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本編
48.港にて
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「おい起きろ!」
そんな怒号と共に脇腹を蹴られ、酷く咳き込みながら目を覚ましたゆあ。周りを見るとそこはもう森の中ではなく、冷たい鉄格子が目の前にあった。
「おいガキ、いい加減起きろ!」
「っ、やめて!イトは、今、魔力が切れて……」
「チッ。ならこれを飲ませて生きていることをさっさと証明しろ!」
目を覚まさないイトを蹴り続ける男を、ゆあが悲鳴混じりに止める。そして男が立ち去ったのを見て、小瓶の中身は全部捨てた。
「……イト、イト」
「……」
しかしゆあがいくら呼びかけてもイトは目を覚まさない。眠っているような、けれど何かが違う状態。そしてその状態がイトと手を繋いでいたキトと同じであることに気が付いた。
「(丸君と、キトはいない。周りの牢にいるのもみんな女……。だとすれば、女を狙った人攫い?)」
今のイトが先程までのキトと同じ状態だとすれば、キトは起きているに違いない。とゆあがそこまで考えたとき、ふわりと風に乗って磯の香りが漂ってきた。
「(海のそば。2、3人で分けられた鉄格子の箱。女狙いの人攫い。……テンプレだったら、夜になったと同時に船で大海原へ、ってトコかな?)」
緊急事態に強いゆあだ。他の牢にいる女がみな震えているにもかかわらず、一人ゆったりと寝そべってとことん考える。
「(キトの性格がどうなのかは知らないけど、なんとなくここを嗅ぎ付けて突っ込んできそう。丸君もあれでいて後先考えないから、ついてくるだろうな。でも二人だけじゃ流石に分が悪いか……)」
うーん……と唸ったゆあ。そしてふとブレスレットに目が止まった。それはお金と一緒に貰ったもので、咲夜も付けていて対になっている。
一方的ではあるが声を届けれる機能がついていて、緊急事態には頼りになるもの。現状の突破口が見つかって、思わず砕けた笑いを浮かべるゆあであった。
***城内***
「もうすぐ、焼けるね」
「せやな!」
「本当にあれ、食べるんですか……?」
「もちろん!本当は日本の食材を使いたかったんだけどね」
心配そうな表情の料理長と、ワクワクした表情の咲夜とリィカ。2人が焼き上がりを心待ちにしているのは、異世界の有り合わせ食材で作ったクッキーだ。
男はまず胃袋を掴め、と言うリィカに従って、お菓子を作ることにしたのだ。しかし咲夜の中での料理長である一はおらず(お菓子は範囲外なのだが)、リィカは作ろうと思ったことすらない。
よって、咲夜が昔何度か作ったクッキーを作ることとなったのだが。
「材料探しに随分苦労したね」
「手間取りすぎたなぁ。これやったら、もうすぐ他の人らも帰ってくんちゃう?」
「わっ、もう日が沈み始めてる」
クッキーを作ろうと思い立ち、かれこれ5時間。クッキーの材料を求めて研究まがいのことをしていた二人。あとはこのクッキーがきつね色にこんがり焼けて、サクサクおいしければ全ての苦労が報われるというもの。
……ただ、世の中そう甘くはない。しゃらん、と突然咲夜のブレスレットが鳴り、次いで落ち着いてはいるが緊張を孕んだゆあの声が聞こえてきた。
「よく聞いて、咲夜」
「っ、リィカ、書くものある?」
「これでええか」
「うん」
「……港の古い倉庫。磯の香りはするけど波の音は聞こえない。女攫い。丸君が向かってると思う。咲夜、助けて」
「……。フィルに!」
「連絡せんとっ!」
プツリ、通信は始まりと同様、突然切れた。そして数秒顔を見合わせた咲夜とリィカは、次の瞬間揃って走り出した。クッキーの焼き上がりタイミングなど知らない料理長を放置して。
そんな怒号と共に脇腹を蹴られ、酷く咳き込みながら目を覚ましたゆあ。周りを見るとそこはもう森の中ではなく、冷たい鉄格子が目の前にあった。
「おいガキ、いい加減起きろ!」
「っ、やめて!イトは、今、魔力が切れて……」
「チッ。ならこれを飲ませて生きていることをさっさと証明しろ!」
目を覚まさないイトを蹴り続ける男を、ゆあが悲鳴混じりに止める。そして男が立ち去ったのを見て、小瓶の中身は全部捨てた。
「……イト、イト」
「……」
しかしゆあがいくら呼びかけてもイトは目を覚まさない。眠っているような、けれど何かが違う状態。そしてその状態がイトと手を繋いでいたキトと同じであることに気が付いた。
「(丸君と、キトはいない。周りの牢にいるのもみんな女……。だとすれば、女を狙った人攫い?)」
今のイトが先程までのキトと同じ状態だとすれば、キトは起きているに違いない。とゆあがそこまで考えたとき、ふわりと風に乗って磯の香りが漂ってきた。
「(海のそば。2、3人で分けられた鉄格子の箱。女狙いの人攫い。……テンプレだったら、夜になったと同時に船で大海原へ、ってトコかな?)」
緊急事態に強いゆあだ。他の牢にいる女がみな震えているにもかかわらず、一人ゆったりと寝そべってとことん考える。
「(キトの性格がどうなのかは知らないけど、なんとなくここを嗅ぎ付けて突っ込んできそう。丸君もあれでいて後先考えないから、ついてくるだろうな。でも二人だけじゃ流石に分が悪いか……)」
うーん……と唸ったゆあ。そしてふとブレスレットに目が止まった。それはお金と一緒に貰ったもので、咲夜も付けていて対になっている。
一方的ではあるが声を届けれる機能がついていて、緊急事態には頼りになるもの。現状の突破口が見つかって、思わず砕けた笑いを浮かべるゆあであった。
***城内***
「もうすぐ、焼けるね」
「せやな!」
「本当にあれ、食べるんですか……?」
「もちろん!本当は日本の食材を使いたかったんだけどね」
心配そうな表情の料理長と、ワクワクした表情の咲夜とリィカ。2人が焼き上がりを心待ちにしているのは、異世界の有り合わせ食材で作ったクッキーだ。
男はまず胃袋を掴め、と言うリィカに従って、お菓子を作ることにしたのだ。しかし咲夜の中での料理長である一はおらず(お菓子は範囲外なのだが)、リィカは作ろうと思ったことすらない。
よって、咲夜が昔何度か作ったクッキーを作ることとなったのだが。
「材料探しに随分苦労したね」
「手間取りすぎたなぁ。これやったら、もうすぐ他の人らも帰ってくんちゃう?」
「わっ、もう日が沈み始めてる」
クッキーを作ろうと思い立ち、かれこれ5時間。クッキーの材料を求めて研究まがいのことをしていた二人。あとはこのクッキーがきつね色にこんがり焼けて、サクサクおいしければ全ての苦労が報われるというもの。
……ただ、世の中そう甘くはない。しゃらん、と突然咲夜のブレスレットが鳴り、次いで落ち着いてはいるが緊張を孕んだゆあの声が聞こえてきた。
「よく聞いて、咲夜」
「っ、リィカ、書くものある?」
「これでええか」
「うん」
「……港の古い倉庫。磯の香りはするけど波の音は聞こえない。女攫い。丸君が向かってると思う。咲夜、助けて」
「……。フィルに!」
「連絡せんとっ!」
プツリ、通信は始まりと同様、突然切れた。そして数秒顔を見合わせた咲夜とリィカは、次の瞬間揃って走り出した。クッキーの焼き上がりタイミングなど知らない料理長を放置して。
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