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第3章
追憶
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上城芽愚…もとい、佐々木芽愚は愛情のない家庭で幼少期を過ごした。
一応両親は二人ともいたのだが、父親の方は酒とギャンブルにのめり込み、昼夜問わず外をほっつき歩いていた。
母親の香織は芽愚が産まれた当初正社員として会社で働いていたが、若い女性の給料だけでは到底足りず、夜間や週末にはパートを掛け持ちしていたため、家にいる時間がほとんどなかった。ギャンブラーでも夫のことは好きだったので、離婚は全く考えなかった。愛する夫との間にできた子どもなので芽愚の誕生には喜んだものの、瞳の色を気味悪がって一切面倒を見ようとはしなかった。
芽愚の世話は香織の母親が見ていたが、四歳になる頃にはめっきり来る回数も減った。
大人が帰って来ず、食事もまともに与えられない日が多かったので冷凍食品やパンなどの家にあったものを食べて空腹を満たしていた。
事態が急変したのは芽愚が六歳の秋頃である。
父親が外に女を作り、家を出ていったのだ。
香織は一時的に精神を病んだが、すぐに復帰すると今までやってきた仕事を全て辞めた。そして夜の街で稼ぎ始めたのだ。
香織は年の割に若かりし頃の美貌を保っており、大人の色気がウケたのかすぐに人気を集めた。それに気を良くした彼女は、あれだけ他に女を作った元旦那を罵ったにも関わらず、自分も男遊びをするようになったのだ。
この頃、芽愚は毎日学校から家に帰ると机上に置いてある僅かな現金で生活をしていた。金額は日によって違っていたが、できるだけ貯めなければいけないと後に困るかもしれないと思い、安売りしているものを使って簡単に自炊をするようになった。
家にいる間、宿題を終えると途端に暇を持て余す。幸い電気代やガス代は払っていたらしくそれなりの生活はできたので、リビングにある小さなテレビを見ることが多かった。
芽愚は、あらゆる番組の中でもスポーツ番組を好んで見ていたのだが、特に興味を示したのは格闘技であった。
見られる時間にやっているものはテレビに貼り付くように真剣に視聴した。
そして見るだけでは物足りなくなり、とうとう自分で技を習得するようになったのである。
ある日、芽愚が学校から家に帰ろうと歩いていると、公園でクラスメイトが集まっているのを見かけた。どうやらおとなしい男子が数人の男子に絡まれているようだった。
できるだけ面倒事には巻き込まれたくなかったため、見なかったことにして足早に通り過ぎようとしたが、一人が芽愚の存在に気づいてしまった。
「おい佐々木ィ!!お前もコイツ殴ってみろよ、すぐに泣き出すんだぜ?」
言葉通り、殴られたであろう男子の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。芽愚は男子のことばに呆れかえり、大きなため息をついた。
「あんたたち、暇なのね…私はもう用事があるから帰るわ。ったく、こんな大人数で一人を暴行するなんて、自分だけじゃ何もできない腰抜けばっかりなのかしら」
そう、芽愚は今日帰ったらすぐに見たい番組があったのだが、足止めをくらうと始まる時間に間に合わなくなりそうだったので、早くこの場から去りたかった。そのせいで少し投げやりな気持ちになったので、本心がついポロッと零れてしまったのだ。案の定、気分を害したリーダー格の少年が芽愚を怒鳴りつける。
「おい、お前今なんつった!?自分が何て言ったか分かってんのか!!?仕方ねぇ、それならお前にちょっと痛い目見せてやる!!」
そう言って襟ぐりを左手で掴み、殴りかかろうとしてきたのである。
ここで芽愚は、以前見た何かの試合で肘の横にあるくぼみを親指で力いっぱい押す攻撃法があったのを思い出した。
今、使い時では?と思ったのでおもむろに右手を出し、思いっきり肘のツボを押してみた。
すると思っていた以上にダメージがあるらしく、「ゔがァァぁ」と声を上げると芽愚を離して肘を庇い出した。反撃が怖かったので、ついでと言わんばかりにかがんだ顔面を横殴りする。少年は勢いよく倒れると「ゔぅ…」と言ってうずくまった。
周りの少年たちはリーダーを囲んで口々に「大丈夫か!?」「しっかりしろ!」などと言った後、
「お前よくもこんなことしてくれたなぁ…!!」
とサブリーダーらしき少年が拳を突き出してきたのでそれも避け、溝落ちを蹴ると息を荒げて四つん這いになった。
芽愚の変貌ぶりが恐ろしくなったのか、他の少年は散り散りに逃げていったので、急いで家に帰ることにした。
平然と走っていたが、心の中では初めて人を殴った戸惑いと快感がうずまいていた。
