あなたの幸せを祈ります

毎週日曜日の午前中に彼は駅前に居る。

毎週日曜日の午前中、
最寄りの駅前で、
数名の老若男女が
奉仕活動をしている。

そこに、
同じクラスの飯田くんもいて、

「あっ。」

初めて見かけた時は、
声が出た。

私の声に気づいた彼は振り向き、
「こんにちは、山本さん。」と、
微笑んだ。

「た、大変だね？！」

飯田くんはただ微笑んで、
小さな声で、
「あなたの幸せを祈ります。」と手を合わせて、
去っていった。


飯田くん1家が、
新興宗教を崇拝しているのは
学校では有名で。

よく、陽気な男子たちが
飯田くんをからかっていた。

その度に飯田くんは
怒るでも
傷つくでもなく、

ただ静かに微笑んでいた。


まず、
高校に入って直ぐに
クラスが同じになって、

顔が超タイプで、
一目惚れかもなんて思った翌日には、

飯田くんが新興宗教者という噂が風のように走り抜けて、

みんな、黙って距離を置いた。

そんな時でも飯田くんは
背筋を伸ばして、
凛々しく佇んでいた。


(私だったら、下向いちゃうな。)

それから、
微妙な距離を保ちながら、
飯田くんはクラスにいた。


飯田くんは
優しくて、
掃除も丁寧で、
真面目で、

ほんと、

新興宗教者じゃなければ、
モテモテだったに違いない。

私も好きだとはっきり言いきれない。

新興宗教者というのが、
気になって、
気になって、

彼のことを
今ひとつ線引きしてしまう。

いっそ、私も入信してしまおうか？
彼を脱退してもらおうか？

この恋を叶えるために色んな事を
想像した。

全ては机上の空論で、
私はただ真面目に授業を受けていた。


顔もタイプで、
もっと知りたい、
仲良くなりたいって思うのに、

宗教が、

宗派が違うばかりに、

私は踏み出せない。



飯田くんに幸せを祈られた私は、
立ち去る彼の背中に、
小さく、
「ありがとう。」と呟いた、

8月の日曜日。