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先輩の秘めた思い!(新バージョン)

先輩のやる気のない指導

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次の日、文芸部部室で僕は、
「先輩!では早速、小説の書き方を教えてくだい!」
と、元気良く言った。

そうすると先輩は、ポンッと手を叩いて、
「うーん……とりあえず、中也君が思うように小説を書いてみてよ!」
と言った。

また、付け加えて先輩は、
「どんなものでもいいけど、先輩の持論としては、最近の子には"異世界ネタ"が書きやすいと思うよ。
現世で何らかの理由で殺されて、目が覚めたら異世界にいた、とか、そもそも異世界に住んでいて、狩りをしたり、採取したりして面白おかしく過ごしている、とか!」
と、目を大きく見開いて、嬉しそうに語った。

僕は考える人のポーズをして、ストーリーを考えてみた。
(異世界……異世界といえば某リゼロとか某新世界よりとかかな……
新世界よりは良かったな……
"ミノシロモドキ"が頭から離れないよ……
でも、パクリは不味いしなぁ……
……そうだ!恋愛だ!どうせ恋愛小説を書くんだから、練習でも恋愛小説を書いた方がいい筈だ!それじゃあ、プロットは……)
などなど色々考えた結果、約30分後、やっと、大まかなストーリーが出来た。

「先輩思いつきました!大まかなストーリー、聴いてください!」
どうやら先輩は僕が考えている間、なにやらカバーがついている本を読んでいたらしく、僕が言葉を発した瞬間にその本をピュンと背中の方に隠した。

「う、うん。分かった。それじゃあストーリー聞かして。うん」
先輩は本を持った両手を後ろに置き、冷や汗をかきながら、震えた声で言った。

僕は少し、本当に少しだけ先輩の読んでいた本が気になったが、我慢して先輩にストーリーを伝えた。




「なるほど、ね……いつも病んでる少女といつも活発な少年の甘々として焦れったい青春恋物語か……なるほど……面白いんじゃない?繊細優美な作品を頑張って書いてね!先輩は今から寝るので、あとは頑張れ!」
……僕は先輩に思いっきりスピードをつけた踵落としを食らわせた。

先輩はアンティーク椅子から落っこち、床に足をつけ、手をお腹に当てて、屈んだ。

「うぅ……うぅ……なんで……?
今……教えられること……全部教えた……じゃん……書き終わ……るまでは……他に教えられることなんて……ないよ……」
先輩は、地の底から這いつくばって出てきている、封印されていた妖怪のような呻き声で僕に理由を尋ねてきた。

「答えは至極簡単です。
"僕が頑張っているのに先輩だけ昼寝するのはズルい"それだけです!先輩、絶対、映像鑑賞とかでも寝る人でしょ……寝るのはいいですが、そもそも部活中に寝るのは禁止です!唯でさえいつも、先輩は部活中に昼寝ばっかりしているのに、文芸部の数少ない重要な活動をしている時に寝るのは、最早、寝るのと本が好きなただの文学青年です!」
僕はピシッと人差し指を先輩の方に向け、ぷんぷんと怒りながら言った。

先輩は後頭部に片手を当てて、はぁ、と溜息をつき、なんだか面倒くさそうな顔で、目を了承の目にしてくれた。

僕は満足気に原稿用紙を古びた木の棚から取り、深緑色をした鉛筆を人差し指と中指と親指でギュッと握り、カリカリと話を書き始めたのだった。

尚、書いている間、ずっと先輩はだるそうな目で、僕の顔を見ていた。
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