月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第224話

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「どうされました、王柔殿」
 王柔の声の調子が急に様子が変わったのに驚いた羽磋は、しっかりと体を起こして彼の方を見ました。王柔は川辺で駱駝と理亜とを集めて、何かをしているようです。
「王柔殿、何をなされているんですか。何かを探しているとか?」
「い、いえ、羽磋殿・・・・・・」
 王柔は弱々しい声で答えました。今では彼は自分が何をしてしまったがわかっていて、それが何か悪いことを引き起こしはしないかと不安になってきていたのでした。
「あの、駱駝に水を飲ませているんです」
「ああ、そうですか。ありがとうございます、世話をしていただいて・・・・・・」
 羽磋はまだ少し頭が働かない状態で、うまく状況を整理できませんでした。でも、王柔の話す内容が自分の心の中の何かに引っかかるような気がしました。それに、自分の耳に入ってきた王柔の声も、何かを心配しているようなとても心細いものに感じられました。
 何だろう、何だろう。水。駱駝。水。飲む・・・・・・。光・・・・・・。
 次の瞬間、羽磋の中で全てが繋がりました。
「ええっ。王柔殿。駱駝に川の水を飲ませたのですかっ。この川の水は、あの広い空間の水よりも青い光を放っている、つまり、精霊の力を強く含んでいるということなのにっ」
 そうです。羽磋はあの広い空間にいるときでさえ、「青い光を放つ水には精霊の力が働いているから飲みたくない」と考えていました。この洞窟を流れている川の水は、その大空間に池のように溜まっていた水よりも青い光を強く放っていますから、精霊の力を強く含んでいると考えられます。それなのに、王柔はその水を駱駝に飲ませたと言っているのです。
 驚きのあまり、羽磋は自分の調子が悪かったことも、ここが狭い洞窟の中であることも忘れて、大声を上げながら勢い良く立ち上がったのでした。
 羽磋の上げた大声に驚いたのか、一心不乱に水を飲んでいた駱駝は頭を上げて羽磋の方に振り向きました。駱駝の口の周りは水に濡れてビショビショで、顎下から伸びた髭の先からは、水滴がぽつぽつと地面に垂れ続けていました。
「大丈夫か、何か変わった様子はないか」と見つめる羽磋の目と駱駝の目が合いました。交易路から落下した後は、駱駝には水もエサも与えられていませんでした。それでも駱駝は乾きと飢えに強いので大丈夫だという羽磋の考えのとおり、駱駝は胃の中のものを反芻してのんびりとしているように見えていたのですが、やはり水を与えられて喉の渇きを癒せれば嬉しいのでしょう。風と砂から目を守るために長く伸びたまつ毛の下で、駱駝の目はとても満足そうに光っていました。
 その様子を見て、羽磋はホッと息を吐きました。
 精霊の力が働いているこの青く輝く水を飲むと、何かとんでもないことが起きるのではないかと心配していたのですが、どうやら何ごとも起こらずに済みそうです。
「羽磋殿、すみません。お疲れのようだったので・・・・・・」
 駱駝の横で手綱を握っている王柔が羽磋に謝りました。彼もこの青く輝く水には精霊の力が働いていると羽磋と話をしていたのを思い出していたので、それを駱駝に飲ましてしまったことが間違いだったかと心配になっているのでした。ただ、王柔自身は精霊の力の働きについてあまりは心配しておらず、むしろ彼が心配しているのはそれで羽磋が機嫌を損ねはしないかと言うことでした。
「いえ、こちらこそすみません。急に立ち上がって大声を出したりして。ちょっと心配をしていたことだったので、びっくりしてしまったんです。精霊の力ということで気にしすぎていたのかもし・・・・・・」
 グウェエッ!
 頭を掻きながら王柔に対して説明をする羽磋の言葉が、奇妙な鳴き声で遮られました。
「えっ、今の声は」
 グヴェッ、グッ! グブゥ!
 羽磋の言葉が再び鳴き声で遮られました。それは先ほどの声よりも、もっと高くもっと大きくなっていました。
 グッ! ギュベェッ! グ、グッ! ウェウェッ! グッ! ブェッ!
 その奇妙な大声は、呆然としながら羽磋が見つめる先、驚きのあまり固まってしまった王柔のすぐ横で上がっていました。それは、興奮したかのように大きく首を上下させながら、駱駝が上げているものでした。
「おいっ、どうしたっ。大人しくしろよっ」
 引き綱を握っている王柔はなんとかして駱駝を大人しくさせようとしますが、興奮が鎮まる様子は全くありません。駱駝の近くにいた理亜は、羽磋の方に走って逃げました。羽磋は王柔に手を貸そうとしましたが、あまりに駱駝が激しく動くので近くに寄ることができませんでした。駱駝は急にどうしてしまったのでしょうか。つい先ほどは、心ゆくまで水を飲むことができて、満足そうにしていたというのに。
 とうとう、駱駝は洞窟の奥へと走り出そうとしました。もちろん、大事な駱駝が逃げ出そうとするのを王柔は全力で止めようとします。でも、駱駝の走り出す力が強過ぎて、王柔は手綱を持ち続けることができませんでした。
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