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12.事件
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――――川岸。
「こちらです」
「これは酷い……」
第三騎士団員の案内で引き揚げ現場に辿り着くと、分厚い麻のシートに寝かされた水死体が二体。
皆で死者の冥福を祈ったあと、調べていくのだが、損壊が激しく人物の特定が出来そうにない……
「何か手掛かりになりそうな物はなかったか?」
「はい……何も……」
分かるのは体格から推測して、男と女であることくらい……
「ヴェル、言った通りだろ。女の方は生皮を全て剥がされてるし、男の方は酷い拷問を受けて、頭が原形を留めてねえ……」
俺は気になったことをソフィーに告げた。
「気にならないか?」
「何がだよ?」
「壊し方が上手すぎる……素人でここまで出来るはずがない!」
「た……確かに……」
衝動的に傷付けたものでなく、拷問に手慣れた者であろうと推察される。
まだ、早い内から打ち上げられたらしく、水を含んで膨張していない。俺の頭の中で、この二人の体格と拷問の手口から、イライザ様を引き渡した男の顔を思い浮かんだ……
「まさか……そんなことが……」
「おい……ヴェル、どうしたんだよ。そんな深刻な顔して?」
「お前、護衛隊長のアランは知ってるよな?」
「あのいけ好かねえ、サド蛇男か?」
「ああ、そうだ。俺は奴に仕方なく、逃亡されたイライザ様と従者の身柄を引き渡した」
「ちょ! 待てよ……あのサド野郎がやったってのかよ?」
「声がデカい!」
「済まねえ……だが、それがもし本当なら……」
「イライザ様はそこの……」
俺に釣られ、ソフィーも死体を見ていた。
ゴクリ……
俺達は見るも無惨な亡骸を見て、溜まった唾液を嚥下する。安置所に移送し、事の次第をヘルマン卿に報告……その日は帰宅したのだった。
――――自宅。
俺の推測が正しかったら、目の前で俺に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている恋人はそんな危険な王子の婚約者だったのかと思うとゾッとする。
ギーコ……ギーコ……
仕事の内容だから、アーシャに話そうか、話すまいか逡巡し、椅子を足を伸ばして、後ろに傾け、また元に戻す。そんなことをしていると気になったようで……
「どうなさいました?」
「いや……実はな……」
猟奇的犯行でどうしようか迷ったが、アーシャもこの一件には関わりがある……話しておく必要があると思い、例の水死体がイライザ様とその従者ではないか、との推測を話したのだった。
☆
ヴェルから出た言葉に驚きを隠せませんでした。
「まさかそんな!?」
「こう言っては何だが、イライザ様は因果応報だ。アーシャから地位も名誉も……全てを奪った上に誘拐までしたんだから……」
「はい……でも、イライザが居なければ、私はヘンリーの下から抜け出せず、こうしてヴェルに愛されることもなかったんです」
「あんなことまでされたのに……アーシャは優しいな」
大きな温かい手で髪を撫でられ、落ち着きます……震える私の身体を後ろから抱き締め、仰いました。
「大丈夫だ。アーシャには俺がついている」
逞しい胸板が温かく、震える身体を癒やしてくれます。
「ヴェル……イライザの魂に私も祈りたいの……」
「分かった。だが、イライザ様かどうかの確証も持てなく、共同墓地に埋葬することになっている。明日、一緒に行こう」
「はい!」
――――翌日。
ヴェルとの待ち合わせの時間まで、まだ早いので私はどうしても確かめたくなって、実家に戻っていました。
「アーシャ!」
「お母様!」
久々の実家でしたが、お母様もお元気そうで何よりです。
「どう、婚約者さんは?」
「はい、とても良くして下さいます」
「良かったわ~、もうね、私達……アーシャがどうなるかと思って心配で心配で……」
「アーシャ、お帰り!」
「お父様! お元気そうで……」
「まあ、何とかな。逢いたかったぞ」
両親から抱き締められ、束の間の親子水要らずで過ごさせて頂いたのです。
「そうか、ヴェルナー殿に溺愛されているか、良かった良かった。では、孫の顔を見れるのを期待でもしておこうかな」
「あなた、気が早過ぎますよ、うふふ……」
久し振りの美味しいお茶を飲み終わる頃に両親にお願いをしました。
「お父様、お母様……今日、こちらへ参りましたのはイライザ様にお会い出来るよう取り計らって頂きたいのです」
