転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

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不死者との邂逅

神の焦り

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・神の焦り
 こことは違う世界。地球という星、ここには数多くの魂がある。この魂は一部、輪廻転生という特殊なシステムにより運用されいる。魂が熟成され、いずれは仏や神に至るまでの力を手に入れるという地球にしかないシステムだ。このシステムに組み込まれている魂は様々な世界の神が喉から手が出るほど欲しい強力な魂だ。
 ゼン神は年に一度行われる神の集会に初めて招待されたときに、地球の住人を初めて見て自分の世界の住人とは圧倒的に違う魂の強さ、強靭さに驚きを隠すことができなかった。この魂であればどんなスキルを積んでも壊れることはない。魔法もひとつだけではなくいくつも適性をつけることができる。強い人間を作ることができる。そうなれば、自分を悩ます魔族を完全に絶滅させることすらできるはずだ。
 欲しい。絶対に手に入れたい。
 しかし、他の世界から何かを持っていくのはご法度である。持っていけるのは知識のみ……様々な世界の神が交流する際に取り決めたルールである。ゼン神も最初はそれを守るつもりでいた。
 魂に手を加える為に地上に漂っている霊をいち早く自分の元へ送ってもらうための能力をやりくりして付け加え、怪物になってしまった霊に対抗するための鎧や剣も作り出して地上に届けた。輪廻転生のシステムを真似しようとしたが何故だかうまくいかない。此方に来た魂を再利用しようとしたが、どう頑張っても新しく作った方が強い魂ができる。無理矢理人間に転生させたこともあったが、スキルをロクに付与できなかったのであっという間に死んでしまった。そして、その魂は使い物にならなくなってしまったのだ。それ以降はうまく魂を扱えるまでは送られた魂は全て保管することにした。
 いつまでも上手くできず、業を煮やしたゼン神は遂に地球から魂をこちらに引き込む方向で考え始める。絶対に誰にもばれてはいけない。そして、どうせやるなら、一番強い魂を引き入れよう。そして、見つけたのが八雲だった。人間であるのに魂の強さは神を超えている。この魂ならば申し分ない。愛する人間の国王の子に転生させれば魔族を打ち倒し人類に永劫と言える平和をもたらしてくれるに違いない。
 しかし、ゼン神は勘違いしていた。人間は神に従ってくれる……きっと、うまく説明したらこちら側についてくれる。断られることはないだろう……そう思っていたが、実際は断られてしまった。このまま成仏し、輪廻転生のシステムに戻られると神に告げ口をされてしまう。そうなったら、自分の世界が危ない。魔族をどうにかする前に世界そのものが滅んでしまう可能性がある。仕方なく、魂にとって毒である魔素のたっぷり入った洞窟へと八雲を送って、更に魂を食べるという魔族を転移させておいた。こうすればいくら自分よりも強い魂を持っていたとしても数日で消えるだろう。
 そんなことよりも、ゼン神はやるべきことがあるのだ。国王の子の中へいれる魂をどうにかしなければならない。あのままでも魂が入っていない空っぽの状態……死産してしまう。神の力で少しばかり伸ばすとしても限界がある。しかし……八雲というあちらの世界での神や仏に至る一歩手前の魂……あれを見てしまうと自分の作り出す魂は悲しくなるほど見劣りしてしまう。普段なら失敗作とは思わない魂も獣人などの亜人の魂として生を受けさせてしまう。
「どうして、うまくいかないんでしょうか……」
 手塩にかけて育てた人間……それを滅ぼそうとする憎き魔族……ゼン神はただひたすらに人類を愛していた。他のものがどうでもよくなるぐらいに愛していた。その愛をたっぷり込めて魂を作り出す。今回のはいい出来だ。王にいれられるほどではないが、信仰心の高い人の子にしよう。ゼン神は自分を信仰してくれている人の中から一組の夫婦を選んで魂を飛ばす。
「ふぅ……どうにも最近疲れるのが早い気がします」
 信仰心が減っている。祈りが少しずつ減ってきている気がする。愛すべき人間たちからは変わらずの信仰や祈りが届いているが……最近、どうにも亜人からの信仰心や祈りが届いていない気がする。もともとそれほど重要視していなかったが、数は圧倒的に亜人の方が多い。
「少し加護を亜人にもあたえたほうがいいですかね」
 たくさんの食料を獣人たちが作っている地域があったはず、そこの雨を一時的にストップして祈りや信仰が強くなったら雨を降らせてやればいい。そうすれば暫くは何もしなくても祈りや信仰が強くなるはずだ。ゼン神がそんなことを考えているといくつかの魂が上がってくる。
「さすが、私の人間たち……勤勉で素晴らしいですね」
 現世では聖騎士と呼ばれている人たちが今日も魂を自分の所へと送ってきてくれる。今のところ、この送られて来た魂をうまく運用する方法は思いつかないが、愛すべき人間たちが一生懸命送ってきてくれる。これは信仰に他ならない行為。ゼン神はそれを見るだけで疲れが吹き飛びそうなほど幸せな気分になれた。
「いつも通り、保管庫へ……おや?」
 保管庫に空きスペースが増えていた。ついこの間までは魂でいっぱいいっぱいだったはずなのに、消えている。魂が摩耗しない、消滅しない保管庫だというのに消えてしまっている。これは一体どういう事だろう? ゼン神が暫く考え込んだが、とりあえず暫く増設する必要なさそうだとポジティブに考えて送られた魂を保管していく。
『我が神、ゼン神様……今日もたくさんの恵みをありがとうございます。あなたのおかげで今日も健やかに過ごせています』
「あぁ、聖女……もうそんな時間でしたか……」
 聖女……ゼン神が我慢できなくなり、人間との窓口を作り出した。人間が神と直接話すことができる唯一の存在。それが聖女である。ゼン神はこの時間が一日の中で一番楽しみなのだ。
『……はい、ゼン神様……最初にお伝えしなければならないことがあります。新しい、剣と鎧をいただけないでしょうか』
「新しい聖騎士ですか? そういえば、貴族の娘が覚醒したんでしたっけ……人間の成長は早くて喜ばしいです」
『いえ、剣と鎧が……破壊されました』
「なんですって……?」
 神が抱える問題がまたひとつ増えた瞬間だった。
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