異世界で小料理屋の女将始めます!

浦 かすみ

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女将とお花畑

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正式にスワイト=ワイジリッテルベンジ王太子殿下と婚約すると正式に決まった。暫くは婚約発表のお披露目会の準備に追われることになった。

思った通り、小料理屋ラジーに行っている時間はなくて城内にある未来の王太子妃の部屋を使わせて頂いて、そちらで寝泊まりをしている。

もう腹は括っているし、王太子妃でゆくゆくは国王妃?かかってこいや!だけど、料理がしたい~包丁握りたい~魚を捌きたい~野菜を切りたい…

「ラジェンタ様?」

エアー包丁を手に持って、エアー魚の三枚おろしのイメトレをしている私は完全なる不審者だ。

城付きのメイドが怪訝な顔で、私の前にお茶とお菓子を置いてくれた。

エアー包丁を静かに直して、メイドと私付きになった侍従のお兄様に微笑みを返した。

「ありがとう。今日はドレスの採寸と意匠の打ち合わせね」

「はい、後で業者の者と参ります。2時間ほどお時間かかります」

意匠…婚約発表の夜会用のドレスデザインの打ち合わせが終わったら、今日は予定は入っていないはず。王太子妃の教育は前の妃候補の時に済ませているし、新しく貴族位を拝した方が出たら新規で覚え直せばいいし…と本日の段取りを頭の中で組んでいた。

「おはよう、ラジー」

お茶を飲んでいると、スワ君が爽やかに朝の挨拶をしながらやってきた。

何度も言っているが、スワ君とは本当にのんびりといつもと変わらずの距離感だった。まあ、会えば挨拶程度のキスはしてくるんだけど、激しいのはまだない。いや別に激しいのを期待しているという訳でないよ、念のため。

今も軽いリップ音をたてて頬と…本当にかる~く唇にキスをしてくるスワ君(元お花畑殿下)

そう言えばスワ君にルルシーナ様とのあれこれを詳しく聞いた時に言ってたっけ…

スワ君をお花畑状態にさせたあのルルシーナ様とは、実は3、4回しか直接会ったことがなく、会話すらもまともに交わしたことが無かったとか?

そうしたらどうやって愛を育んだんだよ!?とツッコめば…昭和の清き交際が如く『文通』だと言っていたはずだ。そうだ、スワ君は真正のお花畑の恋愛に夢みる夢男じゃないだろうか?〇貞の底力ぁぁ…いらん底力だね。

スワ君にとってみれば、ちょこっと触れ合えるだけでもお花畑モードを発動してしまう危険な状態かもしれないけれど、今の所不審?な浮かれっぷりは見受けられない。

「渡り人の世界で婚姻の衣裳はどういう感じなの?」

おっ?スワ君いいこと聞くじゃないの!前世の私は丸っこい体型だったので、花嫁衣裳を着る機会があったとしても、ずんぐりとむっくりの弾けっぷりで着用は避けていたが…

フフフ…今の私を見よ!

スラリとした手足に、出ている所は出ていて魅惑ボディで筋トレも欠かさずしているので、くびれも維持している!

