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「おかえりなさいませ、ゼティスーア様。里周辺の様子は、変わりありませんでしたか?」
「以前より魔物の数が増えていた。ほとんど討伐してきたが、またすぐに増えるだろう。毎日定期的に見回るようにしろ。」
共に入ってきた二人の内、一人がゼティスーアに状況を聞いた。
それに淡々と答えるゼティスーア。
慣れているという印象を受ける。
結界の周囲の見回りを、定期的に長自ら行っていたのだろう。
「承知致しました。対応しておきましょう。それで、こちらの魔族は?」
「魔族ではない。」
「しかし、瞳の色は紫です。」
「種族は人族だ。『心眼』で心を読んでみろ。」
「--ゼティスーア様、読むことが出来ません。」
「何?」
「何も考えていないかのような、真っ白という感じが伝わってくるだけなのですが…。」
「私は問題なく読めているのだが。ユイレは魔法でも使えるのか?」
「魔法を使ったことはありません。教えてくださる方など、おりませんでしたから。」
「だろうな…。ふむ--これは…?」
急に何かを見つけたように、驚いた顔になるゼティスーア。
私自身は本当に魔法を使ったことなどない。
しかし何か魔眼のようなものでもあるのだろうか。
「驚いた。ユイレ、お前は無自覚に結界を張っているようだな。」
「結界…?」
「そうだ。精神系の魔法を無効化するという効果があるようだ。我々の心眼も、言い換えれば精神系魔法だからな。無効化されたのだろう。」
「では何故、ゼティスーア様の心眼のみが通ったのでしょうか。」
「魔力量の違いだろう。私の魔力量は、他の精霊達よりも数倍多いからな。」
「なるほど…!」
「それでゼティスーア様、何故人族を招いたのかお聞きしてもよろしいでしょうか。」
もう一人の精霊が、話に割って入ってきた。
ゼティスーアは頷くと、私の過去と今に至るまでを手短に話す。
二人は目の色が生まれつきだと知ると、少し悲しそうな顔をした。
同情してくれているのだろう。
「ゼティスーア様、この人族をこれからどうするのですか?」
「ここに住んでもらおうと考えている。」
「「えっ!?」」
「えっ…。」
「ユイレ、不満があるのか?」
「いいえ!そういうわけでは……。他種族の侵入を拒んでいるこの場所に、人族である私が住んでも良いのでしょうか…。」
「構わぬ。私が認めよう。精霊達には私から言っておく。」
「ゼティスーア様!皆は納得しないと思います…!」
「招くだけなら目を瞑るでしょうが、共に暮らすとなると、厳しいかと。」
「異論があるのか?」
「「っ…!」」
温厚という印象があるゼティスーアが、珍しく睨みながら低い声でそう言った。
異議を唱えた二人は後ずさる。
私も殺気を感じ取った。
そこまでしてくれなくてもとは思ったが、声を出すことが出来ない。
「ゼティスーア様……本当に、よろしいのですね?」
「ああ。今すぐ皆を集めよ。」
「……承知致しました。」
二人はすぐに出ていき、精霊達を呼びに行ったようだ。
残された私は、ゼティスーアをちらりと見る。
彼は基本的に無表情で、何を考えているのか分からない。
「どうした?」
「その…前代未聞なのでは?他種族がこの里に住むなど……。」
「そうかもしれないな。」
「では何故…。」
「私はお前を気に入った。理由はそれだけだ。」
「えっ……。」
「ゼティスーア様!皆、集まりました。」
「ご苦労。」
数分しか経っていないのだが、外に出ると本当に精霊達が集まっていた。
人数は百人にも満たないくらいだろう。
「よく集まってくれた。皆の者、よく聞け。この人族であるユイレを、精霊族の里で共に暮らす仲間にしようと思う。」
「「「なっ!?」」」
「「人族?」」
「「そのために連れてきたのですか!?」」
「「「他種族を住ませるなど、危険です!」」」
「異論は認めん。共に住めば、邪悪な存在ではないと理解出来るはずだ。フィズ!皆へユイレのことを話しておけ。」
「承知致しました。」
「あの、私から一言、挨拶をしておいてもよろしいでしょうか…。」
「構わぬぞ。」
「ありがとうございます。」
私は一歩前に出て、一礼する。
「初めまして、精霊族の皆様。私はユイレと申します。瞳の色が魔族と同じですが、人族であることは事実です。皆様に認めていただけるよう、精一杯お役に立ちます。その……これからよろしくお願いします…。」
「「「……。」」」
「行くぞ。」
「は、はい。」
精霊達が何も言ってこなかったのが、逆に怖かった。
