月の砂漠のかぐや姫

くにん

文字の大きさ
104 / 361

月の砂漠のかぐや姫 第103話

しおりを挟む
 翌日の朝を、羽磋は天幕の中で迎えました。その天幕は、小野の交易隊員が、土光村の周囲に設営したものでした。
 羽磋は、護衛隊の者に混じって、自分たちが騎乗する馬の世話や交易隊が連れている駱駝たちの世話を行った後で、乳酒や乳茶、それに、クルトと呼ばれる硬いチーズの朝食を取りました。
 月の民の者は、家畜から得られる恵みと共に、季節を過ごします。
 つまり、草が茂り羊が良く乳を出す、春から初秋にかけては、乳茶や乳酒などの乳製品が主食となります。また、冬を迎えて羊が乳を出さなくなると、繁殖に用いる以外の雄羊や乳を出さなくなった雌羊などを選んで解体し、これが主要な食料となるのです。
 もちろん、発酵酒である乳酒や、乳から水分を除いた乾燥チーズであるクルト、それに干し肉などは、一年を通じて大切に保存されて、命を繋ぐ貴重な栄養源として食されるのでした。
 羽磋の出身部族である貴霜族は、祁連山脈からの水源を利用できる讃岐村という根拠地を持っているため、この国の中では珍しく、小麦等の穀物を生産していました。
 しかし、その畑から得られる恵みの量は、遊牧から得られる恵みと比較すればすれば、わずかな量に過ぎないのです。そのため、穀物を練ったものから作る饅頭や麺などの食べ物は、例外的に讃岐村で食されるのを除けば、月の民の中では、祭りや神事などの「ハレの日」に食するもの、という位置づけがされているのでした。
 土光村の中では、各地から集まる交易隊が持ち込んだ、通常の遊牧生活ではあまり目にすることのない作物や食べ物が、市場に並ベられていました。でも、このように、村の周囲に駐屯している交易隊員自身が日常的に口にするものといえば、いつも代わり映えのしないものなのでした。
 だからこそ、祭りの時や、昨日の打ち上げのような時には、遊牧民族の男たちは、思う存分飲んだり食べたり、また、歌ったり踊ったりして、心ゆくまで生を楽しむのでした。



「羽磋殿ぉ。おはようごいますぅ。体調はどうっすか。俺、頭が痛いんすよね・・・・・・」
 羽磋に声をかけてきたのは、苑でした。しかめ面をしながら、片手を頭に当てています。
「ああ、そうだ、たしか、苑は初めて酒場に連れて行ってもらったんだったな」
 打ち上げの始めのうちは、羽磋も苑と共に、強い蒸留酒であるアルヒを口にしていました。たしか、その段階ですでに苑はかなり酔っていて・・・・・・、そうそう、彼から、空風に送る合図を叩き込まれたのでした。
 その後で羽磋は酒場の奥の小部屋に呼ばれたので、酒席からは外れることになってしまったのですが、そこに残された苑は、他の先輩に勧められるまま杯を重ねたのでしょう、今ではすっかり二日酔いとなってしまっているようでした。
「よお、小苑、調子はどうだ」
「あ、昨日はごちそうさんでしたぁ。今日は、なんだか頭が痛くて、ふらふらするんすよ」
 他の天幕から出てきた護衛隊の先輩が、苑に声をかけました。二日酔いで参っている様子の苑を見て、ニヤニヤとしています。
「なんだ、情けねぇなぁ。しょうがねぇ、いい方法を教えてやるよ。あのな、そういう時は、もう二、三杯アルヒをな・・・・・・」
「だ、駄目です、駄目ですよっ。長引くだけですよ、辛いのが」
「なんだ、羽磋殿か。いやいや、冗談ですよ、冗談。ははは、小苑、水でも飲んで大人しくしとくんだなっ」
 根拠地に駐屯している安心感がそうさせるのか、先輩が軽口を叩きました。
 それにも、思わず訂正の横やりを入れてしまうところが、羽磋の真面目なところなのかもしれません。
 でも、軽口を飛ばした先輩は、羽磋が訂正を入れるところまでを見通していたようでした。気を悪くした様子もなく、小苑に水を飲んで休んでいるようにと声をかけると、彼は自分の仕事を片付けるために歩き去りました。
「うう、羽磋殿・・・・・・、俺はもう駄目っす。地面がぐらぐらするっす。気分が悪いっす・・・・・・」
「しっかりしろ、小苑。それは二日酔いと言って、要は酒の飲みすぎなんだよ。お前も、聞いたことはあるだろう? さっきの人が話していたように、水を飲んで大人しく休んでいたら、そのうちに治まってくるから」
「これが、二日酔いっすか。ものすごく吐き気もするし、辛いっす」
「ああ、幸い、今は駐屯中だろ。そんなに仕事は無いはずじゃないか。大人しくしておけよ」
 生まれて初めての二日酔いにすっかり弱っている苑を、慣れないながらもなんとか介抱する羽磋でした。
 その二人を含めた交易隊の全体に伝わるように張り上げられた大きな声が、駐屯地の中央から上がりました。それは、小野の声でした。
「みなさん、昨日はご苦労様でした。朝からさっそくの連絡で申し訳ありません。我が交易隊はしばらくこの村に留まり、他の交易隊との荷の交換などを行います。ですが、これまで我が隊と同行されていた留学の徒である羽磋殿は、先を急ぎ、明日吐露村へ立たれることになりました。護衛隊の諸君は、羽磋殿に同行して護衛をお願いいたします。また交易隊の諸君も、羽磋殿と護衛隊のための糧食などを整えてください。詳しいことは後にご説明しますので、銅鑼が鳴ったら、責任者はわたしのところに集まってください」
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最前線

TF
ファンタジー
人類の存亡を尊厳を守るために、各国から精鋭が集いし 最前線の街で繰り広げられる、ヒューマンドラマ この街が陥落した時、世界は混沌と混乱の時代に突入するのだが、 それを理解しているのは、現場に居る人達だけである。 使命に燃えた一癖も二癖もある、人物達の人生を描いた物語。

処理中です...