、ゼティスーア様の心眼のみが通ったのでしょうか。」

「魔力量の違いだろう。私の魔力量は、他の精霊達よりも数倍多いからな。」

「なるほど…!」

「それでゼティスーア様、何故人族を招いたのかお聞きしてもよろしいでしょうか。」


もう一人の精霊が、話に割って入ってきた。
ゼティスーアは頷くと、私の過去と今に至るまでを手短に話す。
二人は目の色が生まれつきだと知ると、少し悲しそうな顔をした。
同情してくれているのだろう。


「ゼティスーア様、この人族をこれからどうするのですか?」

「ここに住んでもらおうと考えている。」

「「えっ!?」」

「えっ…。」

「ユイレ、不満があるのか?」

「いいえ!そういうわけでは……。他種族の侵入を拒んでいるこの場所に、人族である私が住んでも良いのでしょうか…。」

「構わぬ。私が認めよう。精霊達には私から言っておく。」

「ゼティスーア様!皆は納得しないと思います…!」

「招くだけなら目を瞑るでしょうが、共に暮らすとなると、厳しいかと。」

「異論があるのか?」

「「っ…!」」


温厚という印象があるゼティスーアが、珍しく睨みながら低い声でそう言った。
異議を唱えた二人は後ずさる。
私も殺気を感じ取った。
そこまでしてくれなくてもとは思ったが、声を出すことが出来ない。


「ゼティスーア様……本当に、よろしいのですね?」

「ああ。今すぐ皆を集めよ。」

「……承知致しました。」


二人はすぐに出ていき、精霊達を呼びに行ったようだ。
残された私は、ゼティスーアをちらりと見る。
彼は基本的に無表情で、何を考えているのか分からない。


「どうした?」

「その…前代未聞なのでは?他種族がこの里に住むなど……。」

「そうかもしれないな。」

「では何故…。」

「私はお前を気に入った。理由はそれだけだ。」

「えっ……。」

「ゼティスーア様!皆、集まりました。」

「ご苦労。」


数分しか経っていないのだが、外に出ると本当に精霊達が集まっていた。
人数は百人にも満たないくらいだろう。


「よく集まってくれた。皆の者、よく聞け。この人族であるユイレを、精霊族の里で共に暮らす仲間にしようと思う。」

「「「なっ!?」」」

「「人族?」」

「「そのために連れてきたのですか!?」」

「「「他種族を住ませるなど、危険です!」」」

「異論は認めん。共に住めば、邪悪な存在ではないと理解出来るはずだ。フィズ!皆へユイレのことを話しておけ。」

「承知致しました。」

「あの、私から一言、挨拶をしておいてもよろしいでしょうか…。」

「構わぬぞ。」

「ありがとうございます。」


私は一歩前に出て、一礼する。


「初めまして、精霊族の皆様。私はユイレと申します。瞳の色が魔族と同じですが、人族であることは事実です。皆様に認めていただけるよう、精一杯お役に立ちます。その……これからよろしくお願いします…。」

「「「……。」」」

「行くぞ。」

「は、はい。」


精霊達が何も言ってこなかったのが、逆に怖かった。
逃げるようにその場を去ってしまったが、これから大丈夫なのだろうか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので隣国に逃げたら、溺愛公爵に囲い込まれました

鍛高譚
恋愛
婚約破棄の濡れ衣を着せられ、すべてを失った侯爵令嬢フェリシア。 絶望の果てに辿りついた隣国で、彼女の人生は思わぬ方向へ動き始める。 「君はもう一人じゃない。私の護る場所へおいで」 手を差し伸べたのは、冷徹と噂される隣国公爵――だがその本性は、驚くほど甘くて優しかった。 新天地での穏やかな日々、仲間との出会い、胸を焦がす恋。 そして、フェリシアを失った母国は、次第に自らの愚かさに気づいていく……。 過去に傷ついた令嬢が、 隣国で“執着系の溺愛”を浴びながら、本当の幸せと居場所を見つけていく物語。 ――「婚約破棄」は終わりではなく、始まりだった。

離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる! 前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。 「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。 一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……? これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!

完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎて、可愛げがない」  その理不尽な理由で、王都の名門令嬢エリーカは婚約を破棄された。  努力も実績も、すべてを否定された――はずだった。  だが彼女は、嘆かなかった。  なぜなら婚約破棄は、自由の始まりだったから。  行き場を失ったエリーカを迎え入れたのは、  “冷徹”と噂される隣国の公爵アンクレイブ。  条件はただ一つ――白い結婚。  感情を交えない、合理的な契約。  それが最善のはずだった。  しかし、エリーカの有能さは次第に国を変え、  彼女自身もまた「役割」ではなく「選択」で生きるようになる。  気づけば、冷徹だった公爵は彼女を誰よりも尊重し、  誰よりも守り、誰よりも――選び続けていた。  一方、彼女を捨てた元婚約者と王都は、  エリーカを失ったことで、静かに崩れていく。  婚約破棄ざまぁ×白い結婚×溺愛。  完璧すぎる令嬢が、“選ばれる側”から“選ぶ側”へ。  これは、復讐ではなく、  選ばれ続ける未来を手に入れた物語。 ---

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

形式だけの妻でしたが、公爵様に溺愛されながら領地再建しますわ

鍛高譚
恋愛
追放された令嬢クラリティは、冷徹公爵ガルフストリームと形式だけの結婚を結ぶ。 荒れた公爵領の再興に奔走するうち、二人は互いに欠かせない存在へと変わっていく。 陰謀と試練を乗り越え、契約夫婦は“真実の夫婦”へ――。

【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。 ――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。 「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」 破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。 重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!? 騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。 これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、 推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。

追放された令嬢ですが、隣国公爵と白い結婚したら溺愛が止まりませんでした ~元婚約者? 今さら返り咲きは無理ですわ~

ふわふわ
恋愛
婚約破棄――そして追放。 完璧すぎると嘲られ、役立たず呼ばわりされた令嬢エテルナは、 家族にも見放され、王国を追われるように国境へと辿り着く。 そこで彼女を救ったのは、隣国の若き公爵アイオン。 「君を保護する名目が必要だ。干渉しない“白い結婚”をしよう」 契約だけの夫婦のはずだった。 お互いに心を乱さず、ただ穏やかに日々を過ごす――はずだったのに。 静かで優しさを隠した公爵。 無能と決めつけられていたエテルナに眠る、古代聖女の力。 二人の距離は、ゆっくり、けれど確実に近づき始める。 しかしその噂は王国へ戻り、 「エテルナを取り戻せ」という王太子の暴走が始まった。 「彼女はもうこちらの人間だ。二度と渡さない」 契約結婚は終わりを告げ、 守りたい想いはやがて恋に変わる──。 追放令嬢×隣国公爵×白い結婚から溺愛へ。 そして元婚約者ざまぁまで爽快に描く、 “追い出された令嬢が真の幸せを掴む物語”が、いま始まる。 ---

処理中です...