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しおりを挟む「それで?リリーシアに聞いた話によると、貴君の息子が一方的に衆目の面前で婚約を破棄したと聞いたが。うちのリリーシアに何か問題があったのか?」
皆が着座するなりそう切り出したお父様の言葉に、カタルカ国王は慌てて否定の言葉を紡いだ。
「リリーシア姫に問題などとんでもない。全てうちの愚息が吐いた戯言です。リリーシア姫には本当に不快な思いをさせて申し訳ない。我が息子の不始末、深く謝罪したい」
そう、青ざめさせた顔色でカタルカ国王が深く頭を垂れる。それに続くように側妃様も。
正式なものではないとは言え、一国の主が頭を垂れるのだから、その謝辞は相当なものなのだろう。
これで、自国の国王に頭を垂れさせた原因である彼も頭を垂れていれば…この後の話もまだまともなものになったかもしれないのに。
横で深く垂れた頭を上げないまま、こちらの言葉を待っている国王陛下を信じられないものを見る目で見詰め固まった第一王子は、数秒で我に返ったのか大声を張り上げた。
「父上!何故その様な真似を!?
確かにリリーシア嬢が我が国の者では無かったのは問題ですが、それでも私の決断は間違ってはいません!!
このように王妃としての資質の欠片もない者を、何故そこまでして…!!」
そう立ち上がってまで怒鳴り散らす第一王子の右手人差し指は、真っ直ぐと私を指さしている。
まさか、まだ分かっていないのだろうか。
カタルカ国王陛下は確かに私の事を、リリーシア姫と仰ったのに。
思わず吐きそうになった溜息をぐっと飲み込んで周りに分からぬようそっと隣を見遣れば、不快所かどこか面白がっている様にも見えるお父様が見えた。
そんなお父様の斜め後ろには、我が国の宰相であるジークムルド様が何の色も浮かべない顔でじっと第一王子を見ている。
室内には王国側の席に王族二人と側妃様が、その後ろには王国の護衛騎士が壁際に。
対するこちらには私とお父様が席につき、宰相がお父様の斜め後ろに立ったそのまた後方に我が国の騎士が壁際に並んでいる。
王国側に宰相が居ないのは、国王不在の王国を王妃様と共に護っているのでしょう。
まだ王太子もいませんしね。
私の座る位置からは我が国の騎士の顔色までは流石に分からないけれど、王国側の騎士達の顔色はよく見える。
皆、一様に顔を強ばらせ青い顔をしている。
そしてそんな騎士達よりも更に顔色を青くさせたのは、カタルカ国王と、その横で今にも気を失いそうな側妃様だ。
「お、お前は何を言って…!!!」
第一王子の上げた怒鳴り声と大差ないほどの声量で声を上げたカタルカ国王の言葉を、お父様が右手を翳すのみで遮った。
そこでハッと取り乱した事に気が付いた国王陛下は、上げかけていた腰を再びソファーに沈め、再びお父様へと頭を下げた。
「重ね重ね、本当に申し訳ない…!!!」
お父様はそんな国王陛下へと一瞥をくれると、真っ直ぐと第一王子を見、そしてにやりと、とても意地悪く笑まれた。
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