ほんとうのこと

神奈川雪枝

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ごめんね

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時計を見れば、午前4時。
春だから、陽ももう上り始めている。

夜から朝になろうとしている 。

重たいからだを起こせば、部屋には私一人だった。

「 太郎 ?」

寝ぼけた声で呼びかけてみたけれど、何の反応も無い。

ベッドには微かに彼の香りだけが残っているのに、肝心の彼の姿は無い。
周りに散ばっている衣類は、全て私のものだ。

(あぁーまたか 。)

一気に目が覚めていく。
とりあえず下着だけを身につけて、私はベッドから起き上がった。

携帯を見ても、何にも連絡は入っていなかった。
ましてや机の上にメモなど、あるわけがない。

彼は酷くドライな性格なのだ。
ややこしい事が苦手で、はっきりしている。

いつも求めるのは、最終的に私からだ。
彼の前で何度恥しい思いをした事だろう。

でも彼は赤面しながら素直になる私をかわいいとよく笑った。
私は彼の笑顔が何より好きだった。

まだ頭は完全には覚醒していないなか、お湯を沸かした。

いつだか彼がくれた紅茶セット。

一人分のお湯はすぐに沸騰して 。
あっという間に紅茶の香りが部屋に充満した。


いつもそう 。

私は貴方を欲している。
欲しくてほしくて、頭がおかしくなりそうな位求めている。

なのに貴方はたまにしか私に逢いにきてくれない。
貴方が満足するならと、恥を捨てて貴方の命令に従った。


所詮わたしは、貴方の都合のいい女でしかないのよね 。

「 ばか みたい 。」

呟きとともに、一気に紅茶を口に含んだ。
温かい紅茶。

溢れる涙。


私の脳裏には常に笑顔の貴方が居るのに。



近所のお兄ちゃん。
引越ししてきた私に笑いかけてくれた。
この地ではじめて出合い、友達になったのは太郎だった 。

もう何年だろう 。

気がついた時にはもう、好きなんてどころじゃなかった。
既に愛していたと思う。

見るたびに愛おしかった。


だから、貴方が彼女と一緒に居るのを見るたびに私はいつも死にたくなった。
( 何でそんなに幸せそうに笑ってるの?)


思いが溢れてしまったとき。

泣きながら告白する私に貴方は困ったように笑った 。

(『 ありがとう 。』)


ー彼は酷くドライな性格なのだ。ややこしい事が苦手で、はっきりしている。ー

その言葉を聞いたとき、
私なんかが太郎のとなりに居てはいけないと思った。

昔から太郎のことになると私は貪欲で我侭で。
いつも、困らせていたね 。


紅茶がコップから無くなる。



 いつだか彼がくれた紅茶セット。

この紅茶セットが無くなったら、私は貴方の前から消えよう。
紅茶を飲むたびに貴方が恋しくなる。

何度も使う紅茶のティーパック。
味が薄くなるたび、貴方から離れていくようで。
新しい紅茶のティーパックを使うたび濃い味で、貴方とのお別れが近づくから 。




いい加減ほんとうのことを彼に伝えよう。







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