矛と盾 ぶらり二人旅

浦 かすみ

文字の大きさ
7 / 32
旅路

矛はSSS1

しおりを挟む
シーダと一緒に山を降りる途中、例の死屍累々の現場でシーダがあいつらを弔うから待っていろと言って、墓穴を掘りだした。私も亡骸に洗浄魔法をかけて仏式にお経を心の中で唱えて、その様子を見詰めていた。

私の祈りは神に祈るものではない。人を想って祈るものだ。

大きく掘った穴に遺体を下ろして埋めていった。埋め終わった後に再び目を瞑り、心の中で合掌した。

シーダが私の体に洗浄魔法をかけてくれた。合掌を終えて立ち上がろうとした私に手を差し出してくれたので、手を出すと私の手を握ったまま山を降りて行ってしまった。完璧に手を離すタイミングを逃した…

という訳で、どこのバカップルだ状態で、首都のカリカントに向けて街道を歩き始めると…荷馬車や旅行者、冒険者っぽい一行などが歩いていて結構賑わっている道に出て来た。

「こういう人が多い方が変な奴が現れなくて助かるんだ」

「なるほど…」

シーダの言う変な奴とは襲って来たアイツらのことだろう。人目につく所では襲ってこない…ということは自分達がシーダを襲っているということがバレたくないということなのだろう。

シーダを襲うことが疚しいということは、あいつらが悪者だな!そうなら気に病んでも仕方ないね。

そろそろ街道を抜けて首都の入口、検問所がある。私は検問の兵士にアイデーカードを取り出して見せた。シーダは腕のブレスレットを見せている。

「これは…どうぞお通り下さい!」

ビシッと敬礼までされる。

「いや~トリプルスター様は違いますねぇ~」

「いやいや、奇跡の使い手様のお力でしょう?」

軽口を叩きながらまずは私の用事、世界治療術師協会のカリカント支部に向かう。公所の横にあるこぢんまりとした建物に入って行くと、白髪のおじ様が顔を上げた。

「おやララーナさん、アザベル村の治療は終わりましたか?」

カリカント支部のモスロンさんと顔見知りの事務員さんが、手を挙げて挨拶をしてくれる。

「はい、今は急ぎの治療要請は出てますか?」

「今のところは大丈夫ですよ」

私はモスロンさんにアイデーカードを差し出した。モスロンさんは受け取ると魔術読み取りの装置の上に置いている。

「はい、治療明細の描き写し完了しました。今月分の活動費も今お渡ししましょうか?」

「はい、お願いします」

活動費とは奇跡の使い手は治療術師の中でもほんの一握りしかいない最高位術師だ。活動費という名目で支部のある国から支援金が送られてくる。勿論、国の有事の際にはその治療術を存分に奮って貰いたいとなるわけだ。

基本、奇跡の使い手は世界を跨いで活動出来る。しかし国家間のいざこざ…つまりは戦争など起こった時には奇跡の使い手の助力が欲しい。しかし世界治療術師協会を経由して打診しても協会は『中立』。国の戦争には加担しないのが決まりだ。

そう言う訳で奇跡の使い手は直接、国の子飼いになってしまう術師が多い。子飼いになる経緯は金であったり、脅しであったり…とてもダークな部分が多いと聞く。生憎と私はお金では動かないし脅すにも私は1人だ。自分の身は自分で守れるし、脅しに使われる材料(弱み)も無い。

という訳で私は世界治療術師協会にとっては、珍しい協会専属の奇跡の使い手となっている訳だ。物凄く大切に扱われているのも知っている。

まあそれはそれとして、今モスロンさんの視線が私の後ろの大きなシーダを見ているのに気が付いている。モスロンさんが聞きたくて聞きたくてソワソワしているのも知っている。

「ララーナさん…」

辛抱溜まらずモスロンさんが聞いてきた。すると…

「失礼、シーダ=クラィツラーだ。冒険者ギルドでSSSランクに属している」

とシーダさん自らが自己紹介をしてきましたよ?!勿論、モスロンさんも驚いて事務所内に居る皆も、びっくりしてこちらに注目している。まあ、SSSなんてそうそうお目にかかれるランクの人じゃないものね。

シーダは左手首のブレスレットを見せている。

「虹色のっ!」

「わあっ…すごい」

え~と男子?の歓声が上がります。やはり男の人って俺つえぇぇ!が好きなんだろうか?シーダの周りに事務員の皆様が集まって来る。ほらほら、これが生SSS様ですよ~あ、お触りは禁止ね?どうだ、どうだ?生SSSのイケメン様いいでしょう!?

