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巻き戻し2
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『あっ』
カシャン……パリン。
陶器が割れた音と床に落ちた振動をほぼ同時に感じた。
『ムラサキのカップが……勝手に割れた……真っ二つだ。まさか! ムラサキの身に何かあったのかも! こうしちゃいられない! 私、行かなきゃ!』真剣な面持ちで立ち上がり、走り出そうと足を踏み出した。
が、その小さな背中に声が掛かる。
『いやいや、待ちなよ。どう見ても今のは君がカップを落としたせいで割れたよね? 勝手に割れるハズないだろ? そもそも僕はさっきからずっとここに座っているんだけど、君は一体何処に行くつもりなの?』
僕は、今まさに逃げ出そうとしている水色を呼び止める。
すると、彼女は走り出そうとしている体勢のまま器用に振り返り、表情をいつもの飄々としたニヤけ顔に戻した。
そして、たった今初めて僕の存在に気が付いたかの様に惚けてみせる。
『あれ? ムラサキじゃないかぁ、奇遇だねぇ。どうしたの? こんな所でぇ』
『ここ、僕の家なんだけど』
『あはははは! そうだっけ? いやぁ、元気そうで良かった! 心配して損したよぉ、まったくぅ!』
『言いたい事はそれだけ?』
『……ごめんね。カップ割っちゃった。てへ』
『そうだよね、物を壊したらちゃんと謝らないとね』
『はい。まったくもってその通りであります! 隊長!』
『いや、隊長って……まぁ、カップくらい別に良いんだけどさ、大丈夫?どこか切ったりしてない?』
『いやぁ、ムラサキは優しいなぁ。大丈夫だよ! この通り元気さ! ありがとう』
『じゃあ、僕はホウキとチリトリ持って来るから少し待ってて。割れたカップには触らないようにね』
『はーい』
僕は玄関でホウキとチリトリを見つけると、割れたカップを入れる為の袋を用意して、水色の待つリビングに戻った。
すると……。
『お待たせ、って何やってんの? 変な冗談とかやめてよ。水色……?ねえ! 大丈夫!? 水色!』
水色が倒れていた。胸の辺りとお腹の辺りを抑えて『うぅ……』と、小さな息とも声ともしれない音を吐き出しながら。
これは普通じゃないと思った僕は、すぐさま救急車を呼んだ。
救急車が来るまでの数分……そして、来てから病院に到着するまでの車内でも、僕はオロオロするばかりで何も出来なかった。
ただ怖くて、とにかく時間が長く感じて、この時間が一生続くのでは、という恐怖に何をすれば良いかも分からなくて、とにかくずっと水色の手を握り『大丈夫だから、すぐ病院だから』と繰り返す事しか出来なかった。
水色はそんな僕の手を握り返しながら、苦しそうに笑顔を作って『大丈夫。大した事ないよ』と、ずっと繰り返していた……。
しかし、実際はやっぱり大した事で、病院に到着するや否や、大急ぎでどこかへ運ばれて行ってしまった。
その日、水色は家に帰れなかった……。
その次の日も。そのまた次の日も……。
そして、そのまましばらく入院する事になった。
しかし、その入院生活は水色にとって”辛くて辛くて仕方ない”ものでは無かったようで、定期的にする検査や投薬はあるものの、誰かが付き添えば外出も割と自由に出来るし、体の調子も良好で、病院内を歩きまわり他の患者や看護師達と仲良くなっているそうだ。
本人曰く、倒れて救急車で運ばれて来たのが夢だったのでは無いだろうか。と言うほどだ。
だけど、現実はそう甘いものでは無い。
彼女の病気は、今の所症状こそ全然出ていないが、確実に体を蝕んでいくもので、手術をしない限り、五年後の生存確率は二%以下だという。
それも手術をする事で治す事は可能なのだが、日本ではその病気自体が珍しく、手術も国で認可されていないとの事。
なので、手術は必然的に外国で受ける事になる。
しかし、その為には、その手術が出来るブラックジャックの様なスキルを持った医者と、ブラックジャックに支払うような莫大な費用を何とか用意しなければいけないという無理難題が待っていた。
まさに、テレビでしか聞いた事の無い。しかし在り来りな展開が待ち受けていて、僕は少し、いや、かなり不安になっていた。
けれど、それを聞いた水色本人はといえば、真剣な表情で話す医者や、自分の家族の目の前でくるくると回り。
『何それ。そんなのありきたり! 想定内! 既知の展開! お約束の連続! 超つまんない! 募金を募って。お金が集まって。医者も見つかって。外国に行って。 手術もして。私の病気も治るに決まってる! そんなの一ミリも怖くない! そんな事より私、ムラサキと外出してきたい! 良いでしょ? 多分一時間くらいで戻ってくるからさ』
あまりの勢いに医者と水色の両親が了承すると、水色は僕を連れて病院を後にした。
行く場所は決まっていたようで、寄り道をする事も無く真っ直ぐにそこへ向かって行く。しばらく歩いて到着したのは。
