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月の砂漠のかぐや姫 第44話
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大伴の話は、いよいよ終わりに近づいていました。
「いいか、羽磋。弱竹姫の力を利用して匈奴を打ち破った御門殿は、今どうなっている」
「御門殿は、我ら月の民を束ねる単于となっておられます。えっ、父上のおっしゃられるのは、まさか」
「ああ、御門殿が再び月の巫女の力を戦に利用されるという恐れもある。今は、匈奴といさかいがある訳ではなく、むしろ、匈奴から出された人質を受け入れているような状況だが、いつそれが変わるかはわからん。それに、俺が一番心配しているのは、あの時以来、御門殿が変わられた、ということだ」
大伴と違い、若いころの御門を知るわけでも現在の御門の人となりを知るわけでもない羽磋は、ただ黙って大伴の次の言葉を待っていました。
「烏達(うだ)渓谷での戦いの前から、御門殿は月の巫女について大変興味を持たれていたが、戦い以降はそれにさらに拍車がかかってな。お前が知っている通り、月の巫女と呼ばれる存在は、それこそ部族ごと村ごとに存在するが、その中で本当に力を持つ存在があるのかどうかを、秘かに調べているようなのだ。何を考えているのかはわからんが、烏達渓谷の勝利の陰に、月の巫女の力が働いていたことを知るのは、御門殿や阿部殿、そして俺や秋田など、わずかなものに限られる。単于としての、表立っての動きではないこともあるし、俺はその動きが気になって仕方がない」
「御門殿が何かを考えておられる、ということですか」
「ああ、そうだ」
大伴は、高台の縁へ羽磋を伴い、宿営地の方へ注意を向けさせました。
「さっき、至篤が狼煙をあげていたことをお前に話したな。そして、至篤は宿営地から男を見送っていた。あれはな、おそらく至篤が狼煙によって男を呼び寄せ、その男に御門殿に対しての報告を託したのだと、俺は思う」
「御門殿に対する報告など、至篤姫がするようなことなのでしょうか」
大伴は、意外そうな表情見せている羽磋に、淡々と告げました。
「ああ、至篤は讃岐村で月の巫女と呼ばれる竹姫について調べるように、御門殿の命を受けているのだろうからな」
「し、至篤姫がですか! そんな、なにか、竹が悪いことでもしましたか」
「いや、だから、それが御門殿が陰でなさっていることなのだ。つまり、月の巫女と呼ばれているものたちの力の確認だ。至篤にしても、別段悪いことをしているという意識などないだろう。月の巫女として正式に認めるかどうかの調査ぐらいにしか思っていないのかも知れない。もっとも、わざと駱駝を逃がして騒動を起こしたぐらいだ、もっと、詳細な指示があるのかも知れんがな」
羽磋は、突然自分が駱駝を逃がした話が出てきたことに驚きました。
「駱駝ですか、駱駝が逃げたのは、俺が結わえた紐が緩かったからではないのですか」
大伴は、再び高台の中央に戻りながら、羽磋に答えました。
「いや、お前がそのような間違いをしたとは、俺は考えてはいないよ。もちろん、失敗をすることは、誰にでもあることだがな。ただ、今回は、あまりにもできすぎているのだ。まず、昼間、水汲みをしている際に竹姫が精霊の声を聴いたという。そして、夕刻に駱駝がいなくなる。お前が世話をしている駱駝がいなくなれば、お前が探しに出るということは想像できるし、日頃からお前と一緒に行動している竹姫が行きたいと言い出すところまでは、前もって考えられるだろう。まあ、砂嵐やハブブに遭遇するところは流石に想定外だろうがな。だが、砂嵐が立つのを見て、お前たちのところへ向かった俺は見たよ、お前たちの姿を遠くから観察している至篤の姿をな。俺はその時に確信したのだ、ああ、これは御門殿の指示なのだろう、とな」
「そうなのですか‥‥‥」
羽磋は、バダインジャラン砂漠での出来事を思い返していました。逃げた駱駝を探して竹姫と二人で砂漠を歩き回ったこと。駱駝を見つけた後に二人で語らいあったこと。ハブブに襲われたこと、そして、竜巻に呑み込まれそうになったこと。それらを、二人の後を追った至篤が隠れて見ていたと、大伴が言うのです。羽磋の中で、至篤に対して悪い感情が芽生えることはありませんでしたが、自分が意識していなかった大きな動きの中に自分と竹姫が組み込まれている事を知らされ、頭が消化不良を起こしてしまいそうでした。
「さぁ、そこでだ。今、至篤から御門殿への使者が発った。どの程度の日数で御門殿にその話が届くのかはわからんが、いずれ何らかの動きがあるだろう」
大伴は、話を切り替えるように、はっきりとした口調で言いました。
「羽磋。改めて問うまでもないが、お前は竹姫が消えることを望まぬな」
「もちろんです、問われるまでもありません!」
「ならば、お前はこのまま阿部殿のところへ行け。お前を肸頓(きっとん)族へ出すことにする。御門殿がどのようなことを考えているかはわからん。だが、俺と阿部殿が共有する考えとは、明らかに違うはずだ。俺はな、羽磋」
大伴は、視線をあげて、昼間の空にうっすらと姿を見せている月を見やりました。
「弱竹姫と約束したのだ。もう一度月で会おう、と。もちろん、阿部殿もな」
「父上・・・・・・」
そして、大伴は、視線を下ろして羽磋の目を捕らえました。
「だから、俺、いや、俺たちは、竹姫を月に還す、そう決めたのだ」
「いいか、羽磋。弱竹姫の力を利用して匈奴を打ち破った御門殿は、今どうなっている」
「御門殿は、我ら月の民を束ねる単于となっておられます。えっ、父上のおっしゃられるのは、まさか」
「ああ、御門殿が再び月の巫女の力を戦に利用されるという恐れもある。今は、匈奴といさかいがある訳ではなく、むしろ、匈奴から出された人質を受け入れているような状況だが、いつそれが変わるかはわからん。それに、俺が一番心配しているのは、あの時以来、御門殿が変わられた、ということだ」
大伴と違い、若いころの御門を知るわけでも現在の御門の人となりを知るわけでもない羽磋は、ただ黙って大伴の次の言葉を待っていました。
「烏達(うだ)渓谷での戦いの前から、御門殿は月の巫女について大変興味を持たれていたが、戦い以降はそれにさらに拍車がかかってな。お前が知っている通り、月の巫女と呼ばれる存在は、それこそ部族ごと村ごとに存在するが、その中で本当に力を持つ存在があるのかどうかを、秘かに調べているようなのだ。何を考えているのかはわからんが、烏達渓谷の勝利の陰に、月の巫女の力が働いていたことを知るのは、御門殿や阿部殿、そして俺や秋田など、わずかなものに限られる。単于としての、表立っての動きではないこともあるし、俺はその動きが気になって仕方がない」
「御門殿が何かを考えておられる、ということですか」
「ああ、そうだ」
大伴は、高台の縁へ羽磋を伴い、宿営地の方へ注意を向けさせました。
「さっき、至篤が狼煙をあげていたことをお前に話したな。そして、至篤は宿営地から男を見送っていた。あれはな、おそらく至篤が狼煙によって男を呼び寄せ、その男に御門殿に対しての報告を託したのだと、俺は思う」
「御門殿に対する報告など、至篤姫がするようなことなのでしょうか」
大伴は、意外そうな表情見せている羽磋に、淡々と告げました。
「ああ、至篤は讃岐村で月の巫女と呼ばれる竹姫について調べるように、御門殿の命を受けているのだろうからな」
「し、至篤姫がですか! そんな、なにか、竹が悪いことでもしましたか」
「いや、だから、それが御門殿が陰でなさっていることなのだ。つまり、月の巫女と呼ばれているものたちの力の確認だ。至篤にしても、別段悪いことをしているという意識などないだろう。月の巫女として正式に認めるかどうかの調査ぐらいにしか思っていないのかも知れない。もっとも、わざと駱駝を逃がして騒動を起こしたぐらいだ、もっと、詳細な指示があるのかも知れんがな」
羽磋は、突然自分が駱駝を逃がした話が出てきたことに驚きました。
「駱駝ですか、駱駝が逃げたのは、俺が結わえた紐が緩かったからではないのですか」
大伴は、再び高台の中央に戻りながら、羽磋に答えました。
「いや、お前がそのような間違いをしたとは、俺は考えてはいないよ。もちろん、失敗をすることは、誰にでもあることだがな。ただ、今回は、あまりにもできすぎているのだ。まず、昼間、水汲みをしている際に竹姫が精霊の声を聴いたという。そして、夕刻に駱駝がいなくなる。お前が世話をしている駱駝がいなくなれば、お前が探しに出るということは想像できるし、日頃からお前と一緒に行動している竹姫が行きたいと言い出すところまでは、前もって考えられるだろう。まあ、砂嵐やハブブに遭遇するところは流石に想定外だろうがな。だが、砂嵐が立つのを見て、お前たちのところへ向かった俺は見たよ、お前たちの姿を遠くから観察している至篤の姿をな。俺はその時に確信したのだ、ああ、これは御門殿の指示なのだろう、とな」
「そうなのですか‥‥‥」
羽磋は、バダインジャラン砂漠での出来事を思い返していました。逃げた駱駝を探して竹姫と二人で砂漠を歩き回ったこと。駱駝を見つけた後に二人で語らいあったこと。ハブブに襲われたこと、そして、竜巻に呑み込まれそうになったこと。それらを、二人の後を追った至篤が隠れて見ていたと、大伴が言うのです。羽磋の中で、至篤に対して悪い感情が芽生えることはありませんでしたが、自分が意識していなかった大きな動きの中に自分と竹姫が組み込まれている事を知らされ、頭が消化不良を起こしてしまいそうでした。
「さぁ、そこでだ。今、至篤から御門殿への使者が発った。どの程度の日数で御門殿にその話が届くのかはわからんが、いずれ何らかの動きがあるだろう」
大伴は、話を切り替えるように、はっきりとした口調で言いました。
「羽磋。改めて問うまでもないが、お前は竹姫が消えることを望まぬな」
「もちろんです、問われるまでもありません!」
「ならば、お前はこのまま阿部殿のところへ行け。お前を肸頓(きっとん)族へ出すことにする。御門殿がどのようなことを考えているかはわからん。だが、俺と阿部殿が共有する考えとは、明らかに違うはずだ。俺はな、羽磋」
大伴は、視線をあげて、昼間の空にうっすらと姿を見せている月を見やりました。
「弱竹姫と約束したのだ。もう一度月で会おう、と。もちろん、阿部殿もな」
「父上・・・・・・」
そして、大伴は、視線を下ろして羽磋の目を捕らえました。
「だから、俺、いや、俺たちは、竹姫を月に還す、そう決めたのだ」
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