暫く皆様にもみくちゃにされていたシーダは私をチラリと見てから

「あ…それで奇跡の使い手の護衛騎士の手続きってどうやればいいの?」

とモスロンさんに聞いた。ええっ?驚いてシーダの顔を見上げるとニヤリと笑い返された。

「暫く一緒に旅に出てもいいか?と聞いただろう…お前の許可は取ったはずだが?」

暫く一緒…は言ったけどっ護衛騎士は聞いてないよ!?いや、そもそも最初に護衛騎士になりませんか?と声をかけたのは私だけど?え?もう訳分らん!

私がオロオロしている間にモスロンさんは大喜びで任命書を作り始めちゃった!?

本来なら、護衛騎士は誰でもなれるものではない。貴重な奇跡の使い手の命を守れるだけのある技量と丹力があるのかを協会側が審査して初めて任命となる。

だがシーダは冒険者ギルドのSSSクラスだ。Sクラス以上なら審査をすっ飛ばして即任命出来る。そう思って私もシーダをその場でスカウトした訳だが…自分の思惑以外で物事が進むのがぁ…まあいいけど。

「シーダぁ…」

「何だ?」

私はシーダを見上げた。

「本当にいいのですか?前にチラッと言ったけど私、結構貧乏っていうか…無医村とかを重点的に回る活動をしていて、危険なうえに実入りは少ないから私個人からそんなにお給金渡せないのですけどぉ…」

申し訳なくて声が小さくなる。チラチラ…とシーダを見るとシーダはまた天井を見ていた。貧乏って聞いて参ったな~と思っているとか?

「あ、あの…ゴメンなさい。無理には言わないから…あのやっぱり取りやめに…」

私はモスロンさんの方へ近づこうとすると、シーダが私の頭をグイーッと押し戻した。そして大きな手で私の頭を撫でまわす。な、何だ?

「フフッ…大丈夫だ。俺を誰だと思ってるんだ?世☆界☆最☆強だぜ!」

いやいや、世界一強いとかは関係なくてですねぇ~貧乏底なしといいますかぁ~


……

すぐに私の護衛騎士の任命が済んでしまった。書類一枚ってお手軽だね!ってそういうことでもなくってだね!

今…私は冒険者ギルドの中にお邪魔しています。被っていたフードを下ろして何か手続きをしているシーダを待つ間、依頼書なるものが張っている壁を見ている。

「おねーさん、依頼受けるの?」

真横で声がしてびっくりして顔を上げると、茶色の切れ長の瞳の私と近い年頃の男の子が笑っていた。

「あ、いえ…人を待っていまして」

と、受付に居るシーダの後ろ姿を指差した。するとその男の子は、ぎゃっと小さく悲鳴を上げた。

「シーダ兄ぃのツレなの…!?あ…あぁ…そうなんだぁ…」

何だかすごくショックを与えてしまった?みたいで少し後退りをしている彼の所にシーダが近付いて来た。

「待たせ…おいっリコイーダ何してんだ」

「な…にも、シーダ兄ぃ…シーダ兄ぃは全ての花を持って行ってしまうのかぁ…」

「ん?」

何だろう…。何かごにょごにょ言いながら男の子は小走りに去って行った。

「何だアレ…ああ、そうだこれ見てみろよ」

そう言ってシーダは何か用紙を私に見せてきた。何々?ん?ランクSSS、シーダ=クラィッラー様、預金残高証明書……なにこれ?ナニコレぇ!?

預金残高のゼロが何個あるの?