神社だった……。
カシャン……パリン。
陶器が割れた音と床に落ちた振動をほぼ同時に感じた。
『ムラサキのカップが……勝手に割れた……真っ二つだ。まさか! ムラサキの身に何かあったのかも! こうしちゃいられない! 私、行かなきゃ!』真剣な面持ちで立ち上がり、走り出そうと足を踏み出した。
が、その小さな背中に声が掛かる。
『いやいや、待ちなよ。どう見ても今のは君がカップを落としたせいで割れたよね? 勝手に割れるハズないだろ? そもそも僕はさっきからずっとここに座っているんだけど、君は一体何処に行くつもりなの?』
僕は、今まさに逃げ出そうとしている水色を呼び止める。
すると、彼女は走り出そうとしている体勢のまま器用に振り返り、表情をいつもの飄々としたニヤけ顔に戻した。
そして、たった今初めて僕の存在に気が付いたかの様に惚けてみせる。
『あれ? ムラサキじゃないかぁ、奇遇だねぇ。どうしたの? こんな所でぇ』
『ここ、僕の家なんだけど』
『あはははは! そうだっけ? いやぁ、元気そうで良かった! 心配して損したよぉ、まったくぅ!』
『言いたい事はそれだけ?』
『……ごめんね。カップ割っちゃった。てへ』
『そうだよね、物を壊したらちゃんと謝らないとね』
『はい。まったくもってその通りであります! 隊長!』
『いや、隊長って……まぁ、カップくらい別に良いんだけどさ、大丈夫?どこか切ったりしてない?』
『いやぁ、ムラサキは優しいなぁ。大丈夫だよ! この通り元気さ! ありがとう』
『じゃあ、僕はホウキとチリトリ持って来るから少し待ってて。割れたカップには触らないようにね』
『はーい』
僕は玄関でホウキとチリトリを見つけると、割れたカップを入れる為の袋を用意して、水色の待つリビングに戻った。
すると……。
『お待たせ、って何やってんの? 変な冗談とかやめてよ。水色……?ねえ! 大丈夫!? 水色!』
水色が倒れていた。胸の辺りとお腹の辺りを抑えて『うぅ……』と、小さな息とも声ともしれない音を吐き出しながら。
これは普通じゃないと思った僕は、すぐさま救急車を呼んだ。
救急車が来るまでの数分……そして、来てから病院に到着するまでの車内でも、僕はオロオロするばかりで何も出来なかった。
ただ怖くて、とにかく時間が長く感じて、この時間が一生続くのでは、という恐怖に何をすれば良いかも分からなくて、とにかくずっと水色の手を握り『大丈夫だから、すぐ病院だから』と繰り返す事しか出来なかった。
水色はそんな僕の手を握り返しながら、苦しそうに笑顔を作って『大丈夫。大した事ないよ』と、ずっと繰り返していた……。
しかし、実際はやっぱり大した事で、病院に到着するや否や、大急ぎでどこかへ運ばれて行ってしまった。
その日、水色は家に帰れなかった……。
その次の日も。そのまた次の日も……。
そして、そのまましばらく入院する事になった。
しかし、その入院生活は水色にとって”辛くて辛くて仕方ない”ものでは無かったようで、定期的にする検査や投薬はあるものの、誰かが付き添えば外出も割と自由に出来るし、体の調子も良好で、病院内を歩きまわり他の患者や看護師達と仲良くなっているそうだ。
本人曰く、倒れて救急車で運ばれて来たのが夢だったのでは無いだろうか。と言うほどだ。
だけど、現実はそう甘いものでは無い。
彼女の病気は、今の所症状こそ全然出ていないが、確実に体を蝕んでいくもので、手術をしない限り、五年後の生存確率は二%以下だという。
それも手術をする事で治す事は可能なのだが、日本ではその病気自体が珍しく、手術も国で認可されていないとの事。
なので、手術は必然的に外国で受ける事になる。
しかし、その為には、その手術が出来るブラックジャックの様なスキルを持った医者と、ブラックジャックに支払うような莫大な費用を何とか用意しなければいけないという無理難題が待っていた。
まさに、テレビでしか聞いた事の無い。しかし在り来りな展開が待ち受けていて、僕は少し、いや、かなり不安になっていた。
けれど、それを聞いた水色本人はといえば、真剣な表情で話す医者や、自分の家族の目の前でくるくると回り。
『何それ。そんなのありきたり! 想定内! 既知の展開! お約束の連続! 超つまんない! 募金を募って。お金が集まって。医者も見つかって。外国に行って。 手術もして。私の病気も治るに決まってる! そんなの一ミリも怖くない! そんな事より私、ムラサキと外出してきたい! 良いでしょ? 多分一時間くらいで戻ってくるからさ』
あまりの勢いに医者と水色の両親が了承すると、水色は僕を連れて病院を後にした。
行く場所は決まっていたようで、寄り道をする事も無く真っ直ぐにそこへ向かって行く。しばらく歩いて到着したのは。
神社だった……。
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