あの日咲かせた緋色の花は

棺ノア

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第4章

猛毒

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次の日も滞りなく仕事を終え、いよいよ標的が来店する職場体験の最終日となった。

芽愚は基本的にポーカーフェイスであるため、感情を表に出すことが少ない。
それはカフェの店員として働いている時も同様であり、いつもに比べにこやかではあるものの、普段通りに振る舞うことができた。

事前に見せられた写真を頭に浮かべ、見落とさないよう客が入ってくる度に入り口を注意深く見つめる。

(…来た!)

セミロングの茶髪に細い目、それだけなら結構な人数の女に当てはまりそうだが、左の耳朶に印象的なホクロがあり、写真と同じアクセサリーを身に着けている。標的に違いなかった。

女は店員に案内され、一番端のテラス席に座った。店内から見るといくつか置かれている観葉植物の陰になっている席だ。その席にいる客の動きは把握しづらいため、僅かにではあるが自殺に見せかけやすくなる。毒殺にはもってこいだった。

女は運ばれてきた水を一口飲むと、毎週来ているとメニューも大体覚えているのだろう、注文するものを決めていたようで、すぐに店員を探す素振りを見せた。

意図的に近くで作業をしていた芽愚が注文を承り、キッチンに向かう。
彼女が頼んだのは、鮭のクリームパスタとドリンクのランチセットであった。

この店では基本的に、注文を取った店員が品に見合った食器を選んでテーブルへと運ぶ。パスタにはフォークとスプーンを用意するのだが、スプーンを使わない派もいるのでフォークに毒を塗ることにした。

汚れを拭き取るフリをしつつ、毒をたっぷりと含ませたコットンをフォークの先に擦りつける。すると、濡れたように見えていたフォークはどんどん水気を蒸発させ、手を加えていないものとさほど変わらない見た目になった。

こんなにも人目の多い所で堂々と任務の細工を施すのはほぼ初めてである。そのため緊張と期待で気持ちが高ぶってきたが、得意のポーカーフェイスで全てを隠す。

毒を塗ったフォークとスプーン、ストローを入れたケースをテーブルに置き、程なくして出来上がったパスタを女のもとへ運んだ。

女はスマホに夢中で、パスタに手をつけようとしない。芽愚とて、ターゲットに必要以上に接触するのは避けたかったので、その後は店内に戻り配膳に勤しんだ。

五分程経った頃だろうか、再びテラス席に出向くと、女がやっとパスタを巻いて食べようとしていた。

まだテラスに運ぶモノがあったので内と外を往復していると、女が派手に咳き込みだしたようだった。
それは想定内であったのでスルーしていると、数人の悲鳴と勢いよく椅子から立ち上がる音が聞こえた。

店長と共に騒ぎの中心へと向かうと、女が見上げた状態で首に大量の引っかき傷をつけながら痙攣していた。
「ガァッ……グッ…ハァ…ァ……」と息を荒げ、目を見開いている。見ているだけでこっちが体調を崩しそうな、醜悪な姿だった。

隣で店長が救急車を呼ぼうとしたが、何故かかけられないらしく、焦っているが芽愚は釈然としていた。当然だ。騒ぎが勃発した頃、颯太郎に教わった通り一時的に電話を使えないようにしておいたのだ。

取り敢えず人目を避けるため、店にあった布を女の席を囲むように吊るした。時間が経つにつれ女の痙攣は徐々に激しくなっていき、少し吐血するようになってきたと思えば、机に突っ伏した状態でピタリと動かなくなった。

(やったわ…!成功ね!!)

芽愚は己の薬が上手くできたことを確信し、高揚感を味わっていた。
しかし、少しして女の異変に気づき始めた。


(……? 溶けてる…!?)

そう、なんと女の皮膚が揺れだしたかと思うと、じわじわと溶けてきたのである。
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