絶望の井戸

ちくわ

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絶望の井戸

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絶望の井戸

僕は、山井第三高校に在学中の山崎 蓮 (やまざきれん)。どこにでもいる高校1年生のいじめられっ子。いつもいつも、毎日毎日、虐められる。
あ、今日も学校だ、行かなきゃ。

「お~い "やまざこ"く~ん遊ぼうよ~」
こいつは 木村勇気(きむらゆうき)。クラスの全権を入学と同時に掌握した、僕を虐めてくる主犯格の男。こいつにずーっと やまざこ って呼ばれるせいで、皆に本当にやまざこっていう名前だと勘違いされる。
「な、なに?木村くん」
「俺とゲームしようぜ~」
「ゲ、ゲーム?」
「そうそう、ゲームゲーム。ほら、そこに立てよ」
僕は弱いから反抗出来ない。そこに立てばどうせ殴られる。でも立つしかないんだ。
「さぁ~どーっちかなぁーー?」

…顔に力を入れておこう。
「せーのっ」
僕の腹を思いっきり殴ってきた。今日は腹スタートかよ。
あ、吐いちゃった。
「な~に吐いてんだよやまざこー。ほら早く立てよ」
「ご、ごめん」


…今、何回目だろう。30かな?いや35?忘れちゃった。
「つまんねぇ~もうやめだやめ、早くパン買ってこい」
「わ、わわかった。」
「5分な~」

いつもこうだ。

「か、かってきたよ!」
「おせぇよやまざこ」
また殴られた。もう慣れちゃったよ。
「ちょっと~‪笑、やまざこが可哀想でしょ~笑」
「あいつは俺と 友達 だから良いんだよ笑」
「も~もっと優しくしなよ~笑」
「俺は十分優しいだろ?笑」

こいつは新山花織 (にいやまかおり)。木村に加担するクッソ野郎だ。

「ほら、遅れたから、全部脱いでそこ立てよ。」
「…わ、わかった。」
こうするしかない。これしか僕には出来ない。
「うわ、気持ちわりぃ笑笑」
「ねぇーキモイー‪笑」

…新山、なんか今酷い提案しなかったか?
 
『こいつと並べて立たせようよ笑』

僕以外を巻き込むなよ。やめてくれ。

「ぼ、ぼくも?」
「あたりめぇだろブタ。」

こいつは俺の唯一のいじめられ友達の桜井智洋(さくらいともひろ)。まだこいつがいるから僕は耐えられる部分もあるんだ。

「2人そろってキモーい‪笑」
「写真撮るから動くなよ?笑」

こいつらの写真フォルダーには僕たちの写真がいくつ入ってるんだろう。
「誰か油性ペン持ってきてくれ~」
木村は僕たちの身体に色々書きまくった。
「うわぁ…可哀想…」「酷いね…でも…」
『仕方ないよね。』『うん、仕方ない。』
「止めたら俺らまでやられるぞ。」「無視無視。」
「やられる側にも原因はある。」
こいつらも本当にクソだ。クソしかいない。いっその事全員殺してやろうかな。
「…そうだ、いいこと思いついたぞ笑」
「お前ら、今日1日その姿のまんま家帰るまでいろよ笑」
「…そ、それは…」
「え、なに?なんか文句あんの?」
「な、ないで…」
すーぐこいつは殴る。あームカつく。
「ほら席つけー授業始めるぞー」
「…おいそこの2人、なんで服きてないんだ。」

『後で反省文だからな』
…クソ教師が。
 
絶対復讐してやる…筋トレ…イメトレ…できること全部やってやるからな。


3ヶ月後
「…もうやめてくれよ。木村くん」
「…あ?なんつったいま?」
「…やめろって。」
「うるせぇなぁ!下僕の分際で」
「…!」
結果はもう分かりきってた。こんなちっぽけな努力で木村には勝てないってこと。
「これからもずーーっと俺の下僕だかんなぁ?やまざこ~」
「……」
「…まーたいいこと思いついちった。俺ってもしかして天才?笑」
「よぉーし、やまざことブタで殴りあえよ笑やまざこが勝ったら下僕から解放して、ブタを下僕にする側にしてやんよ笑」
「…桜井が勝ったら?」
「…ん~じゃあやまざこが屋上からのスカイダイビングで笑笑」

悪魔が…

「ほら早くやれよ~」
「…ご、ごめん桜井、やるしかない。」
「…そうだね。」
僕は桜井を思いっきり殴った。殴って殴って殴り続けた。桜井は反撃しなかった。リスクを考えたのか。
「勝者は~おおざこ~~」
「…でもな~んか興ざめだなぁ~」
「やっぱりさっきの無しで‪笑笑いつも通りお前らは俺の下僕だ笑笑」

分かっていたことなのに、なんで僕はこんなにも絶望してるんだ。

「んでブタァ、お前さっきわざと反撃しなかったよなぁ?放課後屋上来いよ笑」
…すまんな桜井。

翌日、信じられない出来事が起きた。
木村が死んだ。どうやら警察によると、屋上で喧嘩中に「不慮の事故」で屋上から落ちてしまったらしい。不慮の事故で。桜井は、きっと木村とやり合ったんだろうな。これしかできることなかったんだろう。

