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馬酔木
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「夜ごはん、どうする?」
野菜を手に取る文目が言う。何気ないスーパーマーケットの一角。独特なにおいが鼻を刺す。高校生の頃、スーパーでバイトしていたのを思い出す。
「野菜室にじゃがいもがいっぱいあったっけ。」
「じゃあ、肉じゃがでも作ろっか。」
「うん、そうだね。」
偶然大学の帰りに一緒になった文目と来たスーパーマーケット、もう外は薄暗いというのに店内は静まらない。大きく明かりのついたその建物に吸い込まれるように入った僕たちは、いつものように食材を探していた。
「僕、ちょっと他のところ見てくるよ。」
「うん、よろしくね。私はお肉のあたりにいるから。」
そうして彼女の押すカートを後にし、値引きシールを張る店員の横を通り抜ける。静寂にも似た喧騒の中、彷徨った先に見つけた目当ての物。漬物を手に取り、再び直線を彷徨う。
小さい頃から漬物が好きなのだが、よく渋いと言われる。それは文目も例外ではなかった。
「あ、晴くん。……また漬物。ほんとに好きなんだね。」
優しく微笑むが、いつもとは違うどこか含みのある笑みだ。
「別にいいだろ、好きなんだから。」
「……私は何も言ってないよ?」
むうう、と下の唇で上を押し上げる。
「ふふ、なんでもないって。」
そのまま笑い出す文目。思わずつられて僕も笑い出してしまった。
「じゃあ、行こっか。」
「うん、そうだね。」
どこか軽くなった気がする脚のまま、レジへと向かった。
外はすっかり暗く、少し冷えていた。再び合流したいつかの帰り道、不意に文目は、街の方へと歩き出した。
「文目、道そっちじゃないでしょ。」
「ちょっとだけ寄り道、しよ。」
そうして手を引かれるように、まるで心すらも引かれるように彼女の後について夜の町へ漕ぎだす。闇の中でも街路の橋の馬酔木が白く光っていた。
町の方へは駅以外ではあまり来ないし、慣れない場所だ。
「ちょっとした旅みたいだね。」
と笑う彼女にどこか不安を覚える。異国の地、というとかなりの誇張にはなってしまうが、実際のところ慣れない土地を歩くのはかなり不安になってしまう。離れないように、と彼女の手を握る。
「ん、どうしたの?」
「いや、こうすれば、温かいかなって……」
「……そっか。」
目を細めてこちらを見つめる彼女に、照れ隠しはバレていないだろうか。
少し歩けばそこは光で溢れる都会であった。
闇など気にしないと言わんばかりにあらゆるものが輝いているし、建物も大きなものが立ち並ぶ。実を言うと、僕はあまりこういう場所が得意ではない。
「ねえ、文目。どこいくの?」
「うーん、適当に歩いてるだけかなぁ。」
そんな不明瞭な言葉を返される。何か、いつもの朝のようなものを感じる。今は自分が傍にいるし、きっと大丈夫だろうと思うことはどうしてもできなかった。ショーウィンドウなんかが並び、街が華やかに彩られる。小さなものでも、雰囲気は変わるものだ。
ふと、あるものが目に入った。それは何気ない、店の奥。ウェディングドレスのようなそれは白く、綺麗に聳えていた。静かに見惚れる文目。すぐに目を逸らすが目の光は消えなかった。
