異世界で小料理屋の女将始めます!

浦 かすみ

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女将のショー(不発)

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包丁を静かに動かして魚を切っている。今日はいよいよ『オサシミ定食』の初お披露目だ。生魚の料理だ、此方の世界の人には馴染みのない料理だろうし、売れないとの予測はついている。

だか、しかし

スワイト殿下大絶賛!…この謳い文句をメニューの横に書いてみた。使える者は王子でも使いますよ。

私は保管庫から魚を出してきた。鮮魚や生肉、野菜は一切腐らずに食品ロスがゼロという飲食店には泣いて喜ぶべき状態なのこの魔道具。スワ君に早く『ミニ保管庫』と巾着袋の『モチット』を大量生産して実用化に踏み切れ!と催促をしている。グダグダ言うのなら、王太子妃の推進事業化計画に則り、私が大々的に独占販売を始めちゃうけどいいのかい?というと、渋々準備を始めた。

どうやら魔道具の開発と魔具の大量生産は一度製作にかかってしまうと、スワ君自身がのめり込んでしまうと分っていたみたいで、腰が重かったみたいだ。

あ、因みにジュエルブリンガー帝国の魔道具とは少し魔術式を変えているので特許とか著作権侵害には当たらないみたいです。

そしてのめり込み過ぎたスワ君は各地にある魔道具工場の視察、そして新しい魔道具工場の建設案などもぶち上げてしまったようで、今…スワ君は本当にのめり込んでいる。

なるほどな~これはお付き合いしている女子…今回の場合は該当するのは私だけど、こんなに放置されたらそりゃ拗ねるし、嫉妬しちゃうよね。

仕事と私、どっちが大事なの!?

言うよね~この状態じゃあね。普通の貴族令嬢じゃこの待ちの状態は耐えられないと思うわ。今も地方の魔道具工場に5日間も視察に行ってるのよ?

これ普通の恋人なら連絡は無い、仕事>自分な状態だよ。スワ君マズいでしょ?まあ私は分かってるからいいけどさ。

「そろそろ婚約発表の夜会に参加される貴族位の方々が王都に入られてますよね」

「そうよね~」

マサンテとお城のメイドのナエラと何となく遠くを見詰めている。皆の言いたいことは分かっている。スワイト殿下、婚約発表の夜会にちゃんと帰って来るの?でしょう。

「間に合わなきゃ一人で出るわよ」

「ラジェンタ様!?」

「ラジー様!」

メイド2人にお叱りのお声を受けたが、だって仕方なくない?いないものをどうするのよ。

「大丈夫よ~いざという時はマグロの解体ショーでもやって時間稼ぎするから!」

「マグロノカイタイショー?」

「よく分かりませんけど…一応侍従長とメイド長にはご相談しておきますね」

そう言ってナエラは部屋を出て行った。マグロの解体ショーかお野菜の飾り切りショーをやれば結構ウケると思うんだけどな~

個人的にスワ君は間に合わなくてもいいかも…とほくそ笑みながら、こっそりマグロっぽい回遊魚を手に入れて包丁を夜な夜な研いで心待ちにしていた…のに

スワ君は夜会に間に合うように戻って来てしまった…いや間に合ってヨカッタネー

「ラジー…何だか目が怖いけど何故睨むの?」

「私の華々しいデビューを邪魔された感じかな…」

「なにそれ?」

何も知らないスワ君に八つ当たりをしても仕方ない。小料理屋ラジーで解体ショーでもするかなぁ。

婚約発表の夜会当日

朝からお風呂に入れられ、全身マッサージを受けて、ドレスを着せられて…疲れ果てていたが時間が無いと言われ、小さいクッキーを口に入れて何とか小腹が空くのを抑えていた。

「ラジー入っていい?」

戸口に現れたスワ君は…地上に舞い降りた天使だった。つい歌ってしまいそうになった。すみません、中身はアラフィフ何ですのよ…

「スワ君ーーなにそれぇ!?格好いいわっ流石スワ君!」

いつもは無造作に髪をそのままにしているけど、今日は髪を纏めて額を出している。紺色の髪にアイスブルー色の瞳の綺麗な王子殿下が私に微笑みながら近づいて来た。

「ラジーも今日は凄いね」

「スワ君…こういう時は、『いつもと違う雰囲気だけどそれもいいね!』と言わなきゃ駄目よ」

スワ君は顔を強張らせて、頷いている。

「夜会のご挨拶からの手順は頭に入っているの?」

「ああ、うん。大丈夫だよ」

本当かな~?何だか私の方を見てポヤーッとしてなかった?

