ハンケチのおまじない

ちょ、どういう意味？

ハンカチをプレゼントすると、
別れの意味があるらしい。
と、パートのおばちゃんからきいた。

ちょっと、
初めてのプレゼントで浮かれて、
「ハンカチってもらうと、なんか意味とかあったりするんですかね？！」って、
半狂乱だった私に、
静かに、
可哀想に、
「お別れの意味があるって聞いたことあるわよ。」とか、
正直な人だった。

ちょっと待って。
ネックレスは束縛の意味あったでしょ？
いやいや。

初めてのプレゼントっていうのが、
重要な訳よ。

正気？

考えすぎ？
意味知らなかったとか？

ハンカチ持ち歩かない低女子力だから、
心配して買ってくれたとかじゃなくて？

え？

彼は来月、
遠くに転勤する。

付き合ってまだ3か月だ。

早くない？

遠距離でもいいよって言ったよ？

別にお金貯めれば会える訳だしね。

いやいや。

心変わりというか、
決意というか、
相談というか、

私って一体。

会社の上司だった。

そんな状況でも付き合おうって、
３か月前に決意したばっかりだよ？

あれ？

あれあれ？

別れる決意、
早いな。

付き合うとき、
「ずっと迷ってた。
　部下だし、
　付き合えても付きあえなくも、
　どっちみち何かしらのリスクはあるなって思ってて。」って、
言ったじゃん？

あれ？

おかしくない？

謎のプレゼントを訳もわからずもらった数日後に会えたら、
別れ話とかはなかった。

よかった、
安心した。

「ハンカチの意味、知ってる？」

「え、なんだろ？
　ハンケチ？(笑)」

いや、それ昔の呼び方……。

こんなあほ面な顔してるのに、
深刻そうな話はなさそう。

じゃぁ、思い込みすぎだなって思ったら、
転勤する前日に、
ごめんねって言われた。

は？

「なんで？」

「やっぱり、付き合い始めで遠距離ってつらいなって。
　行ったことない場所だし、
　俺も不安で。
　そんなに背負えない。
　ごめん。」

どっから湧いた、その真面目さ。

「あの、ハンカチの意味って。」

「ん？」

「やっぱ、予告的な？」

「予告？」

「別れたいとかっていう。」

「いや、いつもハンカチもってないからあげただけだけど。」

「そっか。」

無意識。
人間の無意識、めちゃくちゃこわ。

「やです。」

「え？」

「別れないです。」

ハンカチとはさみを取り出して、
真っ二つに切り裂いた。

「ちょ、え？なに？」

「ハンカチって別れるって意味があるって知ってました？」

「え、そうなの？」

「別れたくないから、半分こです。」

「そういうジンクスなの？」

「知りません、今作りました。」

「半分持ってたら、遠距離でも大丈夫っておまじない？」

そんなうまいことは考えてないけど、
流れにのって、
「そうです！」っていっといた。

彼は気障に手首にハンケチ巻いて、
「ありがとう。」って笑って、
新天地に向かった。