転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

文字の大きさ
6 / 48
名もなき洞窟

(死霊の中では)最強で(事実上)無敵でした

しおりを挟む
・(死霊の中では)最強で(事実上)無敵でした
 ダンジョンの中はモンスターや動物が生態系を築いていた。その中でもゴブリンは少しわかりにくい場所に小さな家とも言える溜まり場を作っていたりするらしい。俺のいた所は異様なぐらいに何もいなかったのでタンポポが言っていた魔素だまりには生物やモンスター、死霊すら寄り付かないというのは本当のようである。何にしても変化があるというのは素晴らしい。今の俺にはそんなゴブリンたちのたまり場を発見する程度にバフにより五感がさえわたっていた。
「ふんぎゃー! ぎゃるるるるるる!」
 たとえそれが突然の訪問者に複数のゴブリンたちが怒り狂い俺を囲んで棍棒でタコ殴りにする攻撃的な変化であったとしてもである。ゴブリンたちの攻撃は俺の身体を面白いぐらいにすり抜けていく。避ける行動をとる必要すらない。死霊に物理攻撃は無効らしい。ただ、この間、俺も攻撃を加えることができない……なんていうこともなく。
「おらっ!」
 拳そのものはすり抜けるのだが、石を装備していればその石でゴブリンの頭を殴ることができる。その一撃でゴブリンは簡単に死んでしまう。
「えっ……お供え物は肉がいい? 干し肉なら、ありますけど……いいですか? ふんふん、最近だと家に人間は持ち帰っていないんですね。ありがとうございます」
 タンポポは俺が頑張って殺した死にたてほやほやのゴブリンたちの霊を集めて情報収集している。ゴブリンたちの霊は最初訳が分からず漂っているだけだが、タンポポが声をかけると我先にとタンポポの方へと集まっていく。肉体から離れた魂、霊は本能的に安らぎを求めるらしく大抵は供養の為のお供えを交換条件に情報を出してくれているらしい。俺にはゴブリンたちの霊が何を言っているのか……声らしきものすら聞こえない。とても神秘的な光景に見える。
「そういえば、このゴブリンは緑色だけどさっきの白いのはなんだったんだ?」
「それはボクにもわからなくて……あんなのは初めて見ました。それも知っている子がいたら聞いてみますね」
 しかし、全く攻撃がこちらに当たらないことがわかっていると通常なら命がけの戦闘もゲーム感覚になってしまう。血も出てグロいし、匂いもするのだが霊には体調不良というものが存在しないのか吐き気を催すこともない。タンポポの方へ向かう、生身のゴブリンを倒すタワーディフェンスアクションゲームをしている気分だ。
「タンポポ、こっちは終わった」
「ありがとうございます……こっちはえーっと……たぶん、もう少しだと思います」
 タンポポのスカートの中が異様に光っていた。けっこうな数のゴブリンの霊がスカートの中へもぐりこんでいるらしい。スカートの中の霊は見ていると次第にいなくなっていく。さすがゴブリン、死してなお性欲に抗えないのか……それが供養になるというのもわからなくないので俺はゴブリンの霊を尊重する。ほんのり顔の赤いタンポポが口を開く。
「白いゴブリンは先日から急に現れたみたいです。普通のゴブリンよりも強くて歯が立たない、けれど怖い洞窟狼を倒してくれるし洞窟狼の肉もそのままにしてくれるから食料には困らなくて引っ越しすべきか悩んでいたみたいですよ。これについては……洞窟狼の霊を食べていたんだと思います。だから肉は必要なかったのかと」
「霊を食べる!? なんだそれ、そんな怖い奴らだったのか」
 タイミングを考えると……魔素で消滅するはずの俺が何らかの方法で消滅しなかった場合の保険にゼンがどこかから連れて来たと考えるべき……なのかもしれない。そんなことを考えているとタンポポの胸元から光の玉、ゴブリンの霊が飛び出してくる。
「きゃあ!? こ、こほん、このゴブリンの霊が人間の死体を見たということでそこまで案内してくれるそうです」
「そ、そっか、うん」
