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不死者との邂逅
降霊術の準備
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・降霊術の準備
彼岸花の花畑を身ながら俺が考え込んでいるとタンポポが口を開く。
「何か、してほしいことはありませんかっ」
タンポポの声に浮遊していた霊が一斉に此方を向く。球体なので大きな変化はないはずなのだが、何故だかこちらを向いたことがわかるのが何だか怖い。暫く霊たちはこちらを向いていたようだが、次第にタンポポに興味を無くして彼岸花の上を再びふよふよと浮遊する。
「うーん……タンポポ、こいつらはこのままにしておこう。ここを作ったやつは彼岸花が霊を引き寄せることは知っていると考えていいだろうし」
「それは……いえ、そ、そうですね」
タンポポとしては浮遊している霊たちを放っておけないかもしれないが、おそらく、この辺りで起こっているであろう死霊の事件の犯人が作ったものと考える方がしっくりくる気がする。
「なので、興味あるかもしれないが、彼岸花を取るのもやめておいてくれ」
「うぐっ……」
霊を何とかしようとしたのが、タンポポのやさしさだとしたら、彼岸花を調べたくなるのは死霊術士としての好奇心からなのだろう。しかし、やっぱりここを管理している人がいるという可能性を考えるとおいそれと摘んでいいものではないだろう。
タンポポが俺の顔と彼岸花の間で視線を彷徨わせる。何とか自分を納得させようとしているのが見て取れる。タンポポはいい年だとは思うのだが、動物要素があるのでどうしても可愛く見えてしまう。何かをしてあげたいという気分にさせるものがあるのだ。
「……か、代わりと言ってはなんだけど、俺が覚えてる範囲の俺の世界の降霊術みたいなのを教えるから」
「っ! 本当ですか! それなら……」
「花畑は急に消えたりしないから、おそらく何かが起こっている事件が片付いたらまたここにこればいいだろう」
「は、はいっ。そ、それじゃあ、戻りましょう」
元気を取り戻したタンポポは尻尾を楽し気に揺らしながら、ランプを片手に来た道を戻っていく。元気になってよかったと思うと同時に俺の世界の降霊術っぽいものをして何も起こらなかったらどうしようと心配になった。
宿の部屋に戻るとタンポポはベッドに座って、俺をじっと見る。もう夜もそこそこ遅い時間のはずなのだが、タンポポは今日、降霊術を教えてもらう気満々なのが見て取れる。その期待に応えないわけにはいかない。
「前に聖騎士の素質を持つ人が俺たちの世界にもいたかもしれないなんて話をしたのは覚えてるか? 俺たちはそういった人たちのことを霊能力者とか超能力者とかそんな感じの名前で呼んだりしていた」
「はい、もちろん。覚えてます」
「こっちの世界にも霊能力者のようなものがいるのであれば、俺の世界の降霊術もひょっとしたら試せるかもしれないと考えていたんだ。俺も専門だったわけじゃないから、手順などは確実ではないけど……それでもいいか?」
「はい、もちろんです」
本で少し聞きかじった程度の情報しかない。それでも手順が簡単なものは覚えている。そういう物から試していけばいいだろう。タンポポもそれを承知して紙とペンを用意する。
タンポポはたくさんの論文を書いており一番の荷物は紙になっている。紙というのは、昔は結構高価なものだったのでは? と思いタンポポに尋ねてみたともあったが、これは魔法で作り出しているから安価らしい。木魔法使いがその技術を発見し木魔法使いは紙を作り出す魔法さえ覚えていれば一生くいっぱぐれることはない……最初にこの技術を見出した魔法使いは一生遊んで暮らせるぐらいのお金を持っているんだとか。
「ヤクモさん?」
「あぁ、うん。そうだ。折角だからその紙を使おう。あと銅貨もあるといい」
「わかりましたっ」
タンポポは財布を取り出すと銅貨を机の上に置く。500円玉より少し小さいぐらい大きさなので丁度いいサイズだろう。
「これから教えるのはこっくりさんと呼ばれる降霊術だ。俺の世界の色んな国で似たような降霊術があって色んな名前があるんだが……俺の国のやつを紹介する」
「こっくり……さん?」
タンポポが惚けた表情になる。あぁ、知識のインストールが始まったのだろう。こうなると俺はどこまで説明していいものなのかわからない。とりあえず、タンポポの様子を暫く伺う。
「ふぅ……動物霊の総称のようですが」
「あぁ、うん、その認識で大丈夫だ。なぜそんな名前なのかはわからないけど……このこっくりさんはそういった霊を銅貨に降ろして質問に答えてもらうというものだ。場合によっては人の霊とかも呼び寄せるかもしれないらしいが……」
「ははぁ……なるほど」
タンポポは目を輝かせながら俺の説明に聞き入ってくれる。こうなってくるとプレッシャーだ。せめて何か起こってほしい。
「うまく伝わるかわからないが……紙を横向きにしてくれ。上の左側に、肯定の意味の『はい』。右側に否定の意味の『いいえ』を書いてくれ。あとはその下に五十音表……あーえっと、なんだ、くそ、面倒だな」
「あ、はい、わかります。伝わってるので大丈夫です」
タンポポはそういうとさらさらと紙を文字で埋めていく。この世界の文字を難十個か書いたところで手を止める。どうやら書き終わったようだ。
「最後に……いや、これは俺が書いた方がいいか。ペンの中に入れてもらえるか?」
「少々お待ちを」