今の私では一人で王宮に出入りすることもままならなかったから……
「こちらです」
「これは酷い……」
第三騎士団員の案内で引き揚げ現場に辿り着くと、分厚い麻のシートに寝かされた水死体が二体。
皆で死者の冥福を祈ったあと、調べていくのだが、損壊が激しく人物の特定が出来そうにない……
「何か手掛かりになりそうな物はなかったか?」
「はい……何も……」
分かるのは体格から推測して、男と女であることくらい……
「ヴェル、言った通りだろ。女の方は生皮を全て剥がされてるし、男の方は酷い拷問を受けて、頭が原形を留めてねえ……」
俺は気になったことをソフィーに告げた。
「気にならないか?」
「何がだよ?」
「壊し方が上手すぎる……素人でここまで出来るはずがない!」
「た……確かに……」
衝動的に傷付けたものでなく、拷問に手慣れた者であろうと推察される。
まだ、早い内から打ち上げられたらしく、水を含んで膨張していない。俺の頭の中で、この二人の体格と拷問の手口から、イライザ様を引き渡した男の顔を思い浮かんだ……
「まさか……そんなことが……」
「おい……ヴェル、どうしたんだよ。そんな深刻な顔して?」
「お前、護衛隊長のアランは知ってるよな?」
「あのいけ好かねえ、サド蛇男か?」
「ああ、そうだ。俺は奴に仕方なく、逃亡されたイライザ様と従者の身柄を引き渡した」
「ちょ! 待てよ……あのサド野郎がやったってのかよ?」
「声がデカい!」
「済まねえ……だが、それがもし本当なら……」
「イライザ様はそこの……」
俺に釣られ、ソフィーも死体を見ていた。
ゴクリ……
俺達は見るも無惨な亡骸を見て、溜まった唾液を嚥下する。安置所に移送し、事の次第をヘルマン卿に報告……その日は帰宅したのだった。
――――自宅。
俺の推測が正しかったら、目の前で俺に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている恋人はそんな危険な王子の婚約者だったのかと思うとゾッとする。
ギーコ……ギーコ……
仕事の内容だから、アーシャに話そうか、話すまいか逡巡し、椅子を足を伸ばして、後ろに傾け、また元に戻す。そんなことをしていると気になったようで……
「どうなさいました?」
「いや……実はな……」
猟奇的犯行でどうしようか迷ったが、アーシャもこの一件には関わりがある……話しておく必要があると思い、例の水死体がイライザ様とその従者ではないか、との推測を話したのだった。
☆
ヴェルから出た言葉に驚きを隠せませんでした。
「まさかそんな!?」
「こう言っては何だが、イライザ様は因果応報だ。アーシャから地位も名誉も……全てを奪った上に誘拐までしたんだから……」
「はい……でも、イライザが居なければ、私はヘンリーの下から抜け出せず、こうしてヴェルに愛されることもなかったんです」
「あんなことまでされたのに……アーシャは優しいな」
大きな温かい手で髪を撫でられ、落ち着きます……震える私の身体を後ろから抱き締め、仰いました。
「大丈夫だ。アーシャには俺がついている」
逞しい胸板が温かく、震える身体を癒やしてくれます。
「ヴェル……イライザの魂に私も祈りたいの……」
「分かった。だが、イライザ様かどうかの確証も持てなく、共同墓地に埋葬することになっている。明日、一緒に行こう」
「はい!」
――――翌日。
ヴェルとの待ち合わせの時間まで、まだ早いので私はどうしても確かめたくなって、実家に戻っていました。
「アーシャ!」
「お母様!」
久々の実家でしたが、お母様もお元気そうで何よりです。
「どう、婚約者さんは?」
「はい、とても良くして下さいます」
「良かったわ~、もうね、私達……アーシャがどうなるかと思って心配で心配で……」
「アーシャ、お帰り!」
「お父様! お元気そうで……」
「まあ、何とかな。逢いたかったぞ」
両親から抱き締められ、束の間の親子水要らずで過ごさせて頂いたのです。
「そうか、ヴェルナー殿に溺愛されているか、良かった良かった。では、孫の顔を見れるのを期待でもしておこうかな」
「あなた、気が早過ぎますよ、うふふ……」
久し振りの美味しいお茶を飲み終わる頃に両親にお願いをしました。
「お父様、お母様……今日、こちらへ参りましたのはイライザ様にお会い出来るよう取り計らって頂きたいのです」
今の私では一人で王宮に出入りすることもままならなかったから……
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