101 / 361
月の砂漠のかぐや姫 第100話
しおりを挟む
こうして改めて問われると、冒頓の言うこともよくわかるのでした。理亜の現状が続くという保証はどこにもありません。このことにヤルダンの精霊の力が関わっているのだとしたら、こうして理亜がヤルダンから離れていることが、それこそ、悪い方向に働くことだってあるのかも知れません。
でも、だからと言って、ヤルダンに乗り込んでいくことが、正しいということにもならないのではないでしょうか。それが、決定的な悪いことにつながってしまうことだって、あるのではないでしょうか。
いったいどうすればいいのでしょうか。何が良くて何が悪いのでしょうか。万が一、間違った選択をしてしまったら、自分はどうしたらいいのでしょうか。
「ただ、理亜を大事に考えてほしい。それだけなのに・・・・・・」
王柔には、もう何もわからなくなってしまいました。
もともと、この問題を解決するために自分たちがどうするのか、それは偉い大人たちが決めてくれると考えていた王柔は、それに伴う大事なことについても、考えてはいませんでした。
何かを成すときに、何かを決断をするときに、生じる責任について。
理亜のためにヤルダンに行くにしろ、あるいは、行かないにしろ、それを決めるということは、その結果に対しての責任が生じるということについて。
そして、「理亜のことを大事に考えてほしい」と他者にお願いをするだけで、自分の行動を決めない、自分たちの行動についての考えを持たないということは、自分の責任を他者にゆだねることだということについて。
王柔は言葉に詰まり、立ち尽くしてしまいました。
その彼の後ろには、理亜が自分の椅子から立ち上がって移動してきていましたが、冒頓たちはその姿から、理亜が王柔の陰に隠れるためというよりは、むしろ、理亜が彼を支えるために後ろに回ったという印象を受けるのでした。
小野や王花が考えていたよりも、ずいぶんと長い話し合いになってしまいました。
小部屋の扉の隙間からは、酒場で交易隊の者たちが上げる大きな声が絶えることなく聞こえてきていますが、小部屋に差し込んでくる太陽の光は、ずいぶんと少なくなり、陽が落ちる時間が差し迫っていることが察せられました。
正面から太陽の光を受ける位置にいた王柔でしたが、今はその光の変化に気付く余裕はありませんでした。
でも、時間は確実に進み、まもなく陽が落ち、そして、理亜は消えてしまうのでしょう。
では、理亜は、その消えてしまう当事者は、自分の身体のことについてどのように思っているのでしょうか。先ほどから、何度も話の中で自分のことが語られていることについて、何を感じているのでしょうか。
実のところ、大人たちが考えているような得体の知れない恐怖、明日再びこの世界に現れることができるかどうかの心配などは、彼女は感じてはいませんでした。
理亜はまだ、十歳になるかならないかの少女です。自分の身体に起きた、他人の身体に触れられないという大きな変化に比べれば、日没とともに消えてしまい日が昇るとともに現れるという現象は、もちろん大きな事柄ではあるものの、ある意味、日没とともに強制的に眠りに落ちるようになった、という程度にしか受け取っていませんでした。まだ、消滅という難しい概念を理解して心配するほどには、理亜が成長していないとも言えますが、夜に眠りにつくときに、次の朝に目が覚めるかどうかを心配する子供が、いったいどれだけいるでしょうか。意識がない時の心配の方にではなくて、意識がある時の心配の方に注意が向くのは、この年代の子供としては、普通のことと言えるのでした。
また、吐露村からさらに異国へ伸びる交易路の西の果てから、彼女は連れて来られました。片言ではあるものの月の民の言葉も話し、簡単な話であれば聞き取ることはできるのですが、先程から自分の周りを飛び交っている難しい話には、理亜は全くついていけていないのでした。ですから、冒頓のような男に鋭い目で睨まれれば、自分を守ってくれる存在で、兄のように思っている王柔の後ろに隠れてしまいますが、自分をヤルダンに連れて行くかどうかについての難しい言い合いから、彼女が傷つけられることもなければ、心配を引き起こされることもないのでした。
ですから、彼女がいま王柔の後ろに回っているのは、自分のことについていろいろと話がされていて不安になったというわけではなくて、立ち上がって話をしていた王柔が冒頓に気圧されて困っているようなので、なんとかその力になりたいという思いからだったのです。それは「兄の味方をしたい」という、理亜の優しい気持ちの表れだったのでした。
「アッ・・・・・・」
その理亜の口から、小さな声が漏れました。
耐えがたい眠気が、急に彼女を襲ってきたのでした。それは、あのヤルダンでの一件があってから、毎日繰り返し感じている眠気でした。
この眠気が来ると直ぐに、理亜はどんな場所にいたとしても眠りに落ちてしまい、次の朝まで目覚めることは無いのです。もちろん、これは理亜がそう感じているというだけで、実際には、彼女は空気の中に溶けてしまうかのように消えてしまい、次の朝に再びその場所に現れるのですが。