「え~とね、こういうデザインとかね~」

と、スワ君が例の小汚い袋の模造品から出してきた、紙とペンを借りてイラストを描いていった。

「体の線が強調されているのか…へぇ~色は?」

「白が一般的ですが、まあ好みでしょうかね」

私の手元をメイドや侍従も覗き込んでいる。何枚か描いているとデザイナーさん達が来たようだ。

スワ君を交えて意匠の話、そして装飾などを話して打ち合わせは済んだ。

「今日は予定がないから、小料理屋ラジーを開けようかと思うのだけど…いいかな?」

デザイナーさん達が帰って、部屋に残っていたスワ君にそう言うと、嬉しそうに微笑んだスワ君は私の手を握ってきた。

「うん、私も今日公務が上手く終われたら食事に行くよ。気を付けてね」

スワ君は軽く私にキスをしてから、部屋を出て行った。メイドや侍従のお兄様は生温かい目で私を見ているけど、そんなんじゃないと思うんだけどね~

さて、ドレスからワンピースに着替えて急いでマサンテと商店街に移動する。一応護衛は継続してついてくれている。今日はユーリカエル卿だ。

そうそう…私は要らないよ!と言ったのだけど、スワ君のゴリ押しであの小汚い袋の『モチ』の模造品が一応、手元にある。袋の色目だけは気遣ってくれたらしい女子用?のオレンジ色の巾着袋を手に持って、商店街に向かった。

「見た目は良くないですが、収納の持ち運びの良さは…流石殿下ですよね」

「そうよね、見た目が出来損ない…ゲホン、みたいな感じだけど、魔術に関しては流石よね」

モチ巾着袋に野菜とお肉を詰めながら、今ここにいないお花畑殿下をさり気なく下げた、私とマサンテ。

そして小料理屋ラジーに向かうと店の前の路地に…男性が立っている。スラッとした長身のまだ若い年齢の感じの人だ。その若い男性は近づいて来た私達に気が付くと、少し微笑んだ。

「すみません、ここのお店の方でしょうか?今日はお店は閉まってますか?」

このお兄さん、お客様だー!

「いえ、今から開けようと思っていたので…宜しければ中にどうぞ!」

私がそう言ってお店のドアの貼り紙を取り外した。『しばらく休業させて頂きます』と書いておいたのだ。

男性は遠慮しつつも店内に入って来られた。マサンテが湯を沸かしている間にカウンター席に案内した男性に、メニューを渡した。

「これが店内でお出ししている料理の名前と金額です」

男性はメニューを見るのが初めてなのか、キョトンとしながらメニュー表を受け取ると、熱心にメニューを見ている。

「実は、護衛の仕事で隣町から荷を運んで来ていて、商店街のおじさんにここの料理屋さんが変わった料理を出してくれて、とても美味しいと聞いたんですよ」

「まあっ!ありがとうございます」

ホホホ、商店街のどのおじ様かしら~?商店街の会長さんかしら?花屋のおじさんかな?

「おぅ~ラジーちゃん。おかえり!今日は店開けるのかい?」

あ、噂をすれば花屋のおじさんが店先に来た。

「はい、長い間お休みしてましたが~今日開けます!」

「後でカミさんと寄るよ、じゃあ!」

花屋のおじさんはそう言って手を挙げて帰って行った。おじさんの反応から察するに、このお兄さんをご紹介してくれたのは別人のようだ。

「お酒は飲まれますか?」

「変わったお酒もある…って聞いたけど?」

ははーん、紹介してくれたおじさんが分かったぞ。パン屋のおじさんだな。

「果実酒以外にも穀物から醸造したお酒と野菜のお酒もあります」

お兄さんの目が輝いた。

「穀物のお酒を下さい」

「お待ち下さいませ」

ゴロマという所謂、麦焼酎っぽいお酒と野菜の治部煮、そして魔獣肉の角煮を出した。

「本当に変わってますね。おおっ何だろう~優しい味だな。あ、このテンプラ盛り合わせ下さい」

お兄さんは気に入ってくれたようだ。そしてお兄さんをご紹介してくれたパン屋のおじさんと花屋のご夫婦…そして軍の若い男の子達も来てくれた。

「ここは城勤めの方も来るんですね」

と護衛のお兄さんは軍人ではない、内務省のおじさん達をチラッと見ている。あんな普通の格好のおじさんでも城勤めって分かるのかな?

「役人って雰囲気独特だから、市井で働いている人と違いますよ」

「へぇ…」

そんな雑談をしていると、お店の中の魔圧が上がった。

「…っ!」

護衛のお兄さんが思わず、剣を手に取って戸口を見たので私も見たら…カイン兄さまとフードを被ったスワ君が立っていた。魔圧の発生元はスワ君だと思われる。

「何…。え?あれ何者?」

お兄さんが思わずスワ君の正体を探りそうになったので、私は慌てて

「あの金髪の大きな男は兄なのです。隣は幼馴染で…」

と説明すると護衛のお兄さんは

「軍人の妹さんだったんですね、それで城勤めの人間が客に多いのか…」

いやいやそうなんだけど…私はカイン兄さまとフードを被ったお花畑殿下を奥のテーブル席に押し込んだ。

「ちょっとスワ君!何でそんな魔力を垂れ流すのよ!私にも分かるぐらいよ?」

スワ君はまだフードを被ったまま、小さく舌打ちをしている。

「あ……まあ、ラジー酒とつまみ…何か頼む」

カイン兄さまがそう言って私に苦笑いを見せてくるけど、スワ君はフードを被ったまま俯いている。

カウンターの向こうに戻り、おつまみセットを作っていると、カウンター席の護衛のお兄さんが

「あのフードの幼馴染の彼、すごい魔力量ですね。魔術師?」

と聞いてきた。

「はい、すみませ~ん驚かせてしまって…今日は調子が悪いみたいで…魔力が駄々洩れですねぇ」

と、謝ってからスワ君を見た。フードの隙間から鋭い目をしてこっちを見ているぞぉぉぉ!?

そして、本日の営業を終えて…何故だかフードを被ったままのスワ君は、私の部屋に居残っていた。何だって言うんだろうね?

「ラジー…あの男、誰?」

「男?」

「カウンター席に座ってた、剣の使い手…」

「護衛のお仕事してるって言ってたけど?パン屋のおじさんの紹介でうちのお店に飲みに来てくれたみたいだね」

スワ君は顔を上げて、フードを取った。

「それだけ?」

「それだけじゃない?あ…もしかして刺客とか変な暴漢だとかだと疑っている?」

スワ君は一瞬で私の前に立つと、思いっきり抱き付いて来た。

「苦しいってスワ君…」

「やっぱり店の扉に認識魔法を仕掛けておこうかな…」

「あ~それって前も言ってたやつでしょう?スワ君が許可したした人しか入れないやつ…駄目よ!沢山のお客様に来て頂きたいんだから」

スワ君は少し体を離して私を見下ろしてくる。そしてまた抱き付いて来た。もしかして今脳内お花畑中なのかな?

「前にラジーとは急転直下の恋愛じゃなくていいとか言ったけど…やっぱり少しは急転が欲しい…」

グリグリと頭をこすりつけて来るお花畑殿下。そりゃ私だってね、トキメキやらドキドキを味わいたいとは思うわけよ?でも、スワ君とはねぇ~だって気楽なんだもん…

スワ君の匂いを嗅ぎながらスワ君の背中に手を回してゆっくり背を撫でる。これでも幸せだと思うんだけど…

私はスワ君の頭をゆっくりと撫でた。スワ君が少し身動ぎすると、私の首筋に唇を這わしてきた。こ、これはっ!?とうとう来たか!?顔を上げたスワ君の唇が私の唇に喰らい付いてきた。



……

最後までは致してませんよ?でもね、結構ドキドキしたよね?スワ君もそう思ったのか

「凄すぎて興奮している」

とか脳内お花畑を炸裂させていた。私も興奮したよ…これあれだな。普段はいつもと同じくまったりでも…夜の触れ合いでこれだけドキドキ出来ればいいんじゃないかな?

スワ君の衣服の乱れを整えてから、お城に帰るスワ君に

「私達的には急転直下じゃない?」

と聞いたら蕩けそうな笑顔を浮かべて

「ラジーと一緒なら崖の下に叩き落されても幸せ」

とかお得意のお花畑発言をしてきた。

私は崖下に落とされたら、叩き落した相手を骨の髄まで恨みまくるけど?ああん?

まあ暫くは急転直下型お花畑恋愛をスワ君と一緒に楽しもうかな。
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