「その……さ。晴くんは、結婚とか、したい?」
帰り道、不意に聞かれて思わず目を見開いてしまう。やはりさっきのが気になっていたのか。
結婚、したいかと言われると実はそうでもない。相手はきっと文目だろうが、あまりしたいとは思わない。結婚すれば子供もできて、家庭も持つ。そうやって、次へ次へと繋げていくのだ。そこに、自分の姿が見えないのだ。結局、自信がないのだ。この先彼女といる自分が見えなくなってしまっている。結婚はせずにこのまま一緒にいたいだなんて、甘えた考えが頭の中を飛び回る。それはきっと、彼女の望む返答ではないだろう。
「僕は…………そうだな」
言葉を詰まらせる。こういうとき、何と言ったらいいのか。僕にはわからなかった。
「……私は、晴くんと結婚、したい。この先も、ずっと一緒にいたい。」
さらに言葉が詰まる。今更、こんなことを言って文目はどんな気持ちになるだろうか。
「それだけが、私にできることだから。」
「……え?」
思考を一旦止め、目の前にあった彼女の顔を見つめる。
「なんにもできない私でも、晴くんの隣にいてあげることはできるから。」
それは、普段明るくて優しい彼女からは聞いたこともない言葉だった。
暗くて、淀んでいて、見えなかった。
「文目」
歩く脚を引き留める。歪んだ視線を落とす。その先に映るのは、いつのとも合わない、知らない彼女だった。
「どうして、泣いてるの?」
「……泣いてなんか、ないよ。」
無理に笑って見せる。どこか儚くて、消えてしまいそうで。思わず見とれてしまった。
「……ごめんね、私だけ幸せを願って。私は、ただ晴くんが大好きなだけだから。」
大好き、なんて言葉で僕の心に傷を付ける。
街灯が照らすアスファルトの上、立ち止まった僕たちはただ、息を呑んだ。
何かの弾みで壊れてしまいそうなほど脆い、君との間を埋める。
「大丈夫。きっとこれからも、傍にいるよ。」
無責任にもその言葉を投げかける。いつかは離れてしまうと、わかっていながら。
そうして訪れる束の間の静寂。時は静かに、音も立てず過ぎ去る。
「ねえ、晴くんはさ」
突然、口を開く文目。もう涙も見えない彼女は、小走りに僕に振り返った。
「生きててよかったなーとか、思ったことある?」
「え?」
不思議だった。どうして、そんなことを聞くのか。彼女は一体、瞳の奥に何を隠しているのだろう。
考えてみれば、よくわからないものだ。「生きててよかった」なんて他人の口から聞いたことはあれど、自分で言ったことは、ましてや思ったことなど覚えている範囲ではあまりない。かと言って人生に絶望しているとかそういうわけでもないが。
「あんまり意識したことはないかな。憶えている範囲では、ないかも。……どうして?」
「……ううん、なんでもない。」
異様に含みのある彼女の声に何故だか体中の体温が奪われる。
「私は、今こうして晴くんといられるだけで幸せだから。いつも傍にいてくれて、ありがとうね。」
ただ優しく、微笑む。いつもの、いつも通りの彼女の笑顔。ただそこにあるだけの、まっすぐな笑顔。
「……何。どうしたの、急に。」
「ほんとに、何でもないって。言葉通り。」
そんなわけない。そんなはずない。出かかったそんな言葉が喉のどこかに引っかかって出てこない。これ以上、彼女に何を期待すればいい?どうして、傷付ければいい?
