【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒

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5話

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「クソっ、クソッ!何なんだよ、この使えない魔法使いどもはよォ!」

「ゼイス様のおっしゃる通りですわねっ。これでは、あの初級魔法しか使えなかった人よりも、弱いですわ。」

「とにかく、違う人を探そう。」

「ああ。」

「……。」

「ナディア、どうかしたのか?」


ガネンは狩人のラディナの様子に違和感を覚え、声をかけた。
しかし、首を振って何でもないと答える。
シェルアが追放されてからずっとこんな調子だった。
ゼイスは気にする様子もなく、メーシアもそんなゼイスと同じだ。
ガネンだけが、ラディナを気にかけていた。
ゼイスやメーシアから少し距離をとり、ガネンはラディナに話しかけた。


「最近ずっとそんな調子だぞ。」

「気にしないで、ガネン。」

「この距離ならゼイス達に聞こえない。話してみろ。」

「…ゼイス様は……いいえ、私達はシェルアを追放した。でもそれは、正しい判断だったの…?」

「……。」

「私は、後悔…しているの。いつも暴行を加えられるシェルアを、何もせずに見ていただけ。ゼイス様に同じ目に合わされると思うと、見ている事しか出来なかった…。ううん、それは言い訳だよね。私達も…共犯なんだ。」

「…そう……だな。止められなかった僕達も悪い。」

「それに、シェルアは『初級魔法しか使えない』なんて言ったこと、一度もなかったよね。」

「確かにな…。」

「他の魔法使いの皆さんは、初級魔法の威力が弱い。でもそれは、その人達が弱いのではなくて、シェルアが強いんだと思うの。つまり、初級魔法であの威力なら、シェルアは……。」

「僕達がいなくても、簡単に魔物を討伐出来るくらいに強い。」

「うん…私はそう思うわ。でももう何もかも遅い……。」

「ラディナ、話してくれてありがとう。僕も改めて考えさせられたよ。」

「……ごめんなさい。心配をかけてしまって。」

「気にするな。ゼイス達に距離をとっていることがばれないうちに、追いつこう。」

「ええ。」


ラディナはシェルアに対して唯一、優しかったパーティーメンバーだ。
ガネンはいつも、申し訳なさそうに見ているだけだった。
あまり話したこともない。
ラディナは気付いていた。シェルアの本当の強さに。
しかし、それに気付いたのは追放された後だった。

--シェルアが追放された翌日。


「よろしくお願いします。勇者ゼイス様。」

「ああ、せいぜい役に立ってくれよ。」

「はい。全力を尽くします。」


勇者パーティーの4人と、新しく雇った男魔法使いの4人で、いつも通り魔物討伐に向かう。
難易度はAクラス。
魔物は強さでランク別に別れている。
F~Sランクだ。

Fランクは初心者冒険者が、E~Bランクは中級者、Aランクは上級者クラスだ。
Sランクの魔物となると、魔王に近い実力を持ち、勇者くらいしか勝てないと言われている。
それだけに、現れることは滅多にないのだが。
勿論、冒険者側にもF~Sにランク分けがされている
冒険者のランクは、討伐出来る魔物の強さに応じている。
今の勇者パーティーのランクはAだった。


「魔法使い!氷魔法で足止めしろ!」

「はい!魔力よ……我が願いを聞き、顕現せよ!『氷結』!!」


中級魔法、『氷結』。
しかしその威力はお粗末なものだった。
魔物の足止めにすらならなかった。


「何だよその魔法は!それに手前の言葉は何だ!?」

「詠唱ですが……。」

「詠唱だと!?そんなの必要ないだろう!」

「中級魔法ですよ!?詠唱なしで唱えられる人など、英雄エルザーム様くらいです!」

「あいつの初級魔法にも劣る威力だぞ!?」

「ですか私にはこれが限界です。」

「使えねぇな!」

「ゼイス様!魔物が来ますわっ!」

「仕方ねぇ。ガネン、ラディナ、行くぞ!メーシア、強化魔法を頼む!」

「はいっ!」


魔物は倒す事が出来た。
いつもは足止めの為に魔法を撃たせていたが、それがなくてもAランクの魔物を倒せる事が分かったのだ。
魔族領へ行く日も近いとゼイスは思っていた。
その日の報酬を受け取り5等分する。
しかし、魔法使いの分は少ない。


「えっと…これはどういう……。」

「勇者パーティーでの報酬の配分は、貢献度に応じているのさ。つまり、お前の分はこんだけってことだ。」

「そんなっ…。」

「文句があるのか?」

「いえ!何もありません!」

「そうかよ。仮メンバーだったが、お前は不合格だ!じゃあな。」

「えっ……。」


ゼイスとメーシアは去っていく。
ガネンとラディナだけが、頭を下げた。
ガネンはそのまま去っていくが、ラディナは一声かける。


「ごめんなさい。私に何も出来なくて……。」

「い、いえ!私の弱さが原因です!ラディナさんは気になさらないで下さい!」

「本当にごめんなさい…。これからも、頑張って下さい。」

「ありがとうございます。では。」


その後も魔法使いを仮メンバーにして魔物討伐をしたが、どの人もゼイスは不合格にした。
そもそも、Aランク超の魔物を足止め出来るほどの威力を撃てる魔法使いがいないのだ。
そして1ヶ月後、ゼイスは一人の魔法使いを正式なパーティーメンバーにした。


「キユハと申します。よろしくお願い致します。」

「こいつは異空間収納を使える。攻撃魔法が弱くても、荷物運び程度には役立つだろうぜ。じゃあ今日も魔物狩りしに行くぞ。」

「はいっ!」「ああ。」「はい……。」


異空間収納が使えるというだけで、パーティーメンバーに加えたのだ。
完全に荷物持ちである。
しかし彼女は束縛系の魔法は弱いが、攻撃魔法の威力がそこそこ強かった。
シェルアほどではないが。


「お前、なかなか使えるな。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「近々魔族領へと向かう。心の準備をしておけよ!」


急な話だったが、メンバー達は従うしかない。
この程度で魔王に勝てるのかと言われれば、確実に否だ。
しかし、ゼイスに物申す事は誰も出来やしない……。
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