転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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名もなき洞窟

死霊1日目

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・夢
 懐かしい記憶の夢を見た。それは俺、八雲の両親の葬儀の記憶から始まる夢だった。
 小学校高学年にして初めての家族旅行。旅行先へ向かっている途中で大きな事故に巻き込まれた。何人もの死傷者がでた事故にも関わらず無傷で生還した奇跡の子……思えば自身の『死』ということに関しては星のめぐりあわせが異様に良かったように思う。
「ったくよぉ。子は宝だろうが!……よぉ。お前さんがよければうちに来るか?」
 親類達は、八雲を誰が引き取るかで揉めていた。その時に親類たちを一喝し、名乗り上げてくれたのがド田舎に住んでいる爺さんだった。その言葉に俺は心から救われた。すぐさま様々な手続きを経て俺は爺さんに世話になることが決まった。
 ただ、爺さんの子育てはお世辞にもうまいといえるものではなかった。婆さんに先立たれており独り暮らしが長く……子どもというより人との接し方がわからずいつも怒っているような態度をとっているが、寂しがりで優しいめんどくさい偏屈な爺さんだと子どもながらに感じていた。そんな爺さんだから欲しいといったモノややりたいと思ったことは積極的に出来るように配慮してくれた。おかげで行きたかった商業系の高校にも入れて卒業と同時に地元で有名な会社に入ることができた。ようやく爺さんに恩返しができると思った。
 そう思ったのに爺さんはぽっくり逝ってしまった。不器用な人だと思っていたのに病気のことは器用に俺に隠していたらしい。何ともズルイ爺さんだ。しかも、どういうわけか全財産を俺に相続させるなんて遺言書を残してくれていた。
「この度はお悔やみ申し上げます……といっても私の親でもあるのよね。ごめんなさいね」
「俺が言い出したことですから」
 爺さんの葬儀の喪主は俺が務めた。実の子……俺にとっては叔母にあたる人もいたのだが、喪主はどうしても俺がやりたかった。それは爺さんが普段からこの叔母のことは実の子でも気に入っておらず、嫌っていたのをしっかりと覚えていたからである。この時の俺は叔母の事は何とも思っておらず父親の妹ぐらいにしか思っていなかった。
「うん。ありがとう……それでね? 遺言書のことなんだけど、全財産を相続っていってもその……私にも相続する権利があるのよ。遺言書も絶対に従わなきゃいけないって訳じゃなくて……法律でね。なんて言ったか忘れちゃったけど、最低限は相続できることが決まってるの」
 小声かつ早口で繰り出される叔母の言葉……叔母に対してこの時、初めて嫌悪というものを覚えた。
「それでね、八雲くんが相続するはずの山の土地……あそこって再開発の予定があるって聞いてるのよ。お家のある所の土地もそれに合わせて値上がりするって聞いたのよね。だから、その辺りも計算して専門家に試算してもらったの。そしたら私にも5000万ぐらいは相続できるかもって……土地は実際に売らなくても私はお金さえもらえればいいから」
「は?」
 あの家や土地は爺さんが先祖代々の土地だからと大切にしていた土地で爺さんは再開発も反対していた。爺さんが残したいと願っていたのなら、ここを残すのが俺にできる最大限の恩返しだと思っていたので絶対にそんなことをさせるわけにはいかない。しかし、5000万という話が本当ならそんな大金はない。
「それにほら、あなたもこれからのことを考えるとお金はないよりは会った方がいいでしょ? 例えばほら! あなたまだまだ若いんだし、勉強し直して大学にいくとかも良いと思うのよ」
 この時の俺にもう少し知恵と男気があればしっかりとした所に厳し目の調査をお願いして試算を出し、借金をして土地を守るという選択も出来たのかもしれない。
「……わかりました。確かに俺の所にも話は来ていましたので……今は爺さんを送り出すのに集中してほしいです」
 しかし、俺は流されてしまった。ここでノーと言えなかったのは人生の汚点だ。

・死霊生活1日目
 何処とも知れない洞窟にて八雲は目が覚めた。
「……死んでても寝られるんだな。目覚めは最悪だけど」
 享年35歳。元人間である八雲の目覚めは懐かしくも軽くトラウマになっている出来事の夢を見たことで最悪だった。
 神を名乗る女、ゼンからこの洞窟に放り出され、とりあえず安全な場所を探してうろうろしている内に行き止まりの空間を見つけることができた。ここなら休めそうだと判断すると自身の状況を整理するために目を閉じていたらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
「腹は……減ってないな。喉も乾いてないし……身体は相変わらず下半身ほとんどなし……でも浮いて動ける。絵本の幽霊そのものだなこれ……ジャージなのがなんか違和感すごいけど」
 八雲の下半身は腰回りから下は半透明に透けており、太腿から下に関しては完全になくなってしまっていた。それでも意識すれば浮くこともできるし、頑張れば飛び回ることもできる。
「さて、暫くはここを拠点とするとして……何をしよう。ラノベとか漫画だと最初の食料や水を得るのに苦労したりしてたけど……俺、死んでるから必要ないなこれ」
 独り言が多くなっているのは少なくとも何もない洞窟で心細さからだ。洞窟は暗いが八雲の眼には何がどこに何があるのかまでよくわかる……わかるが喰らいとも感じているので心細さは強く感じていた。
「とりあえず、長期目標、いや、最終目標は成仏することにするか……あいつ、閻魔様に告げ口されることを恐れていたしそれが復讐になるならそれもいい。中期目標としては洞窟の外にでることかな。短期目標……俺の脅威になりうるものがあるのか検証かな?」
 八雲はとりあえずの目標を経てると行動を開始する。昨日は安心して休める場所を探すために動いていたので周りに何があるかなどはほとんど気にしていなかった……神の口ぶりからして『朽ち果てる』程度にここは危険なところなのだろう。用心に越したことはない。
 周りに注意しながら、何もない拠点(仮)から出ていく。少なくとも目視できる範囲には何もいないことがわかるとふわふわ浮遊しながら昨日放り出された方向へと壁に手をついて移動していく。似たような道、似たような風景が続くため迷うことがないようにするための処置だ。拠点(仮)が絶対安全というわけでもないが、地図を作るなら何かしら基準点があった方がわかりやすい。
「……思ったけど、俺、壁触れるのか……」
 思えば壁のひんやりとした感触や苔のぞりぞりざわざわとした感触もしっかりある。ひょっとしたらこの世界では幽霊にも物理攻撃が効いてしまうのかもしれない。そうなった場合、俺はたぶん、ゴブリンに負ける。その自信がある。
「壁抜けとかできてもいい気がするんだけど……うーん……抜けろ!」
 幽霊なんだからそれぐらい出来てもいい気がする。現に物理法則を無視して俺は浮かんでいるのだ。壁抜けぐらいの不思議位は起こってもいい。そう思って壁に手をついて壁をするんっと抜けるイメージをしながら叫ぶ。
「うぉ!?」
 壁に手が吸い込まれた。壁の中のひんやりとした感触がある。指もしっかりと動かすことができる。これはイケるかもしれない。少し怖いが二の腕まで壁の中へ入れてみる。手が向こう側へ出た感覚はない。この壁はそれなりの分厚さがあるようだ。
「……よし、試しに拠点(仮)に壁の中から戻ってみよう」
 壁の中を移動できるのであればそれほど安全なことはない。拠点(仮)を出てから5分も経っていないが実験は大事だろう。むしろ、この距離だからこそやるべきだ。いざ実験!
 壁の中はひんやりと冷たい。それでいて固い……水とは少し訳が違う。更に壁の中では目を開けていても周りの様子がわからない。移動の感覚は変わらないのでうごいたり上がったり下がったりも出来るのだが、やりすぎると座標がずれこんで大変なことになりそうである。とりあえず、拠点(仮)の方向へと戻ってみる。5分ほど進んだところで急に周りの様子がわかるようになった。
「お、拠点についたのかってなんじゃこりゃ!?」
 視点が低い。床から上半身が生えているような状況になっている。しかも、出てきたところは出入り口から少し離れた所だ。上がったり下がったり、奥に行ったときに早速座標が少しずれてしまったいたようだ。もしくはゆるかやな坂になっていたのか……移動している内に無意識に高度が落ちたり、奥の方へと体が動いてしまっていたのかもしれない。しかし、これでわかったことがある。壁の中では五感のほとんどが死んでいる。壁の中を歩くのは緊急事態以外はやめておいた方がよさそうである。走るなんてもってのほかだ。
「俺を脅かすような存在を発見したら速やかに壁の中に潜む……天井とか床から顔だけ出して様子を伺えば戦闘回避できるかも」
 銭湯手段を得る前に最強の逃避方法を見つけられた。ほら、よくいうじゃん? 三十六計逃げるに如かずとか。うん。俺はこれでいいんだ。
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