聞きなれた呪文と共にペンに血を付着させて、俺をペンの中へと入れてくれる。俺ははいといいえの間に鳥居のマークを書き入れて下準備はお終いである。さて、マジでなんでもいいから起こってほしい所だが……
彼岸花の花畑を身ながら俺が考え込んでいるとタンポポが口を開く。
「何か、してほしいことはありませんかっ」
タンポポの声に浮遊していた霊が一斉に此方を向く。球体なので大きな変化はないはずなのだが、何故だかこちらを向いたことがわかるのが何だか怖い。暫く霊たちはこちらを向いていたようだが、次第にタンポポに興味を無くして彼岸花の上を再びふよふよと浮遊する。
「うーん……タンポポ、こいつらはこのままにしておこう。ここを作ったやつは彼岸花が霊を引き寄せることは知っていると考えていいだろうし」
「それは……いえ、そ、そうですね」
タンポポとしては浮遊している霊たちを放っておけないかもしれないが、おそらく、この辺りで起こっているであろう死霊の事件の犯人が作ったものと考える方がしっくりくる気がする。
「なので、興味あるかもしれないが、彼岸花を取るのもやめておいてくれ」
「うぐっ……」
霊を何とかしようとしたのが、タンポポのやさしさだとしたら、彼岸花を調べたくなるのは死霊術士としての好奇心からなのだろう。しかし、やっぱりここを管理している人がいるという可能性を考えるとおいそれと摘んでいいものではないだろう。
タンポポが俺の顔と彼岸花の間で視線を彷徨わせる。何とか自分を納得させようとしているのが見て取れる。タンポポはいい年だとは思うのだが、動物要素があるのでどうしても可愛く見えてしまう。何かをしてあげたいという気分にさせるものがあるのだ。
「……か、代わりと言ってはなんだけど、俺が覚えてる範囲の俺の世界の降霊術みたいなのを教えるから」
「っ! 本当ですか! それなら……」
「花畑は急に消えたりしないから、おそらく何かが起こっている事件が片付いたらまたここにこればいいだろう」
「は、はいっ。そ、それじゃあ、戻りましょう」
元気を取り戻したタンポポは尻尾を楽し気に揺らしながら、ランプを片手に来た道を戻っていく。元気になってよかったと思うと同時に俺の世界の降霊術っぽいものをして何も起こらなかったらどうしようと心配になった。
宿の部屋に戻るとタンポポはベッドに座って、俺をじっと見る。もう夜もそこそこ遅い時間のはずなのだが、タンポポは今日、降霊術を教えてもらう気満々なのが見て取れる。その期待に応えないわけにはいかない。
「前に聖騎士の素質を持つ人が俺たちの世界にもいたかもしれないなんて話をしたのは覚えてるか? 俺たちはそういった人たちのことを霊能力者とか超能力者とかそんな感じの名前で呼んだりしていた」
「はい、もちろん。覚えてます」
「こっちの世界にも霊能力者のようなものがいるのであれば、俺の世界の降霊術もひょっとしたら試せるかもしれないと考えていたんだ。俺も専門だったわけじゃないから、手順などは確実ではないけど……それでもいいか?」
「はい、もちろんです」
本で少し聞きかじった程度の情報しかない。それでも手順が簡単なものは覚えている。そういう物から試していけばいいだろう。タンポポもそれを承知して紙とペンを用意する。
タンポポはたくさんの論文を書いており一番の荷物は紙になっている。紙というのは、昔は結構高価なものだったのでは? と思いタンポポに尋ねてみたともあったが、これは魔法で作り出しているから安価らしい。木魔法使いがその技術を発見し木魔法使いは紙を作り出す魔法さえ覚えていれば一生くいっぱぐれることはない……最初にこの技術を見出した魔法使いは一生遊んで暮らせるぐらいのお金を持っているんだとか。
「ヤクモさん?」
「あぁ、うん。そうだ。折角だからその紙を使おう。あと銅貨もあるといい」
「わかりましたっ」
タンポポは財布を取り出すと銅貨を机の上に置く。500円玉より少し小さいぐらい大きさなので丁度いいサイズだろう。
「これから教えるのはこっくりさんと呼ばれる降霊術だ。俺の世界の色んな国で似たような降霊術があって色んな名前があるんだが……俺の国のやつを紹介する」
「こっくり……さん?」
タンポポが惚けた表情になる。あぁ、知識のインストールが始まったのだろう。こうなると俺はどこまで説明していいものなのかわからない。とりあえず、タンポポの様子を暫く伺う。
「ふぅ……動物霊の総称のようですが」
「あぁ、うん、その認識で大丈夫だ。なぜそんな名前なのかはわからないけど……このこっくりさんはそういった霊を銅貨に降ろして質問に答えてもらうというものだ。場合によっては人の霊とかも呼び寄せるかもしれないらしいが……」
「ははぁ……なるほど」
タンポポは目を輝かせながら俺の説明に聞き入ってくれる。こうなってくるとプレッシャーだ。せめて何か起こってほしい。
「うまく伝わるかわからないが……紙を横向きにしてくれ。上の左側に、肯定の意味の『はい』。右側に否定の意味の『いいえ』を書いてくれ。あとはその下に五十音表……あーえっと、なんだ、くそ、面倒だな」
「あ、はい、わかります。伝わってるので大丈夫です」
タンポポはそういうとさらさらと紙を文字で埋めていく。この世界の文字を難十個か書いたところで手を止める。どうやら書き終わったようだ。
「最後に……いや、これは俺が書いた方がいいか。ペンの中に入れてもらえるか?」
「少々お待ちを」
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