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名もなき洞窟
遭遇
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・底辺冒険者タンポポ
「オイオイオイオイ。お前役に立つって言ったよな? 今のところ全然役に立ってねぇじゃねぇか。おい!」
「ひっ。ごめんなさいっごめんなさいっ。で、でも、なぜか全然霊がいなくて……」
「まったく、これならジェイルと2人で来た方が良かったわ。ジェイルぅ。これが終わったらギルドにこの子のことはしっかりと報告しましょ」
「ジェリカがそういうならそうするか」
「そ、そんな!」
右手にはショートソード、左手には盾を構え、チェーンメイルを来た戦士がみすぼらしい恰好をした女の子を怒鳴りつけている。彼の名はD級冒険者、戦士ジェイル。
そんなジェイルの二の腕に大きな胸を押し付けるように体を絡めて、みすぼらしい恰好の女の子を邪魔者を見るような目で見ているローブの女性は同じくD級冒険者、火魔法使いジェリカ。
2人から責められているのが、輪郭もボディラインも全体的にほんのりと丸みを帯びており実年齢よりだいぶ若く見られるタヌキの獣人。E級冒険者、死霊魔術士タンポポ。
このパーティのヒエラルキーは火魔法使いのジェリカが一番高く、一番立場が弱いのが死霊魔術士である。魔術は魔法の劣化品であり、戦闘では使い物にならない。それが冒険者の間の常識である。今回、タンポポがこの2人に同行したのはダンジョン『名もなき洞窟』で死亡した冒険者の亡骸もしくは遺品を探す仕事の為に雇われたからだ。タンポポ本人も最近ろくなものを食べておらず切羽詰まっていたので、ギルドの人に無理を言って紹介をしてもらっていた。
しかし、この『名もなき洞窟』にはどういうわけか霊が全然いなかった。亡くなったと聞いていた冒険者の霊はもちろん、動物霊すらも見つけられない。死霊魔術士は霊に協力を呼び掛けて助けてもらわなければ何もできない。役に立つと自分を売り込んでいたのにこの結果ではギルドからも注意を受けてしまう。場合によっては罰金もありえる。タンポポは不安そうに尻尾を揺らしながら注意深く周りを見て霊を探そうとするが見つかるのはコウモリやネズミだけである。
「まったく。なぁにが『霊の協力さえあればトラップも簡単に回避できます』だよ。っていうかお前本当に死霊術士なのかよ」
「あ、わかった。死霊術士って確か、霊が求めることをしてあげるって話よね? あんたの貧相な体じゃ見向きもしないってことじゃないの?」
「た、確かにそうですけど、そ、そんなんじゃなくて大抵の霊は供養してほしいとかお墓を作ってほしいとかそういう願いで……そっち方面もないわけじゃないですけど! あ、い、いました! 霊です!」
ジェイルとジェリカのいやみに耐えながらもようやく霊を見つけることができた。タンポポにしか見えないが前方から光る丸い球のようなものがふわふわと飛んでいる。酷く怯えているように見えるが死ぬ前に何か怖い目にあったのかもしれない。
「……ん? なんだあれ?」
「真っ白なゴブリン? 霊ってあれのことじゃないわよね?」
「ち、ちがいます」
真っ白なゴブリンは明らかにふわふわと飛んでいる霊を視界にとらえている。洞窟の狭い空間を器用に利用して壁を駆け上がりながら一気に霊に近づくと大きな口を開けて……
ばくんっ。
霊をひとのみしてしまう。その事実はタンポポにしか見えなかったが、タンポポはそれで理解する。霊が怯えていたのはあの白いゴブリンに怯えていたのだと。
白いゴブリンは美味そうに唇を舐め……目の前に3人の冒険者がいることに気が付いた。
「げぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっ!!!!!」
「いきなり仲間を呼んできやがった。おらっ! 役立たずは俺と一緒に時間稼ぎだ」
「えっ、ボク近接戦闘なんてできないですよっ」
「私の魔法が完成すれば一網打尽に出来るのよ。全然役に立ってないんだから少しは役に立ちなさいよ……ま、たかがゴブリンなんだから頑張りなさい」
