ハイロイン

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第十一章

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たった三時間でアクセス数は百万を越え、コメント数は二万を超えた。
白洛因バイ・ロインは目を疑う。こんなに反響が大きくなるとは思ってもいなかった。そして注目を浴びることでこんなに興奮したのは初めての経験だった。爆発的なスピードでアクセス数とコメント数が増え、白洛因の血は沸き立つ。孟建志モン・ジエンジーが人々に罵られながら崩れ落ちる姿が見えるようだった。
その頃顧海グー・ハイ顧洋グー・ヤンや年配の親戚たちと食事をしていた。その間も途切れることなく白洛因にショートメッセージを送り続けていたが、一度として返信は戻ってこなかった。
どうしても心配になり、トイレに行くと断って外に電話をかけにいく。
「因子」
電話の向こうからは明るい声が返ってきた。
「おう!」
顧海は呆然とする。
「お前……因子か?」
「俺に決まってるだろう。ははは……」
声は確かに彼のものだったが、様子は明らかにおかしい。もしかしたら一日俺に会えずに寂しくてたまらず、電話を聞いて喜びすぎて、自分を見失ったのか?
「どうした? なんで返事を寄越さない?」
「え? ……ああ……ははは……」
顧海はニヤリと笑う。
「俺が電話をしたのがそんなに嬉しいのか?」
「うん。すごく嬉しいよ! だから今夜は帰って来るなよ!」
「……」
「もし他に何もなければ切るぞ」
ツーツーツー。
彼が嬉しかったのは電話をかけたからではなく、一日顧海が不在だったからか。
その夜、顧洋が顧海の家を訪ねてきた。暇すぎてつまらず、彼は顧海のパソコンを開く。国外にいる時間が長かったので中国のサイトを見ることはとても少なかったが、顧海のブラウザにブックマークされているのはすべて中国のサイトだったので、覗いてみることにした。
顧海は沈んだ面持ちでその隣に座り、もう一度白洛因に電話をかけるかどうか迷っていた。よく思い返すと白洛因は普通の状態ではなかった。
「まったく……この社会の深刻な問題だよ。孟建志、こいつはコメントする価値もない」
顧海は知っている名前を耳にし、携帯を置いて顧洋に近づく。
「見せてくれ」
それを見た瞬間、顧海の顔色は変わった。やはり事件はあったのだ! さもなければ白洛因の性格上、異常事態でもない限りこんな扇動的な文章は書けない。
「気づくべきだった。返信しないのは理由があったんだ。それに上機嫌を装って煙に巻き、わざと俺に知られないように……」
顧海はぶつぶつ言いながら靴を履いた。顧洋は無表情に彼を見やる。
「どこへ行く?」
「ちょっと用事ができたから出かけて来る」
顧洋は淡々と告げた。
「遅くなるなよ。道中気をつけろ」
ドアがバタンと音を立てて閉まると、顧洋は眉をひそめてため息をついた。
「あいつめ……」



