29 / 38
29.利用
――――小さな離宮。
俺は以前、ジュール様とその母上が住まれていたという使われずに放置されていた離宮に来ていた。急造の鉄格子が備えつけられており……
その中にヘンリー王子……いや元王子と言った方がいいか……
俺は彼に王国での変化を告げる……
「バカな!!! 俺をこんな兎小屋に幽閉した上に、廃嫡して、妾腹のジュールを王太子にするだと!?」
質素な机を両手で叩き、憤慨している。
「父上は正気の沙汰か!!!」
俺はあなたこそ、正気で数々の蛮行を繰り返したのかと言ってやりたかったが……
ジュール様がアランの尋問と裁判は行ったのは陛下のご裁可によるもので、ヘンリー王子を廃嫡し、ジュール様を王太子に据えた上での初仕事だった。
だが、幽閉されたことに気落ちしたのか、急に弱気になり、俺にアーシャとの面会を求めてくる。
「頼む……このような生活がずっと続いたら、地獄だ……せめて、アーシャと会わせて欲しい……」
「分かりました、アーシャに掛け合ってみます。但し、お会いするかどうかは彼女が決めることですので確約は出来ません」
「それで構わない……頼む……」
判断に迷ったがアーシャ自身がこの男と決別する機会があるなら、と思い話を持っていくことにしたのだった。
☆
ヴェルからヘンリーが私と会いたがっていると聞いたときは驚きました。少し躊躇ったというのが正直なところ……
でも、ヴェルの言った決別する機会にはちょうど良かったと思い、話を受けたのです。
イライザや若い女の子達の無念を伝えるために……
鉄格子を隔て、私はかつての婚約者だったヘンリーと対面していました。自信満々だった形は潜め、弱々しく感じた彼の姿。
「なあ、アーシャ……俺は間違っていた……イライザに騙されたんだ。お前という良き婚約者を蔑ろにしたことを謝罪したい」
「私よりもイライザに……彼女の魂を弔ってあげて下さい」
「ああ……そんなことくらい幾らでもしてやるから」
「必ずですよ!」
「それよりもだ、俺をここから出すよう皆に働き掛けてくれ、なあ、頼むよ……男と女の仲になった間柄だろう?」
「それを断ち切ったのはあなたです……もう、お話しすることなんて……」
「待て! いや、待ってくれ……もし、私が軟禁を解かれ、王太子に復帰した暁には望む物は何でもやろう。いや、俺とやり直し、王妃の地位もくれてやってもいい!」
「私は別にそんな望む物なんて……」
もう、ヘンリーと過ごす苦痛には堪えられない!
「そうか? 侯爵令嬢だったお前だ。騎士如きの給金では贅沢な暮らしどころか満足のいく食事すら出来まい」
私の着ている綿で出来た街娘のような庶民的な衣装を見て、そんなことを言ってきます。
「どうだ? 悪い話ではないだろう?」
鉄格子の間から腕を伸ばし、私に触れようとしてきました。私は席を立ち、拒絶します。
「ヘンリー、もう諦めて! 臣下のアランには極刑が下るそうよ。あなたの命だけは助かるんだから……それに比べれば……」
「何故だ、アーシャ! 臣下が一人や二人死のうが知ったことではない。それよりもだ、この俺がお前にわざわざ頭を下げてやっているのだぞ?」
イライザのときもそうでしたがヘンリーには私の言葉は届きそうにありません。それどころか……
「それにあんな一介の騎士と添い遂げて、何が得られるというのだ! お前さえ、偽証してくれれば、王太子に返り咲くことも夢ではない!」
ヴェルのことまで悪く言うなんて……それに偽証したことをあとで掘り返し、イライザのように私を……
「なあ、頼む、この通りだ……」
せがむ彼に私は強く首を横に振りました。この鉄格子がなければ、彼の頬を思い切り、叩いてやりたい……
「ヘンリー……分かったわ。もっと顔を近づけて……」
「何だ? 格子越しにキスでもしたいのか? それぐらいなら、よかろう。幾らでもしてやるぞ」
ブッ!!!