殴ることは良くないことだ、と道徳教育で教わっていたものの、この日味わった言いようのない高揚感を、芽愚は忘れられないでいた。
一応両親は二人ともいたのだが、父親の方は酒とギャンブルにのめり込み、昼夜問わず外をほっつき歩いていた。
母親の香織は芽愚が産まれた当初正社員として会社で働いていたが、若い女性の給料だけでは到底足りず、夜間や週末にはパートを掛け持ちしていたため、家にいる時間がほとんどなかった。ギャンブラーでも夫のことは好きだったので、離婚は全く考えなかった。愛する夫との間にできた子どもなので芽愚の誕生には喜んだものの、瞳の色を気味悪がって一切面倒を見ようとはしなかった。
芽愚の世話は香織の母親が見ていたが、四歳になる頃にはめっきり来る回数も減った。
大人が帰って来ず、食事もまともに与えられない日が多かったので冷凍食品やパンなどの家にあったものを食べて空腹を満たしていた。
事態が急変したのは芽愚が六歳の秋頃である。
父親が外に女を作り、家を出ていったのだ。
香織は一時的に精神を病んだが、すぐに復帰すると今までやってきた仕事を全て辞めた。そして夜の街で稼ぎ始めたのだ。
香織は年の割に若かりし頃の美貌を保っており、大人の色気がウケたのかすぐに人気を集めた。それに気を良くした彼女は、あれだけ他に女を作った元旦那を罵ったにも関わらず、自分も男遊びをするようになったのだ。
この頃、芽愚は毎日学校から家に帰ると机上に置いてある僅かな現金で生活をしていた。金額は日によって違っていたが、できるだけ貯めなければいけないと後に困るかもしれないと思い、安売りしているものを使って簡単に自炊をするようになった。
家にいる間、宿題を終えると途端に暇を持て余す。幸い電気代やガス代は払っていたらしくそれなりの生活はできたので、リビングにある小さなテレビを見ることが多かった。
芽愚は、あらゆる番組の中でもスポーツ番組を好んで見ていたのだが、特に興味を示したのは格闘技であった。
見られる時間にやっているものはテレビに貼り付くように真剣に視聴した。
そして見るだけでは物足りなくなり、とうとう自分で技を習得するようになったのである。
ある日、芽愚が学校から家に帰ろうと歩いていると、公園でクラスメイトが集まっているのを見かけた。どうやらおとなしい男子が数人の男子に絡まれているようだった。
できるだけ面倒事には巻き込まれたくなかったため、見なかったことにして足早に通り過ぎようとしたが、一人が芽愚の存在に気づいてしまった。
「おい佐々木ィ!!お前もコイツ殴ってみろよ、すぐに泣き出すんだぜ?」
言葉通り、殴られたであろう男子の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。芽愚は男子のことばに呆れかえり、大きなため息をついた。
「あんたたち、暇なのね…私はもう用事があるから帰るわ。ったく、こんな大人数で一人を暴行するなんて、自分だけじゃ何もできない腰抜けばっかりなのかしら」
そう、芽愚は今日帰ったらすぐに見たい番組があったのだが、足止めをくらうと始まる時間に間に合わなくなりそうだったので、早くこの場から去りたかった。そのせいで少し投げやりな気持ちになったので、本心がついポロッと零れてしまったのだ。案の定、気分を害したリーダー格の少年が芽愚を怒鳴りつける。
「おい、お前今なんつった!?自分が何て言ったか分かってんのか!!?仕方ねぇ、それならお前にちょっと痛い目見せてやる!!」
そう言って襟ぐりを左手で掴み、殴りかかろうとしてきたのである。
ここで芽愚は、以前見た何かの試合で肘の横にあるくぼみを親指で力いっぱい押す攻撃法があったのを思い出した。
今、使い時では?と思ったのでおもむろに右手を出し、思いっきり肘のツボを押してみた。
すると思っていた以上にダメージがあるらしく、「ゔがァァぁ」と声を上げると芽愚を離して肘を庇い出した。反撃が怖かったので、ついでと言わんばかりにかがんだ顔面を横殴りする。少年は勢いよく倒れると「ゔぅ…」と言ってうずくまった。
周りの少年たちはリーダーを囲んで口々に「大丈夫か!?」「しっかりしろ!」などと言った後、
「お前よくもこんなことしてくれたなぁ…!!」
とサブリーダーらしき少年が拳を突き出してきたのでそれも避け、溝落ちを蹴ると息を荒げて四つん這いになった。
芽愚の変貌ぶりが恐ろしくなったのか、他の少年は散り散りに逃げていったので、急いで家に帰ることにした。
平然と走っていたが、心の中では初めて人を殴った戸惑いと快感がうずまいていた。
殴ることは良くないことだ、と道徳教育で教わっていたものの、この日味わった言いようのない高揚感を、芽愚は忘れられないでいた。
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