月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第100話

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 こうして改めて問われると、冒頓の言うこともよくわかるのでした。理亜の現状が続くという保証はどこにもありません。このことにヤルダンの精霊の力が関わっているのだとしたら、こうして理亜がヤルダンから離れていることが、それこそ、悪い方向に働くことだってあるのかも知れません。
 でも、だからと言って、ヤルダンに乗り込んでいくことが、正しいということにもならないのではないでしょうか。それが、決定的な悪いことにつながってしまうことだって、あるのではないでしょうか。
 いったいどうすればいいのでしょうか。何が良くて何が悪いのでしょうか。万が一、間違った選択をしてしまったら、自分はどうしたらいいのでしょうか。
「ただ、理亜を大事に考えてほしい。それだけなのに・・・・・・」
 王柔には、もう何もわからなくなってしまいました。
 もともと、この問題を解決するために自分たちがどうするのか、それは偉い大人たちが決めてくれると考えていた王柔は、それに伴う大事なことについても、考えてはいませんでした。
 何かを成すときに、何かを決断をするときに、生じる責任について。
 理亜のためにヤルダンに行くにしろ、あるいは、行かないにしろ、それを決めるということは、その結果に対しての責任が生じるということについて。
 そして、「理亜のことを大事に考えてほしい」と他者にお願いをするだけで、自分の行動を決めない、自分たちの行動についての考えを持たないということは、自分の責任を他者にゆだねることだということについて。


 王柔は言葉に詰まり、立ち尽くしてしまいました。
 その彼の後ろには、理亜が自分の椅子から立ち上がって移動してきていましたが、冒頓たちはその姿から、理亜が王柔の陰に隠れるためというよりは、むしろ、理亜が彼を支えるために後ろに回ったという印象を受けるのでした。
 小野や王花が考えていたよりも、ずいぶんと長い話し合いになってしまいました。
 小部屋の扉の隙間からは、酒場で交易隊の者たちが上げる大きな声が絶えることなく聞こえてきていますが、小部屋に差し込んでくる太陽の光は、ずいぶんと少なくなり、陽が落ちる時間が差し迫っていることが察せられました。
 正面から太陽の光を受ける位置にいた王柔でしたが、今はその光の変化に気付く余裕はありませんでした。
 でも、時間は確実に進み、まもなく陽が落ち、そして、理亜は消えてしまうのでしょう。
 では、理亜は、その消えてしまう当事者は、自分の身体のことについてどのように思っているのでしょうか。先ほどから、何度も話の中で自分のことが語られていることについて、何を感じているのでしょうか。
 実のところ、大人たちが考えているような得体の知れない恐怖、明日再びこの世界に現れることができるかどうかの心配などは、彼女は感じてはいませんでした。
 理亜はまだ、十歳になるかならないかの少女です。自分の身体に起きた、他人の身体に触れられないという大きな変化に比べれば、日没とともに消えてしまい日が昇るとともに現れるという現象は、もちろん大きな事柄ではあるものの、ある意味、日没とともに強制的に眠りに落ちるようになった、という程度にしか受け取っていませんでした。まだ、消滅という難しい概念を理解して心配するほどには、理亜が成長していないとも言えますが、夜に眠りにつくときに、次の朝に目が覚めるかどうかを心配する子供が、いったいどれだけいるでしょうか。意識がない時の心配の方にではなくて、意識がある時の心配の方に注意が向くのは、この年代の子供としては、普通のことと言えるのでした。
 また、吐露村からさらに異国へ伸びる交易路の西の果てから、彼女は連れて来られました。片言ではあるものの月の民の言葉も話し、簡単な話であれば聞き取ることはできるのですが、先程から自分の周りを飛び交っている難しい話には、理亜は全くついていけていないのでした。ですから、冒頓のような男に鋭い目で睨まれれば、自分を守ってくれる存在で、兄のように思っている王柔の後ろに隠れてしまいますが、自分をヤルダンに連れて行くかどうかについての難しい言い合いから、彼女が傷つけられることもなければ、心配を引き起こされることもないのでした。
 ですから、彼女がいま王柔の後ろに回っているのは、自分のことについていろいろと話がされていて不安になったというわけではなくて、立ち上がって話をしていた王柔が冒頓に気圧されて困っているようなので、なんとかその力になりたいという思いからだったのです。それは「兄の味方をしたい」という、理亜の優しい気持ちの表れだったのでした。
「アッ・・・・・・」
 その理亜の口から、小さな声が漏れました。
 耐えがたい眠気が、急に彼女を襲ってきたのでした。それは、あのヤルダンでの一件があってから、毎日繰り返し感じている眠気でした。
 この眠気が来ると直ぐに、理亜はどんな場所にいたとしても眠りに落ちてしまい、次の朝まで目覚めることは無いのです。もちろん、これは理亜がそう感じているというだけで、実際には、彼女は空気の中に溶けてしまうかのように消えてしまい、次の朝に再びその場所に現れるのですが。
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