でも、だからと言って、ヤルダンに乗り込んでいくことが、正しいということにもならないのではないでしょうか。それが、決定的な悪いことにつながってしまうことだって、あるのではないでしょうか。
いったいどうすればいいのでしょうか。何が良くて何が悪いのでしょうか。万が一、間違った選択をしてしまったら、自分はどうしたらいいのでしょうか。
「ただ、理亜を大事に考えてほしい。それだけなのに・・・・・・」
王柔には、もう何もわからなくなってしまいました。
もともと、この問題を解決するために自分たちがどうするのか、それは偉い大人たちが決めてくれると考えていた王柔は、それに伴う大事なことについても、考えてはいませんでした。
何かを成すときに、何かを決断をするときに、生じる責任について。
理亜のためにヤルダンに行くにしろ、あるいは、行かないにしろ、それを決めるということは、その結果に対しての責任が生じるということについて。
そして、「理亜のことを大事に考えてほしい」と他者にお願いをするだけで、自分の行動を決めない、自分たちの行動についての考えを持たないということは、自分の責任を他者にゆだねることだということについて。
王柔は言葉に詰まり、立ち尽くしてしまいました。
その彼の後ろには、理亜が自分の椅子から立ち上がって移動してきていましたが、冒頓たちはその姿から、理亜が王柔の陰に隠れるためというよりは、むしろ、理亜が彼を支えるために後ろに回ったという印象を受けるのでした。
小野や王花が考えていたよりも、ずいぶんと長い話し合いになってしまいました。
小部屋の扉の隙間からは、酒場で交易隊の者たちが上げる大きな声が絶えることなく聞こえてきていますが、小部屋に差し込んでくる太陽の光は、ずいぶんと少なくなり、陽が落ちる時間が差し迫っていることが察せられました。
正面から太陽の光を受ける位置にいた王柔でしたが、今はその光の変化に気付く余裕はありませんでした。
でも、時間は確実に進み、まもなく陽が落ち、そして、理亜は消えてしまうのでしょう。
では、理亜は、その消えてしまう当事者は、自分の身体のことについてどのように思っているのでしょうか。先ほどから、何度も話の中で自分のことが語られていることについて、何を感じているのでしょうか。
実のところ、大人たちが考えているような得体の知れない恐怖、明日再びこの世界に現れることができるかどうかの心配などは、彼女は感じてはいませんでした。
理亜はまだ、十歳になるかならないかの少女です。自分の身体に起きた、他人の身体に触れられないという大きな変化に比べれば、日没とともに消えてしまい日が昇るとともに現れるという現象は、もちろん大きな事柄ではあるものの、ある意味、日没とともに強制的に眠りに落ちるようになった、という程度にしか受け取っていませんでした。まだ、消滅という難しい概念を理解して心配するほどには、理亜が成長していないとも言えますが、夜に眠りにつくときに、次の朝に目が覚めるかどうかを心配する子供が、いったいどれだけいるでしょうか。意識がない時の心配の方にではなくて、意識がある時の心配の方に注意が向くのは、この年代の子供としては、普通のことと言えるのでした。
また、吐露村からさらに異国へ伸びる交易路の西の果てから、彼女は連れて来られました。片言ではあるものの月の民の言葉も話し、簡単な話であれば聞き取ることはできるのですが、先程から自分の周りを飛び交っている難しい話には、理亜は全くついていけていないのでした。ですから、冒頓のような男に鋭い目で睨まれれば、自分を守ってくれる存在で、兄のように思っている王柔の後ろに隠れてしまいますが、自分をヤルダンに連れて行くかどうかについての難しい言い合いから、彼女が傷つけられることもなければ、心配を引き起こされることもないのでした。
ですから、彼女がいま王柔の後ろに回っているのは、自分のことについていろいろと話がされていて不安になったというわけではなくて、立ち上がって話をしていた王柔が冒頓に気圧されて困っているようなので、なんとかその力になりたいという思いからだったのです。それは「兄の味方をしたい」という、理亜の優しい気持ちの表れだったのでした。
「アッ・・・・・・」
その理亜の口から、小さな声が漏れました。
耐えがたい眠気が、急に彼女を襲ってきたのでした。それは、あのヤルダンでの一件があってから、毎日繰り返し感じている眠気でした。
この眠気が来ると直ぐに、理亜はどんな場所にいたとしても眠りに落ちてしまい、次の朝まで目覚めることは無いのです。もちろん、これは理亜がそう感じているというだけで、実際には、彼女は空気の中に溶けてしまうかのように消えてしまい、次の朝に再びその場所に現れるのですが。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
最前線
TF
ファンタジー
人類の存亡を尊厳を守るために、各国から精鋭が集いし
最前線の街で繰り広げられる、ヒューマンドラマ
この街が陥落した時、世界は混沌と混乱の時代に突入するのだが、
それを理解しているのは、現場に居る人達だけである。
使命に燃えた一癖も二癖もある、人物達の人生を描いた物語。
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる