転生を断ったら最強無敵の死霊になりました~八雲のゆるゆる復讐譚~

ろっぽんせん

文字の大きさ
41 / 48
不死者との邂逅

近くの森で

しおりを挟む
・近くの森で
 集落に霊がいない。であれば、霊がいそうな森の中へ俺とタンポポは向かうことにした。毎日のように弱肉強食が繰り返されている森の中であれば何らかの霊がいるのではないかと思ったが……
「へんですね。全然いません……怖いぐらいです」
「普通、霊が出てきた方がこわいもんだけど……確かにこれは逆にちょっと怖いな」
 死霊も霊も動物霊すらいない。こうなってくると逆に不気味だ。周りも暗く足元も悪い。
「……なぁ、タンポポ、この辺り、イノシシとかでるんだったか?」
「え? あ、はい、そうですね」
「……動物の声とか聞こえるか?」
 タンポポは一瞬ぽかんっとして何か違和感を覚えていたようだが、俺の質問にハッとして耳を澄ます。頭の上でぴこぴこと耳が動くのは可愛らしくいつまでも見て居られるがタンポポが必死そうなので黙って見守る。
「何にも聞こえませんね……」
「何の木の実かわからないけど、こういうものがある所って大体これを食べる生物が住み着くもんだけどな」
 落ちている木の実……栗のいがいがに包まれたどんぐりのような木の実がそこら中に落ちている。これだけ落ちているのだからこれを餌にする動物のひとつやふたついてもおかしくない。そして、それを食べる肉食動物もいてしかるべきだ。
「危険がないのはいいけど、また別の意味で怖くなってくるな……こういうことができそうな死霊系の怪物っているのか?」
「昔、死霊魔法使いが土地そのものに『ここで息絶えるとゾンビになる』魔法を使って、一夜で町1つがゾンビになり……朝日と共に消え失せた。術士もゾンビになっていたので同時に消え失せ、残った日記で明らかになったという話は読んだことがありますけど」
 なるほど、それなら確かに……集落の1人がゾンビを目撃し、報告すべきか悩んでいる内に森の動物がゾンビになり……朝日と共に消滅という流れなら、かなり無理やりだが、タンポポの妹の話も納得は出来る。
「だとしても身体は残るので……もう少しだけ森の中を歩いてもいいですか?」
「ナイフだけは抜いておいてくれよ……俺は何もできないから」
「はい」
 タンポポは護身用のナイフを抜き身にして、ランプを頼りに慎重に森の中を歩いていく。俺はそんなタンポポの先を歩くようにして段差がないか確かめながら歩く。便利なことにどんなに暗闇でも俺はなんとなく見えることができるから便利だ。
 ふわっ……と、なんとも言えない、心地よい香りが鼻腔をくすぐる。鼻に何かを感じたのはあの臭い聖水以来だったが、あれとは比べ物にならないぐらいにいい匂いだ。おそらくは花の匂いだろう。
「なぁ、タンポポ。何か匂いを感じるか?」
「……??? 特に感じませんけど……ひょっとして、なにか感じてるんですかっ!?」
「聖水とは全く違ういい匂いがする」
 俺が聖水から嫌な臭いを感じたと話した時から、タンポポは聖水と真逆の効果を持つものを作れるのではないかと理論立てていた。タンポポにとって論文はお金を稼ぐ手段以上のものがあるようだと感じていたので何か手伝えるならそれは嬉しい。
「匂いをたどろうと思うがいいか?」
「もちろんですっ!」
 不思議なことにどんなに風が吹いても匂いが飛ぶということもなく。どこからこの匂いが漂ってくるかはっきりとわかる。暫く歩くと不意に開けた場所に出る。
「わぁ……」
 タンポポが短く声をあげる。俺は声をあげることすらできなかった。
 そこには見渡す限り、絨毯のように彼岸花のような真っ赤な華の花畑だった。その上を無数の光る玉……霊が空中を泳いでいた。どちらも数えることが不可能だと思えてしまう量である。しかし、空中を泳いでいる霊のひとつが強くひかっては跡形もなく消えていくところも見ることができた。おそらくあれが消滅というものなのだろう。
「なるほど……タンポポ、この花のことは知ってるか?」
「いえ、こんな花、初めて見ました。とっても綺麗ですね」
「そうか……俺の世界で似たような花があって彼岸花っていうんだ」
 タンポポに限らず、俺がこの世界にはないであろう熟語、単語を教えるとフリーズする。タンポポたちは意味をすり合わせている時間ということだったが、急にそんな状態になるので最初のころはとてもびっくりした。
「彼岸……天国や地獄とはまた違った場所なんですね」
「俺もそんなに詳しくないけど。そんな感じ……俺の世界の彼岸花は夏ぐらいに咲くからたぶん別なんだと思うけど」
 とりあえず、これでひとつ謎は解けた。森の中に霊がいなかったのはここに引き寄せられたからである。解けた所で謎が更に増える。どう考えてもこの数自生するのはおかしい。誰かの手が入っているのは間違いない……しかし、この辺りの出身のタンポポが知らない植物を一体だれが何のためにここに植えたのかということである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...