5 / 7
瑠璃玉薊
しおりを挟む
春風に揺られる草木が窓から顔を覗かせる。
君のいない教室、朝の陽気に包まれる僕は、ホームルーム中だというのに眠くて仕方なかった。昨晩は筆が乗って遅くまで小説を書いてしまった。きっと寝不足だろう。
新学期、空いた教室で渡されたその紙には、僕の後ろに文目の名前がなかった。一,二年生と同じクラスだったので、三年生も偶然同じになると思っていたが、そう上手くはいかないようだ。
「もう三年生なので、進学を考えている人は志望校を決めるように。夏前には決めて夏に頑張るのが大切ですよ。」
「志望校、か。」
これまで通り、目指していた国立の生物系でいいだろう。中学生の頃からずっと生物が好きで頑張ってきたんだ、ここで急な進路変更はまずありえない。ひとつ気になる点があるとすれば、文目と離れてしまう事だろう。彼女は文系だし、目指しているのは私立だと聞いた。別に大学が違くても会うのは容易だが、学校が離れてしまうというのは少し寂しい。
「では、学級委員を決めたいと思います。希望者は手を挙げてください。」
そんな僕を抜きに勝手に進んでいくホームルーム。
「はい、私やります。」
一人の女子が手を挙げる。こういうときに率先して手を挙げられるというのはなんというか、すごいなと思ってしまう。
「では、他に人がいないので学級委員は白瀬さんでよろしいですか?」
音もなくただ頷く生徒たち。間も開けず拍手が起きる。この拍手は一体何なのだろうなと、六年前から相も変わらず同じような疑問を持ち続ける。
「ではここからは私が進行します、このクラスの学級委員になった白瀬真那です。よろしくお願いします。」
再び拍手が起こる。どうしても耳障りに頭に響く。
ため息をつくこともなく僕は静かにスマホの画面を覗いた。ここからは僕は関係ない。いや、ずっと前から関係なかったのかもしれない。小説でも書いていようと、また世界に入り込んだ。
「風紀委員をやりたい人、いますか?」
ふとした瞬間、静かな教室に響き渡るその声で現実に引き戻される。誰も手を上げない教室、それは一分、二分と時間がたっても変わらなかった。
「じゃあ、やりたい人がいたら、終わった後でもいいので私か先生に言ってください。」
その言葉と共に飛ばされる風紀委員のターン。人気がないのか、誰もやろうとしないそれは、「きっと誰かがやるだろう」という思いで生徒たちの心の間をたらい回しにされる。
仕方のない人たちだ、と眺めながら手を挙げた。
どうしてかは覚えていない。誰もやらないならば僕がやろうという衝動に突き動かされた。今まで、少なくとも一年生頃までの僕ならこんなことはしなかったはずだ。それまで自分の世界に深く閉じこもっていた僕はきっと、文目に出会って変われたのだ。少しずつ、外を知りたいと思えたのだ。
「じゃあ風紀委員は……早河くんで、いいですか?」
ぱちぱち、と再び拍手が起こる。これも案外悪くないのかもな、と手のひらを返すところだった。
「あ、えっと……早河、くんは……」
次の日の昼休み、喧騒を切り裂いたのは聞きなじみのある声だった。
「あ、文目」
駆け足でドアの方へ駆け寄る。なんだか周りの目が恥ずかしくて、彼女を廊下へ押し出してしまう。
「あ、いや。お昼、一緒にどうかなって。」
「あ、わかった。お弁当取ってくるから、ちょっとだけ待ってて。」
クラスが離れただけでどうしてか少し気まずく感じる。足早に彼女の前を通り抜け、再び教室へ入る。まるでレースゲームのゴールのように強くハイライトされて見える自分の席へ急ぐ。
リュックから弁当箱を取り出し、次は廊下というゴールへ駆け抜ける。
