転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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キャラダイスの町

死霊術士ギルド

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・死霊術士ギルド
「それにしてもよかったのか? ギルド長だったか、あのお爺さんも複雑そうな表情してたけど」
「ボクたち獣人が出しゃばりすぎると後々が面倒なんです。それに今、生活費すら捻出できていなかったので……慰謝料はありがたいんです」
 身体から煤がすべて落ちた辺りで俺の中にある魔素は全て使い切ったようで、タンポポからもらったバフもなくなり獣のように素早く動けるということもなければ、物を持ち上げることすらできなくなった。タンポポは詳しく色々説明してくれたのだが、早い話がリッチーロードからリッチーにランクダウン? を果たしたらしい。リッチーであれば生き物を通過しても寒気を覚えさせることもないようなので、俺はしばらくは特に人を避けることなく移動していたが……途中からしっかりと避けながら何処かへ向かっているタンポポの後ろをついて回っていた。
 あの後のことの顛末としては……ジェイルとジェリカはタンポポにそれ相応の慰謝料を払うということで決着がついた。仲間を囮にして置き去りにするという信頼関係にヒビを入れる行為は本来ならギルドからの追放もありえたのだが、タンポポがそれを止めたのだ。あの2人は暫く針の筵だろうが、仕事を失うよりはマシという事なのだろう。2人もタンポポにしっかりと頭を下げて謝っていたように見えた。
 ところで……あれからタンポポが全く顔を合わせてくれない。受け答えはしてくれるのだが、タンポポの前に入ろうとするとそっぽを向かれてしまう。あの行動が誤解であるというタイミングを完全に逃してしまった。
「なるほど……なぁ、タンポポ、どこに向かってるんだ?」
「一応……約束なので成仏の方法を知っていそうなの所にです。保証はちょっとできかねますが……」
 タンポポの声はどことなく元気がない。タンポポの立場になってみると死ぬ方法が知りたいから教えてほしいと相談してきた人からプロポーズをされたという訳の分からない状況になっているのだ。そして、タンポポはその訳の分からない状況になろうと律儀に約束を守ろうとしている……ものすごくいい子だ。ストレスの素になっていそうな俺が言えたことではないが元気になってほしいと思う。
?」
 成仏とかそういう事なら教会に連れていかれるのかもと思っていたが、あの大きな教会に向かう道ではない。むしろ進めば進むほど人気は無くなり、お店なども減っていっている。住宅街一歩手前のあたりでタンポポが止まる。その建物には一応看板らしきものがあるので何かを商っている場所であるのは解るのだが、文字が読めないのでここが何をする場所なのかはさっぱりわからない。規模もかなり小さく見える。個人でやっているところなのだろうか?
「ひとたちです……えっと、通常は霊の成仏というか浄化は教会の方が詳しいですが、ヤクモさんは教会に思う所があるみたいなので……」
「あ、あぁ、それはありがたいんだけど……」
 タンポポの声が更に沈んでいく。タンポポが振り返り久しぶりにタンポポの顔をまともに見た気がする。かなり気まずそうで恥ずかしそうで、口角がちょっぴりあがって嬉しそうでもあり……ものすごく難しい表情をしていた。
「は、入る前に、あの、わ、わかってます。その、ヤクモさんは異世界のひとなのであの行動がぷ、ぷ、プロポーズを意味するものではないことはわかっているんです。わ、わかっていても、こういう反応になってしまう程度には……あの行動はその、女の子にとっては憧れの行動なんです」
「は、はい」
 誤解を解かずともタンポポには俺がやりたかった意図は伝わっていたらしい。異文化交流、異文化コミュニケーション……すごく難しい。転生していればその辺りもゆっくり理解していくことはできたのだろうが……この世界に関わっていくなら早めにこの世界の常識というのを身に付けた方がいいのかもしれない。
「重要なのはここからで……今からここに入るんですが、冒険者ギルドで起こったことはここでは絶対に口にしないで欲しいんです。あの行動ももちろんですが、今回の事件についてもです。説明は全てボクの口からしますから」
「わかった。タンポポとの出会いはどうするんだ?」
「名もなき洞窟で偶然出会ったで通します……とにかく、ヤクモさんはそのことをしゃべろうと思わないで欲しいんです」
 俺はタンポポの提案に頷いて見せる。しかし……言葉を発したところでタンポポ以外の人には伝わらないのだから口裏を合わせても意味はないのではないか?
