王子様になりたくて 造花な王子系女子はいかがですか?

小回りオオマワリ

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プロローグ『憧れのその先に』

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「今日から転校してきました。榊部麗華さかきべれいかです」


 両親の都合で転校して、初日。新たな学校での第一声。
 小学6年2組のクラスには拍手が響いた。
 自己紹介が済み、不安そうに自身の長い髪を触りながら、用意された席に着く麗華。
 しかし、一息つく間もなく、

「榊部さんはどこから来たの?」

「いつもどうやって遊んでるの?」 

「好きな教科何?」

  
 転校生の洗礼、クラスメイト達からの質問攻めを浴びせられる。

「あの…えっと」

  四方八方からの口撃にたじろぐ麗華だったが、そこへ横槍が。

「お前らちょっと詰め寄りすぎだぞ。榊部が困ってるじゃないか」

 集団を掻き分け、一人の男児が麗華の前に姿を現した。

「俺は岸田正吾きしだしょうご。学級委員をやっている。よろしくな」

 正吾に差し出された手に、麗華はつられる形で握手をした。

「あの……さっき言ったけど榊部麗華です。よろしくお願いいたします」

「ちょっと堅いな。でも転校初日だししょうがないか」
  
 手が離れ周りに視線を向ける麗華。 
 クラスメイト達の明るい表情と、場違いな感じが一切ない雰囲気に、正吾の人望の厚さを感じ取ったのだった。

「さあみんな席に戻って授業を始めるよ」

 担任教師の一声でクラスメイト達は席に戻り、教室に日常が帰る。 
 だが、麗華にとってはまだ非日常で授業中も集中力を欠いていたが、視点だけは正吾へまっすぐだった。
 彼は成績優秀で、特に体育ではずば抜けている。

「みんな見とけ」

 今日の体育授業は跳び箱。1番高い8段を軽々飛ぶだけではなく、台上に手をつき前方倒立回転、ハンドスプリングをこなし、華麗な着地で魅せる。

「正吾君かっこよすぎ!」

「すげぇよ正吾!」

 女子からは黄色い声援、男子からはあふれんばかりの賛辞が体育館に反響した。
 その姿を見た麗華も例外でなく、尊敬の念を抱く。
 正吾という光に麗華は憧れ、心は突き動かされる。そして、思い出した。
  
 (私は光になりたかったんだ)

 転校初日の放課後。麗華はまっすぐ帰宅し、自室の本棚から思い出の絵本を取り出した。
 幼少期に擦り切れるほど読んだ、誰にでも愛される王子様が主役で、それが魅力的に描かれている絵本を手に、母親の元へ向かいお願いをする。


「お母さん。髪切りたい! この本の王子様みたいな感じに」


「みんなおはよう!」
 翌日の6年2組。クラスメイト達は目を丸くした。
 昨日の長髪でオドオドとした転校生が、翌日には長髪を切り、ハツラツとしてハキハキと喋る子に豹変したのだ。 

「どうしたんだ榊部? 昨日とは印象だいぶ違うけど」

 驚きで話しかけづらくなっていた中、正吾は麗華の変化に切り込んだ。

「私、昨日正吾君を見て思ったんだ。憧れるじゃなくて、憧れにならなきゃって」

「えっ、そうなのか……」

 言葉の意味が分からず正吾は返答に困り、その困惑はクラスメイト達も同様だった。


 間もなく授業が始まり、

「ここの問題分かる人?」

 の教師の問いに、

「はい!」

 と切れのある返事で、麗華は一番に挙手をし、黒板にチョークで回答を記した。

「榊部さん昨日とは違って積極的だね」

 と言われると麗華は、

「昨日は緊張していただけなんです。これからも仲良くしてくださいね」

 と屈託ない笑みを見せ返答する。
 担当教師それに釣られて笑顔がこぼれる。


  休み時間には、

「榊部さん昨日とは雰囲気違うね」
  
 と隣の席のミミに声を掛けられる。

「そうかもね。でもミミちゃんもヘアゴムの飾りが昨日とは違うじゃない。とっても似合ってるよ」

「えっ……」

 思いもしない賛辞を含んだ返事に、戸惑うミミだったが、

  「そうかな。へへっありがとう」

 素直に口がほころぶミミであった。


 その他のクラスメイト達や、教師にも麗華は積極的に話し掛け、周囲と急速に打ち解けていく。
 その様子に正吾は戸惑いを隠せなかった。変容し始めた教室の雰囲気に。

「みなさん気をつけて帰りましょうね。それではまた明日」

 放課後になり、帰り支度をする一同。
 麗華は周囲よりも素早く支度を済ませて、立ち上がる。 

「榊部さん!」

 そそくさと帰宅しようとした麗華を、ミミが呼び止めた。 

「この後なんだけど、私のお家で遊ばない?」

 ミミは誘いに、麗華は笑顔ながらも残念そうな顔をした。

「ごめんね。引っ越しでバタバタしていて、しばらく遊べないんだ」

「そっか…」

  視線が下がるミミを見て、麗華は近づき、

「今度絶対遊びに行くから」 

 とミミの耳元で囁く。 
 突然の行為にミミは赤面し、教室から去っていく麗華をただただ眺めるしかできなかった。 
 小走りに教室を去っていく麗華は 、

「本当にごめんね」

 と心中でミミに改めて謝罪をする。
 本当は引っ越しの関係で、時間が空いていなかったのではなく、来るべき時のために時間を割いているのだった。


「準備運動終わり。次はランニングでその後で跳び箱ね」

 体育の時間。  教師の合図でランニングが始まった。
  体育が十八番の正吾は走りでも独走する。 
 ランニングも佳境に入り、走るクラスメイト達の息も荒くなっているが、正吾は違った。 
 呼吸に乱れはなく、走るフォームもペースも崩さず余裕の表情だ。
 それが、正吾からするといつもの光景であったが、今日はなにやら足音が近い。 
 違和感に振り返ると、正吾の目に映ったのは麗華だった。