どうして僕がこんなに急いでいるのかというと理由は単純で、文目と付き合っているからだ。実際文目は学年の中でも度々名前を聞くほど有名人(?)であり、それも美人だからだ。そのうえ優しくて成績優秀なんだから、有名人にもなるわけで。そんな文目と付き合っているから僕もこうして周りから見られるのだ。ああ、恥ずかしくてたまらない。
二人で逃げるように来た中庭のベンチの上で、僕はそっとため息をついた。
「なんだか、色々大変みたいね……」
「別に、大丈夫……」
そんな何気ない会話をしながら弁当を広げた。
「もう三年生だし、進路とか考えないとだよね。晴くんは、やっぱり生物系に行くの?」
目の前の花壇を眺めながら、彼女は言う。
「うん。僕はそのつもり。文目は……文系だもんね、同じ学校じゃなくなっちゃうけど……」
「別に、学校が離れたって会えなくなるわけじゃないし。それに、お互い学びたいことを見つけて進学できるんだったたら、その方がいいでしょ。」
「……うん、そうだね。」
その通りだ、と納得する。文目もそう言ってくれるのなら。別に学校が違くたっていいだろう。そう割り切ることにした。
「それで、なんだけどさ。」
その瞬間、顔を赤らめる文目。
「その……晴くんがよければ、なんだけどね。来年から、一緒に暮らしたいな、なんて……」
真っ赤になった顔を手で覆い隠す。
「わ、わわ、私、何言ってるんだろ。そ、そんな……」
僕も彼女も一年生の頃からバイトはしているし、お金もそこそこ溜まってはいる。学校が違くても、帰った先でいつも一緒に居られるのはいい選択ではないだろうか。とまた彼女の言葉に納得してしまう。
「僕は、別にいいよ。二人で暮らすの、楽しそう。」
「え、ええ、いいの……?」
そっと視界を開く彼女は未だ赤い顔で目を細める。
卵焼きを頬張りながら、二人で微笑み合っていた。
そんな視界の端に、紫色の刺々しい瑠璃玉薊が映る。
「あれ?」
ここにこんな花、あったっけ。
「……!」
目を覚ましたベッドの上。また、懐かしい夢を見ていた。
起き上がった僕はすぐに異変に気付く。また、文目がいない。
いつものように上着を羽織る。いつものように殻になった布団を背に玄関へ向かった。
「はあ、はあ」
何かがおかしい。もう切れかかっている息を何とか繋ぐ。
あそこにも、あそこにも、ここにもいない。今まで何回も彼女を捜した。だから、彼女の行きつく先なんてもうわかっていたつもりだった。なのに、見つけ出せない。どれだけ歩き回っても、何もない。徐々に速くなる足はやがて走り出す。
なんで、どうして。そんな言葉を漏らす。
「嫌だ、嫌だ。」
きっといつかは来ると思っていた。わかっていた。けど、いざ来るとどうも心が落ち着かなくなる。
「もしかしたら、入れ違いで家に戻っているのかもしれない。」
きっとそうだ、その筈だ。その言葉を肯定するしかなくて、必死に来た道を戻る。どんどん重くなる足。そんなものは知らないと、必死に彼女を求める。
「文目っ!」
強い力で扉を引く。大きな音を立てて崩れる部屋の中の空気は、軈て僕を取り込む。
「文目っ、いるんだろ。」
必死に狭い部屋の中を捜しまわる。どこにも、痕跡はない。不意に、あることに気付く。いつもと違う場所。彼女のスマホが、ない。それどころか、今日の僕は物音で目を覚まさなかった。きっと、彼女が家を出て時間が経ってから目を覚ましたのだろう。
「……じゃあ、文目はどこにいるんだよ」
どこか遠くに行ったことだけが確かだった。でも、どうやって捜せばいい?警察?そんな大事にしたら大変なことになる。でも自分で探すのはもっと大変だ。
「はあ、はあ」
どんどん荒くなる息。
「……きっと、帰ってくるから。戻ってくるまで、待っていよう、そうしよう……」
回り続ける頭をなだめるようにわざと声に出して見せる。
誰もいない部屋に響いたその声は、誰にも届かず静かに消えていった。
その日、文目はいなくなった。