 そう思いながら扉を開いて中に入っていくタンポポに続く。そんな俺の考えは一瞬で否定された。
「■■■、■……リッチー様! リッチー様じゃ!!!」
「■!? 本当だ! リッチー様だ!」
 建物の中は……隠れ家的カフェともいうのであろうか。小さな受付の他は何人かで座るテーブルがいくつかあるだけの簡素な空間。メニュー表のような大きさの板には色々な紙が貼られている。席について軽食を食べていた2人が此方に気が付いて声をかけてくる。前半は決まって俺にはわからない言語だったが、後半は俺にわかる言語に変わる。そして、俺が囲まれた。
「え、え、享年は? めっちゃ若いぞこのリッチー様」
「かなり若く見えるからのぅ……ひょっとしてこれも魔術、いや魔法の力ですかな?」
 俺を取り囲んだ2人のうち1人はかなり年齢を重ねて良そうな皺を蓄えた老人だった。俺が知る老人の体格をしており少し安心する。この世界のご老人が全て冒険者ギルドのギルド長のような感じではないのだ。女性にしては背が高く、露出度の高い肌には所々にうろこが生えているのが見える。こちらが観察している間にも2人は俺を10倍観察している。消えている足元に足を通したり尻尾を通したり、ジャージを物珍しそうに見たり……俺がばっちりしっかりと見えているようだ。
「32で死んでます。え、タンポポ? ここって……」
「32!? 生まれたばかりじゃん」
「人族にすればそれなりとは聞いたことはあるが……お若いのにお悔やみ申し上げる」
「……ここは死霊術士ギルドです。ボクはこっちにも所属しているんです。ギルドメンバーはここにいるリザードマンのマーレット、ツリーフォークのアカシアおじいちゃんとあとはギルド長だけです」
 なるほど……ここにいる人たちは俺の姿は見えるし、声も聞こえると……タンポポがいっていた成仏の仕方を知っているかもしれない人材というのも頷ける。
「2人とも、紹介しますね。こちらは……たぶん、リッチーになってしまっているヤクモさんです。冒険者ギルドでの仕事中に偶然会いました。ゼン神によりこっちに無理やり連れてこられた異世界人で、ゼン神をあんまり良く思っていないようです」
 そこまでいっちゃうのか……大丈夫なのだろうか? タンポポが大丈夫だと判断しているのだから大丈夫なのだろうけれど不安がゼロというわけではない。第一、異世界なんていう荒唐無稽な話を簡単に信じてくれるとは思えない。
「なるほど……それは大変じゃったな」
「ということは……ヤクモはあれ? ゼン神教の力を借りずに成仏したい感じになるのかな?」
 ものすごく話が早かった。タンポポの時にも思ったが色々大丈夫なのだろうか? 簡単に人に騙されたりしないのだろうかと心配になる。
「はい、その通りで……ボクの知識だけではどうしようもなかったので皆さんのお力を借りたいと思いまして、ギルド長にも話を通したかったんですが」
「心配せんでもそろそろ来るじゃろ。死霊のお客さんは久しぶりじゃから、わしはちょっと楽しみじゃわ」
「アカシア爺さんはのんきだなぁ……ヤクモ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「お、おう」
「死霊さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! いらっしゃいませー!!!!!!!!」
 建物の奥からどったんばったんと大きな音が聞こえてくる。俺は言われるがままに受付の方へとほんの少し移動する。その後ろにはマーレットがどっしりと構えている。今から何が始まるのだと身構える暇もなく、俺の身体を何かが通り過ぎた。すぐさま振り返るとマーレットが少女をキャッチしていた。その少女はマーレットの腕の中から俺を見上げる。分厚い眼鏡をかけていてわかりにくいが、美しい彫刻がそのまま動いているかのような美貌、耳のとがり具合からしてきっとエルフなのだろう。エルフの少女は俺を視認するとマーレットの腕の中からすぐに降りて、そのまま両手を開いて倒れ込もうとする。
「まさかのリッチー様でした! は、はなしなさい、マーレット!」
「五体投地するならせめて眼鏡を外してからにしろぉ! また塩スープだけで過ごす気か」
 死霊術士ギルド……俺は名前から勝手に物静かで秘密主義な魔術士たちの集団だと思っていたが思ったよりアグレッシブな集団なのかもしれない。
「えっと、紹介します。彼女がここのギルド長のエルフ。マドラーです」
「あ、あぁ、うん」
 その後、マドラーが眼鏡をしっかりと外したうえで五体投地を行い、俺は死霊術士ギルドというのに一抹の不安を感じたのは言うまでもないだろう。
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