でも、檻に阻まれ、出来ません。だから、思い切り唾を吐きかけたのです。イライザや犠牲になった若い子達の無念も込めて。
「何をするっ!?」
「ありがとう、ヘンリー。あなたのお陰で本当に私を愛してくれる人を見つけられたの。もう会うこともないでしょう、さようなら……」
もしかしたら、ヘンリーが心を入れ替えてくれる。そんな淡い希望を持った私が馬鹿でした。
「アーシャ! こんなことをして、どうなるか分かっているだろうな! 楽には殺さんぞ!!!」
話していて、全く反省の色が見えなかった彼の下から踵を返し、離宮をあとにします。離宮を出るとヴェルが待っててくれていて……
「終わったのか?」
「はい! ヘンリーはこのまま幽閉されている方がこの国にとって一番だと思います」
「だな」
ヴェルは私の言葉にそう一言返事したのでした。
「じゃあ、帰ろう」
差し出された手……私は彼と手を繋ぎ、家路に就きます。
しかし、数日後に事件が起こるなんて予想もしませんでした。
俺は以前、ジュール様とその母上が住まれていたという使われずに放置されていた離宮に来ていた。急造の鉄格子が備えつけられており……
その中にヘンリー王子……いや元王子と言った方がいいか……
俺は彼に王国での変化を告げる……
「バカな!!! 俺をこんな兎小屋に幽閉した上に、廃嫡して、妾腹のジュールを王太子にするだと!?」
質素な机を両手で叩き、憤慨している。
「父上は正気の沙汰か!!!」
俺はあなたこそ、正気で数々の蛮行を繰り返したのかと言ってやりたかったが……
ジュール様がアランの尋問と裁判は行ったのは陛下のご裁可によるもので、ヘンリー王子を廃嫡し、ジュール様を王太子に据えた上での初仕事だった。
だが、幽閉されたことに気落ちしたのか、急に弱気になり、俺にアーシャとの面会を求めてくる。
「頼む……このような生活がずっと続いたら、地獄だ……せめて、アーシャと会わせて欲しい……」
「分かりました、アーシャに掛け合ってみます。但し、お会いするかどうかは彼女が決めることですので確約は出来ません」
「それで構わない……頼む……」
判断に迷ったがアーシャ自身がこの男と決別する機会があるなら、と思い話を持っていくことにしたのだった。
☆
ヴェルからヘンリーが私と会いたがっていると聞いたときは驚きました。少し躊躇ったというのが正直なところ……
でも、ヴェルの言った決別する機会にはちょうど良かったと思い、話を受けたのです。
イライザや若い女の子達の無念を伝えるために……
鉄格子を隔て、私はかつての婚約者だったヘンリーと対面していました。自信満々だった形は潜め、弱々しく感じた彼の姿。
「なあ、アーシャ……俺は間違っていた……イライザに騙されたんだ。お前という良き婚約者を蔑ろにしたことを謝罪したい」
「私よりもイライザに……彼女の魂を弔ってあげて下さい」
「ああ……そんなことくらい幾らでもしてやるから」
「必ずですよ!」
「それよりもだ、俺をここから出すよう皆に働き掛けてくれ、なあ、頼むよ……男と女の仲になった間柄だろう?」
「それを断ち切ったのはあなたです……もう、お話しすることなんて……」
「待て! いや、待ってくれ……もし、私が軟禁を解かれ、王太子に復帰した暁には望む物は何でもやろう。いや、俺とやり直し、王妃の地位もくれてやってもいい!」
「私は別にそんな望む物なんて……」
もう、ヘンリーと過ごす苦痛には堪えられない!
「そうか? 侯爵令嬢だったお前だ。騎士如きの給金では贅沢な暮らしどころか満足のいく食事すら出来まい」
私の着ている綿で出来た街娘のような庶民的な衣装を見て、そんなことを言ってきます。
「どうだ? 悪い話ではないだろう?」
鉄格子の間から腕を伸ばし、私に触れようとしてきました。私は席を立ち、拒絶します。
「ヘンリー、もう諦めて! 臣下のアランには極刑が下るそうよ。あなたの命だけは助かるんだから……それに比べれば……」
「何故だ、アーシャ! 臣下が一人や二人死のうが知ったことではない。それよりもだ、この俺がお前にわざわざ頭を下げてやっているのだぞ?」
イライザのときもそうでしたがヘンリーには私の言葉は届きそうにありません。それどころか……
「それにあんな一介の騎士と添い遂げて、何が得られるというのだ! お前さえ、偽証してくれれば、王太子に返り咲くことも夢ではない!」
ヴェルのことまで悪く言うなんて……それに偽証したことをあとで掘り返し、イライザのように私を……
「なあ、頼む、この通りだ……」
せがむ彼に私は強く首を横に振りました。この鉄格子がなければ、彼の頬を思い切り、叩いてやりたい……
「ヘンリー……分かったわ。もっと顔を近づけて……」
「何だ? 格子越しにキスでもしたいのか? それぐらいなら、よかろう。幾らでもしてやるぞ」
ブッ!!!
でも、檻に阻まれ、出来ません。だから、思い切り唾を吐きかけたのです。イライザや犠牲になった若い子達の無念も込めて。
「何をするっ!?」
「ありがとう、ヘンリー。あなたのお陰で本当に私を愛してくれる人を見つけられたの。もう会うこともないでしょう、さようなら……」
もしかしたら、ヘンリーが心を入れ替えてくれる。そんな淡い希望を持った私が馬鹿でした。
「アーシャ! こんなことをして、どうなるか分かっているだろうな! 楽には殺さんぞ!!!」
話していて、全く反省の色が見えなかった彼の下から踵を返し、離宮をあとにします。離宮を出るとヴェルが待っててくれていて……
「終わったのか?」
「はい! ヘンリーはこのまま幽閉されている方がこの国にとって一番だと思います」
「だな」
ヴェルは私の言葉にそう一言返事したのでした。
「じゃあ、帰ろう」
差し出された手……私は彼と手を繋ぎ、家路に就きます。
しかし、数日後に事件が起こるなんて予想もしませんでした。
あなたにおすすめの小説
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!