知らぬ間に握りしめていた手には確かな熱が籠る。
これ以上何を悩んだって、自分を、文目を傷つけるだけだ。ならいっそ、全部やめてしまった方が。そうはわかっていても、思考を止められないのが人間というもので。苦しい、苦しい、と叫びながら助けを待つだけ。
誰が、僕を助けてくれるのだろう。
他人任せな僕は玄関のドアを開ける。
「あれ、電気つけっぱなし。消し忘れちゃったかな。」
慌てて光の下に駆け寄る彼女の後姿を眺める。
「最近いろいろ忘れちゃうなあ……どうしちゃったんだろ……」
はあ、と小さくため息をつく。僕はそんな文目を横目に見ることしかできなかった。
「そんなのよくあることだよ」とか「次から気を付けてね」とか、かける言葉はいくらでもあったはずだ。なのに、さっきからずっと、喉の奥に言葉が引っかかって出てこない。
文目を見つめる目に涙が滲む。いつから僕は、こんなに苦しくなってしまったのだろう。
野菜を手に取る文目が言う。何気ないスーパーマーケットの一角。独特なにおいが鼻を刺す。高校生の頃、スーパーでバイトしていたのを思い出す。
「野菜室にじゃがいもがいっぱいあったっけ。」
「じゃあ、肉じゃがでも作ろっか。」
「うん、そうだね。」
偶然大学の帰りに一緒になった文目と来たスーパーマーケット、もう外は薄暗いというのに店内は静まらない。大きく明かりのついたその建物に吸い込まれるように入った僕たちは、いつものように食材を探していた。
「僕、ちょっと他のところ見てくるよ。」
「うん、よろしくね。私はお肉のあたりにいるから。」
そうして彼女の押すカートを後にし、値引きシールを張る店員の横を通り抜ける。静寂にも似た喧騒の中、彷徨った先に見つけた目当ての物。漬物を手に取り、再び直線を彷徨う。
小さい頃から漬物が好きなのだが、よく渋いと言われる。それは文目も例外ではなかった。
「あ、晴くん。……また漬物。ほんとに好きなんだね。」
優しく微笑むが、いつもとは違うどこか含みのある笑みだ。
「別にいいだろ、好きなんだから。」
「……私は何も言ってないよ?」
むうう、と下の唇で上を押し上げる。
「ふふ、なんでもないって。」
そのまま笑い出す文目。思わずつられて僕も笑い出してしまった。
「じゃあ、行こっか。」
「うん、そうだね。」
どこか軽くなった気がする脚のまま、レジへと向かった。
外はすっかり暗く、少し冷えていた。再び合流したいつかの帰り道、不意に文目は、街の方へと歩き出した。
「文目、道そっちじゃないでしょ。」
「ちょっとだけ寄り道、しよ。」
そうして手を引かれるように、まるで心すらも引かれるように彼女の後について夜の町へ漕ぎだす。闇の中でも街路の橋の馬酔木が白く光っていた。
町の方へは駅以外ではあまり来ないし、慣れない場所だ。
「ちょっとした旅みたいだね。」
と笑う彼女にどこか不安を覚える。異国の地、というとかなりの誇張にはなってしまうが、実際のところ慣れない土地を歩くのはかなり不安になってしまう。離れないように、と彼女の手を握る。
「ん、どうしたの?」
「いや、こうすれば、温かいかなって……」
「……そっか。」
目を細めてこちらを見つめる彼女に、照れ隠しはバレていないだろうか。
少し歩けばそこは光で溢れる都会であった。
闇など気にしないと言わんばかりにあらゆるものが輝いているし、建物も大きなものが立ち並ぶ。実を言うと、僕はあまりこういう場所が得意ではない。
「ねえ、文目。どこいくの?」
「うーん、適当に歩いてるだけかなぁ。」
そんな不明瞭な言葉を返される。何か、いつもの朝のようなものを感じる。今は自分が傍にいるし、きっと大丈夫だろうと思うことはどうしてもできなかった。ショーウィンドウなんかが並び、街が華やかに彩られる。小さなものでも、雰囲気は変わるものだ。
ふと、あるものが目に入った。それは何気ない、店の奥。ウェディングドレスのようなそれは白く、綺麗に聳えていた。静かに見惚れる文目。すぐに目を逸らすが目の光は消えなかった。
「その……さ。晴くんは、結婚とか、したい?」
帰り道、不意に聞かれて思わず目を見開いてしまう。やはりさっきのが気になっていたのか。