タンポポはジェイルに無理矢理引き連れられジェリカの前に立つ。魔法には詠唱が必要だ。その間、魔法使いは無防備になってしまう。それを守るのが戦士などの前衛の役目。魔法使いさえ守り通せば状況はいくらでもひっくり返せる。
「ひっひゃあ!?」
「おらおらどうしたどうした!」
タンポポはくさっても獣人種だ。人間よりは瞬発力がある。それで何とか攻撃をかわしているが……ジェイルより安定感がかけてしまう。
「2人ともどいて! ファイヤーボール!!!」
徐々に集まって来た白いゴブリンたちに向けて大きな火の玉が打ち出される。洞窟という狭く、崩落の危険性がある中で使える最大限の火の魔法をジェリカはしっかりと選んで放って見せた。
どごーんっ。
大きな音が響きゴブリンたちが吹き飛ばされる。しかし、吹き飛ばされただけで致命傷に放っておらず立ち上がり白いゴブリンたちの物量だけが増えていく。
「くっ……もう一発行くわよ!」
ゴブリンたちの物量がどんどん増えて行き、ジェリカを守るの難しくなってくる。そして、再びファイヤーボールを放つも結果は同じ。白いゴブリンたちを倒すには至らない。
「マジかよ……ゴブリンのくせにどんな耐久力してやがるんだ」
「これはまずいわね……」
「ど、どうするんですか」
ジェリカとジェイルの視線が交差する。ジェリカが素早く呪文を唱えて……呪文が唱え終わると同時にジェイルが素早くジェリカの後ろへと飛び退った。
「ファイヤーウォール!!」
「え、ちょ、ちょっと、なにをするんですか!?」
炎の壁はタンポポとジェリカ、ジェイルを分断する。タンポポ側には白いゴブリンたちがおり様子をうかがっているように見える。
「ギルドにはお前が役立たずで何もできずゴブリンに殺されたって言っておくぜ」
「今回はギルド側にも問題があったし、私達はおとがめなしでしょ。それじゃあ、少しでも長くゴブリンたちと仲良くね? お腹とかは肉付きはいいし、食べ物としてはゴブリンたちからモテモテかもね」
「そ、そんな」
げぎゃげげぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ。ゴブリンたちはタンポポが置いて行かれた、裏切られたということを理解しているかのように笑っている。
「た、助けて……『だれでもいいからこっちにきて、動物霊でもこの際モンスターの魂でもいいから! ボクを助けて!』」
本能的に……自身の死霊術を発動していた。見える範囲に霊はいない。けれど今、タンポポにできるのは霊に向かって呼びかけることぐらいだった。
・遭遇
当然ながら洞窟の中は常に暗闇で変化に乏しい。そして、現在俺は眠ろうと思えば寝られるが思わなければずっと起きて居られる身体になってしまっている。今は拠点(仮)の周りを探索することで忙しくそれこそ寝る間を惜しんで頭の中で地図を作っていた。更にお腹も空かないこの身体は腹時計も存在しない。結果として、この洞窟に来てから一体どれぐらいの時間が経ったのかというのが全く分からなくなっていた。数日な気もするし数週間たっていると言われてもそうなのかと納得しかねないぐらいには時間の感覚が狂っていた。
「……とりあえず、短期目標はクリアってことでいいかな」
拠点(仮)の周りには少なくとも生物はおらず出口もないことが分かった。少なくともこの周りは安全だ。周りの道の特徴もなんとなく覚えたし、苔を目印代わりに毟ったりしたのでこの辺りで迷うことはまずなくなったと思う。
「と言っても異世界だし油断はできないか……引き続き脅威に気を付けながら、癒しが欲しい……生物が見たい。これが次の短期目標だな」
折角異世界に来たのだ。不思議な生物を見たい気もするし、今ならあの茶色でかさかさうごくあいつを見るだけでも癒される気がする。それほど何か動くものに俺は飢えていた。
「……となるととりあえずもう少し行動範囲を広げないとな」
しかし、この拠点からあまり遠くに行くのも惜しい。
「…………あ、上か下にいけばいいんだ。とりあえず、上からいこう」
