月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第219話

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 羽磋達たちは、大空間が回廊のように細くなっている場所に入っていきました。回廊に入ってすぐのところにはザワザワと音を立てながら水を飲み込んでいる一つ目の洞窟の入り口がありましたが、彼らはその前で立ち止まることはありませんでした。さらに回廊の奥へと進んでいくと、それが行き止まりとなっている箇所の岩壁に大きな口を開いている洞窟が見えてきました。二つ目の洞窟でした。こちらの洞窟にも一つ目の洞窟と同じく、大空間に溜まっている水が川の様になって流れ込んでいました。
 羽磋は流れの脇に立つと、改めて王柔の顔と理亜の顔を見ました。王柔は不安げな顔をしてはいましたが、羽磋に頷いて見せました。理亜はと言えば、これから狭い洞窟という知らない場所に入っていくというのに、それを怖がる様子は全く見せていませんでした。
 羽磋はもうこの中へ入ることは決めています。王柔もそれには納得しているようです。それでも、未踏の地へ入っていく不安が、自然と心の中に湧いてくるのはどうしようもありません。羽磋にできることは、それが大きくなる前に素早く中に入ること、それだけでした。
「さあ、行きましょう」
 羽磋は意識して何気ないことの様に王柔に話しかけると、駱駝の手綱を引きながら洞窟の中へと足を踏み入れていきました。大空間の中を歩いた時と同じように、その後には理亜が続き、王柔が周りをきょろきょろと確認しながら最後を歩いていました。
 地下の大空間から狭い洞窟の中に入っていったとは言え、急に真っ暗になったということはありませんでした。それは、洞窟の内部も大空間の内部と同じように水面から放たれる青い輝きに照らされていたからでした。
 大空間と比べると洞窟はとても狭いということになりますが、それでもかなりの幅がありました。ただし、足元には大空間から流れ込んでいる川がありますから、人が歩ける地面はそれほど広くはありませんでした。先頭を歩く羽磋が駱駝を引きながら歩くことはできましたが、彼ら全員が横一列になって歩くことはできませんでした。
 ザザン、サワサワワ・・・・・・。
 大空間の中では水の動きはほとんど感じられなかったのですが、洞窟の中では流れが立てる水音が絶え間なく続いていました。また、先ほどまでよりも水の近くで行動しているからか、この狭い空間に水しぶきが充満しているからか、大空間の中ではあまり感じなかった涼しさが、彼らの肌を刺激するようになっていました。
 洞窟の高さは大人が三人以上重なってようやく天井に手が届くかと思われるほどでしたから、背の高い王柔と言えども頭の高さを気にする必要はありません。でも、天井の岩壁までは見上げるほどの高さがあった大空間から入ってきたせいでしょうか、それとも、心理的なものでしょうか、王柔は強い圧迫感を感じて、背中を丸めて歩かずにはいられませんでした。
 緊張するという意味では、先頭を歩いている羽磋も同じでした。
 何しろ、昔話にも聞いたことのないような地中の大空間から脱出するために、不思議な青い輝きを頼りに、先頭に立って未踏の洞窟を歩いているのです。もちろん、こんな時にどうすれば良いかなど、長老からも父からも教えられたことなどないのです。
羽磋が緊張しないでいられるはずは、ありませんでした。
「世界には、俺達が知らないことがたくさんあるな、輝夜」
 羽磋のこのつぶやきは彼が意図したものではなく、ヤルダンの動く砂岩の像や地下の大空間という、以前の彼であれば想像もできなかったものに出会った驚きが、無意識のうちに形となって零れ落ちたものでした。


 羽磋たちは、時折り休憩をはさみながらも、着実に洞窟の中を歩き続けていました。大空間の中と同じく、この洞窟の中でもどれくらい時間が経過したかははっきりとわからないのですが、おおよそ半日は歩き続けたような感覚がありました。
 羽磋たちにとってまず幸運だったのは、その洞窟がすぐに行き止まりになったりせずに、自分たちが歩くことができる地面と共に長く続いていたということでした。それに加えて、その洞窟内部の地面には、大きく陥没していたり隆起していたりする場所がありませんでした。また、洞窟全体が左右に曲がりくねったりなだらかに上下したりする場所はあったのですが、まるで大きな蛇の巣を歩いているかのように、一定以上の細さに狭まることもありませんでした。そのため、大切な財産である駱駝を引きながら、羽磋たちは洞窟の奥へ奥へと歩いていくことができたのでした。
「羽磋殿、一体どれだけ歩けばいいんでしょうか」
 王柔が後ろから羽磋に声を掛けてきました。
 もちろん、王柔にしても、羽磋がその答えを持っているとは思っていません。半日も歩き続けてきて、王柔もようやくこの洞窟の中を進んでいくことへの緊張が薄れてきたのでした。そうすると今度は、黙々と足を動かし続けていると空気が張り詰めてくるような気がしてきて、何でもいいから話をしたくなってきたのでした。

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