矛と盾 ぶらり二人旅

浦 かすみ

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出会い

矛との出会い

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「う~ん…これは厄介だな」

私は踏み出そうとした足を元に戻した。

地面に張り巡らされた探査と追尾魔法を屈んで視てみる。一歩でもこの魔術効果範囲内に侵入すれば追尾されて…攻撃魔法を仕掛けられる。

この魔術式は山の中腹まで続いている。しかしその術の中心部に居るこの術を仕掛けた術者に私はどうしても会いたいのだ。

「だって死にかけてるじゃない…」

思わず呟いてしまう。この術式を展開している術者が…死にかけているのが私には視える。遥か遠くの山中にいるが…魔力切れを起こしかけているのだ。

『奇跡の使い手』としてはこの術者が無辜の…かどうかは分からないけれど、取り敢えず魔力切れで弱っている人を見捨ててはおけない。

お節介と謗られたら素直に謝ることにして、山の中腹の術者の方の所まで近づいてみることにした。

それには術者の方が仕掛けてくるであろう攻撃魔法を受けて、私が倒れる訳にはいかない。

まずは自身の体に魔物理防御障壁を三重がけにして音と匂いを消してゆっくりと足を踏み出した。

私の名前はララーナ=レイジアンテと申します。御年18才の女子です。

職業は最高治療術師。世界最高峰の『奇跡の使い手』であると自負しております。

奇跡の使い手とは、治療術の素養のある人の中でもなれるのはごく一部で、治療術より更に高度な再生治療術を扱える術師の事を総じてそう呼ぶのだ。

治療術師の資格試験を受験する時に、希望者に応じて奇跡の使い手の資格試験も受けることが出来る。この試験を受けて通るのは年一回行われる資格試験の全受験者中、数10万人に1人か2人…という所だそうだ。

そして晴れて奇跡の使い手の資格を得れば就職先は引く手数多だ。

各国の魔術師団のお抱え治療術師、または高位貴族お抱えの治療術師、自由契約のまま各国のお金持ちの治療のみをしている術師…とさまざま。

そんな私は…というと治療術師協会が定める最低診療代金のみを頂いて、無医の村などを中心に治療に訪れている変わり者の奇跡の使い手なのだ。

奇跡の使い手のその特殊能力は非常に貴重なもので、故に強引にでも国のお抱えにしてしまおう…と強硬手段に出て来る輩もいて、大抵の奇跡の使い手の方はどこかの庇護下に入っているのが現状なんだけど…。

私はというと、気ままな一人旅だ。

え?危険じゃないかって? 私の場合は大丈夫なんだよね~。

普通の治療術師と奇跡の使い手は魔力性質が治療術系統に特化している為に攻撃魔法、防御魔法、補助魔法は…ほとんど使えないらしい。

だが私は…防御魔法と補助魔法が使える、正に『奇跡の使い手』なのだ。

そして今日も一人、のんびりと無医の村に向けて旅していたのだが…。

来た…。火炎が私の張った魔術防御壁に当たって跳ね返る。その火炎は跳ね返って森の木に引火したので慌てて水魔法をかけて鎮火をする。

ふぅ…っ。

そしてまた歩き出すと次は風魔法だっ!竜巻が私の防御壁にドカンと当たる。すごっ…風圧で周りの木々がなぎ倒されていく。

この術者…相当の使い手だ。そう気が付くと不安になってきた。これほどの使い手が瀕死の状態なのだ…誰かと戦闘したとか?それとも魔物に襲われたとか?

これほど侵入者に対して警戒し威嚇攻撃をしてくるのだ…。命を狙われているのかもしれない。

「余計なことに首突っ込んじゃったかな…」

お人よしな性格がまた裏目に出たかもしれない。情けは無用…敵に情けをかけてどうする!って前、怒られたことあったなぁ…。

風魔法の竜巻のせいでなぎ倒されて視界の開けた木々の間を、ゆっくりと踏み分けて入ると大きな木の根っこにその人は凭れていた。

全身血だらけだった。着ている衣服もボロボロ…若い男の人だとは思う。体格はすごく良い。

私は音と匂いの術を消すと思い切って声をかけた。

「あの…」

一瞬ですごい捕縛術が私に向かって飛んできた。またも私の防御障壁がその術を弾き返す。

「ちっ…」

すでに気絶しているかと思ったのに、こんな魔力切れギリギリの状態であんな高位魔術が使えるんだ。ああ、いけないっ!感想を抱くのは後で…

「私、奇跡の使い手をしています。ララーナ=レイジアンテと申します。どこかお怪我をされていますよね?更に魔力切れを起こされているのが視えております。もし宜しければ治療をさせて頂いても大丈夫でしょうか?」

本来こういう風な突発の医療行為は治療術師としては禁止されている。正式な訪問と医療行為の記録を治療術師協会発行の『アイデーカード』に登録してから行い、診断書と領収書の発行が義務づけられているのだ。

只、今回のような緊急性のある…つまり、不慮の事故や災害などで一刻も早い治療行為が行わなければ人命に関わる案件の場合は特例として口頭のみの確認で診療を行っても良いとされているのだ。