天井か床を抜けてすぐのところから調べていけばいい。異世界にどこまで常識が通じるかはわからないが、下に行くよりは上に行った方が外は外に出る可能性は高いだろう。拠点の真ん中に立ってそのまま上へ上へと身体をあげていく。
しばらくは真っ暗闇が続いていたが、とんっ。とんっ。と身体に衝撃が走る。どうやら壁や床や天井を震わせるほどの何かが起こっているようだ。俺ははやる気持ちを抑えながら手を動かす。爪の先でもいいから壁の外へ出ることができれば拠点から大きく離れずに済む。
頼む。少しでいいから……祈りが通じたのか、振動の近くまで上がったところで指の先が外へ出た。そちらの方向へと体を動かして恐る恐る水面から外を覗くように顔を出してみる。
そこにはふっさふさのこげ茶色の尻尾があった。着ているのはおそらくスカートなのだろう……しかし、なぜかこちらは暗闇の中でさえ判別できる謎の能力がある。その能力でこの尻尾が飾りではなく尾てい骨から生えていること、かなり粗末な布の下着を身に付けていることがわかってしまった。おそらく身長の低い女の子である。
「おうふ!?」
慌てて顔をひっこめる。いきなりすごいものを見てしまった気がする。偶然なんです故意ではないんです。どこのどなたかわかりませんが……ごちそうさまです。きっと、俺は今の風景を永遠に心に留めておくでしょう……いや、うん。久しぶりに見た苔とか岩とか以外のものを見たという感動でだよ? 本当。
「■■■■!!!」
「▲▲▲▲▲▲!?」
近場まできたからか、耳を澄ましてみると数人のしゃべり声のようなものが聞こえてくる。当然のように言葉の意味は解らない。声の数からして3人か4人ぐらい……そして、何か動物の叫びような声も混ざっていることがわかる。
どうやらかなり切羽詰まった取り込み中らしい。個人的には先ほどの尻尾の持ち主は生き残ってほしい所だが……動物の叫び声が少しずつ増えている気がする。もっと言えば会話らしい言葉が少なくなったようにも感じる。
とってもピンチなのでは? 俺がいってどうにかなるとは思えない……
『だれでもいいからこっちにきて、動物霊でもこの際モンスターの魂でもいいから! ボクを助けて!』
なんだかわからないけれど……これを聞いても様子見もしてしまう用には爺さんからは育てられていない。俺は迷うことなく飛び出した。
「オイオイオイオイ。お前役に立つって言ったよな? 今のところ全然役に立ってねぇじゃねぇか。おい!」
「ひっ。ごめんなさいっごめんなさいっ。で、でも、なぜか全然霊がいなくて……」
「まったく、これならジェイルと2人で来た方が良かったわ。ジェイルぅ。これが終わったらギルドにこの子のことはしっかりと報告しましょ」
「ジェリカがそういうならそうするか」
「そ、そんな!」
右手にはショートソード、左手には盾を構え、チェーンメイルを来た戦士がみすぼらしい恰好をした女の子を怒鳴りつけている。彼の名はD級冒険者、戦士ジェイル。
そんなジェイルの二の腕に大きな胸を押し付けるように体を絡めて、みすぼらしい恰好の女の子を邪魔者を見るような目で見ているローブの女性は同じくD級冒険者、火魔法使いジェリカ。
2人から責められているのが、輪郭もボディラインも全体的にほんのりと丸みを帯びており実年齢よりだいぶ若く見られるタヌキの獣人。E級冒険者、死霊魔術士タンポポ。
このパーティのヒエラルキーは火魔法使いのジェリカが一番高く、一番立場が弱いのが死霊魔術士である。魔術は魔法の劣化品であり、戦闘では使い物にならない。それが冒険者の間の常識である。今回、タンポポがこの2人に同行したのはダンジョン『名もなき洞窟』で死亡した冒険者の亡骸もしくは遺品を探す仕事の為に雇われたからだ。タンポポ本人も最近ろくなものを食べておらず切羽詰まっていたので、ギルドの人に無理を言って紹介をしてもらっていた。
しかし、この『名もなき洞窟』にはどういうわけか霊が全然いなかった。亡くなったと聞いていた冒険者の霊はもちろん、動物霊すらも見つけられない。死霊魔術士は霊に協力を呼び掛けて助けてもらわなければ何もできない。役に立つと自分を売り込んでいたのにこの結果ではギルドからも注意を受けてしまう。場合によっては罰金もありえる。タンポポは不安そうに尻尾を揺らしながら注意深く周りを見て霊を探そうとするが見つかるのはコウモリやネズミだけである。
