竜王の番は大変です!

月桜姫

文字の大きさ
9 / 79
本編

6.フィルの心配事

しおりを挟む
「(サクヤは、大丈夫だろうか)」

先程咲夜と別れてから、フィルはそれしか考えていなかった。チャンスとばかりに話しかけてくる女達の声など、一切耳に入っていない。

「そういえば、ラフィリア様のこと、神川さんはフィル、と呼んでいますよね?」

「それがどうした」

「どうしてフィル、なんですか?」

咲夜の名前が出てきて思わず耳を傾けてしまったフィル。しかしすぐに食いついてきた女達に嫌気が差し、イライラと足を早まる。

「神川さんが呼ぶなら、私たちもフィルと呼んでいいですよね?」

いくら竜人族を知らないとは言え、フィルはリュカ・ラフィリアとしか名乗っていない。それはつまり呼ばせる気がないという事なのだが、そんなのおかまいなしの取り巻き達。

その態度に、流石のフィルもキレた。今まで咲夜の迷惑になるから、咲夜が困るからと抑えていた竜人特有の威圧感の制御が切れる。

「番名を何度も呼ぶな。……あんまり調子にのってんじゃねぇぞ、人の子風情が」

普段より数段低い声と、野生の獣に会ったような威圧感。人族なら確定で、下手な竜人族でも泣きが入るレベルだ。

これで少しは静かになるだろうとふんだフィルだが、実際に怯えているのは取り巻きの端にいる人のみ。

「何怖い顔してるのー?」

「お前ら……何者だ」

経験上有り得ない事態に困惑したフィルは、ふと女の目を見て、咲夜と同じことに気がついた。そして、その原因も。

「(……魔力の残り香。この世界に魔力を使う者は俺だけのはず。という事は他の誰かが、"向こう"から付いてきた……?)」

「フィル様ー?」

「とりあえず黙ってろ」

女達の理性やら本当の感情やらを封じ込めている魔術を打ち消し、ついでに全員眠らせる。そしてバタバタとその場に倒れてゆく女達を無感情に見つめ、フィルは咲夜の元へと来た道を戻る。

「(サクヤの身が、危ない)」

魔力の元となる魔素がないこの世界では、1度も使った魔力は元に戻らない。そしてフィルは人型になっているにも微量の魔力を使っており、無くなっては危険だ。

しかし、そんな事より咲夜の方がもちろん大切で。魔力が無くなれば昏睡状態に陥ることなど頭にない。そして咲夜に残っている自分の魔力を探し出す。

「あ、ラフィリア様……っ!」

咲夜と別れたすぐ近くで、咲夜の持っていた資料をかき集める女が数人。とりあえず先程と同じ処理をし、もはや周囲には目もくれず走り出したフィル。

「っ、やばいな」

ガリガリとなくなってゆく自分の魔力と、肌にうっすらと出始めた鱗を見て忌々し気に呟いた。本能的に、必要な魔力量が少なくて済む竜体に戻ろうとしているのだ。

「(気休めにしかなんねぇが、回復薬飲んどくか)」

どこからともなく取り出した紫の瓶の中身を一気にあおった。しかしフィルの魔力の絶対量が多いせいで、本当に気休めにしかならない。それでも、うっすらと見えていた鱗が消えた。

「頼むから、サクヤを助けるまでは持ってくれよ……!」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

処理中です...