竜王の番は大変です!

月桜姫

文字の大きさ
68 / 79
本編

65.「ならば、これに耐えて見せよ」

しおりを挟む
「っ、ずいぶんなお出迎えだな!」

「一生の最後に我を見たこと、誇りに思うがいい」

会話が噛み合っていない、というよりお互いの言い分を無視している状態である。それでもフィルの大声は、咲夜達を我に返らせることが出来た。

炎を司る、黄金と紅の美しく気高い不死鳥。その誇り高い性格ゆえ人の前には滅多に姿を現さない、幻の存在。

その名の通り不死であり、何度でも復活する。そして人語を解し高い知能を持つため、∞ランク(討伐不可能)に相応しい。

「不死鳥から目を離すなよ!」

「うん!」

「俺が受ける攻撃は?」

「直接攻撃が来た時だな。朔!」

「あいきたっ!」

天井までは10メートル程。その8メートル辺りでホバリングしつつ、炎を小鳥に変えて攻撃してくる不死鳥。対して、その小鳥を避けて捌く4人。その中でゆあが身軽さを生かして不死鳥に近づく。

「小娘が。そう易々と我に近づけると思うな」

「もう近づいちゃったよ?」

そういいつつ下からナイフを投げるゆあ。不死鳥は完全に油断しており、その無防備な腹にナイフが刺さる……直前。不死鳥の体が一瞬にして炎に包まれ、消えた。

不死鳥が消えたせいでゆあのナイフは空を切るのみと思えたが、そのには先程までいなかった小鳥が居り。ナイフは小鳥を容赦なく貫き、炎の小鳥は四散すると共に大量の火の粉を撒き散らす。

「朔、下がれ!」

「「ゆあっ!?」」

火の粉によってゆあの姿が一瞬隠れた。その身を案じる咲夜達が叫ぶが、当の本人はすぐに火の粉の滝から抜ける。

「っ、あつぅ!……居場所交換とか聞いてないってぇ!」

そう毒づきつつも、軽い火傷を数箇所負ったのみで咲夜の近くまで下がるゆあ。その手にあるのは少し大きめのサイズのハンカチ。

ただのハンカチだが、顔を火の粉から守るには十分使えたらしい。ちりちりと所々焼け穴が見え、もう使えないだろうがゆあが気にしている様子は特にない。

そしてこの咄嗟の判断をし、実行してのける人物はそうそう居ないだろう。普通の人ならば何も分からず火の粉に皮膚を焼かれてしまうか、避けようと動き出そうとして火の粉を浴びるかだ。

「お主ら少しはやるのだな。我の眷属を差し向けて死ななかったのはお主らが初めてだ」

「それじゃさっさと外に出してくれ」

「ならば、これに耐えて見せよ」

討伐不可能と言うだけあって実力は咲夜達でも足元にも及ばない。だがその攻撃を躱す咲夜達は常軌を逸しているだろう。しかし、それでも限度はある。

例えばそう、不死鳥が姿を崩して炎になり魔力を総動員して視界を埋め尽くす炎の海が作り出された時とか。その波がじわりじわりと迫ってきている時とか。

「っ、【】」

咄嗟に魔法語を言うフィルだが、作り出された水は炎の熱であっという間に蒸発して消える。元々彼が得意なのは火属性であり、水属性ではないのだ。

「無理だ、転移石を使え!」

「あぁ!……使用!」

フィルの指示に従って一が石を握ってそう叫んだ。その手中で石がパキン、と割れて若干のタイムラグがあった後にその姿が掻き消える。

「「使用!」」

「しよ……あっ!」

「っ、ゆあ!」

カラン、と。暑さの中で汗ばんだゆあの手のひらから石が滑り落ちる。そのままコロコロと転がって炎に呑まれ、一瞬で炭化してしまう。しかしその直後、呆然とするゆあの手に、割れて転移する直前の石が押し付けられる。

「咲夜!?なん……!」

「ゆあ、頑張って」

にこりと笑んだ咲夜を一瞬見たゆあの姿が、消える。現状を打破する方法は、思いつかない。だから咲夜は迫り来る炎の壁をじっと無言で見つめた。

「ったく、サクヤは馬鹿だな」

「……フィル!」

その横にそっと寄り添うように立ち、呆れたように笑うのはフィル。咲夜がゆあに渡すのを見て、躊躇い無く自分の分を投げ捨てたのだ。本当は咲夜を帰したかったが、時間なかった。

二人はあまりに突然見えた死という存在を、ほとんど恐れずただ静かに感じる。そして炎が自分たちを呑み込むこの瞬間を、じっと待っていた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

処理中です...