「まったく。なぁにが『霊の協力さえあればトラップも簡単に回避できます』だよ。っていうかお前本当に死霊術士なのかよ」
「あ、わかった。死霊術士って確か、霊が求めることをしてあげるって話よね? あんたの貧相な体じゃ見向きもしないってことじゃないの?」
「た、確かにそうですけど、そ、そんなんじゃなくて大抵の霊は供養してほしいとかお墓を作ってほしいとかそういう願いで……そっち方面もないわけじゃないですけど! あ、い、いました! 霊です!」
ジェイルとジェリカのいやみに耐えながらもようやく霊を見つけることができた。タンポポにしか見えないが前方から光る丸い球のようなものがふわふわと飛んでいる。酷く怯えているように見えるが死ぬ前に何か怖い目にあったのかもしれない。
「……ん? なんだあれ?」
「真っ白なゴブリン? 霊ってあれのことじゃないわよね?」
「ち、ちがいます」
真っ白なゴブリンは明らかにふわふわと飛んでいる霊を視界にとらえている。洞窟の狭い空間を器用に利用して壁を駆け上がりながら一気に霊に近づくと大きな口を開けて……
ばくんっ。
霊をひとのみしてしまう。その事実はタンポポにしか見えなかったが、タンポポはそれで理解する。霊が怯えていたのはあの白いゴブリンに怯えていたのだと。
白いゴブリンは美味そうに唇を舐め……目の前に3人の冒険者がいることに気が付いた。
「げぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっ!!!!!」
「いきなり仲間を呼んできやがった。おらっ! 役立たずは俺と一緒に時間稼ぎだ」
「えっ、ボク近接戦闘なんてできないですよっ」
「私の魔法が完成すれば一網打尽に出来るのよ。全然役に立ってないんだから少しは役に立ちなさいよ……ま、たかがゴブリンなんだから頑張りなさい」
タンポポはジェイルに無理矢理引き連れられジェリカの前に立つ。魔法には詠唱が必要だ。その間、魔法使いは無防備になってしまう。それを守るのが戦士などの前衛の役目。魔法使いさえ守り通せば状況はいくらでもひっくり返せる。
「ひっひゃあ!?」
「おらおらどうしたどうした!」
タンポポはくさっても獣人種だ。人間よりは瞬発力がある。それで何とか攻撃をかわしているが……ジェイルより安定感がかけてしまう。
「2人ともどいて! ファイヤーボール!!!」
徐々に集まって来た白いゴブリンたちに向けて大きな火の玉が打ち出される。洞窟という狭く、崩落の危険性がある中で使える最大限の火の魔法をジェリカはしっかりと選んで放って見せた。
どごーんっ。
大きな音が響きゴブリンたちが吹き飛ばされる。しかし、吹き飛ばされただけで致命傷に放っておらず立ち上がり白いゴブリンたちの物量だけが増えていく。
「くっ……もう一発行くわよ!」
ゴブリンたちの物量がどんどん増えて行き、ジェリカを守るの難しくなってくる。そして、再びファイヤーボールを放つも結果は同じ。白いゴブリンたちを倒すには至らない。
「マジかよ……ゴブリンのくせにどんな耐久力してやがるんだ」
「これはまずいわね……」
「ど、どうするんですか」
ジェリカとジェイルの視線が交差する。ジェリカが素早く呪文を唱えて……呪文が唱え終わると同時にジェイルが素早くジェリカの後ろへと飛び退った。
「ファイヤーウォール!!」
「え、ちょ、ちょっと、なにをするんですか!?」
炎の壁はタンポポとジェリカ、ジェイルを分断する。タンポポ側には白いゴブリンたちがおり様子をうかがっているように見える。
「ギルドにはお前が役立たずで何もできずゴブリンに殺されたって言っておくぜ」
「今回はギルド側にも問題があったし、私達はおとがめなしでしょ。それじゃあ、少しでも長くゴブリンたちと仲良くね? お腹とかは肉付きはいいし、食べ物としてはゴブリンたちからモテモテかもね」
「そ、そんな」
げぎゃげげぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ。ゴブリンたちはタンポポが置いて行かれた、裏切られたということを理解しているかのように笑っている。