君のいない教室、朝の陽気に包まれる僕は、ホームルーム中だというのに眠くて仕方なかった。昨晩は筆が乗って遅くまで小説を書いてしまった。きっと寝不足だろう。
新学期、空いた教室で渡されたその紙には、僕の後ろに文目の名前がなかった。一,二年生と同じクラスだったので、三年生も偶然同じになると思っていたが、そう上手くはいかないようだ。
「もう三年生なので、進学を考えている人は志望校を決めるように。夏前には決めて夏に頑張るのが大切ですよ。」
「志望校、か。」
これまで通り、目指していた国立の生物系でいいだろう。中学生の頃からずっと生物が好きで頑張ってきたんだ、ここで急な進路変更はまずありえない。ひとつ気になる点があるとすれば、文目と離れてしまう事だろう。彼女は文系だし、目指しているのは私立だと聞いた。別に大学が違くても会うのは容易だが、学校が離れてしまうというのは少し寂しい。
「では、学級委員を決めたいと思います。希望者は手を挙げてください。」
そんな僕を抜きに勝手に進んでいくホームルーム。
「はい、私やります。」
一人の女子が手を挙げる。こういうときに率先して手を挙げられるというのはなんというか、すごいなと思ってしまう。
「では、他に人がいないので学級委員は白瀬さんでよろしいですか?」
音もなくただ頷く生徒たち。間も開けず拍手が起きる。この拍手は一体何なのだろうなと、六年前から相も変わらず同じような疑問を持ち続ける。
「ではここからは私が進行します、このクラスの学級委員になった白瀬真那です。よろしくお願いします。」
再び拍手が起こる。どうしても耳障りに頭に響く。
ため息をつくこともなく僕は静かにスマホの画面を覗いた。ここからは僕は関係ない。いや、ずっと前から関係なかったのかもしれない。小説でも書いていようと、また世界に入り込んだ。
「風紀委員をやりたい人、いますか?」
ふとした瞬間、静かな教室に響き渡るその声で現実に引き戻される。誰も手を上げない教室、それは一分、二分と時間がたっても変わらなかった。
「じゃあ、やりたい人がいたら、終わった後でもいいので私か先生に言ってください。」
その言葉と共に飛ばされる風紀委員のターン。人気がないのか、誰もやろうとしないそれは、「きっと誰かがやるだろう」という思いで生徒たちの心の間をたらい回しにされる。
仕方のない人たちだ、と眺めながら手を挙げた。
どうしてかは覚えていない。誰もやらないならば僕がやろうという衝動に突き動かされた。今まで、少なくとも一年生頃までの僕ならこんなことはしなかったはずだ。それまで自分の世界に深く閉じこもっていた僕はきっと、文目に出会って変われたのだ。少しずつ、外を知りたいと思えたのだ。
「じゃあ風紀委員は……早河くんで、いいですか?」
ぱちぱち、と再び拍手が起こる。これも案外悪くないのかもな、と手のひらを返すところだった。
「あ、えっと……早河、くんは……」
次の日の昼休み、喧騒を切り裂いたのは聞きなじみのある声だった。
「あ、文目」
駆け足でドアの方へ駆け寄る。なんだか周りの目が恥ずかしくて、彼女を廊下へ押し出してしまう。
「あ、いや。お昼、一緒にどうかなって。」
「あ、わかった。お弁当取ってくるから、ちょっとだけ待ってて。」
クラスが離れただけでどうしてか少し気まずく感じる。足早に彼女の前を通り抜け、再び教室へ入る。まるでレースゲームのゴールのように強くハイライトされて見える自分の席へ急ぐ。
リュックから弁当箱を取り出し、次は廊下というゴールへ駆け抜ける。
どうして僕がこんなに急いでいるのかというと理由は単純で、文目と付き合っているからだ。実際文目は学年の中でも度々名前を聞くほど有名人(?)であり、それも美人だからだ。そのうえ優しくて成績優秀なんだから、有名人にもなるわけで。そんな文目と付き合っているから僕もこうして周りから見られるのだ。ああ、恥ずかしくてたまらない。