楊猛ヤン・モンは父親とパソコンを奪い合い、小さな体で互いに押し合いへし合いした。
「父さん、俺にも罵らせてよ」
「俺はついさっき諧謔詩を書いたんだ。アップするまで待ってくれ、息子よ」
そのとき吠えるような怒鳴り声が部屋に響き渡る。
「親子して何を取り合ってるんだ? 明日仕事がないのかい? お前は明日学校に行かないのか? とっとと風呂入って歯を磨いて寝な!」
楊猛の父親は軽く笑った。
「もう寝る、もう寝るよ」
楊猛も母親を従順な表情で見つめた。楊猛の母はドアを蹴り破って出て行く。弱い男たちは身を寄せ合ってこそこそ話した。
「父さん、俺はちょっと興奮しすぎて眠れないから、因子の家に行ってみようかと思うんだ」
楊猛の父親は彼の手を取り、興奮気味に言った。
「父さんは賛成だ。男は正義感が強くあるべきだ。行きなさい。今晩は戻らなくていい」
「でも母さんが行かせてくれないかもしれない」
楊猛の父親は楊猛の胸に拳を当てた。
「お前も男だろう。小さい頃なんて教えた? 大事な時には力を出せ。若いうちに多少の無茶もできなくて、これから先どうやって社会でやっていくんだ?」
楊猛は逆に問う。
「じゃあ父さんも一家の当主として、母さんに逆らって俺を外に出してくれない?」
「……えっと……塀を乗り越えていくのはどうかな」
楊猛は顔を曇らせた。
「塀は高すぎて登れないよ。もし踏み台を持って行ったら絶対母さんにバレちゃうだろう」
「大丈夫だ。父さんが肩車をしてやる」
深夜、親子はこっそり外に出ようとする。すると母が腰に手を当て入り口で待ち構えていた。
「どこに行くつもり?」
楊猛と父親は声を合わせる。
「トイレに行くんだよ」
「トイレにも一緒に行くのかい?」
母親は虎のように恐ろしい目で二人を威嚇した。
楊猛は父親の肘を引き、取りなすように笑顔を浮かべた。
「時間の節約になるだろう?」
母親は白目を向いて大股で部屋に戻っていく。
「早く行こう……」
楊猛の父親は楊猛を押し、二人はこそこそとトイレに入った。
百七十センチの高さの塀の下で、親子は必死に奮闘する。
「父さん、もうちょっと上げてくれないと、越えられないよ!」
「一二三、一二三、一二三……」
親子は揃って声を上げたが、そのたびに滑り落ち、最後には楊猛の父親は地面に崩れ落ちて、楊猛の足は彼の首を跨いで地面についた。
「父さん、掛け声はやめよう。叫ぶほど力が入らなくなる」
楊猛の父親は少し休んでからまたしゃがんで姿勢を整える。
「息子よ、もう一度やるぞ!」
楊猛は従うよりほかなかった。
「あんたたちトイレで何をやってるんだい?」
母親の声と足音が近づいてくる。父親はそれを聞いて、火事場のバカ力が湧き、猛然と立ち上がった。楊猛はバランスを崩し、仰向けのまま塀の向こうに転がり落ちた。
孟建志は白家の門の前でうろつきながら悩んでいた。奴らに目にもの見せてやるべきか? だが彼らを怒らせれば二
十万はもらえないんじゃないか? しかし何もしなければ、やはり二十万はもらえないし、相手は調子に乗るだろう。ダメで元々だ。やるだけやってみればいい。俺の嫌がらせを気にせずいられるわけがないんだ。
孟建志は考えごとをしながら無意識に来た道を戻ったが、白家に辿り着く前にチベタン・マスティフが吠える声が聞こえてきた。おそらく門の中には入れない。なんとか金を工面しないと明日の計画も実行できない。通行人から脅し取るか?
こんな時間に誰の金を取る? 女は家を出ないだろうし、男は自分より力が強い。そう思っていたとき、突然人影が視界に入った。暗がりで男か女かわからないが、背の高さを見る限り試してみてもよさそうだ。
楊猛は歩きながら顔をさする。左側の顔は塀から転がり落ちたときにぶつけて腫れていた。だが声を出すことも憚られ、急いでここまで駆けてきた。彼は心の中でぼやく。
俺はなんでこんなに運が悪いんだ?
そのとき、前方に人影が現れた。
「金を出せ」
孟建志は恫喝する。楊猛は飛び上がって驚いたが、目の前の男は自分と同じくらいの上背だ。背中を丸め、足の長さも違うようだし、全身から嫌な匂いが漂っている。それを見て恐怖は消えた。孟建志は楊猛が反応しないので前に出て怒鳴る。
「早く金を出せ!」
楊猛の目には皮肉な色が浮かんだ。
「そんな小さな体で恐喝するのか?」
「俺をバカにすんのか? 俺の小さな体でもお前から金を奪うのは簡単だぞ」
そう言いながらまた一歩前に出る。あまりの臭さに楊猛は転びそうになり、思わず咳き込んだ。
「物乞いから強盗に転職か? この野郎、向上心があるな」
孟建志は楊猛にそれ以上嫌味を言わせないために勢いよく近づいた。楊猛は避ける間もない。まるで糞の塊に押し倒されたように鼻の周りが臭気に襲われた。
「兄さん、おじさん、おじいさん、頼むから起き上がってくれ。金をやるから、いいだろう?」
孟建志は死に物狂いで楊猛に抱き着き、離そうとはしない。
「まず金をよこせ」
楊猛は十五元しか持っていなかった。
「これしかない」
孟建志は文句も言わずにその金を持って立ち去る。楊猛は立ち上がり、その場で風火輪(中国の神様・哪吒が乗る車輪)のようにぐるぐる回り、身体に付いた臭さを払おうとした。だが悪臭は消えず、大門を入った途端に阿郎アランに飛びつかれ、自分の運の悪さにため息をつく。
「強盗にあったのか?」
楊猛は頷く。
「厳密には強盗じゃなくて、俺が自分から金を払ったんだ。ものすごい臭いのに俺に抱きついて離れないから」
白洛因は冷笑する。
「そいつが孟建志だ」
「え?」
楊猛はあんぐりと口を開いた。
「あいつが孟建志だって? あのバカ野郎だとわかってたらなんとしても殴ってやったのに。クソ、十五元を無駄にした」
白洛因は黙って何も言わなかった。楊猛はまた声を上げる。
「あいつ、まさかあの金でビラを印刷に行くつもりじゃないだろうな」
「気にするな。十五元じゃたいして刷れないし、食い物だって買わなきゃならないだろう」
楊猛は胡坐をかいてベッドに座り、眉をひそめてしばらく考えた。そして突然ひらめいたように白洛因の腕を引く。
「いい方法を思いついたぞ。この方法がうまくいくかわからないけど」
「言ってみろ」
楊猛は白洛因に耳打ちした。
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