「た、助けて……『だれでもいいからこっちにきて、動物霊でもこの際モンスターの魂でもいいから! ボクを助けて!』」
本能的に……自身の死霊術を発動していた。見える範囲に霊はいない。けれど今、タンポポにできるのは霊に向かって呼びかけることぐらいだった。
・遭遇
当然ながら洞窟の中は常に暗闇で変化に乏しい。そして、現在俺は眠ろうと思えば寝られるが思わなければずっと起きて居られる身体になってしまっている。今は拠点(仮)の周りを探索することで忙しくそれこそ寝る間を惜しんで頭の中で地図を作っていた。更にお腹も空かないこの身体は腹時計も存在しない。結果として、この洞窟に来てから一体どれぐらいの時間が経ったのかというのが全く分からなくなっていた。数日な気もするし数週間たっていると言われてもそうなのかと納得しかねないぐらいには時間の感覚が狂っていた。
「……とりあえず、短期目標はクリアってことでいいかな」
拠点(仮)の周りには少なくとも生物はおらず出口もないことが分かった。少なくともこの周りは安全だ。周りの道の特徴もなんとなく覚えたし、苔を目印代わりに毟ったりしたのでこの辺りで迷うことはまずなくなったと思う。
「と言っても異世界だし油断はできないか……引き続き脅威に気を付けながら、癒しが欲しい……生物が見たい。これが次の短期目標だな」
折角異世界に来たのだ。不思議な生物を見たい気もするし、今ならあの茶色でかさかさうごくあいつを見るだけでも癒される気がする。それほど何か動くものに俺は飢えていた。
「……となるととりあえずもう少し行動範囲を広げないとな」
しかし、この拠点からあまり遠くに行くのも惜しい。
「…………あ、上か下にいけばいいんだ。とりあえず、上からいこう」
天井か床を抜けてすぐのところから調べていけばいい。異世界にどこまで常識が通じるかはわからないが、下に行くよりは上に行った方が外は外に出る可能性は高いだろう。拠点の真ん中に立ってそのまま上へ上へと身体をあげていく。
しばらくは真っ暗闇が続いていたが、とんっ。とんっ。と身体に衝撃が走る。どうやら壁や床や天井を震わせるほどの何かが起こっているようだ。俺ははやる気持ちを抑えながら手を動かす。爪の先でもいいから壁の外へ出ることができれば拠点から大きく離れずに済む。
頼む。少しでいいから……祈りが通じたのか、振動の近くまで上がったところで指の先が外へ出た。そちらの方向へと体を動かして恐る恐る水面から外を覗くように顔を出してみる。
そこにはふっさふさのこげ茶色の尻尾があった。着ているのはおそらくスカートなのだろう……しかし、なぜかこちらは暗闇の中でさえ判別できる謎の能力がある。その能力でこの尻尾が飾りではなく尾てい骨から生えていること、かなり粗末な布の下着を身に付けていることがわかってしまった。おそらく身長の低い女の子である。
「おうふ!?」
慌てて顔をひっこめる。いきなりすごいものを見てしまった気がする。偶然なんです故意ではないんです。どこのどなたかわかりませんが……ごちそうさまです。きっと、俺は今の風景を永遠に心に留めておくでしょう……いや、うん。久しぶりに見た苔とか岩とか以外のものを見たという感動でだよ? 本当。
「■■■■!!!」
「▲▲▲▲▲▲!?」
近場まできたからか、耳を澄ましてみると数人のしゃべり声のようなものが聞こえてくる。当然のように言葉の意味は解らない。声の数からして3人か4人ぐらい……そして、何か動物の叫びような声も混ざっていることがわかる。
どうやらかなり切羽詰まった取り込み中らしい。個人的には先ほどの尻尾の持ち主は生き残ってほしい所だが……動物の叫び声が少しずつ増えている気がする。もっと言えば会話らしい言葉が少なくなったようにも感じる。
とってもピンチなのでは? 俺がいってどうにかなるとは思えない……
『だれでもいいからこっちにきて、動物霊でもこの際モンスターの魂でもいいから! ボクを助けて!』
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