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第4節
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あくる金曜日、義清は週末に向けての買い置きのために町へ出ていた。夏場は飲み物も氷も、一瞬で底をついてしまう。暑いから外出したくないというのに、暑いが故に外出せざるを得ないというジレンマから、どうやっても抜け出せない。それでも、義清は夏という季節が嫌いではなかった。寒いより暑い方が得意というのもあったが、何より太陽が長く人々を見守っているというのは、悪が蔓延る余地が少ない気がして心が穏やかになった。しかし、そんな太陽も今日は雲に隠れ、閉じ込められたかのような熱気と湿気だけが残っていた。
しばらく早足で歩いていると、見慣れた路地が見えてきた。そこはビルに挟まれた狭い道だった。もともと裏口を出入りする人以外にはあまり使われていなかったことに加え、ごみが不法投棄されているなどして治安は悪化する一方だった。遠回りすれば反対側に行けるため、必ずしもこの路地を通る必要はないのだが、義清は定期的にこの路地を通っては道端に捨てられているごみをごみ箱に分別していた。
今日も少しごみを拾っていこうか、今にも雨が降りそうだから今日はやめとこうか、などと考えながら路地の入口に立つと、珍しく数人の男たちがそこにたむろしていた。特に何かを話しているようでもなく、こちらに気づくとお互いに小声で話し始めた。
「なあ、そこの兄ちゃん。」
無視して間を通り抜けようとすると、男の一人がにやにやと笑いながら目の前に立ち塞がった。
「……誰だ?」
何だ、と聞かなかったのは、本能的に警戒をしたからかもしれない。
「そうだよな、お前は俺らを知らねぇよな。だが、俺らはお前のことを知っている。」
他の男も、義清に近づきながら話し始めた。
「少し前に、コンビニで後輩が世話になったから、そのお礼でもしようと思ってな。」
「コンビニ? ……ああ、あの万引きか。」
万引き犯の親分みたいな奴らだろうか、と義清は認識した。
「あの馬鹿、誰に言われてやったとか全部ゲロっちまったんだよ。そのせいで俺らも前のようには好き勝手出来ないもんで、ストレスたまってんだわ。」
「だからさ、少しでいいんだ。ほんの十分かそこら、俺らのサンドバッグになってくんねぇかな。」
なんと自分勝手な暴論だろう。こんなものがまかり通ると思ってしまっている人間が存在することに、彼は頭を抱えたくなった。
「あのなぁ、そんなこと承諾するわけないだろう。それに俺にも用事ってもんがあるんだ。早くどいてくれないか。」
一人の横を通り過ぎる。だが残りの一人が通すまいと立ち塞がった。振り返ると、二人も戻らせる気はないといった様子だった。
「完全に囲まれたな。」正和がやれやれといった風にぼやいた。
「どうやらそうらしいな。」
「どうする気だ?」
義清は天を仰いだ。ぽつり、またぽつりと雨が降り始めていた。
「多少強引にでも突破するしかないだろう。」
「おいおい、強引にって、殴りかかって道を開けさせるつもりか? その時点でお前はこいつらと同等の糞野郎になることになるぞ。もっとも、お前がこいつらに一切傷つけずに制圧できるっていうんなら話は別だがな。」
空を見上げたまま、しばらく考えた。ただ逃げるだけの万引き犯を捕まえるくらいならできるが、敵意のある人間を、しかも三人相手にするとなると、流石に無傷でどうこうするというのは非現実的に思えた。
「じゃあ、どうすればいい?」
「付き合ってやれよ、こいつらのストレス発散に。お前は誰も傷つけない、あいつらは満足する、最も平和的な解決方法だ。それに、たかだかあんな奴らに数十分殴られるくらい、お前にとってはどうってことないだろ?」
「……まあ、それもそうか。」
これ以上の時間の猶予は与えられそうになかったので、義清は三人衆に向かって言った。
「気が変わった。お前らの好きにするといい。だが、最初に言っておくが、これしきのことで俺の正義の心が折れたりは——」
言い終わらないうちに、彼の後頭部に強烈な打撃が放たれた。視界がぶれて、少しよろけた。
「物分かりが良くて助かるぜ。せいぜい俺らが満足するまで気絶すんなよな。」
さらなる追撃を悟り、彼は地面に膝をついた。そのまま手で頭を守り、亀のように背中を丸めた。他の全ての代わりにがら空きになった背中をめがけて、手や足、挙句は物までもが、何度も何度も振り下ろされた。
しばらく早足で歩いていると、見慣れた路地が見えてきた。そこはビルに挟まれた狭い道だった。もともと裏口を出入りする人以外にはあまり使われていなかったことに加え、ごみが不法投棄されているなどして治安は悪化する一方だった。遠回りすれば反対側に行けるため、必ずしもこの路地を通る必要はないのだが、義清は定期的にこの路地を通っては道端に捨てられているごみをごみ箱に分別していた。
今日も少しごみを拾っていこうか、今にも雨が降りそうだから今日はやめとこうか、などと考えながら路地の入口に立つと、珍しく数人の男たちがそこにたむろしていた。特に何かを話しているようでもなく、こちらに気づくとお互いに小声で話し始めた。
「なあ、そこの兄ちゃん。」
無視して間を通り抜けようとすると、男の一人がにやにやと笑いながら目の前に立ち塞がった。
「……誰だ?」
何だ、と聞かなかったのは、本能的に警戒をしたからかもしれない。
「そうだよな、お前は俺らを知らねぇよな。だが、俺らはお前のことを知っている。」
他の男も、義清に近づきながら話し始めた。
「少し前に、コンビニで後輩が世話になったから、そのお礼でもしようと思ってな。」
「コンビニ? ……ああ、あの万引きか。」
万引き犯の親分みたいな奴らだろうか、と義清は認識した。
「あの馬鹿、誰に言われてやったとか全部ゲロっちまったんだよ。そのせいで俺らも前のようには好き勝手出来ないもんで、ストレスたまってんだわ。」
「だからさ、少しでいいんだ。ほんの十分かそこら、俺らのサンドバッグになってくんねぇかな。」
なんと自分勝手な暴論だろう。こんなものがまかり通ると思ってしまっている人間が存在することに、彼は頭を抱えたくなった。
「あのなぁ、そんなこと承諾するわけないだろう。それに俺にも用事ってもんがあるんだ。早くどいてくれないか。」
一人の横を通り過ぎる。だが残りの一人が通すまいと立ち塞がった。振り返ると、二人も戻らせる気はないといった様子だった。
「完全に囲まれたな。」正和がやれやれといった風にぼやいた。
「どうやらそうらしいな。」
「どうする気だ?」
義清は天を仰いだ。ぽつり、またぽつりと雨が降り始めていた。
「多少強引にでも突破するしかないだろう。」
「おいおい、強引にって、殴りかかって道を開けさせるつもりか? その時点でお前はこいつらと同等の糞野郎になることになるぞ。もっとも、お前がこいつらに一切傷つけずに制圧できるっていうんなら話は別だがな。」
空を見上げたまま、しばらく考えた。ただ逃げるだけの万引き犯を捕まえるくらいならできるが、敵意のある人間を、しかも三人相手にするとなると、流石に無傷でどうこうするというのは非現実的に思えた。
「じゃあ、どうすればいい?」
「付き合ってやれよ、こいつらのストレス発散に。お前は誰も傷つけない、あいつらは満足する、最も平和的な解決方法だ。それに、たかだかあんな奴らに数十分殴られるくらい、お前にとってはどうってことないだろ?」
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「物分かりが良くて助かるぜ。せいぜい俺らが満足するまで気絶すんなよな。」
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