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キャラダイスの町
死霊術士の仕事
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・死霊術士の仕事
「あらためて、死霊術士ギルドのギルド長をしているエルフのマドラーと申します。ギルドの受付時間は終わっていますが困っている死霊様がいらっしゃるのであればいつ何時だろうと駆けつけますよ!」
「あ、はい。それはありがとうございます……ただ、話しにくいのででていってくれますかね!?」
マドラーと名乗った少女の姿をしたエルフは何を思ったのか、わざわざ俺に重なった状態で何度も深呼吸をしながら自己紹介をした。痛みもなければ不快感もないので放っておいてもいいのだけど……なんとなく色々わかってしまうのだ。身体に通過したものの形やその質感、色などがなぜか見たり、触ったかのようにわかってしまうのだ。その事実を知ってやっているのならこのエルフは相当な痴女ということになる。そして、おそらくこのエルフは解ってやっている……そんな表情をしている。
「ギルド長、ボクちょっと別件でまとめたい論文あるのでヤクモさんの事お願いしてもいいですか?」
え、このやばそうなエルフと2人きりになるのはちょっとごめんこうむりたい。話がなんとなく進まなさそうな未来が見えなくない。
「安心せぇ、わしらもいっしょにおればマドラーも暴走はすることはないはずじゃ」
「あたいもヤクモに興味あるしのこってやるよ」
「あ、ありがとう、本当にありがとう」
「え、えー大丈夫ですよ? リッチー様と寸分の狂いなく同じ座標にいたいだけなので」
暴走した経験があるのか……すでになんか危ない発言が聞こえなくもないがきっと大丈夫なのだろう。うん。タンポポが受付の奥に引っ込んでいくのを見届けてから俺たちはカフェスペースのような場所の椅子に腰掛けていく。エルフがにっこにこのきっらきらの笑顔で此方を見上げていたが、俺はしっかりと空いている席に座らせてもらった。
「えっと……マーレットの言う通り、俺は成仏の方法を探している。できればゼンと会わない方向での成仏を考えているんだけど、何か方法を知っていたら教えてほしい」
「ふむ……霊が成仏以外の方法で消えるのは方法がないわけではない。魔素により霊が分解されていくことは知られておるんじゃが、それが成仏の代わりになるのかは正直なところ不明じゃな」
「最近になって、魂やら霊を傷つけたり消滅させる魔物が出現を始めたとも聞くけど、それも似たようなもんだよな」
「私達はどうしても霊になるべく長く現世に留まってもらうための方法を磨いていますから……その逆を考えるのであれば、生前の心残りを無くすとかになると思います」
俺が一言お願いするだけで三者三葉の答えが返ってくる。決定的な答えはないが、俺の予想通り魔素による分解や魔物によるものは成仏と考えない方がよさそうである。そして、何か心残りと言われても……思い当たる節があるとすれば漫画やライトノベルの続きが読めなくなってしまうことぐらいしかない。
「アタイが知る限り、男の霊の3割ぐらいは童貞を捨てたかったとかそういうのだけど、ヤクモはそういうのどうなの?」
「いやぁ……股間にぶらさっているものがほとんど消えてるんで性欲とかって何言わせてるんだよ! ありえないって」
「大事なことじゃぞ? 何が心残りになっているかわからんのじゃからな。今は少しでも可能性がある意見を無数に出していく方が効率的じゃろう」
「そうですよ。たとえば、エルフに思いっきり研究されてみたいとか欲望がねむっているかもしれないんですから」
なるほど、アカシアのいうことはもっともだがマドラーの意見も否定してはいけないのだろうか? これだけは絶対にないと言い切れる気がする。
「まぁ、わしらは霊の願いを聞いてやりつつ、霊に出来るだけ長く現世に留まってもらって色んな事を手伝ってもらうことが本質じゃ」
「そんなアタイらにお願いをするんならヤクモもわかってるだろ?」
「私達はヤクモ様が成仏する方法を研究します。ヤクモ様には私達の研究の手伝いと私達の仕事の手伝いもしていただきたいです」
アカシア、マーレット、マドラーの3人が俺の方を見てくる。なるほど、タンポポとは違いこの3人は死霊相手の交渉は慣れているように感じる。何気に出してきた条件も死霊術士ギルドが提供する条件は成仏に関する方法の研究で、俺が差し出すものは『研究』の手伝いと仕事の手伝いの2つ。きっと研究には成仏に関する研究はもちろん、それ以外も含まれるのだろう。