 本能に忠実なゴブリンというのがとても羨ましくなる瞬間だった。ゴブリンの霊を少し恨めしそうに睨んでいる俺の耳に複数の獣の足音が聞こえてくる。その足音はどんどん近づいてきており、ハァッハァッハァッと獣の息遣いまで聞こえてくるようになる。タンポポのバフのひとつが効いてるので通常よりも多くの情報を得ることができた。
「タンポポ、少し奥へ。たぶん、ゴブリンの話に出てた洞窟狼ってやつだと思う」
「は、はい」
 ゴブリンのたまり場には入り口は1つ。安全のためタンポポには少し奥へと行ってもらう。暫くすると手負いの洞窟狼と思われる4匹の群れが飛び込んできた。
「だぁぁっっ!」
 ゴブリンよりも少し大きな体、しかしゴブリンよりも圧倒的に早く、俺の攻撃は一匹の狼の身体に少し掠っただけで致命的なダメージを与えることはできなかった。
「て、手負いの動物は攻撃性が増すらしいです! 気を付けてください!」
「気を付けてと言われても」
 俺が気を付けなければいけないのはタンポポがやられてしまうことぐらいだ。タンポポがやられる前に狼を全て倒しきる……中々難しそうである。とりあえず、牽制がてらにそこら中に落ちている石を狼たちに向かって全力で投げる。
「わふっ」
 事もなげに洞窟狼たちは石を避けていく。しかし、狼たちのヘイトは確実に俺に向いたようである。狼たちがこちらを睨らんでくる……その間に俺は石よりはましだとゴブリンの棍棒を両手に装備。少し小さく感じるが、握りがあるだけで武器としては全然違う。
 しばらくにらみ合いをしていたが――
「ばう!!」
 その群れの中で身体の少し大きな洞窟狼がひとつなくと一斉に攻撃を開始する。それと同時に俺は両手をあげていつでも二つの棍棒を振り下ろせるように準備した。素人目にみてもとても連携がとれているように見える。それぞれが別の方向から別の場所を狙って攻撃しているのだろう。俺の腕に噛みつこうと飛び掛かった2匹の洞窟狼は攻撃がすり抜けたことでそのまま地面にぶち当たる。お腹に噛みつこうとした個体はその勢いのまま壁にぶち当たる。
「おらぁぁぁぁ!!!」
 最後、喉を狙ってきた司令塔だと思われる洞窟狼に思いっきり棍棒を喰らわせる。タンポポのバフが効いているおかげか思った以上に力がでて棍棒が砕けてしまう。しかし、砕けたのは棍棒だけではなく相手の骨も砕いたようでそのまま、べしょりと洞窟狼だったものが地面に落ちる。
 攻撃を外した洞窟狼たちは起き上がると同時に状況を悟ったのか、洞窟狼同士で視線を合わせていく。
「……うん、武道の達人ならわからないけど動物に対しては今のままでも十分通用しそうだ」
 相談したのか、それとも状況を判断した結果なのか、洞窟狼たちはゴブリンのたまり場から出ていってしまう。どうやら、とりあえずの危機は脱したようである。
「……えっ。あなたも人間の死体をみたことがあるんですか? 因みに特徴は……ふんふん、ゴブリンさんのみた死体も同じ感じだったと……わかりました」
 タンポポは早速、洞窟狼の霊から情報を収集しているようだ。
「えっと、どうやら……目的の遺体なんですが……白いゴブリンたちのたまり場にあるみたいなんです。洞窟狼さんたちは白いゴブリンたちの所へ奇襲をしかけて失敗して逃げていたところでここに来たみたいです」
「……さっきみたいに俺が近づいたら逃げてくれないかな」
「ゴブリンはたまり場を大事にすると読んだことがあります。なので、たぶん」
 逃げてくれなさそうだ。そうなると戦うしかない……のだろうか? 自分を喰ってくるかもしれない存在とは出来れば敵対したくはない。
「方法がないわけではないんですが……ヤクモさんがちょっと」
「……聞くだけ聞くよ。できそうならやろう」
 タンポポの作戦は俺の好奇心と興味をそそる物だった。多少の危険があり大いに悩んだが……好奇心の興味に負け、俺はタンポポの作戦に乗ることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...