それから、ずっと他の木村の取り巻き達は学校を休んでいる。


「木村君、なんで死んだか分かる?」「屋上から事故で落ちて死んだって話だぞ?」「あれ実は…」
「やまざこ君がやったらしいよ。桜井君に木村を殺すよう命令したらしいよ。」「…マジで?」


僕の根も葉もない噂が流れ始めた。僕が殺しただの、殺すよう仕向けただの。これが木村のおかげなのか桜井のおかげなのかは知らない。
「…や、やまざこ君、いつも止めたりできなくてごめんね。」「私も悪かったわ。」「俺もごめん。」
皆、僕や桜井に平謝りだ。責任を感じているのか、どうかは分からない。でも止めたくても止められない気持ちは十分理解出来る。

だからなんだ?こいつらがやってたことは木村と同等レベルだろ。許す必要性なんてない。

「…お前らなんなんだよ…」
「……」


家に帰ってきて、僕はシャワーに入った。毎日毎日油性ペンで身体に書かれまくったから後が残って全然消えない。

僕には父さんが居ない。僕が産まれる前に不慮の事故で他界してしまったらしい。母も自暴自棄になりほぼ育児放棄のようなものだ。

僕はベッドに入った。
「…自己中な王様がいなくなった途端にその下僕に縋って自分をよく見せようとする。クソ集団じゃねぇか。」
「…もういい、絶対に許さない。僕が……」
『…俺が"木村"になる。やられたこと全部やり返してやる。』
俺は木村と背丈も同じくらいだったが、筋トレのおかげで木村に少し体格が似てきて居た。これからも継続し続けよう。

そのまま俺は寝た。

次の日、学校についた。王様が居なくなったクラスは静かだった。その静寂をに、俺は嫌気がさした。

俺は教壇に立っておもむろに話し始めた。
「…俺がいっつもいじめられてるのに、見て見ぬふりしてた奴手上げろ~」
皆戸惑いながらも手を挙げ始めた。
「じゃあ俺がいじめられてるのに、止めてくれなかった奴手上げろ~」
皆手を挙げた。
「…最後に、俺が"木村"になっても良いと思う人~」
今度は誰も手をあげない。戸惑いからなのか、俺が何を言ってるか分からないからなのか。ただ1人を除き。

「…俺が"木村"になっても良いのか?桜井」
「いいと思う。僕達はいじめられてたんだ。この位神様も許してくれるよ。」
「…そうか。ありがとうな桜井」

俺は桜井のそばに寄ると、思いっきり桜井の肩を蹴り飛ばした。桜井は身長が低いから蹴りやすくて助かる。

「…お前だって俺の事、守ってくれなかったよなぁ?桜井。何様のつもりだお前。」

全員クソだ。こいつらクソだ。何もかもクソだ。

それから俺は3日間、桜井を実験体にし、様々ないじめをクラス全員に見せつけた。

「…早くしろよ、こっちは待ってんだよ。」
「ご、ごめんやまざ…山崎君。」
「…お前今、やまざこ って言いかけたな?」
「いやいや!言いかけてないよ!」
「いーや言いかけた。ほら、そこ立てよ。」
「…わ、わかった。」
俺は桜井を殴り続けた。木村が俺にしたように。

その次の日から、桜井は学校に来なくなった。

「お前ら誰でも良いからパン買ってこいよ」
「……」
「…ほら早くしろよ。」
1人が立ち上がりダッシュで買いに行った。
「5分でなー!笑」
次のカモはあいつか。つまんねぇ。
ああいうやつも、しっかりいじめ抜いた。

ある日、1人俺に賛同して、一緒にいじめようと言ってきた奴が居た。藤城直倫(ふじきなおみち)だ。こいつはボンボン、親の金で威張ってずーーっと木村の後ろに引っ付いてたヒルみたいな奴だ。
「なんで俺がお前と一緒に行動しなきゃ行けねえんだよ。そうやって強い奴の近くばっかりいやがって…
自分の贖罪を無かったことにしてぇのか?笑」
「ち、ちがうよ!君とただこのクソ達を懲らしめたいだけだよ!」
「だからお前もそのクソだろ。調子乗ってんなよザコが笑」
俺は藤城の腹を蹴りまくった。いじめられてたおかげでどこが痛いか、どこが痛くないかはハッキリ分かる。

つまんねぇつまんねぇつまんねぇ。全部つまんねぇ。
この学校もクソだ。何も面白くない。


俺はとち狂ってるのだろう。転校を決めた。金はクラスの色んなやつから巻き上げた。俺へのいじめに加担してたんだから、誰にも言えるわけない。言ったら自分も悪く言われるから。自分さえ良ければそれで良い。ほんとクソだな。

そして俺は転校した。転校したあとの事は詳しく知らないが、1人がまた王に成り上がったらしい。つまんねぇ王が。




「…ここが新しい高校、"月極高校"か。」
おもしれぇやつ、いるかな。
高2になった俺は、もういじめられてた面影はなく、完全にいじめっ子と化していた。
「…山崎です。よろしく、ゴミ共。」

「あいつ、面白ぇな。」「……あぁ。」


俺はこの学校に来て1ヶ月たった。1人面白い奴を見つけた。『田中優希』だ。こいつは面白ぇ。誰にも興味を示さず、気に入った奴にだけいじめるサイコパス。そして木村と下の名前の読み方が同じ。こんな奴を待ってた。

俺は木村を求めているのか…?
 