「わかった。ただふたつだけ……俺にも一応給料が欲しい。ギルドの仲間として扱ってほしい」
「り、リッチー様とな、仲間……こ、こちらこそよろしくお願い致しますぅ!!」
「マドラー、最後までもたなかったか……一応、魂の交流で決められた事は契約になる。契約を果たさないと、破った方はぼーっとしているタイミングでその約束が無限に頭をよぎるからな」
「地味だけど面倒くさそうな! 死ぬとかではないんだな」
「元々死んでいるやつに死は脅しにならんじゃろ。無意識にその約束を思い続けることになるから強制的に成仏させないようにするための手でもあるんじゃがな」
意外とえげつなかった。あくまで死霊術士が死霊を使うという状況は変わらないようだ。
「はっ……ヤクモ様、折り入って相談があります。タンポポの事なんです」
幸せそうな顔をしていたマドラーの意識がこちら側にようやく戻って来た。マドラーの言葉に他の2人も何かに気が付いたように目くばせをすると頷き合う。
「しばらくあの事セットで動いてくれませんか?」
「それは構わないけど……何かあったのか?」
3人は気まずそうな顔を見せながら、そこはギルド長であるマドラーがしっかりと説明を始めてくれる。
「死霊術ギルドでも給料は出ているんです。タンポポにもひとりで生きるだけなら貯金もできる程度には給料として支払っています」
それにしては服はぼろぼろでお金に困っていたなんて言う話をしていた。
「タンポポには妹がいまして、その子の生活費としてお金を送っているんです。普段は大丈夫なんですが物入りになるたびにタンポポは生活費を切り詰めるほどに仕送りをして……お金が足りないからと私たちの反対を押し切って冒険者ギルドに登録をしてしまいました」
「いくらわしらでもタンポポの霊と契約して仕事をさせるなんてことはしたくないし、されているのも見るのも嫌じゃからな」
「死霊術だから強さはしれてるけどアタイたちの強さは協力してくれる死霊との掛け算だから、ヤクモがついていってくれるとアタイたちも安心できる。タンポポが冒険者として活動している間はセットで行動してほしい」
そういうことであれば喜んで協力しよう。名もなき洞窟がどれぐらいのレベルのダンジョンなのかはわからないが、そこにいる魔物を単独で倒せる実力がないのであれば冒険者そのものに向いているとは思えない。
「それなら、死霊術士ギルドとして仕事を増やすとか給料をあげるとかして冒険者をやめさせるとかはできなかったのか?」
「痛い所をつきますね……私達の仕事についても少しふれておきますか。私達、昔は死霊術士の仕事は霊を使った密偵が主だったんです。霊は死霊魔術か死霊魔法を使わないと見えないものなのでもってこいというわけですね」
絶対に見つからない密偵……忍者も顔負けな大活躍間違いなしだろう。難点は物理的な攻撃力をほとんど持ち合わせていないということぐらいだろうか。そんなの権力者が絶対に傍に置いておく必須級の職業になるはずだ。
「しかし、いつまでも好き勝手させぬということじゃろう。王宮や権力者は教会にお布施をして霊が近寄れない結界を張ってもらったりしておるんじゃよ。そうでなくても、教会でうっている聖水でしばらく霊は近寄れなくなるがの」
「そうなると今度は死霊術士や死霊魔法使いが物に霊を物に入れ込むなんて方法を編み出し、そうなると教会はお祓いをし始めたんだよ」
どの世界もうまい話というのないようだ。出る杭は打たれるというべきか、対策を講じるのは当たり前か。
「切磋琢磨のおかげで死霊術や死霊魔法が発展していったので一長一短ですね。さて、そんなこんなで今の仕事は密偵ももちろんありますが、主だった仕事は急死した場合の遺言の代弁など霊に関することぐらいしかなくてですね」
「わしらはギルドということで信用を得ているから仕事が来るのじゃがそれも多くはないんじゃよ」
「都会のもう少し大きなギルドなら浮気調査とか身辺調査とかの仕事もくるけど、この辺りは平和すぎてな」
なるほど、死霊術士ギルドはどちらかと言えば会社のような集まりになっているようだ。建物をもって、ギルド長という社長もいる。もしも何かあった時はどこにいって誰に責任を取ってもらえばいいか明らかになっているのは強みだろう。
「それに比べて冒険者ギルドはなんでも屋だから毎日、仕事が山のようにあるんです。少しでも妹に仕送りしたいタンポポを止めるのは難しくて……そういうわけで、ヤクモ様にはタンポポが冒険者として活動しているときはそちらを優先してほしいんです」
「わかった。そうさせてもらう」
