ハイロイン

ハイロインofficial

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第三章

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「息子よ、あの女の子からまた電話だぞ」
 箸を動かし始めたばかりだったが、一気に食欲が失せた。
「父さん、そのまま切ってよ」
 白漢旗バイ・ハンチーは切ろうとしたが、白洛因バイ・ロインはすんでのところで奪う。
「やっぱりいいよ。貸して」



 季節は秋に移り、庭に吹きこむ風も冷たくなってきた。大きな樹の下に立っていると、自分の気持ちも体と同じように冷えていくようだ。
 このところ毎晩家に帰ると石慧シー・ホェから長いビデオ通話がかかってきて、疲労困憊していた。それより悩ましいのは、白洛因の心の防波堤が徐々に削られていっていることだった。
 このままではいけないと昨日はわざと応対しなかった。その結果、彼女は電話をかけてきたのだった。
「私のことが面倒になったの?」
「もう連絡を取り合うのはやめよう」
「嫌。絶対にダメよ。そんなことしたら、一日中お父さんに電話し続けるからね」
「好きにすればいい」
 白洛因は電話を切ると、シムカードを抜き取って部屋に戻った。
「話は終わったのか?」
「うん」
 白洛因は頷いた。白漢旗は好奇心を隠さず聞いてくる。
「あの女の子は誰だ?」
「父さんの知らない子だよ。ところで携帯電話の通話料、チャージはあとどれくらい残ってる?」
 白漢旗は考えながら答えた。
「二十元いかないくらいだろう」
「じゃあ新しいカードを買ってくれ」
 そう言うや否や、白洛因はシムカードを折る。白漢旗は止めようとしたが間に合わなかった。何年も使ったカードが目の前で失われ、やるせない気持ちになる。
「電話帳は全部カードの中に入っていたのに、なくなっちまったじゃないか」
 白洛因は父の肩を叩いて慰めた。
「心配ないよ。父さんの携帯電話は一日中家に置きっぱなしで誰からもかかってこないじゃないか。そんな番号なら意味はないし、いっそなくなってすっきりするよ」
 白漢旗はため息をついて、視線を白洛因の口元へ向ける。
「最近口角炎にかかっていただろう。良くなったか?」
「かなり治ったよ」
 白洛因は部屋に向かって歩いていく。
「多分もう少し軟膏を塗れば消えるよ。軟膏は? どこに置いた?」
「本棚の二段目、黄色いチューブだ」
 これまでは白漢旗が綿棒に軟膏をつけて白洛因に塗ってくれていた。今日は自分でやろうと本棚の二段目を探しまくり、やっと黄色のチューブを見つけた。
『馬応龍痔瘻軟膏』
 これではない。白洛因は一段目も三段目も探しまくり、手を埃だらけにしたが、口角炎の治療薬は見つからなかった。
「父さん、どこにあるんだよ」
 白洛因は中庭に向かって叫ぶ。白漢旗は折れたシムカードを元に戻そうと頑張っていたが徒労に終わり、諦めてカードを捨てて部屋に戻ってきた。
「本棚の二段目だろう?」
「探したけど、ないよ!」
 白漢旗は近づき、黄色いチューブ入りの軟膏を手に取った。
「これじゃないか」
 馬応龍痔瘻軟膏……
 白洛因の顔色はどす黒く変わる。
「なんで口角炎に痔の薬を使ったんだよ!」
「それがどうした」
 白漢旗は爽快に笑った。
「この間、おばあちゃんの水虫もこれで治したぞ」
 白洛因は強く拳を握りしめ、骨を鳴らす。
「水虫と口角炎が同じだと思うのか?」
「口角炎も傷口だろう? 万能接着剤の502だってプラスチックや靴を直せるじゃないか。どんな薬だってお前の炎症が治ったなら、つまり役に立つ薬だって証拠だ。ほら、お前もだいぶ良くなったって言ってたじゃないか」
 白漢旗はそう言って白洛因の口元を触る。白洛因はその手を振り払い、怒り狂って勢いよく部屋の扉を閉めた。
 白漢旗はノックをしながら大声で叫ぶ。
「父さんは薬代が惜しかったわけじゃないぞ。この薬は本当に効くんだ。口だろうが手だろうが傷口に塗れば効くぞ。嘘だと思うなら医者に聞いてみろ。絶対この薬は万能だって言うから」
 部屋の中は静まり返ったままだ。白漢旗はふたたび扉を叩く。
「息子よ、こんなに何日も使ったんだし、あと二日くらいいいじゃないか。塗っておけば良くなるぞ」
 白洛因はまたもや眠れなくなった。
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