1、2、3、4、5、6、7、8、9…眩暈がした。ちょっとした小国の国家予算くらいの金額だった。

「な~これが俺の預け入れ額。見て分かると思うけど金に困ってねぇから。俺の給金の心配しなくていいって。それと魔術師協会のおっちゃんが言ってたけど、護衛騎士も協会から護衛費が出るんだってさ。それに俺、SSSだろ?協会としては冒険者ギルドに奇跡の使い手の派遣を行えるように業務提携したいみたいで…俺とララーナが試験的にやってみないかだって」

え?ええ?何それ?

シーダにギルドの事務所の奥の関係者以外立ち入り禁止!と書かれた看板の廊下の奥へと連れて行かれてしまった。

事務所の奥にはギルド支部長です!と自己紹介しながら笑っているおじさんがいて、説明を受けることになった。

「ご存じかもしれないけど、奇跡の使い手は数が少ないよね」

「そうですね」

「おまけに使い手の試験に合格した後は、大体がどこかの団体に所属してしまうのが定番だ」

どこかの団体…言い得て妙だ。国とか大貴族とか商人とか…後は闇の組織とかだ。

「我々とて奇跡の使い手の助力を頂きたい案件はやまほどある!今冒険者ギルドうちの所属しているのはよぼよぼのご老体が1名だけだ!…という訳で現役の奇跡の使い手、ララーナ=レイジアンテ嬢に是非ともご協力を頂きたいのです!」

支部長とシーダに押し切られるように今度はギルドの受付カウンター前に連れて行かれた。

「ヤダ!」

「ララーナ、我儘言うなよ…」

「我儘じゃないよっ!」

何で私が冒険者ギルドで冒険者登録しなくちゃいけないのよぉ…しかも冒険者に登録したら自動的に口座を作ることになるんだもん!誰が年会費払うんだよ?私だよ…勿体ないじゃない!

「ララーナの年会費は俺が払ってやるから」

「…分かったわ。それなら構いません」

シーダにすっごく残念な顔で見られているけれど、当然じゃない?貧乏人からお金毟り取ろうなんて…誘ったシーダが払うのが筋ってものでしょう?

「はい、ご登録ありがとうございました。預金は今されますか?」

受付のお姉さんに冒険者レベルEクラスの土色のブレスレットを頂くと、左手手首にはめた。そして渋々リュックサックの中から金貨2枚を出して預金してもらった。

痛い出費だ。まあ手数料は兎も角、確かに預金しておけば自分に何かあっても預金は守られる。

「おい、緊急連絡先は俺にしておけ」

え?そんな制度があるの?シーダが言うと受付のお姉さんは、素早く手続きをしてしまった。そしてやれやれ解放された…と思って溜め息をついた私の背中を叩いてシーダがニヤニヤしながら言った。

「晴れて冒険者の仲間入りだな!よしっ今度一緒にブルードラゴンの討伐に行こうぜ!」

「ド…ッ!?ドラゴンなんてやめてよっ!絶対行かないからっ!」

とか…言ってたんだけどさ~この半日後に、エスペランテドラゴンって言っていうドラゴンの討伐をお願いされちゃったのよ…私、明日はちゃんと生きてるかなぁ…
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます

桜 こころ🌸
恋愛
恋と変身が同時進行!? 波乱すぎる兄妹(仮)ラブストーリー♡ お兄ちゃんが好き。でも私、ドキドキすると“男”になっちゃう体質なんです――! 義兄・咲夜に片想い中の唯。 血はつながっていないけど、「兄妹」という関係が壁になって、想いを伝えられずにいた。 そんなある日、謎の薬を飲まされ、唯の体に異変が――なんと“男”に変身する体質になってしまった!? ドキドキするとスイッチが入り、戻るタイミングはバラバラ。 恋心と秘密を抱えた、波乱の日々が始まる! しかも、兄の親友や親友の恋心まで巻き込んで、恋はどんどん混線中!? 果たして唯は元に戻れるのか? そして、義兄との禁断の恋の行方は……? 笑ってキュンして悩ましい、変身ラブコメディ開幕!

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

処理中です...