転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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キャラダイスの町

タンポポと買い物

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・タンポポと買い物
 おそらく髪だと思われるものは大体肩甲骨のあたりまで伸びており、黒い綺麗なストレート。頭には丸みを帯びた可愛い耳が2つついており、あまり動くところは見たことがないがたまにぴくんっと動くときがある。顔は体毛で覆われておりぱっと見ただけでタヌキとわかる程度にはまるっとしている。歯は笑うと鋭い犬歯が見え隠れするのが印象的。服は少しくたびれてぼろぼろなワンピースと今はよく手入れされたローブを身に付けている。ローブでわかりにくいが、少しふくよかでタヌキということもありとても似合っていて可愛らしい。手や手に肉球があるわけではなく動物よりは人間に近い。忘れてならないのはしっぽだ。タヌキが描かれたイラストではよく縞々しっぽにされることがあるがあれは間違いである。たぬきのしっぽは無地で時期にもよるがふわふわもこもこなのだ。むろんタンポポの尻尾もそうである。爺さんとの思い出の山でタヌキをよくみているのでそういう意味でも俺はタンポポにとても親近感を抱いていた。
「それで……何を買うんですか?」
「今回で俺に色々乗せても大丈夫ってことがわかっただろ。だからあらかじめなにか大きなものにタンポポが血をつけて俺が入ってればタンポポが痛い思いをせずに済むならそうしたい」
「え……あ、そ、それならボクが買いますから!」
 太陽が少し傾いているが商店のある通りはまだまだ人通りが多い。タンポポが急に大きな声を発したため驚いている人もちらほらいた。大きな声を出しているのにたった1人で虚空に向かって話しかけているものだから通行人はタンポポをじろじろみてしまう。視線に気が付いてタンポポがこほんと咳払いをする。
「なら、折半にしようか。タンポポも乗ることになるだろうしタンポポが乗りやすいものがいいだろう。絨毯とかどうだ?」
「わ、わかりました。あと絨毯は高いですよ? それに元々が布なので万が一、破れたり燃えたりしたらヤクモさんが傷つく可能性もありますし」
 歩きながら小声でほんのり赤面しながらタンポポは生ける物体の魔術について軽く説明してくれた。霊を物に入れるだけなので基本的には攻撃力や防御力は物品依存になるらしい。壊れかけたものや脆弱なものにいれるとそれだけでも霊にとっては危険になる。さらに、大きなものにはそれなりに血を多く使わないと力が伝わりにくくなるそうで、ベッドの時は見えづらい6箇所に血を付着させていたそうで物がたくさん乗りそうな絨毯となるともっと付けないといけなくなるかもしれないとのことだった。それであればなるべく丈夫であまり大きくないものがいいだろう。
「……箒はダメか?」
「ほうき……箒って掃除につかうあれですか?」
 タンポポがぽかんとした顔で俺をみてくる。どうやらこの世界には魔法使いは箒にのって空を飛ぶという感覚はないようである。
「俺の世界では魔法使いや魔術は空想のものだったけど、空想の中で魔法使いはそれに乗って空を飛んでいることが多くて」
「な、なるほど……ボクの世界にはない感覚です。それなら妹に手紙を出してみます」
「妹?」
「はいっ。妹は手先が器用で色々作ってはお世話になっている親戚のおうちにお金を入れてるんです。箒も作ったことがあるはずなので」
 なるほど……タンポポも仕送りとして妹にお金を送っていたはずなのだが……色々大丈夫なのだろうか。どうにもタンポポは人を信じすぎるところがあるような気がしてならない。心配である。心配があまりにも顔に出ていたせいか、タンポポはすぐにその心配を否定する。
「あ、違いますよ? 仕送りは確かにしていますが、妹はボクと違って風魔法使いの才能があるようなんです。なので専門的な学校に入ってもらうための貯金の為に仕送りしているんです。親戚の人はもっと頼ってほしいと言われてますがさすがに肩身が狭くて」
「あぁ、なるほど……」
 良い教育を受けさせたいというのなら納得だ。その学校がどこにあるのかはわからないが、もし独り暮らしを始めるのであればもっとお金がかかってくるだろう。そうとわかると俺はもっとタンポポに協力したくなってくる。しかし、タンポポの性格的にきっとタダでは受け取らないだろう。これは本格的に俺の計画を実行に移すべきだと感じる。
「な、なので、妹にはヤクモさんさえ良ければ飛び切り固い丈夫な箒を作ってもらうことにします。他になにか欲しい物はありますか?」
「箒についてはそれで大丈夫。欲しいものはあるからつきあってもらっていいか? 俺の成仏に関して俺も試してみたいことがあるんだ」