二人で逃げるように来た中庭のベンチの上で、僕はそっとため息をついた。
「なんだか、色々大変みたいね……」
「別に、大丈夫……」
そんな何気ない会話をしながら弁当を広げた。
「もう三年生だし、進路とか考えないとだよね。晴くんは、やっぱり生物系に行くの?」
目の前の花壇を眺めながら、彼女は言う。
「うん。僕はそのつもり。文目は……文系だもんね、同じ学校じゃなくなっちゃうけど……」
「別に、学校が離れたって会えなくなるわけじゃないし。それに、お互い学びたいことを見つけて進学できるんだったたら、その方がいいでしょ。」
「……うん、そうだね。」
その通りだ、と納得する。文目もそう言ってくれるのなら。別に学校が違くたっていいだろう。そう割り切ることにした。
「それで、なんだけどさ。」
その瞬間、顔を赤らめる文目。
「その……晴くんがよければ、なんだけどね。来年から、一緒に暮らしたいな、なんて……」
真っ赤になった顔を手で覆い隠す。
「わ、わわ、私、何言ってるんだろ。そ、そんな……」
僕も彼女も一年生の頃からバイトはしているし、お金もそこそこ溜まってはいる。学校が違くても、帰った先でいつも一緒に居られるのはいい選択ではないだろうか。とまた彼女の言葉に納得してしまう。
「僕は、別にいいよ。二人で暮らすの、楽しそう。」
「え、ええ、いいの……?」
そっと視界を開く彼女は未だ赤い顔で目を細める。
卵焼きを頬張りながら、二人で微笑み合っていた。
そんな視界の端に、紫色の刺々しい瑠璃玉薊が映る。
「あれ?」
ここにこんな花、あったっけ。
「……!」
目を覚ましたベッドの上。また、懐かしい夢を見ていた。
起き上がった僕はすぐに異変に気付く。また、文目がいない。
いつものように上着を羽織る。いつものように殻になった布団を背に玄関へ向かった。
「はあ、はあ」
何かがおかしい。もう切れかかっている息を何とか繋ぐ。
あそこにも、あそこにも、ここにもいない。今まで何回も彼女を捜した。だから、彼女の行きつく先なんてもうわかっていたつもりだった。なのに、見つけ出せない。どれだけ歩き回っても、何もない。徐々に速くなる足はやがて走り出す。
なんで、どうして。そんな言葉を漏らす。
「嫌だ、嫌だ。」
きっといつかは来ると思っていた。わかっていた。けど、いざ来るとどうも心が落ち着かなくなる。
「もしかしたら、入れ違いで家に戻っているのかもしれない。」
きっとそうだ、その筈だ。その言葉を肯定するしかなくて、必死に来た道を戻る。どんどん重くなる足。そんなものは知らないと、必死に彼女を求める。
「文目っ!」
強い力で扉を引く。大きな音を立てて崩れる部屋の中の空気は、軈て僕を取り込む。
「文目っ、いるんだろ。」
必死に狭い部屋の中を捜しまわる。どこにも、痕跡はない。不意に、あることに気付く。いつもと違う場所。彼女のスマホが、ない。それどころか、今日の僕は物音で目を覚まさなかった。きっと、彼女が家を出て時間が経ってから目を覚ましたのだろう。
「……じゃあ、文目はどこにいるんだよ」
どこか遠くに行ったことだけが確かだった。でも、どうやって捜せばいい?警察?そんな大事にしたら大変なことになる。でも自分で探すのはもっと大変だ。
「はあ、はあ」
どんどん荒くなる息。
「……きっと、帰ってくるから。戻ってくるまで、待っていよう、そうしよう……」
回り続ける頭をなだめるようにわざと声に出して見せる。
誰もいない部屋に響いたその声は、誰にも届かず静かに消えていった。
その日、文目はいなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる