月の砂漠のかぐや姫

くにん

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月の砂漠のかぐや姫 第352話 

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 帰路の当初、冒頓たちは馬を引きながら歩いていました。でも、奇岩たちと戦った広場からかなり離れたこと、頻発していた地震が静まったように思えたことから、冒頓は隊員たちに馬に乗って戻ると指示を出しました。もちろん、その方が残してきた仲間の所へ早く戻れるからでした。
 部下の中には奇岩たちとの戦いで深手を負った者もおりましたが、それぞれの傷の状態に応じて、元気な者の背部に綱で括りつけたり、その逆に抱きかかえてもらうようにしたりすることで、全員が馬に乗って移動できるようにしました。その結果、乗り手がいない馬が数頭出てきたので、羽磋は独りで、王柔は理亜と一緒に騎乗することとなりました。
 怪我人を抱えながら鞍の上に座る者もいるのですから、馬を早く走らせるわけにはいきません。それでも、人が馬の轡と取りながら歩くよりも、よっぽど早く進むことができます。
 冒頓たちは、その日の夜が訪れる前には、交易隊や護衛隊が待機しているヤルダンの入り口近くにまで、戻ることができたのでした。
 そこに残されていた男たちは、羽磋と共に吐露村まで行く予定の交易隊の者や、崖際の細道で奇岩たちに襲われたときに傷を負った護衛隊の男たち、それに、馬を持たない徒歩の護衛隊員でした。
 騎乗の護衛隊だけでヤルダンの中心へ乗り込むと冒頓が決めたことから、彼らはここで騎馬隊の帰りを待つことになったのですが、彼らもただ漫然と冒頓たちを待っていたわけではありませんでした。護衛隊と交易隊の中から動ける者を集めて、交代で周囲を見張るように取り決めていました。また、怪我をしている者や大事な荷は中央に集めて、万が一にでも盗賊から襲われたとしても、それらを守ることができるように気を配っていました。
 ヤルダンの近くに戻って来た冒頓たちの姿に最初に気が付いたのは、その見張りの一人でした。
「あ、あそこに何かが見えるっ。あれは・・・・・・、おお、隊長殿だ! 隊長が戻ってこられたんだ。おーい、みんなあっ、隊長殿が戻られたぞ!」
 その男の声を聞いた交易隊員や護衛隊員たちは、一斉に喜びの声を上げました。
「隊長殿が戻られた!」
「ああ、良かった! きっと、『母を待つ少女の奇岩』の討伐が終わったんだっ」
「酷い怪我をしてる奴もいるからな。これで村に帰れると思うと、有難いよ」
 さらに、その声に別の声も加わりました。冒頓たちが近づいて来るにつれて、彼の後ろに従っている者たちの姿もわかるようになったからでsた。
「あ、あれは、羽磋殿じゃねぇか?」
「ええっ! 羽磋殿はあのときに川に転落したんだぞ。その後は、ヤルダンの地下に向かって流されていったはずだが・・・・・。おお、本当じゃねぇか! 羽磋殿だ! 流石、隊長殿だ。羽磋殿も助け出してきたんだ!」
「あっちには、王柔に理亜もいるぞ。おーい、おーいっ」
 これまでの長い時間を、またどこからか奇岩たちに襲われるのでないかと、緊張を緩めることができない状態で過ごしてきたからでしょうか。残されていた隊員たちは、みんな嬉しさと安堵を顔にはっきりと浮かべながら、両手を振り、あるいは、大声をあげて、冒頓たちに呼び掛けるのでした。
 守るべき荷や自分たちの怪我がなければ、こちらから走り出して迎えに行きたいというような熱気で、待機地は一杯になりました。そうです、それはまるで、新年のお祭りか収穫のお祭りが急にここで始まったかのような大騒ぎだったのでした。
 その大騒ぎの最高調は、冒頓たちが待機地に足を踏み入れた時に訪れました。
「オオオッ!」という歓声がドオンッと上がり、周囲の岩壁をブルブルと震わせました。隊員たちの間から、「やっと、終わった」という気持ちが、一気に放出されたのでした。
 それでも、そこはやはり冒頓が鍛え上げた護衛隊の面々です。冒頓が問いかけるよりも早く、ここで待機する間の指揮を任されていた小隊長たちが彼の前に駆けつけ、冒頓が不在の間は奇岩に襲われるなどの戦闘は無かったこと、怪我をしていた交易隊員や駱駝などの応急処置は済み、村へ戻さなければならない者と先へ進める者との選別ができていること、それに崖際の細い道の上に散らばっていた荷をできるだけ回収し整理して置いたことなどを、口早に報告するのでした。
 報告を聞いた冒頓は、「やっぱりお前たちは頼りになるぜ」と彼らを労った後で、空を見上げました。可能な限り急いで戻っては来たものの、もはや太陽は地平線の下方に身を隠しつつあり、空の色は夕方の朱と夜の濃紺が混じり合っている状態でした。
 奇岩たちに襲われる心配は無くなりましたが、夜のヤルダンやゴビは、サバクオオカミを始めとする危険な獣が狩りをする時間帯です。もちろん、危険をもたらすのは、獣だけではありません。狡猾な野盗に荷を狙われる危険は、やはり夜の方が高くなります。それに、報告を聞いたところでは、夜を徹して馬を走らせて村に戻り、すぐにでも医者の治療を受けさせなければならないほどの重傷者はおりません。
「小苑、だいぶん暗くなっちまってるが、空風は飛べるか?」
 冒頓は離れたところにいた苑に、大声で呼び掛けました。
「まだ真っ暗になっていないんで、大丈夫っす、冒頓殿」
「よし、じゃあ空風を飛ばして、ここいらに隠れている者がいないか確認をしてくれ。それからみんな、今日はここで野営だ。隊と荷を見直して明日の朝には動くぞ。だが、まぁ・・・・・・」
 冒頓は、ここで一度息を吞むと、さらに大きな声を出しました。
「騎馬隊の者も待機していた者もご苦労だった。明日に備えて今日の夜はゆっくり身体を休めろ。話の種は尽きねえだろうがな、馬乳酒を飲むのもほどほどにしとけよっ」
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