どんな仕事をしているか、わかると俺がここですべき手伝いもわかってくる。今後の方針が決まると俺は久しぶりに心の底から安心できた気がしたのだった。
「あらためて、死霊術士ギルドのギルド長をしているエルフのマドラーと申します。ギルドの受付時間は終わっていますが困っている死霊様がいらっしゃるのであればいつ何時だろうと駆けつけますよ!」
「あ、はい。それはありがとうございます……ただ、話しにくいのででていってくれますかね!?」
マドラーと名乗った少女の姿をしたエルフは何を思ったのか、わざわざ俺に重なった状態で何度も深呼吸をしながら自己紹介をした。痛みもなければ不快感もないので放っておいてもいいのだけど……なんとなく色々わかってしまうのだ。身体に通過したものの形やその質感、色などがなぜか見たり、触ったかのようにわかってしまうのだ。その事実を知ってやっているのならこのエルフは相当な痴女ということになる。そして、おそらくこのエルフは解ってやっている……そんな表情をしている。
「ギルド長、ボクちょっと別件でまとめたい論文あるのでヤクモさんの事お願いしてもいいですか?」
え、このやばそうなエルフと2人きりになるのはちょっとごめんこうむりたい。話がなんとなく進まなさそうな未来が見えなくない。
「安心せぇ、わしらもいっしょにおればマドラーも暴走はすることはないはずじゃ」
「あたいもヤクモに興味あるしのこってやるよ」
「あ、ありがとう、本当にありがとう」
「え、えー大丈夫ですよ? リッチー様と寸分の狂いなく同じ座標にいたいだけなので」
暴走した経験があるのか……すでになんか危ない発言が聞こえなくもないがきっと大丈夫なのだろう。うん。タンポポが受付の奥に引っ込んでいくのを見届けてから俺たちはカフェスペースのような場所の椅子に腰掛けていく。エルフがにっこにこのきっらきらの笑顔で此方を見上げていたが、俺はしっかりと空いている席に座らせてもらった。
「えっと……マーレットの言う通り、俺は成仏の方法を探している。できればゼンと会わない方向での成仏を考えているんだけど、何か方法を知っていたら教えてほしい」
「ふむ……霊が成仏以外の方法で消えるのは方法がないわけではない。魔素により霊が分解されていくことは知られておるんじゃが、それが成仏の代わりになるのかは正直なところ不明じゃな」
「最近になって、魂やら霊を傷つけたり消滅させる魔物が出現を始めたとも聞くけど、それも似たようなもんだよな」
「私達はどうしても霊になるべく長く現世に留まってもらうための方法を磨いていますから……その逆を考えるのであれば、生前の心残りを無くすとかになると思います」
俺が一言お願いするだけで三者三葉の答えが返ってくる。決定的な答えはないが、俺の予想通り魔素による分解や魔物によるものは成仏と考えない方がよさそうである。そして、何か心残りと言われても……思い当たる節があるとすれば漫画やライトノベルの続きが読めなくなってしまうことぐらいしかない。
「アタイが知る限り、男の霊の3割ぐらいは童貞を捨てたかったとかそういうのだけど、ヤクモはそういうのどうなの?」
「いやぁ……股間にぶらさっているものがほとんど消えてるんで性欲とかって何言わせてるんだよ! ありえないって」
「大事なことじゃぞ? 何が心残りになっているかわからんのじゃからな。今は少しでも可能性がある意見を無数に出していく方が効率的じゃろう」
「そうですよ。たとえば、エルフに思いっきり研究されてみたいとか欲望がねむっているかもしれないんですから」
なるほど、アカシアのいうことはもっともだがマドラーの意見も否定してはいけないのだろうか? これだけは絶対にないと言い切れる気がする。
「まぁ、わしらは霊の願いを聞いてやりつつ、霊に出来るだけ長く現世に留まってもらって色んな事を手伝ってもらうことが本質じゃ」
「そんなアタイらにお願いをするんならヤクモもわかってるだろ?」
「私達はヤクモ様が成仏する方法を研究します。ヤクモ様には私達の研究の手伝いと私達の仕事の手伝いもしていただきたいです」
アカシア、マーレット、マドラーの3人が俺の方を見てくる。なるほど、タンポポとは違いこの3人は死霊相手の交渉は慣れているように感じる。何気に出してきた条件も死霊術士ギルドが提供する条件は成仏に関する方法の研究で、俺が差し出すものは『研究』の手伝いと仕事の手伝いの2つ。きっと研究には成仏に関する研究はもちろん、それ以外も含まれるのだろう。
「わかった。ただふたつだけ……俺にも一応給料が欲しい。ギルドの仲間として扱ってほしい」
「り、リッチー様とな、仲間……こ、こちらこそよろしくお願い致しますぅ!!」
