あの日咲かせた緋色の花は

棺ノア

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-プロローグ-

荒れ果てた街

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「……くっそ…なんなんだ貴様らッ……邪魔しやがって………」

「あら?まだ喋る元気はあるようね」

そう呟き、少女が足元に転がった男の脇腹を蹴りつけると、男はグハッと血を吐いたきり動かなくなった。

2XXX年、この国は新しい首相の政策が失敗したことにより各地で暴動や内乱が起こり、激務で警察を辞める人間が多数現れ完全に荒れ果ててしまっていた。
密輸密売が平然と行われ、行方不明者が後を絶たないこの世界はもはや無法地帯である。

深夜、そんなただでさえ治安の悪い都市の路地裏で、複数の男が血を流して倒れている中に…高校生だろうか、若い女が一人佇んでいた。

「一応とどめ刺しとくか…」

少女はおもむろに近くに落ちていたコンクリートブロックを持ち上げると、先程気絶させた男の頭上に躊躇いなく落とし、死を確認したところで一度大きく溜め息を吐いた。

彼女の名前は上城 芽愚(わいじょう めぐ)、正真正銘17歳の女子高生だ。綺麗な長い黒髪は後ろの高い位置にまとめられており、これまた長い睫毛に縁取られた大きな目は緋色に輝いていた。身長は163センチと特に高くも低くもなく、スレンダーな体型である。

目の色以外は一見普通の女子高生である芽愚ではあるが、特異的な色盲であり、赤いものを赤いと認識することができない。
ピンクやオレンジなどは違いが何となく分かるが、濃くなればなるほど識別は難しくなる。
赤は黒と同じように見えるため林檎や薔薇は真っ黒に思えるのだ。

当然血液の色も例外でなく、極端な話、墨汁を被った人間と血まみれの人間はぱっと見で判別できない。
…まぁ表情や反応など、色以外の情報を取り入れれば両者の違いなどすぐに分かることではあるが。

そんな調子であるので、自身が持つ美しい瞳も当の本人には普通の黒い瞳に見えているのだった。

「なぁんだ…一人で大丈夫か?とか言われるから、どんなヤバい奴が来るのかちょっと警戒してたのに。大したことないじゃん」

彼女がブツブツと呟いていると

「メグ姉~~!! あれ?もう終わったんだ??」

などと言いながら、こちらに駆け寄る1つの小さな人影が現れた。

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