【第一部完結】翡翠色の風に乗せて〜私はダメなんかじゃない〜

碧風瑠華

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番外編 傲慢の果て 〜アランディル〜 ※パワハラあり

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※この番外編にはパワハラ・モラハラ描写があります。  苦手な方は閲覧をお控えください。





 ルクレ邸の青藍の間での求婚事件後、アランディルの行動は一層過激になった。

 魔導具開発院の職員たちは、不機嫌なアランディルの放つ空気に、胃が痛むどころでは済まなかった。

 少しでも機嫌を損ねれば、何を言われるかわからない。

 決裁書類の承認が欲しくても、話しかければ今まで以上に威圧的な態度を取られ、ほとんど口もきけない。

 どれほど丁寧に説明を繰り返しても結果は変わらず却下……また却下。

 「ここは魔窟だ……」

 「上司は選ばせてくれ!」

 嘆く声が日に日に大きくなる中、部の中核を担っていたベテラン職員が、数名辞職した。

 引き止め交渉は失敗した。

 だが、辞めたと聞いても、アランディルは他人事だった。

 技術者を失った。しかもベテラン技術者を失った損失の大きさを理解していなかった。

 必要なら募集すればいい。

 「喜んで多くの応募者が来るから選び放題だ。今度は、すぐ折れない強い心の人が良い」と、悪びれることなく言っていた。

 だが、何度募集をかけても応募者が現れることはなかった。

 問い合わせが来ても、「年齢が高い」「論理的思考はできますか?」と相手を貶めたり、困惑させる質問をして「相応しくない」としてすべて切り捨てた。

 現場は混乱の一途をたどり、瞬く間に崩壊していった。



◇ ◇ ◇



 ルクレ邸での一件から程なくして、王宮庭園にアランディルの婚約者候補が一堂に集い、静かにお茶会が開催されていた。

 初冬の気配が深まりつつある季節だが、思いのほか寒さを感じさせない午後だった。

 ルブラン侯爵家の令嬢シルヴィエーヌは、少し離れた所でラヴォワ男爵家の令嬢アメリアに纏わりつかれ、鼻の下が伸びているアランディルに温度のない視線を向けながら、ポツリとつぶやいた。

 「セリーヌ様は上手く逃げましたわね」

 それを合図とするかのように、同じテーブルのロシュア侯爵家の令嬢ロザリンド、フォルティエ侯爵家の令嬢オリヴィアンヌが話し始めた。

 「ほんと羨ましいですわ」

 「なんでも、セリーヌ様のお姉様に殿下は求婚なさったとか」

 シルヴィエーヌは詳細な情報を入手していたが、知らぬふりで問いかける。

 「そのために、セリーヌ様を除外なさったの?」

 オリヴィアンヌは、扇で口元を隠しうなずきながら答えた。

 「どうもそうですわ。お姉様に懸想した殿下が候補を入れ替えたかったとか?」

 「「「お可哀想なセリーヌ様」」」

 意図せず三名同時に同じ言葉を発して溜息を一つつきうなだれた。

 アランディルが婚約者候補でない令嬢に求婚したという話は、口さがない者たちにより、すでに高位貴族には知られていた。

 その事実は、婚約者候補のうち三名の侯爵家令嬢達にとっては、寝耳に水である。
 何のために婚約者候補として縛られているのか、意に沿わなくても高位貴族令嬢として真摯に努めていた事に対する裏切りだった。

 オリヴィアンヌの話は、正しく伝わらず微妙に歪んだ噂話になっている。
 面白おかしく話題に出し、事実としてまかり通るのが社交界だ。
 所詮他人事、事実などどうでも良いのだ。

 「でも、セリーヌ様は出席必須とされる婚約者候補の義務的な行事にしか、おいでになりませんでしたから、殿下にお気持ちなど、かけらもなかったと思いますわ」

 と、シルヴィエーヌの瞳が強く輝いた。

 「ほんとですわね。あちらの方々ぐらい気楽でしたら、わたくし達も楽でしたわね」

 シルヴィエーヌの纏う空気が変わったことにロザリンドは気付かず、ぽやんとしたままアメリアとアランディルを眺めていた。

 「今、父が申し入れの最中ですが、我がルブラン侯爵家は殿下の婚約者候補を辞退いたします」

 シルヴィエーヌが、はっきりとオリヴィアンヌ、ロザリンドに告げると二人とも顔を見合わせ、ふふふと笑いながら「あら、わたくしもですわ」と微笑んだ。

 ひとしきり笑いあったあと、三名ともすっきりとした顔で、王宮の美味しいお菓子を楽しみ始めた。

 侯爵家令嬢達が和やかに交流していた中、ラヴォワ男爵令嬢アメリアは、その中に入っていく勇気もなく、かといって、子爵家令嬢とは面識もないため、沈黙のテーブルに耐えられなくなり、庭園を眺めるため歩き回っていた。

 散策している時、真横を席を外していたアランディルが通りがかった。

 「アラン様~!」

 思わず発してしまった。

 「お前に名前呼びを許した覚えはない。愛称を勝手に作るな!」

 アランディルにすげなくされたが、もう後には引けない。

 「そんな……つれないですわ。わたくしのことを憎からず思ってくださっているのは、わかってますわ」

 自慢の胸を強調したドレスを、これ見よがしに見せながらアランディルに迫っていく。
 男爵家が王子妃になれるわけがない。
 社会勉強として選抜されたとわかっているが、婚約者筆頭候補であったルクレ伯爵令嬢が消えた今、チャンスかもと思ったのだ。

 「ふざけるな! 男爵令嬢が王子妃になれると本気で思っているのか?」

 「男爵家でも愛が芽生えれば王子妃になれますよね? 私を思ってくれてるのは、わかってますから~ 素直になって下さい。優しくしますよ!」

 「ふざけるな! 俺は美しい者が好きなんだ! 近寄るな!」

 「酷いです! でも嫌よ嫌よも好きのうちですね? 美しいアランディル殿下」

 美しいという言葉に、アランディルが反応した。

 「アランディル殿下は素敵です。素敵さがわからない者など気にする必要などないですよ」

 「そ、そうか? 僕は素敵かな? 格好いいかい?」

 アランディルの自己愛をくすぐるアメリアの言葉に、エルミージュを手に入れられなかったアランディルは、どんどん絆されていった。

 お茶会の裏では、シルヴィエーヌ達三名の侯爵家が国王へ婚約者候補辞退を申入れた事も知らずに……

 ルブラン侯爵家は王宮文官の中心、フォルティエ侯爵家は軍部の中心、ロシュア侯爵家は外交の中心の三家だ。

 婚約者候補ではない令嬢へ求婚したアランディルの行為は、各家を馬鹿にしている。
 庶子であるアランディルに強力な後ろ盾をと考えたのが裏目に出た。

 国王と重臣達は、エルドリア王国の重要な貴族家をないがしろにしたアランディルの行為に、頭を痛めたが、これはもう看過できない状態であると決断を下すことになる。

 下位貴族家は、思わぬ番狂わせに自分達にチャンスが回ってきたと喜び、本格的に籠絡してしまおうかという浅はかな考えを巡らせていた。



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