転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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キャラダイスでの大事件

今は(死霊にしては攻撃力以外は)最強で(事実上)無敵の死霊らしい

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・今は(死霊にしては攻撃力以外は)最強で(事実上)無敵の死霊らしい
 笛が鳴り響くとそれが合図だったのか、冒険者ギルドで何回かすれ違ったことのあるやつや、そろいの鎧のようなものを身にまとったやつらが俺たちを取り囲んだ。
 その中で飛び出してきたのは、くすんだ水色の髪色を持ったずいぶん動きやすそうな服装をした男だった。男の手には何も握られていないが、代わりに傷だらけのガントレットが隙のない構えで突き出される。首には金色のネームプレートが下げられている。
「■■■■!」
「■■■!」
 水色の髪を持つ男が叫ぶと周りのやつらがタンポポを指し示す。良くない状況だということはよくわかる。男が少し動いたかと思うと俺の視界から消える。
「きゃん!?」
 その瞬間、ナイフを持っていたタンポポのナイフだけをガントレットで弾き飛ばしたであろう男の拳を振りぬいた後の姿だけが見えた。弾き飛ばしたナイフは宙を舞い、男はそれをキャッチするとエリザベスと俺とをつないだロープを切る。切った後、ナイフを地面に突き刺すと、そのままエリザベスを軽く小突いて気絶させてから、担いでいつの間にか元の位置に戻っている。人間技ではないことをやっているのだということだけ理解できる。そして、男はエリザベスを鎧を着た集団に引き渡すとタンポポに向かって話しかける。1週間以上異世界の言葉に触れているが生活に不必要なものは物覚えが非常に悪く、挨拶程度しか理解ができない俺にとって、男のしゃべりはあまりに早くて長い。
「へっ。ち、違います。色々あって報告が遅れてしまいましたが、その、えぇぇっと……とにかくボクたちは無実ですから!」
「■■■! ■■■■!!!!」
「えぇ……どうしましょう。ヤクモさん、話が通じません」
「タンポポが無理なら俺でも無理だと思うけど……なんていっているんだ?」
「『俺はリッチーと戦えればなんだっていい』と……」
「……なるほど、悪いけど、タンポポ色々説明してやってくれないか」
 リッチーとは俺のことだろう。なるほど、異世界には本当にバトルジャンキーのようなやつがいるんだな。しかし、今の俺にあいつと戦えるだけの戦力はない。
「このリッチーであるヤクモさんは、記憶がないんです。自分が死霊魔法使いなのか、死霊魔術士だったのか、それとも奴隷で実験体にされていたのかも覚えていないのでリッチーの武器である死霊魔法、死霊術を一切使えないんです」
 この設定は死霊術士ギルドの面々で考えた設定である。リッチーというのは分類上は立派な魔物で討伐対象なのだ。リッチーが恐れられている大きな理由は2つあり、ひとつは死霊の特性でもある普通の方法では不可視の身体。もうひとつは死霊魔法もしくは死霊魔術を扱えて、更に様々な魔術を扱える可能性があるということらしい。俺には魔法はもちろん魔術を使う事すらできない。リッチーロードであれば魔素のおかげで物理的に干渉することが可能になるのだが、俺は本当にただそこにいるだけの存在なのだ。
 色々常識外れである俺の存在をある程度、正当化するために作られた設定だったが、その設定を冒険者ギルドのギルド長は信じてくれて俺は討伐しなくてもいいという判断に落ち着いたらしい。
「……■■■! ■■!」
「『うるせぇ、やろう。魔術士もいっしょにこい』とのことですけど。ボクはどうしたら……何にしてもその、ボクお尋ね者みたいになっているみたいで皆がボクのことを狙っているみたいなんですよね」
「逃げて冒険者ギルドに説明しにいくにしても何にしても、他の奴らなら何とかななると思うけど、こいつをどうにかしないと難しいと」
 あいつがあの速さでどれぐらい動けるのかはわからないが、こちらが逃げようとした瞬間に捕まえたり、攻撃することはあいつには容易だろう。
 他の奴らが手を出してきていないのは曲がりなりにも俺がリッチーだと認識されているせいだろう。タンポポや死霊術士ギルドの面々を魔法でだましたり洗脳したりしていると考えている連中もいるとタンポポから聞いたことがある。その説を後押ししているのが、タンポポが空を飛んでいるのを見ているからだとか。魔法にしても魔術にしても安全に空を飛ぶ方法というのは確立されていないのだ。魔法や魔術の研究のために自らを死霊にするリッチーであれば知っていてもおかしくないらしい。
「■■■!! ■■■■!!!!!」
 タンポポと2人で作戦会議を行っていると男が声をあげる。拳を上空に突き出すと拳からものすごい勢いで水が飛び出し周りを濡らす。
「なんだ、いい加減にしろとかそういうことか?」
「えっと……水魔法使いであるということを示したかったらしいです。死霊を傷つけることができる『魔法』を使えると」
「なるほど……タンポポ、とりあえず隙を見て逃げる方向で考えよう。相手を気絶させるとか倒すのは絶対に無理だと思う。俺たちの勝利条件は冒険者ギルドのギルド長へ話を通すことだ」
「わかりました」
 話の分かるギルド長であれば、すぐに捕らえたりせず話を聞いてくれる気がする。タンポポが地面のナイフを引き抜いて、箒である俺を掴む。
 さて、命がけの鬼ごっこの開始である。
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