結婚、したいかと言われると実はそうでもない。相手はきっと文目だろうが、あまりしたいとは思わない。結婚すれば子供もできて、家庭も持つ。そうやって、次へ次へと繋げていくのだ。そこに、自分の姿が見えないのだ。結局、自信がないのだ。この先彼女といる自分が見えなくなってしまっている。結婚はせずにこのまま一緒にいたいだなんて、甘えた考えが頭の中を飛び回る。それはきっと、彼女の望む返答ではないだろう。
「僕は…………そうだな」
言葉を詰まらせる。こういうとき、何と言ったらいいのか。僕にはわからなかった。
「……私は、晴くんと結婚、したい。この先も、ずっと一緒にいたい。」
さらに言葉が詰まる。今更、こんなことを言って文目はどんな気持ちになるだろうか。
「それだけが、私にできることだから。」
「……え?」
思考を一旦止め、目の前にあった彼女の顔を見つめる。
「なんにもできない私でも、晴くんの隣にいてあげることはできるから。」
それは、普段明るくて優しい彼女からは聞いたこともない言葉だった。
暗くて、淀んでいて、見えなかった。
「文目」
歩く脚を引き留める。歪んだ視線を落とす。その先に映るのは、いつのとも合わない、知らない彼女だった。
「どうして、泣いてるの?」
「……泣いてなんか、ないよ。」
無理に笑って見せる。どこか儚くて、消えてしまいそうで。思わず見とれてしまった。
「……ごめんね、私だけ幸せを願って。私は、ただ晴くんが大好きなだけだから。」
大好き、なんて言葉で僕の心に傷を付ける。
街灯が照らすアスファルトの上、立ち止まった僕たちはただ、息を呑んだ。
何かの弾みで壊れてしまいそうなほど脆い、君との間を埋める。
「大丈夫。きっとこれからも、傍にいるよ。」
無責任にもその言葉を投げかける。いつかは離れてしまうと、わかっていながら。
そうして訪れる束の間の静寂。時は静かに、音も立てず過ぎ去る。
「ねえ、晴くんはさ」
突然、口を開く文目。もう涙も見えない彼女は、小走りに僕に振り返った。
「生きててよかったなーとか、思ったことある?」
「え?」
不思議だった。どうして、そんなことを聞くのか。彼女は一体、瞳の奥に何を隠しているのだろう。
考えてみれば、よくわからないものだ。「生きててよかった」なんて他人の口から聞いたことはあれど、自分で言ったことは、ましてや思ったことなど覚えている範囲ではあまりない。かと言って人生に絶望しているとかそういうわけでもないが。
「あんまり意識したことはないかな。憶えている範囲では、ないかも。……どうして?」
「……ううん、なんでもない。」
異様に含みのある彼女の声に何故だか体中の体温が奪われる。
「私は、今こうして晴くんといられるだけで幸せだから。いつも傍にいてくれて、ありがとうね。」
ただ優しく、微笑む。いつもの、いつも通りの彼女の笑顔。ただそこにあるだけの、まっすぐな笑顔。
「……何。どうしたの、急に。」
「ほんとに、何でもないって。言葉通り。」
そんなわけない。そんなはずない。出かかったそんな言葉が喉のどこかに引っかかって出てこない。これ以上、彼女に何を期待すればいい?どうして、傷付ければいい?
知らぬ間に握りしめていた手には確かな熱が籠る。
これ以上何を悩んだって、自分を、文目を傷つけるだけだ。ならいっそ、全部やめてしまった方が。そうはわかっていても、思考を止められないのが人間というもので。苦しい、苦しい、と叫びながら助けを待つだけ。
誰が、僕を助けてくれるのだろう。
他人任せな僕は玄関のドアを開ける。
「あれ、電気つけっぱなし。消し忘れちゃったかな。」
慌てて光の下に駆け寄る彼女の後姿を眺める。
「最近いろいろ忘れちゃうなあ……どうしちゃったんだろ……」
はあ、と小さくため息をつく。僕はそんな文目を横目に見ることしかできなかった。
「そんなのよくあることだよ」とか「次から気を付けてね」とか、かける言葉はいくらでもあったはずだ。なのに、さっきからずっと、喉の奥に言葉が引っかかって出てこない。
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