「榊部!着いてきてたのか?」

 「いいや。正吾君は先頭にいたいのかなと思って後ろに控えてただけだよ」 

 少し挑戦的な言い回しに、

「面白い。最後の周回競走しようぜ」

 と直接的な挑戦をする。
 それに

 「ああ、いいよ」

 と受け応じる麗華。
 2人は周回目印の白線まで横並びに走り、線を踏んで競走が始まる。
 中盤までは正吾ペースで体1つ分、前を走っていた。
 しかし最後の直線、麗華は走りのギアを上げ急加速する。
 正吾はそれに対応が遅れ、先頭が麗華に。
 負けじと正吾も加速し、2人は線を越える。 
 2人を見ていた生徒数人は、

 「今のどっちが勝った?」

 「いや、同時に見えたような」

 「というか正吾に着いていけてる榊部スゲェ」

 などと感想を述べる。
 当事者2人は軽く歩きながら、荒くなった息を整える。
 そこで先に口開いたのは麗華だった。

「いやぁほぼ同時だった。引き分けだね」

「……そうだな」

  正吾は気づいていた。数センチ麗華が前にいたことを……。

 ランニングが終わり、次は跳び箱だ。各々目標にする段に挑戦していく。
 最高は8段までなので、それが跳べると今度は跳び方を工夫することになる。
 普通は抱え込み跳びや、台の上で前転するぐらいの難易度挑戦がベターだが、正吾は台の上でハンドスプリングの芸当を。
 今日もそれを披露し、クラスメイトを沸かせる。 

「次、自分が行きます」

 クラスメイト達の熱が残る中、麗華の宣言は、場を冷ましつつ視線を集めた。
 普通は良い演技を見た後にやりたくはないものだが、麗華は自信に満ちた表情をしている。
 深呼吸をし、助走に入る麗華。
 ロイター板を踏み切った後、正吾と同じくハンドスプリングの姿勢に入るが、正吾とは後が違った。
 体を捻り半回転を加え、そのまま小さな着地音がする。 
 正面の綺麗な着地姿勢をクラスメイト達に見せるが、場は静まり返っていた。
 場の緊張を察した麗華は、ハニカミながら手を振る。
 すると、緊張が解けたのか場の雰囲気は一気に沸き立ち、歓声が上がる。 

「捻って飛んでる。榊部さんスゴイ!」

「女子が正吾よりスゴイやつ飛んでるぞ!」

  歓声が上がる中、1人対抗心を燃やしている者がいた。正吾だ。
  ランニングの実質敗北が、フラッシュバックし、抑えきれず、

「俺だってこれぐらいできる」

  と割り込む。
  正吾はいつもより速い助走で、激しくロイター板を踏んで高さを出した。
 そのおかげで半回転する余裕ができたが、高さを出しすぎたせいで、空中姿勢が崩れる。 
 マットが敷いてあるとはいえ、このままでは背中から落ちてしまうところに、麗華は駆け出す。
 麗華は正吾の体を支え、着地の衝撃を和らげることに成功する。
 だがその姿勢は、まるで王子が姫を抱き抱えるようなロマンチック構図に。男女が逆転しているが。

「大事はないかい? 正吾君?」

「あの…えっと」

 あまりの出来事に声が高くなり、頬が紅潮して目をそらしてしまう正吾。
 その光景を目の当たりにして、クラスメイト達はどよめく。
 男子からは、

「おーっ」

 感嘆の声が。
 女子からは、

「麗華サマァ~」

 と黄色い声援だ。
 ここに新たな6年2組の光が誕生した。

 (今日のために頑張ってきたんだ。その結果が出た!)

 麗華は心の中で歓喜した。 
 転校初日の翌日から登校する前に、走り込みをし、走りの駆け引きなども勉強した。
 放課後には体操教室に通い、正吾よりも難易度高い技を練習していたのだ。
 全てはこの日のために。

(私は王子様になりたかった。絵本に描かれてる誰にでも愛される人に。そしてなによりチヤホヤされたい!)

 麗華は自己承認欲求のために努力を惜しまなかった。
 なにより自分に天性の才能がなくとも努力で王子様になれるんだと、証明したかったのだ。


  月日は流れ、高校生になった麗華。

(あの日から憧れられる王子様になるべく、鍛練欠かさなかった)

(勉強、運動はもちろん、スタイルを良くするために食生活や、姿勢にもこだわった) 

(その成果か程よく筋肉がある身長176センチまで成長できた)

(全てはチヤホヤされて自己肯定感を上げるために!) 

 高校への登校中に、あの日の回想に浸っていた麗華に同高校の女子グループが現れる。 

「麗華サマおはようございます!」

「今日も麗しいお姿で!」

 女子グループの挨拶に、髪をかきあげ笑顔を見せて、 

「おはよう。子猫ちゃん達!」

 とウインクで挨拶を返す。 
 キャー! と黄色い声援が通学路に響いた。
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