転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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プロローグ

死霊0日目

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・おそらくこれは異世界転移
 そこは真っ白でどこまでも広い部屋のような場所だった。ような場所と形容するのは壁や天井らしきものが見えないのだ。暗くて見えないわけではない、照明もないのにこの空間だけは不思議ととても明るく感じる事が出来た。
 明らかに自分の部屋ではない場所だということがわかり、柳・八雲は必死に昨日のことをもい出そうとする。昨日はお酒も飲んでいなければ、何か体調を崩すようなものを食べた記憶もない。寝る前の最後の記憶は大好きな漫画を自分の布団の中で読み終えた所で終わっている。
「ようこそいらっしゃいました。ヤクモ様。混乱していると思いますが、まずは私の話をきいていただけないでしょうか?」
「えっ……誰?」
 目の前にいたのは絶世の美女と言って過言ではない金髪の女性がいた。簡素な布を身体に巻き付けているだけなのに神々しさがあり、今は何故か表情こそ曇っているが着飾る必要のない美しさにあふれる女性だ。一方八雲はジャージで男性の平均身長よりも低く、顔も普通よりやや下……いや、中の下ぐらいの自分と比べてしまい軽く引いてしまう。
「私はゼン。ゼンフィールドと呼ばれる世界の神をしています」
「あー……ひょっとして俺、死にました? もしかしてアレですか」
 八雲の言葉にゼンと名乗った女性は静かにうなずく。
「本棚に」
「あー……」
 八雲の家は安いワンルームに住んでいた、小さなワンルームに所狭しと大量の本棚と本が置いてあるのだ。その大量のコレクションが死因になったのであればコレクター冥利に尽きるというものである。しかし、倒れないように色々対策はしていたはず。
 そんな八雲の思考を読み取ったのかゼンは口を開く。
「実は少し前、日本の神に誘われて出雲の方へ行かせていただいたんです」
「……神無月の神の集まりって異世界の神も対象になるの? 日本の懐深すぎません?」
「私もそう思います」
 ゼンの話によるとその際、此方の世界でいう所の悪魔のようなものまでついてきてしまったようで色々と悪戯をしてしまっていたらしい。大きなものだと東京のシンボルタワーを緑色にしたり、金閣寺をオリハルコン閣寺にしたりしたらしい。その都度、ゼンが人に見つかる前に対応していたのだが……その悪戯の1つが八雲の家の本棚をいい感じに傾けるという悪戯であった。その悪戯はあまりにも小さくしょうもないもので悪戯に気が付くのに遅れてしまったらしい。
「本当に申し訳ありません。通常であればこのまま次の生へと転生を待つことになるのですが、何もしないというのは神の沽券にかかわります……なので、こちらで転生してみませんか? 今の記憶を保ったまま、特別に私の加護も差し上げます」
「なるほど……詳しく聞いてもいいですか?」
 八雲が興味を示すと曇っていたゼンの表情がぱっと明るくなった。そして、一気に早口になる。その早口に八雲なにか既視感と嫌悪感があった。
「そ、それでは説明させていただきますね。ゼンフィールドは一言で言ってしまえば、ヤクモ様の世界の価値観でいう所の魔法が存在する中世のような世界です。良くも悪くも魔法が文明の中心にあるので科学はそれほど発達していません。人間たちは魔族や魔物と日々小競り合いをし手を取り合って過ごしています」
 その既視感と嫌悪感の正体がわかる前にゼンはどんどん説明を進めていく。魔法のファンタジー世界と言えば八雲が大好きで読んでいたライトノベルや漫画の王道設定だ。既視感と嫌悪感さえ無ければ二つ返事で了承しただろう。
「ヤクモ様には特典その1として愛すべき人間たちがおさめる一番大きな王国の長男として生まれていただこうかなと思っています。何の不自由もない生活が約束されますよ」
 この神様には何の見覚えもない。嫌悪感を覚えているのは今の状況そのものである。