俺は、壊れてしまったのだろうか。思考が完全にいじめっ子になっている。

「なぁ田中、優希って呼んでも良いか?」
「勝手にしろよ」
やっぱり面白ぇなこいつ。

ある日、俺は優希がいじめている奴をいじめてみた。あいつも俺に興味を示すかもしれない。

「こいつ、ずーっと外ばっか見てんじゃん笑笑」
「ほんとだ笑、友達居ねえのかな笑笑」
ある1人が賛同してきた。優希の取り巻きだ。
「……」
「何とか言えよ笑」
「……」
「こいつなんも言わないってさ~、悠希。」
優希は終始真顔だ。

「なあなあ悠希、こいつ全然喋らないぜ?どうする?」

「…そうだな。なんで喋らないんだろうな笑」
優希は苦笑した。俺は心底嬉しかった。優希が俺に賛同してくれる事に。

それから俺は優希とまあまあ打ち解けた。正確に言えば、話をしてくれるようになった。相変わらず素っ気ないが。

ある日、俺達がいじめてる女が学校を休みやがった。面白くねぇ。クソが。
優希もつまんねぇみたいだ。ずっと女がいた所をチラチラ見ている。


ある日、クソ教師が何か言い始めた。よく聞いてなかったが、女が転校したらしい。つまんねぇつまんねぇつまんねぇ何してんだよ。

「…おい優希、大丈夫か?」
「黙れよ。」
「…あぁ、わかった。」

そして優希も学校を辞めた。俺は声をかけることが出来なかった。そしてつい最近わかったことだが、
昔中学の頃優希は木村の事をいじめていたらしい。
木村も同中なんて初耳だぞ。

ふと思った。俺は、木村よりも、あの優希よりもクソな存在なんじゃないかと。木村の様にいじめられたのを隠し通し1人に的を絞ってその王様を演じるのでもなく、優希の様に明確な目標をもって人を貶めるのでもなく、ただただ誰かの金魚の糞になり、いじめられてたことを忘れて誰彼構わずに復讐という名目でいじめる。いじめられた方の辛さを分かっているはずなのに。分かっていたはずなのに。
ここに来ても、木村が頭に出てくるって言うことは、俺はまだ、ある意味木村にいじめられてるのかもしれない。いじめっ子をいじめるいじめっ子。もう意味がわからない。何も考えたくない。嫌だ。

翌日、荒れた家で1人の首吊り死体が見つかった。制服には月極高校の校章が書いてあり、そこには
『山崎蓮』という名前が書いてあった。



『…人は本当に愚かでゴミ。一人じゃ何も出来ない、1人で何か出来たとしてもそれを誰かに邪魔され途絶える。
誰かを貶めようとすると逆に貶められる。死んでても、死んでなくても。誰かに執着してると、その人がいなくなった時、路頭に迷う。だから僕はいじめられ、誰にも縋れる事無く死んで行った。いじめることをなんとも思わないサイコパス。いじめられても無理だ、誰も助けてくれないと決めつけ誰にも助けを求めようとしない。本当は誰か助けてくれたかもしれないのに。自分が悪いのに全て環境のせいばかりにして自分を奮い立たせる毎日。本当にクソだ。絶対にこんな結末誰も望まない。ヒーローはたとえヒールとなっても1番で居るべき存在なんだ。それとは対に、ヒールもヒーローとなった時、何かでも1番で居なきゃいけない存在だ。それと同じ、いじめられっ子は世間から見れば一矢報いるチャンスを伺い耐えるヒーロー、いじめっ子は悪いものいじめをするヒール。だがそのヒーローは報いる努力を一切しない。なのに勝手に皆に決めつけられヒールに貶められ、段々自我が無くなっていく。そして闇堕ちし、ヒールとなり次のヒーローを貶める。どんな漫画のように「ヒーローは、勇者は、勝者は、1番になったもの は、幸せに暮らしましたとさ」なんかでこの世は終われないんだ。俺はこの世界をぶっ壊す。絶対ぶっ壊す。
幸せに暮らすために絶対にぶっ殺す。

俺は今から 山崎蓮 だ。この世はどいつもこいつも。クソだらけだ。虐める。他のヒールと同じように。だがあいつのように自殺なんかしない。いじめていじめていじめ抜いて、誰からも恐れる存在になってからこの世界を壊してやる。テロでもなんでも起こして、変な遺書を残して警察にその場で銃殺されて殺されてる。

それが世界に報いる1つしかない手段だ。
                                              故人    遺書      桜井智洋より。』
















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