逃げるようにその場を去ってしまったが、これから大丈夫なのだろうか……。
「以前より魔物の数が増えていた。ほとんど討伐してきたが、またすぐに増えるだろう。毎日定期的に見回るようにしろ。」
共に入ってきた二人の内、一人がゼティスーアに状況を聞いた。
それに淡々と答えるゼティスーア。
慣れているという印象を受ける。
結界の周囲の見回りを、定期的に長自ら行っていたのだろう。
「承知致しました。対応しておきましょう。それで、こちらの魔族は?」
「魔族ではない。」
「しかし、瞳の色は紫です。」
「種族は人族だ。『心眼』で心を読んでみろ。」
「--ゼティスーア様、読むことが出来ません。」
「何?」
「何も考えていないかのような、真っ白という感じが伝わってくるだけなのですが…。」
「私は問題なく読めているのだが。ユイレは魔法でも使えるのか?」
「魔法を使ったことはありません。教えてくださる方など、おりませんでしたから。」
「だろうな…。ふむ--これは…?」
急に何かを見つけたように、驚いた顔になるゼティスーア。
私自身は本当に魔法を使ったことなどない。
しかし何か魔眼のようなものでもあるのだろうか。
「驚いた。ユイレ、お前は無自覚に結界を張っているようだな。」
「結界…?」
「そうだ。精神系の魔法を無効化するという効果があるようだ。我々の心眼も、言い換えれば精神系魔法だからな。無効化されたのだろう。」
「では何故、ゼティスーア様の心眼のみが通ったのでしょうか。」
「魔力量の違いだろう。私の魔力量は、他の精霊達よりも数倍多いからな。」
「なるほど…!」
「それでゼティスーア様、何故人族を招いたのかお聞きしてもよろしいでしょうか。」
もう一人の精霊が、話に割って入ってきた。
ゼティスーアは頷くと、私の過去と今に至るまでを手短に話す。
二人は目の色が生まれつきだと知ると、少し悲しそうな顔をした。
同情してくれているのだろう。
「ゼティスーア様、この人族をこれからどうするのですか?」
「ここに住んでもらおうと考えている。」
「「えっ!?」」
「えっ…。」
「ユイレ、不満があるのか?」
「いいえ!そういうわけでは……。他種族の侵入を拒んでいるこの場所に、人族である私が住んでも良いのでしょうか…。」
「構わぬ。私が認めよう。精霊達には私から言っておく。」
「ゼティスーア様!皆は納得しないと思います…!」
「招くだけなら目を瞑るでしょうが、共に暮らすとなると、厳しいかと。」
「異論があるのか?」
「「っ…!」」
温厚という印象があるゼティスーアが、珍しく睨みながら低い声でそう言った。
異議を唱えた二人は後ずさる。
私も殺気を感じ取った。
そこまでしてくれなくてもとは思ったが、声を出すことが出来ない。
「ゼティスーア様……本当に、よろしいのですね?」
「ああ。今すぐ皆を集めよ。」
「……承知致しました。」
二人はすぐに出ていき、精霊達を呼びに行ったようだ。
残された私は、ゼティスーアをちらりと見る。
彼は基本的に無表情で、何を考えているのか分からない。
「どうした?」
「その…前代未聞なのでは?他種族がこの里に住むなど……。」
「そうかもしれないな。」
「では何故…。」
「私はお前を気に入った。理由はそれだけだ。」
「えっ……。」
「ゼティスーア様!皆、集まりました。」
「ご苦労。」
数分しか経っていないのだが、外に出ると本当に精霊達が集まっていた。
人数は百人にも満たないくらいだろう。
「よく集まってくれた。皆の者、よく聞け。この人族であるユイレを、精霊族の里で共に暮らす仲間にしようと思う。」
「「「なっ!?」」」
「「人族?」」
「「そのために連れてきたのですか!?」」
「「「他種族を住ませるなど、危険です!」」」
「異論は認めん。共に住めば、邪悪な存在ではないと理解出来るはずだ。フィズ!皆へユイレのことを話しておけ。」
「承知致しました。」
「あの、私から一言、挨拶をしておいてもよろしいでしょうか…。」
「構わぬぞ。」
「ありがとうございます。」
私は一歩前に出て、一礼する。
「初めまして、精霊族の皆様。私はユイレと申します。瞳の色が魔族と同じですが、人族であることは事実です。皆様に認めていただけるよう、精一杯お役に立ちます。その……これからよろしくお願いします…。」
「「「……。」」」
「行くぞ。」
「は、はい。」
精霊達が何も言ってこなかったのが、逆に怖かった。
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