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住まいが用意され、この里に住むようになってから数週間が経った。
私が住んでいる場所はゼティスーアのいるすぐ隣りだ。
起きて身支度を整えると、挨拶に向かう。
「ゼティスーア様、おはようございます。」
「おはよう。ユイレ、一つ良いか?」
「何でしょう?」
「私に敬語を使わないでくれ。それに呼び捨てで構わぬ。」
「そういうわけにはまいりません。ゼティスーア様には命を助けていただき、さらには住む場所まで与えて下さったのです。恩人であるゼティスーア様に無礼な態度は取れません。」
「そうか…。」
どこか悲しく、寂しそうな顔をするゼティスーア。
何故そのような顔をするのか分からないのだが……。
断られたことが、そんなに悲しかったのだろうか。
「ゼティスーア様…?」
「すまない、無理な願いを言ったようだな。」
「いいえ!ゼティスーア様が謝られるようなことでは…!その……どうしてもとおっしゃられるのであれば…。」
「本当か!?では命令としよう。」
「承知致しました……分かったわ、ゼティスーア。それと、私は皆の手伝いをしてくるわね。」
「ああ、行ってくるといい。」
途端に嬉しそうな顔に変わる。
常に無表情だが、こういう時は分かりやすい。
外に出て、森の木の実を採っている精霊達と合流する。
「ソフィー、おはよう。」
「おはよう、ユイレ。今日も手伝いに来てくれたの?」
「ええ。お世話になっているのだから、少しでも役に立たなければね。」
「ユイレは手際がいいわよね。仕事が早く終わるから、本当に助かっているわ。」
「ソフィーに比べたら、まだまだよ。」
精霊達は、少しずつ私のことを認めてくれていた。
その中でも最も親しいのは、とても美しい女性の精霊であるソフィーだ。
この里に来てから、色々なことを教えてくれた。
里のことは勿論、ゼティスーアのこともだ。
ゼティスーアに木の実を採る手伝いをしてやれと言われたのが、出会ったきっかけだった。
里では、仕事が一部の精霊達に振り分けられているそうだ。
結界周囲を見張り、異常がないか報告する者。
食料調達をする者。
見張りは結界内から見る為、ゼティスーアが見回っているような場所までは見えないそうだ。
女性の精霊は、食料調達で木の実を採ることが多い様子。
私もその一員として手伝いをしている。
「ソフィー、少し聞いてくれる?」
「何かしら。」
「ゼティスーア…様から、呼び捨てで敬語も要らないって今朝言われたのよ。」
「えっ……。」
「ソフィー?」
「…ゼティスーア様が、本当におっしゃられたの?」
「ええ。」
ソフィーは驚いている様子。
それはそうだろう。
ゼティスーアに対して敬語を使っていない者など、誰一人としていないのだから。
「ユイレ、あなた相当ゼティスーア様に気に入られているのね。」
「えっ?」
「ゼティスーア様はね、誰に対しても心を開かれたことがないのよ。側近の二人でさえ、常に気を付けていると聞いているわ。」
「そうなのね…。」
「それで、何と答えたの?」
「はじめは断ったのだけれど、あまりにも悲しそうな顔をなさるから、命令とあらばって言ったの。」
「つまり今はもう……」
「ええ、普通に接しているわ。」
「なるほどね…。ユイレ、またゼティスーア様のお話、聞かせてほしいわ。」
「分かったわ。何かあれば、また話すわね。」
そういう言って、仕事に戻った。
数時間が経った頃、急にゼティスーアに呼び出された。
「急に呼び出してすまない。」
「気にしないで。それで、何用かしら。」
「ユイレに魔法を覚えてもらおうと思ってな。」
「魔法を?」
「ああ。一定の範囲を見ることが出来る魔眼に、精神系魔法の無効化能力。それだけの能力があるのだから、魔法の才もあるだろう。見た限り、魔力量は私に近い。」
「私の魔力、それほどあるのね……。」
「ああ。人族の魔力量ではないな。」
「えっ…。」
「精神系魔法を無効化している結界に魔力が抑えられ、本当の魔力量は隠蔽されているような感じになっている。私でなければ見抜けないだろうな。」
「つまり、結界内に膨大な魔力が抑え込まれているけれど、そもそも結界すら見えていない皆には魔力すらないように見える……ということかしら。」
「その通りだ。結界を操れるようにし、解除出来た時には化け物じみた魔力が放出されるだろう。」
淡々と言われたが、私にとってはかなり重大なことだ。
とはいえ魔法は使えるようになっておきたい。
自分の身を守る為にも。
しかし、一つ気になることがある。