「…ぁ…っ」

術者の男性は私のことを認識出来たのだろう…力なくズルズルと大木に凭れるとそのまま座り込んでしまった。

「失礼します!」

私は男性の前に飛び出した。すぐに血だらけの左手を取って全身の魔力の流れを診る。よしっ…本当はゆっくりと魔力を流し入れたい所だけれど、緊急事態だ。

「魔力を入れます!急に流れますので気分が悪くなるかと思いますが少し御辛抱下さい」

私は一気に魔力を流し込んだ。流し込みながら彼本来の魔質と魔力を探す。

見つけた…。微量で消えかけていた魔力を掴み取ると私の魔力で包み込む。

「ぅう…ぐぅっ…」

男性は苦しいのか…うめき声を上げている。

「頑張って…もう少し入れます。頑張って…」

少し魔力が流れ出したので、今度は外傷の治療にあたることにした。ザッと体を診る。よし…全部切り傷だわ。内臓も骨も異常なし。

「治療も致します。始めます」

彼の肩に触れると治療術をかけた。魔力の粒子が煌めき彼を包む。ああ、血だらけだったわね…浄化洗浄魔法もかけてあげよう。

浄化洗浄魔法を使うと血だらけだった彼の姿が綺麗になった。

あれ…?この人すごい男前だな…彫りの深い顔立ち。短髪の髪色は綺麗な紫紺色。年は…20代前半くらいのお兄さんかな?

お兄さんはゆっくりと目を開けた。ふああぁ…やっぱり男前だぁ。瑠璃色の瞳が私を捉える。

「お前何者だ…」

「えっと性別は女性です」

「……見りゃ分かる」

…すみません。気の利いたこと言えなくて。

私は心の中でそう詫びた。

「奇跡の使い手のララーナ=レイジアンテと申します。奇跡の使い手…はご存知でしょうか?」

 お兄さんは目を見開いた。

「奇跡の使い手…こんな若い女もいるのか?」

はあ…驚くとこ、そこ?

「現存する奇跡の使い手では最年少だと思います。どうです?体は動かせそうですか?」

私がそう聞くとお兄さんは、座り込んだ状態のまま、ピョン…と反動だけで立ち上がった。

どんな身体能力だ!びっくりした。

お兄さんは一、二度その場でびっくりするほど高く飛び上がった後、私を見下ろしてニヤリと笑った。

「完璧に元通りだ」

私は頷くと立ち上がった。うん、綺麗で格好いいお兄さんの魔流も目視する限りは体を順調に巡っている。

「良かったです。ではこれで失礼します」

「ちょ…!?待てって」

一瞬で私の前にお兄さんが移動して来て、進路に立ち塞がってきた。あの…私の目の前に半裸のティクビがあるんですが…。顔を上げるとお兄さんは真剣な顔で私を見下ろしていた。

「治療費、いくらだ」

「あ…。はい」

払ってくれるのか…まあ無償でもよかったのだけれど、私も一応これで食っている身だから頂けるものは頂いておきましょう。

「20カラントです」

「何だって…それ確か、最低診療報酬額じゃねえか?」

よくご存じで…

「はい。私はいつも基本はその金額ですが…難しい施術や日数がかかる治療には別途料金と日当などをお願いすることもありますよ?」

お兄さんはポカンとしている。何かおかしなことを言いましたっけ?

「では、改めまして失礼します」

初めから治療費は頂くつもりはなかったので、私はそのままお兄さんに一礼をしてから山を登り始めた。

今回、私はこの先の無医村に滞在して治療を行う予定だ。私の治療方針としては無医村を重点的に順番に巡回して治療するようにしている。

所謂、地域によって医療格差があってはならない。これは私の勝手な信念だ。この世界には王族貴族、特権階級が沢山存在する。勿論、前の世界にだって居たが当時私はその特権を目の前で行使されたことは無い。

だが、自分が奇跡の使い手としてこの世界に生まれ、前の世界では見えなかったモノがこの世界で明確な形を伴って存在し、それをまるで自分の力の如く傲慢に振りかざす輩がいることを目の前で見て、打ちのめされて初めて気が付いたのだ。

私はそんな人達の庇護下には入らない。馬鹿みたいに苦しい道を選んでいる自覚はある。お金が無い…医師がいない…治療を受けられない。そんな悲しみを持って諦めてしまう人を少しでも減らしたい。私の奇跡の力はその為だけに揮いたい。

ザザッ…と音がして山道を歩く私の後ろに先程の綺麗なお兄さんが付いて来た。後ろを振り返って見るとニヤニヤして私を見ている。ニヤついていても綺麗な顔の人の顔面って不細工にならないんだね。初めて知りました。

「何か御用でしょうか?お体の不調はもう治りましたでしょう?」

「ん~まあ、山の向こうのアザベル村に行くのか?護衛してやろうか?てかさ、一人で診療してるのか?あんた奇跡の使い手だろう?他の護衛は?」

お兄さん結構フレンドリーな人なのかな?魔質も嫌な感じはしないし…う~ん。

「護衛は結構です。アザベル村も何度かお邪魔したことがあります。では…」

と言いかけて山を登り始めると、お兄さんは私の斜め後ろからずっとついて来る。何だろう…こんなイケメンのストーカーなんて初めてだよ。

「もう…何ですか?」

「護衛」

「要りません」

「女一人じゃ危ないだろう?」

「今までもずっと一人でした、大丈夫です」

そう言うとお兄さんの魔質が少し揺らいだ。足を止めて綺麗な瑠璃色の瞳を見る。

「じゃあ…村まで送って行くよ…」

何だか返事に少し間があったな…。お兄さんと歩きながら周りの魔質を探る。今の所は追いかけて来るような魔力は感じないけど…そうだった、うっかりしていた。このお兄さんの方が何かに追われていたんだっけ?

逆に私の方がお兄さんと一緒に居ると危険になったんじゃないの、コレ?
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