スワ君は私に手を差し出したので、その手に取ると滑らかな足取りで会場までエスコートをしてくれた。

「ラジー、緊張してる?」

「そりゃね…スワ君は?」

大広間の扉の前…スワ君と2人で待つ。スワ君はエスコートしている私の手を握り締めてきた。

「俺は嬉しい…夢みたいだ…」

こんな時にお花畑モードに入ってしまったようだ…これはいけない。私だけでもしっかりせねば。

扉が開いた。

浮かれて花を飛ばしまくるスワ君を後ろから小突きまわって、何とか婚約発表を無事終えることが出来た。

「疲れた…これならマグロの解体ショーしている方が楽だよ」

王太子妃の部屋に戻り、ドレスを脱いでマサンテにグラスに入れた果実水を貰ってがぶっと飲んだ。

「これで半年後に婚姻ですか…それにしても婚姻まで早いですね」

マサンテが湯上りの私の髪を拭きながらそう聞いてきた。

「そうなんだよね、実は水面下でずっと準備してたんだって…国王陛下もお父様も初めからルルシーナ様と婚姻なんて考えてなかったみたいね」

そう最初からお花畑なスワ君の恋なんて、おじ様達には鼻で笑われて本気にはされていなかったようなのだ。これはこれで、何だか切ないね。

「ラジーお疲れ~」

噂のスワ君が、ガウン姿で続き扉から入って来た。王太子妃の部屋は王太子殿下の部屋と内扉で繋がっているのだ。

マサンテは頭を下げると静かに去って行く。

「何だかお腹空いたね」

スワ君はソファに座るなりそう言って、伸びをした。確かに小腹は空いている…あ、そうだ。

「プリン食べましょう。夜に食べようと思ってこっそり置いていたの」

スワ君と2人で夜中に食べるプリン中々乙である。

「夜中に甘い菓子を食べると、ばあやに怒られたな~」

「あら?スワ君も?うちもよ…知ってる?ベッドの下にお菓子を隠すとバレるから誰も触らない所に隠すのがいいのよ」

「どこ?」

「洋服棚の上よ。私は箱を作って、何かの道具が入っている様に細工していたわ」

「ラジーは凄いよね」

私はスワ君を半眼で見詰めた。

「ちょっとまたなの?スワ君、女性に向かって凄いとかって誉め言葉かしら?もっと内から輝く『美』『艶』など褒めたたえる言葉はあるでしょう?」

スワ君はモグモグとプリンを食べながら、う~んと唸った後

「ラジーは性別関係なく凄いんだよ。やっぱり凄い…」

と言った。…褒めてるのだけど、複雑だ。

スワ君はちょっと遠い目をして天井を見詰めている。

「俺ね、今考えるとルルシーナの事が好きとかそういうことより、自分がもっと羽目を外して彼女に夢中になれるかな~と期待していたんだと思うんだ。それでルルシーナに裏切られていたことも、もっと堪えるかと思ったけどそうでもなかった。すぐに気持ちを切り替えてルルシーナの事を冷めた目で見てしまっていた。好きだとか思ってたけど、この程度だったんだ…てそれが分かってしまった事の方が悲しかった」

スワ君は天井を見詰めていた目を私に向けた。綺麗なアイスブルー色の瞳が優しく細められた。

「ラジーに背を向けられたことの方がよっぽど堪えてた。だからムキになってラジーの行方を捜した」

ああ…成程。それで追跡魔法か~

「でもさ、改めてラジーと一緒に居てみると、そうじゃないよな。夢中になるとか好きになるって理屈じゃないね。そこに自然にある感情かな。気が付いたら夢中になってていつの間にか好きになってる。これでも思い返してみれば子供の頃からこんな気持ちだから、今更だよな」

スワ君の告白はまだ続きますか?恥ずかしい…

「それで、ラジーが渡り人なのを知って…俺は今は王族で完全なる自由は一生無理だけど…もしもラジーのように来世があって、異界の渡り人になれるなら次の世界ではもっと自分を好きになれるかな~って希望が湧いた」

衝撃的だった…スワ君は自分の事好きじゃないの?そりゃ子供の時から大人しいし、大笑いをしているのは見たこと無いし、我を忘れて夢中になっていること…魔術の研究?以外は知らないわ。

「スワ君は…自分の事好きじゃないの?」

わたしが聞くとスワ君はちょっと困った顔をした。

「王族としての自分は…苦手かな。後継者は俺しかいないだろう?だから王太子、国王になるのは当然として教育を受けてきて、使えないものは切り捨てて…私情を挟まないように感情を殺して…正直好きじゃない。だから逆に…魔術棟で研究の手伝いをしたり魔術師としてのスワイト=ワイジリッテルベンジは結構好き」

なるほど、だからスワ君は魔術関連の仕事にはのめり込むんだね。好きならば仕方ないね。

「うん、だから同じく好きで夢中になっているラジーの事には興味津々だよ?」

そ…!そこに行き着きますか!そうですか…。何だかそういう雰囲気になってますか?スワ君の綺麗な顔が素早く近付いてきて、私の唇を塞いでくる。

そりゃそうよね、好きじゃなきゃこんな舌が絡んだキスなんて気持ち悪くて嫌なはずだもの。

「スワ…く…」

「はぁ…ねえ俺ね、今大陸一の魔術師と呼ばれるくらいすごい魔術師で良かったと思ってるんだ」

「んぅ…どう…してぇ?」

「未来永劫、ラジーと巡り合えるような婚姻魔法を開発できるから…ちゅっ…」

重たいよ!何だよそれ!?前からちょっぴりお花畑が過ぎるなぁとは懸念していたけど!

「重いよスワ君!んぅうう…こらっ!そんな超ど級のストーカー魔法…んぅうう!?」



……

お花畑に住んでいるストーカーは世界最高峰の魔術師でした。実力の伴ってしまっている筋金入りのストーカーを相手に私は途中で気絶してしまいました。

「起きて~ラジー…寝ちゃったのか…別に寝ててもいいけど…」

「……こらっ!?」

「やっぱり起きてた」

ベッドの中でスワ君を睨む。

「変な魔法を開発する前に、若返りやシミや皺を消す魔法を考えなさいよ!それこそ不老長寿の魔法を開発しなきゃでしょう!?」

スワ君は物凄く、嫌だ~みたいな顔をした。

「不老長寿を開発したら、俺がその魔法かけられたら困るもん。寿命延ばされてずっと王族したくない!」

はぁ~そうだったね。来世は自由に?もう渡り鳥とか、ナマケモノとかコアラになったほうがいいよ。

のんびりまったりと人生送れそうだからさ。

因みにその時に私は道連れに鳥や動物の番にはしないで下さい!
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