 俺の言葉にタンポポが真剣な表情になる。
「他のギルドのメンバーとはすでにしっかりと契約を結んでいたみたいですが、ボクからも……ボクの仕事に協力してくれる限り、ボクはヤクモさんが成仏できるように努力は怠らないです」
「よろしく頼む」
 死霊術士としての表情なのだろうきりっとした表情のまま俺にしっかりと宣言をしてくれる。俺は何かがかわったようには感じないが、これでしっかりとタンポポと俺の間にも契約が結ばれたということになるのだろう。
「では、改めて、何を買いますか? やっぱりお墓とかにしますか? お墓は高いので下見だけで良ければいけますよ」
「いや、違う。行くところのめぼしはすでにつけてあるからついてきてくれ」
 普通の霊であれば、お墓を望むことが多いのだろう。しかし、俺はそんなもの望まない。その場合、ゼン神教の墓ということになるだろうし……それはなんか嫌だ。
 真剣な表情を浮かべるタンポポを引き連れて、俺は商店の並ぶところから少し離れた場所にある……酒場に来た。
 タンポポはすごくきょとんっとしている。酒場の主人や早い時間から飲み始めている冒険者たちがタンポポの方をちらっと見る。今回の計画で一番のネックはタンポポの見た目が少し幼く見えるので叩きだされないかだけが心配だったが、いらぬ心配だったらしい。
「空いてる席どこでもいいから座って」
「あ、はい」
 タンポポは頭に『?』を浮かべたまま空いている席に座る。席にメニュー表らしきものはないが、壁に色々貼り付けてあるのでそれがメニューなのだろう。
「タンポポ、俺、文字が読めないから色々教えてくれると助かる」
「え、えっと……今日のおすすめはワイルドボアの香草蒸し、焼きジャガイモが2つついてくるみたいです」
「へぇ、タンポポ食べたことある?」
「な、ないですよ。ワイルドボアでとったスープぐらいしか……すごくおいしいって話はきいたことありますけど」
「飲み物はなにがあるの?」
「エールがありますね。あとは甘酸っぱいアッポジュースがあるみたいです」
「じゃあ、今日のおすすめとアッポジュース頼んでもらえる?」
 タンポポは言われるがまま、給仕を呼んで注文を通していく。頼んだところでようやく我に返ったのかタンポポが疑問を口にした。
「え、えっと、これがヤクモさんの成仏につながるんですか?」
「洞窟でもやってただろ。お供えだよ……こっちの世界の方法で成仏は出来る限りしたくないのなら、俺の世界の方法を試すしかないからね」
「そ、それはヤクモさんの世界の宗教の作法なら成仏ができるかもということですか?」
「かもしれないってだけだけどね」
 もちろん、俺が成仏するために試してみたい手段ということもあるのだが、タンポポにおいしいご飯を食べてほしいというのも大きい、タンポポにおいしいご飯を食べてもらえるそれっぽい理由も作ることができた。なににしろ、折角なので物は試しである。
「俺の世界では毎日、お供え物をしてお先祖さまに感謝を示しながら、あの世にいるご先祖さまに食べてもらうんだ」
「え、あ、でも……あの世ってその、霊は天に登ったらすぐに何らかの命に変わるって」
「俺の所では、天国や地獄みたいなところで次の命まで過ごすことになる。良いことをしたら天国、悪いことをしたら地獄で反省するとかなんとか」
 死んでいるのだが、そこまではいったことがないのでわからない。お供えも本当は肉とかはいけないとかいうが……備えられる本人が肉を頼んだのだからその辺りはきっといいんだろう。うん、たぶん。しっかりそういう勉強をしたわけではないので少し適当だが、大丈夫だろう。
「その……種族関係なく良いことをしたら天国、悪いことをしたら地獄なんでしょうか?」
「そのはずだよ」
 俺が答えるとタンポポは惚けたようにぼーっとしていた。何か思う所があったのかもしれないと思い暫く黙っていたのだが、注文した品がきたことでタンポポもはっと目を覚ましたかのようになり目の前のおいしそうな肉に目を白黒させる。
「あの、ヤクモさん。何かお祈りの作法はありますか?」
「ゆっくり手を合わせて、目を閉じて故人のことをおもうだけでいいよ」
 タンポポは恐る恐る両手を合わせて目を閉じる。
 ……閉じ過ぎではないだろうか。少し長い間、目を閉じているが大丈夫だろうか。
「タンポポ?」
「ひゃいっ!? あ、えっと、これはどうしましょうか?」
「もったいないからタンポポ、食べちゃって。食べるまでが作法だから。食べる時も手を合わせてから『いただきます』がいいかな」
 暮らしの中にしっかり浸透しすぎてどこからどこまでが作法なのかわからないので、とりあえずそこまで教えておくことにした。身体にはまったく変化はないが……
「おいひぃれすぅ」
 涙を流すほどおいしいと言ってくれるタンポポが見れたので良しとするとした。
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