「そして、私からの加護をあなたの魂に考え得る全ての加護を差し上げます。いわゆるチートというものですね。創造魔法や無限の魔力はもちろん、それを操作するセンス、無限の魔力に押しつぶされない強靭な肉体、その肉体も衰え無くしましょう。何か希望があれば希望通りにいたします」
 ゼンが興奮気味に八雲に近づいていく。八雲はそこにきてようやく既視感と嫌悪感の正体気が付くことが出来た。
「……大変申し訳ないんですが……あなたは嘘をついている。というよりも本当のことを言っていない」
「な、なにをおっしゃっているんですか」
 八雲の言葉にゼンがぴたりと動きを止める。先ほどまであった興奮も冷めてしまったのか八雲からほんの少しだけ距離を取った。
「今のあなたは爺さんの葬式にやってきた親戚たちにそっくりなんだ。うわべだけの社交辞令とこれからの説明……俺の身を案じているフリをして遺産が目当てだった親戚たちにそっくりなんだよ。なので……俺は『お断り』だ。それによく考えたら同じ世界に転生しないと本の続きが読めないし」
「ま、まって、まっていただけますか。も、もう少しだけ、もう少しだけ説明を」
 ゼンが焦って声をかけるが、八雲のしっかりとした拒否が何らかのトリガーだったのか八雲の身体が足元から透け始める。透け始めた八雲の身体にゼンが鬼のような形相でしがみつく。
「こ、こうなったら加護は後でも付けようと思えば付けられます。この状態で一度無理矢理にでも転生を……」
「わ、ちょ、ちょっと!?」
「び、びくともしない!? ど、どれだけ決意が固いというんですか!?」
 ゼンの行動に驚き身構えたが特に何も起こらない。むしろゼンの焦りがより一層強くなる。
「それとも……それだけ地球産の魂が強力だというんですか、神の力を寄せ付けないほどに……み、認めません、認めませんよ! 愛しい人間たちの為にあなたにはどうしても私の世界に転生していただかねばなりませんっ」
「なんだか本音が漏れ始めてるな!? ぜっっっったい嫌だ! よく考えたら王国の長男とかしがらみだらけすぎる転生先だし! 絶対面倒くさいことに巻き込むつもりだったろ!?」
 八雲の意志と共鳴しているのかより強く生きたくないと願うと脚が完全に見えなくなり膝から下が無くなっていく。ここにいてはろくなことが起こらないと八雲はより強く嫌だと願う。
「あぁぁぁぁっっ!? せ、折角強靭な魂がっ。わ、わかりました。こちらに転生していただけるのであれば地球の本をこちらに持ってくるなどの魔法も授けますから。ゼンフィールドにはっ! 愛する人間にはあなたのような強靭な魂が必要なんです」
「見つけた!? 見つけたって言った!? それって俺が死んだのは……」
「あ……」
 どうやら今の状況は転生を断られる以外はゼンの思い描いた通りの状況のようだ。八雲はより一層転生したくなくなり……太腿から下が完全に消え去り、へそから下の存在感がかなり希薄になり透けていく。
「ま、まずいまずいまずいまずい……このままでは閻魔に報告され……私の世界が。愛する人間がっ。あなたは知ってはいけないことを知ってしまいましたね! ゼンフィールド、絶対神ゼンの名において開け門!」
「俺だってそんな事実知りたくなかったわ! ってうぉ!?」
 八雲の背後に神々しい扉が開かれた状態で急に現れる。そして、ゼンはしがみついていた八雲の身体を無理やり門の中へと押し込んでしまう。脚がほとんどなく浮遊していた八雲は思うように踏ん張りがきかずそのまま門の中へと入れられてしまう。
「ヤクモ! 貴様はエンフィールドでも地球でも転生させることはさせない! 私の世界、エンフィールドで浮遊霊として朽ち果てると良い」
「はぁっ!? ふざけるな!? このっ!」
 言葉の途中でばたんっと大きな音をさせながら扉が閉まる。辺りが途端に暗くなる。暗いのにここがはっきりと洞窟だとわかるぐらいに周りが見えてしまうのは八雲が人間ではなく幽霊だからということのなのだろうか。
 こうして八雲の異世界幽霊生活1日目が幕を開けるのだった。
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