ゼティスーアが上機嫌なことだ…。
私が住んでいる場所はゼティスーアのいるすぐ隣りだ。
起きて身支度を整えると、挨拶に向かう。
「ゼティスーア様、おはようございます。」
「おはよう。ユイレ、一つ良いか?」
「何でしょう?」
「私に敬語を使わないでくれ。それに呼び捨てで構わぬ。」
「そういうわけにはまいりません。ゼティスーア様には命を助けていただき、さらには住む場所まで与えて下さったのです。恩人であるゼティスーア様に無礼な態度は取れません。」
「そうか…。」
どこか悲しく、寂しそうな顔をするゼティスーア。
何故そのような顔をするのか分からないのだが……。
断られたことが、そんなに悲しかったのだろうか。
「ゼティスーア様…?」
「すまない、無理な願いを言ったようだな。」
「いいえ!ゼティスーア様が謝られるようなことでは…!その……どうしてもとおっしゃられるのであれば…。」
「本当か!?では命令としよう。」
「承知致しました……分かったわ、ゼティスーア。それと、私は皆の手伝いをしてくるわね。」
「ああ、行ってくるといい。」
途端に嬉しそうな顔に変わる。
常に無表情だが、こういう時は分かりやすい。
外に出て、森の木の実を採っている精霊達と合流する。
「ソフィー、おはよう。」
「おはよう、ユイレ。今日も手伝いに来てくれたの?」
「ええ。お世話になっているのだから、少しでも役に立たなければね。」
「ユイレは手際がいいわよね。仕事が早く終わるから、本当に助かっているわ。」
「ソフィーに比べたら、まだまだよ。」
精霊達は、少しずつ私のことを認めてくれていた。
その中でも最も親しいのは、とても美しい女性の精霊であるソフィーだ。
この里に来てから、色々なことを教えてくれた。
里のことは勿論、ゼティスーアのこともだ。
ゼティスーアに木の実を採る手伝いをしてやれと言われたのが、出会ったきっかけだった。
里では、仕事が一部の精霊達に振り分けられているそうだ。
結界周囲を見張り、異常がないか報告する者。
食料調達をする者。
見張りは結界内から見る為、ゼティスーアが見回っているような場所までは見えないそうだ。
女性の精霊は、食料調達で木の実を採ることが多い様子。
私もその一員として手伝いをしている。
「ソフィー、少し聞いてくれる?」
「何かしら。」
「ゼティスーア…様から、呼び捨てで敬語も要らないって今朝言われたのよ。」
「えっ……。」
「ソフィー?」
「…ゼティスーア様が、本当におっしゃられたの?」
「ええ。」
ソフィーは驚いている様子。
それはそうだろう。
ゼティスーアに対して敬語を使っていない者など、誰一人としていないのだから。
「ユイレ、あなた相当ゼティスーア様に気に入られているのね。」
「えっ?」
「ゼティスーア様はね、誰に対しても心を開かれたことがないのよ。側近の二人でさえ、常に気を付けていると聞いているわ。」
「そうなのね…。」
「それで、何と答えたの?」
「はじめは断ったのだけれど、あまりにも悲しそうな顔をなさるから、命令とあらばって言ったの。」
「つまり今はもう……」
「ええ、普通に接しているわ。」
「なるほどね…。ユイレ、またゼティスーア様のお話、聞かせてほしいわ。」
「分かったわ。何かあれば、また話すわね。」
そういう言って、仕事に戻った。
数時間が経った頃、急にゼティスーアに呼び出された。
「急に呼び出してすまない。」
「気にしないで。それで、何用かしら。」
「ユイレに魔法を覚えてもらおうと思ってな。」
「魔法を?」
「ああ。一定の範囲を見ることが出来る魔眼に、精神系魔法の無効化能力。それだけの能力があるのだから、魔法の才もあるだろう。見た限り、魔力量は私に近い。」
「私の魔力、それほどあるのね……。」
「ああ。人族の魔力量ではないな。」
「えっ…。」
「精神系魔法を無効化している結界に魔力が抑えられ、本当の魔力量は隠蔽されているような感じになっている。私でなければ見抜けないだろうな。」
「つまり、結界内に膨大な魔力が抑え込まれているけれど、そもそも結界すら見えていない皆には魔力すらないように見える……ということかしら。」
「その通りだ。結界を操れるようにし、解除出来た時には化け物じみた魔力が放出されるだろう。」
淡々と言われたが、私にとってはかなり重大なことだ。
とはいえ魔法は使えるようになっておきたい。
自分の身を守る為にも。
しかし、一つ気になることがある。
ゼティスーアが上機嫌なことだ…。
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