「マドラー、最後までもたなかったか……一応、魂の交流で決められた事は契約になる。契約を果たさないと、破った方はぼーっとしているタイミングでその約束が無限に頭をよぎるからな」
「地味だけど面倒くさそうな! 死ぬとかではないんだな」
「元々死んでいるやつに死は脅しにならんじゃろ。無意識にその約束を思い続けることになるから強制的に成仏させないようにするための手でもあるんじゃがな」
意外とえげつなかった。あくまで死霊術士が死霊を使うという状況は変わらないようだ。
「はっ……ヤクモ様、折り入って相談があります。タンポポの事なんです」
幸せそうな顔をしていたマドラーの意識がこちら側にようやく戻って来た。マドラーの言葉に他の2人も何かに気が付いたように目くばせをすると頷き合う。
「しばらくあの事セットで動いてくれませんか?」
「それは構わないけど……何かあったのか?」
3人は気まずそうな顔を見せながら、そこはギルド長であるマドラーがしっかりと説明を始めてくれる。
「死霊術ギルドでも給料は出ているんです。タンポポにもひとりで生きるだけなら貯金もできる程度には給料として支払っています」
それにしては服はぼろぼろでお金に困っていたなんて言う話をしていた。
「タンポポには妹がいまして、その子の生活費としてお金を送っているんです。普段は大丈夫なんですが物入りになるたびにタンポポは生活費を切り詰めるほどに仕送りをして……お金が足りないからと私たちの反対を押し切って冒険者ギルドに登録をしてしまいました」
「いくらわしらでもタンポポの霊と契約して仕事をさせるなんてことはしたくないし、されているのも見るのも嫌じゃからな」
「死霊術だから強さはしれてるけどアタイたちの強さは協力してくれる死霊との掛け算だから、ヤクモがついていってくれるとアタイたちも安心できる。タンポポが冒険者として活動している間はセットで行動してほしい」
そういうことであれば喜んで協力しよう。名もなき洞窟がどれぐらいのレベルのダンジョンなのかはわからないが、そこにいる魔物を単独で倒せる実力がないのであれば冒険者そのものに向いているとは思えない。
「それなら、死霊術士ギルドとして仕事を増やすとか給料をあげるとかして冒険者をやめさせるとかはできなかったのか?」
「痛い所をつきますね……私達の仕事についても少しふれておきますか。私達、昔は死霊術士の仕事は霊を使った密偵が主だったんです。霊は死霊魔術か死霊魔法を使わないと見えないものなのでもってこいというわけですね」
絶対に見つからない密偵……忍者も顔負けな大活躍間違いなしだろう。難点は物理的な攻撃力をほとんど持ち合わせていないということぐらいだろうか。そんなの権力者が絶対に傍に置いておく必須級の職業になるはずだ。
「しかし、いつまでも好き勝手させぬということじゃろう。王宮や権力者は教会にお布施をして霊が近寄れない結界を張ってもらったりしておるんじゃよ。そうでなくても、教会でうっている聖水でしばらく霊は近寄れなくなるがの」
「そうなると今度は死霊術士や死霊魔法使いが物に霊を物に入れ込むなんて方法を編み出し、そうなると教会はお祓いをし始めたんだよ」
どの世界もうまい話というのないようだ。出る杭は打たれるというべきか、対策を講じるのは当たり前か。
「切磋琢磨のおかげで死霊術や死霊魔法が発展していったので一長一短ですね。さて、そんなこんなで今の仕事は密偵ももちろんありますが、主だった仕事は急死した場合の遺言の代弁など霊に関することぐらいしかなくてですね」
「わしらはギルドということで信用を得ているから仕事が来るのじゃがそれも多くはないんじゃよ」
「都会のもう少し大きなギルドなら浮気調査とか身辺調査とかの仕事もくるけど、この辺りは平和すぎてな」
なるほど、死霊術士ギルドはどちらかと言えば会社のような集まりになっているようだ。建物をもって、ギルド長という社長もいる。もしも何かあった時はどこにいって誰に責任を取ってもらえばいいか明らかになっているのは強みだろう。
「それに比べて冒険者ギルドはなんでも屋だから毎日、仕事が山のようにあるんです。少しでも妹に仕送りしたいタンポポを止めるのは難しくて……そういうわけで、ヤクモ様にはタンポポが冒険者として活動しているときはそちらを優先してほしいんです」
「わかった。そうさせてもらう」
どんな仕事をしているか、わかると俺がここですべき手伝いもわかってくる。今後の方針が決まると俺は久しぶりに心の底から安心できた気がしたのだった。
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