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第10節
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「義清君……?」
代わりに、自分の名前が呼ばれていた。
「佳穂、ちゃん……。」
「……ずっと立ったまま動かないから。どこか痛いの?」
痛い、その言葉を聞いた瞬間に、まるで今まで遮断されていた痛覚が、突然戻ったかのように体中に痛みが走った。そのあまりの強さに、彼は声も上げずにうずくまった。
「っ……!」
体が完全に地に伏す前に、佳穂がその肩を支えた。
「……! 大丈夫? やっぱりどこか……!」
ああ、そうかと義清は納得した。自らの意志で行動した結果の傷は、こんなにも痛むのか。これが、正和の言っていた責任を負うということなのか。だとすれば、この責任はあまりにも。
「痛い。うん、痛いな。」
佳穂の膝に頭を置きながら、やっとのことで呟いた。発した言葉を、また今の姿を佳穂はどんな思いで見聞きしているかと思うと情けなさで消えてしまいそうだった。
「ごめん。俺、佳穂ちゃんが思ってるほど強くなかったみたいだ。これじゃ——」
「大丈夫。大丈夫だよ。」
そう言って頬を撫でた佳穂の言葉は、義清の弱気な言葉とは対照的なまでに力強かった。
「私がそばにいるから。義清君が一人で抱えられない痛みなら、抱えきれない分は私に分けていいんだよ。」
そんなことは、と反論ができるような状態ではないことは、火を見るよりも明らかだった。事実、義清はこの申し出を、死を前にした病人のように横たわって聞いていた。
「本当に、いいの?」
精一杯の、絞り出したような言葉にも、反抗の意は一切込められていなかった。
「義清君が私のために選択して、行動してくれたというなら、せめてその責任くらいは一緒に背負わせて。」
義清は、もはや涙が流れるのを止めようとも思わなかった。ただ、今ある責任を自分一人で背負わなくてもいい、痛みも恐怖も、全てを受け止めなくてもいいという事実に安堵していた。義清は泣き続けた。体中にこびりついた悪意が跡形もなく流されるくらいに涙があふれた。
どれほど泣いただろうか。三度日が陰り、そして再び太陽が顔を出した時、彼の涙は乾いていた。彼は体を起こした。痛みはまだ燻っていたが、それが一層彼に生を実感させた。彼は立ち上がった。彼の堂々たる出で立ちは、誰の目にも疑う余地なく正義の執行者であった。
「ありがとう。そばにいてくれて。」
義清は佳穂に言った。今更こんなことを言うのは少し照れくさかった。
「こちらこそありがとう。私のために戦ってくれて。」
佳穂は義清に言った。それさえも、笑って受け入れてくれるようだった。
「さて。」と義清は辺りに転がった三人を見まわした。血と泥とごみが散乱した最悪の光景の中で、三人はぼろ雑巾のように散り散りになっていた。
「この人たちはどうするの?」
「警察に引き渡してもいいんだが……。俺としては、彼らはもう十分に罰を受けたと思っている。だから、ここに置いていこう。」
「そうだね。それがいいかも。」
もう一度、彼らを見た。彼らが、自分自身のためではなく、誰かのために力を振るえたなら、どんなに喜ばしいかと思った。いつかそんな日が来ることを祈りながら、義清は視線を外した。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「うん。」
そんな会話をしながら、二人は路地を抜けた。真夏の太陽に余すところなく照りつけられた世界は、ともすれば灼熱地獄そのものであるようにも感じた。それでも、義清の足は恐れることなく、力強く踏み出された。
「正和、俺は一人じゃないよ。」
「正和って?」
佳穂はきょとんとした顔をした。義清は明るく、そして誇らしげに言った。
「俺の心の友さ。今は遠くに行っちまったんだけど。そうだ、家に着くまでそいつの話をしてもいいかい? なんてったって俺よりも正義感が強いやつでさ……。」
代わりに、自分の名前が呼ばれていた。
「佳穂、ちゃん……。」
「……ずっと立ったまま動かないから。どこか痛いの?」
痛い、その言葉を聞いた瞬間に、まるで今まで遮断されていた痛覚が、突然戻ったかのように体中に痛みが走った。そのあまりの強さに、彼は声も上げずにうずくまった。
「っ……!」
体が完全に地に伏す前に、佳穂がその肩を支えた。
「……! 大丈夫? やっぱりどこか……!」
ああ、そうかと義清は納得した。自らの意志で行動した結果の傷は、こんなにも痛むのか。これが、正和の言っていた責任を負うということなのか。だとすれば、この責任はあまりにも。
「痛い。うん、痛いな。」
佳穂の膝に頭を置きながら、やっとのことで呟いた。発した言葉を、また今の姿を佳穂はどんな思いで見聞きしているかと思うと情けなさで消えてしまいそうだった。
「ごめん。俺、佳穂ちゃんが思ってるほど強くなかったみたいだ。これじゃ——」
「大丈夫。大丈夫だよ。」
そう言って頬を撫でた佳穂の言葉は、義清の弱気な言葉とは対照的なまでに力強かった。
「私がそばにいるから。義清君が一人で抱えられない痛みなら、抱えきれない分は私に分けていいんだよ。」
そんなことは、と反論ができるような状態ではないことは、火を見るよりも明らかだった。事実、義清はこの申し出を、死を前にした病人のように横たわって聞いていた。
「本当に、いいの?」
精一杯の、絞り出したような言葉にも、反抗の意は一切込められていなかった。
「義清君が私のために選択して、行動してくれたというなら、せめてその責任くらいは一緒に背負わせて。」
義清は、もはや涙が流れるのを止めようとも思わなかった。ただ、今ある責任を自分一人で背負わなくてもいい、痛みも恐怖も、全てを受け止めなくてもいいという事実に安堵していた。義清は泣き続けた。体中にこびりついた悪意が跡形もなく流されるくらいに涙があふれた。
どれほど泣いただろうか。三度日が陰り、そして再び太陽が顔を出した時、彼の涙は乾いていた。彼は体を起こした。痛みはまだ燻っていたが、それが一層彼に生を実感させた。彼は立ち上がった。彼の堂々たる出で立ちは、誰の目にも疑う余地なく正義の執行者であった。
「ありがとう。そばにいてくれて。」
義清は佳穂に言った。今更こんなことを言うのは少し照れくさかった。
「こちらこそありがとう。私のために戦ってくれて。」
佳穂は義清に言った。それさえも、笑って受け入れてくれるようだった。
「さて。」と義清は辺りに転がった三人を見まわした。血と泥とごみが散乱した最悪の光景の中で、三人はぼろ雑巾のように散り散りになっていた。
「この人たちはどうするの?」
「警察に引き渡してもいいんだが……。俺としては、彼らはもう十分に罰を受けたと思っている。だから、ここに置いていこう。」
「そうだね。それがいいかも。」
もう一度、彼らを見た。彼らが、自分自身のためではなく、誰かのために力を振るえたなら、どんなに喜ばしいかと思った。いつかそんな日が来ることを祈りながら、義清は視線を外した。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
「うん。」
そんな会話をしながら、二人は路地を抜けた。真夏の太陽に余すところなく照りつけられた世界は、ともすれば灼熱地獄そのものであるようにも感じた。それでも、義清の足は恐れることなく、力強く踏み出された。
「正和、俺は一人じゃないよ。」
「正和って?」
佳穂はきょとんとした顔をした。義清は明るく、そして誇らしげに言った。
「俺の心の友さ。今は遠くに行っちまったんだけど。そうだ、家に着くまでそいつの話をしてもいいかい? なんてったって俺よりも正義感が強いやつでさ……。」
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